表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/125

43)レオン・アーライルの決意と三人の結束



「待て。そんな、勝手な」

レオンの言葉に、先ほど、ローズを連れていた三人目の近習が口を開いた。


「勝手なことではありません。すでにローズは、王太子様に変更に関して報告しています。イサカの件に関しては、アレキサンダー王太子様が担っておられます。ローズはその補佐ですから、何も問題はありません。お帰りはこちらです」


お前は帰れ。そう告げられたも同然だった。

「そんな、勝手な、父が許すと思うのか」


レオンの言葉に、ローズが足を止め、振り返った。

「アーライル子爵様はアーライル子爵様、レオン様はレオン様。別の人です。また、イサカの町へ、誰を何の目的で派遣するかを決めるのは、アーライル子爵様でもレオン様でもありません。お父様へは、大切なご子息を、疫病が終息したばかりの町に派遣するわけにはまいりませんと、お断りさせていただきます。万が一のことがあって、彼の地とアーライル家との因縁が深くなっても問題です。そうお話ししたら、お分かりいただけるはずですから、レオン様にとっても問題はないでしょう」


レオンの不利にならないようにしてやるということだろう。ローズはそれだけ言うと、エドガーに促され、レオンに背を向けた。


「待て、いや、待ってください」

レオンは、ローズの小さな背中に向かって叫んだ。立ち止まったローズは振り返らなかった。


「二日半お時間をいただきました。お話しした内容は、戦時にかかわらず平時でも、兵士の間に疫病の蔓延を防ぐことにもつながります。ぜひ、ご活用ください」

言い切ると、ローズは歩き始めた。


「違います。そうではない、私はそんなことを言いたいんじゃない」

レオンは必死だった。父と兄は何も言ってくれなかったが、レオンのことを考えてくれていた。それを教えてくれたのはローズだ。


レオンは自分が熱心に話を聞いていなかった自覚はある。それでもローズは、きちんと説明をしてくれた。ローズは最初にアレキサンダーの補佐をしていると言った。アレキサンダーの補佐をしながら、自分達のために二日間時間を割いてくれたのだ。レオンは、貴族である自分の時間を奪ったことに腹を立てていた。だが、レオンのほうが、ローズからアレキサンダーを補佐する時間を奪ったともいえるのだ。


「すみませんでした。私が分かっていなかった。父が私をイサカに派遣しようとした理由も、兄の考えも、何もわかっていなかった。あなたがここで何をしておられるかもわかっていなかった。私にもう一度、機会をください」


レオンは頭を下げた。近習たちの話は有益なものだった。資料の内容もそうだ。信じがたいが、どちらも目の前の、ローズの説明がもととなっているのだ。


「私は機会を与えるなどという立場にはありません。機会をとらえ、物にするかしないかは、あなた次第です。二度目はありません。それでもよろしいですか」

振り返ったローズがほほ笑んでいた。


「はい。よろしくお願いします」

「では、あなたもご挨拶に行きましょう」

「ぜひ、三人で頑張りましょう」

感動したらしいマーティンが駆け寄ってきた。カールも頷いていた。


「結局、私達がイサカに行くことは無しですか」

エリックは心底残念そうに言った。

「総騎士団長仕込みの連中と手合わせしてみたかったのに。つまんねぇな」

「お行儀悪いわ。エドガー」

ぞんざいな言葉遣いのエドガーを、ローズが呆れたように見上げていた。


「あの、若輩者ですが、私でよければお相手しますが」

レオンの言葉に、エドガーが嬉々として振り返った。

「そうか、坊主、お前、意外と話が通じるな。あとでといわず、今から行こうぜ」

レオンは、エドガーに一瞬で両肩を捕えらえた。そのまま連れ去られそうな勢いに圧倒された。


「だめよ。今からご挨拶よ」

エドガーの誘いを、ローズが遮った。

「ローズ、そんな頭の固いこと言うなよ」

「ロバートに言いつけるわよ」

ローズの言葉に、エドガーが姿勢を正した。


「ローズ行こう。資料を取りに行くのと、お前の準備もいるからな」

「イサカに派遣される方々は、ご挨拶はしていただくけど、その後のことは特に決めていないわ」


そういったローズの顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

「お、ローズ、わかってるな。お前はやっぱり賢い子だ」

エドガーの言葉にエリックが苦笑していた。


「今日はお外よ。お天気がいいから。楽しみだわ」

「日差しがきついし、相手は高貴なお客様だからな、サラがベールを用意している」

「暑いから嫌よ」

「ロバートに、ローズがベールも着けずに、お行儀が悪かったと、報告しないとなぁ」

「もう、エドガー、意地悪いわないの。エドガーのご用事の後、説明を代わりに頼んでいいかしら」

「あぁ、若いのにやらせるけどいいか」

「えぇ。でも、誰か一人はついてあげてね」

二人の会話から、決定権を持っているのはローズだということが知れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 後話も拝見しました。 違和感がほぐれて良い舞台裏?でした ・いつでもすげ変えたるで ・ちゃんと話を聞く姿勢を見せたことを評価 セットで見るとより一層治めているなと印象が改まりました
[一言] うーん 見定めに叶わなかった時点で、 その場の謝罪をもってレオン再採用というのは危うい気がしました 外されることが判明する前に自ら襟を正し伝え謝罪したならワンチャンあるとは思うのですが。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ