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44)お茶会(御前会議)での挨拶

 二人を見送った後、エリックは何事もなかったように、三人に声をかけてきた。

「ご案内しましょう。本日の王太子様のお茶会は、こちらです。今日は、庭での予定です」


王族が暮らすというと、堅苦しい雰囲気を想像しがちだ。王太子宮には、想像とはことなる、和気藹々とした雰囲気が漂っていた。


「王太子宮って、もっと堅苦しいと思っていました」

マーティンの言葉は、カールとレオンの気持ちも表していた。

「多くの方がそう思っておられるでしょう。我々は王族に仕える身です。我々の筆頭であり、王太子様の乳兄弟であり腹心ともいわれるロバートは爵位を持ちません。一方で、彼の一族は王家と等しい歴史をもち、数々の功績を遺しています。親の爵位など何の権威にもなりません。王太子宮で意味があるのは、本人の実力や実績です。先ほどの私の従兄弟も、あれで仕事はできます。あの立ち居振る舞いに関して注意はされますが、解雇になることはありません」


エリックが立ち止まった。

「小さなローズは、イサカの疫病を抑え込む方法を知っていると言って、この王太子宮に一人できました。紹介も何もなしです。門の前で門番を相手に、何時間も、グレース孤児院から来た。王太子妃様に会いたいと訴え続けて、根負けさせました。そのあとは、王太子様相手に、怒鳴りあいまでして、自分の意見を訴えました。紆余曲折ありましたが、ローズには、イサカの町を疫病から救う知識をこの国にもたらしたという功績があります」


三人は顔を見合わせた。王太子の酔狂で丁重に扱うにしても、とんでもない子供だ。

「王太子様と怒鳴りあいって、本当ですか」

マーティンの言葉は、三人の想いを代表していた。

「あの子らしいといえば、あの子らしいのですがね」

エリックの言葉に、三人は顔を見合わせた。


「あ、でも、この場で勝手に決めても良いのですか」

「勝手に、とは何のことでしょうか」

「あの、派遣するのが、あなた方になったり、レオン様になったりすることです。あの、もちろん僕らは三人で一緒に協力して頑張りますけど」


マーティンの話に、エリックは微笑みを浮かべた。

「ローズを見た目のとおりと思わないことです。これからあなた方がご挨拶のときに、私の言葉の意味を、御実感されるかもしれませんね」


 イサカの町の関しての御前会議は、王太子宮でお茶会として行われていると、レオンは父親であるアーライル子爵から聞かされていた。マーティンとカールは、少し前にレオンから聞いていた。


「今日も、お茶会をしながらの会議です。皆様の前でご挨拶するだけです。単に、顔を見せるだけだから、緊張しなくていいと、王太子様もおっしゃっておられたわ」


 挨拶の直前、ローズは言ったが、居並ぶ重鎮たちが放つ威厳に、緊張するなというほうが無理だ。


 お茶会とはいうが、茶と菓子が用意されていても御前会議は御前会議だ。居並ぶ面々が、この国を動かす人々だ。緊張するしかない。


 国王、王太子、錚々たる高位貴族達の視線にさらされてもローズは動じた様子もなかった。

「こちらの三人の方々を、イサカの町に派遣します。今後は疫病の被害からの、町の回復が必要です。アーライル子爵様の御子息であるレオン・アーライル様、法学者のマーティンさん、商人のカールさん、三人の方々がそれぞれの得意分野を発揮し、お互いに協力をしあいながら、成果を出していただけるものと期待しております」


三人を後ろに従え、ローズはお辞儀をし、三人はそれに続いた。アルフレッド国王から、励むようにとのお言葉を賜ったが、返事をするだけで三人は精いっぱいだった。


 御前会議を辞した三人を、エドガーが待ち構えていた。

「さ、いこうか。訓練場はあっちだ」

レオンはエドガーに強引に肩を組まれてしまった。飄々とした男だが、身のこなしが素早く、レオンは避けることができなかった。


「あ、あの」

「なんだ」

「あの子、ローズさんはこれから」

「あぁ、あの子は御前会議だ」


マーティンの言葉に、エドガーは何でもないことのように答えた。

「あの場で、一人前に発言されるそうですが」

「しゃべるだけなら誰でもできるだろ」

カールの言葉を、エドガーは鼻で笑い飛ばした。


「いや、無理です」

正直なマーティンに、レオンも同感だった。ライティーザ王国総騎士団長である父アーライル子爵の威圧感に慣れているから大丈夫だと思っていた自分が甘かった。


「先ほどの経験のおかげで、これから先、何があっても緊張せずに済みそうです」

カールの言葉にエドガーが笑った。


「イサカに関しては王太子様に一任されている。王太子様は、ローズを参謀として王太子宮に残し、腹心のロバートを、イサカに派遣した。ローズは、王太子様にその決断をさせた。御前会議なのに、王太子宮での茶会になっているのは、貴族ではないあの子を参加させるためだ」


「僕たちもしかして、何か、すごいことに巻き込まれてますか」

「そのうちわかるさ。というより、わからないなら、直ぐにお前達の後任が送り込まれるから安心しろ。ローズもロバートも、容赦ないからな」エドガーの言葉に、三人はまた顔を見合わせた。


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