42)ローズの宣告
「ローズ、今、イサカと言いましたが」
エリックの言葉にローズが答えた。
「次の派遣の人を変更します。予定通り派遣するのはマーティンさんとカールさんです。エドガーとエリックも派遣します。ロバートの資料の内容を二人は、よく知っていますし、王太子様のお仕事のお手伝いを普段からやっておられるので、適任でしょう。次の派遣には、レオン・アーライル様は参加されません。いずれ、イサカの周辺の街道の警備を整備する際には、アーライル家の方々のお力をお借りする必要があるでしょう。その際には、改めて、アーライル子爵様に相談させていただきます」
淡々とローズは語った。
「派遣の変更など、聞いていない」
「今、お話ししました」
レオンの言葉に、ローズが答えた。
「イサカの町で、ロバートに最初に協力してくれたのは、辻馬車の御者です。読み書きもできない平民です。彼と彼の妻、ご夫婦のお知り合いの方々の協力が無くては、イサカでのロバートの仕事の成果はなかったそうです。今、必要なのは、平民と共に、町のために働くことができる人です。身分や権力が必要なのではありません。イサカの民の考え方を考慮し、本来は、貴族の派遣はしない予定でした。レオン様が候補となったのは、お父様からの御推薦と、アーライル家が実力主義だという王太子様のお話があったからです」
エドガーとエリックが、ローズを庇うように両脇に移動した。
「レオン様、あなたは、孤児の私の話には、耳を傾けては下さいませんでした。一方で、二人の近習の説明は、聞いておられた。ロバートの作った資料は私の説明が元になっています。それは最初にお話ししましたね。レオン様が、私の話でなく、二人の話を聞いたのは、おそらく孤児よりも近習の方が身分があるとお考えだから。あるいは男性であるから。年齢かもしれません。今は、身分の貴賤や性別や年齢に拘わらず、すべての者の協力が必要なときです。人も時間もお金も余裕はありません。貴族の権威が必要な時ではありません。またいずれ、アーライル家のお力が必要な時には、アーライル子爵様にお声掛けをいたします。その際、ご縁があればレオン様にお願いすることもあるでしょう。今回はお引き取り下さい」
淡々と告げるローズに、レオンは言葉が出なかった。マーティンとカールが互いに顔を見合わせ、落ち着きなくレオンとローズを見ていた。
「せっかく、総騎士団長の息子と、手合わせできる機会だったのに」
「まぁ、良いではないですか。子爵様が数名、手の者をイサカに派遣されているそうですから、その方々にお願いしましょう」
エドガーとエリックは平然としていた。
「もうすぐ王太子様のところに、高貴な方々がお茶会にいらっしゃいます。四人はその場でご挨拶していただきます。エリックは、マーティンさんとカールさんにご案内をお願いします。エドガーは、私の準備を手伝ってください。昨日作った表があるでしょう。あれがいるの」
「では、お二方こちらへどうぞ」
ローズの指示に、エリックが優雅に礼をし、マーティンとカールに声をかけた。エドガーはローズと並んで歩きだした。
「お二人は突然の派遣ですよね」
相変わらずのマーティンの声がした。
「いや、元から志願してた」
「アーライル子爵様の御推薦があったので、一足飛びにアーライル家の方の派遣となったのです」
「これで、メアリに根性無しって言われずに済むしな」
「おや、そんなことを」
「小さなローズが頑張って、王太子様のお役に立っているのに、あなたは何ですか。ロバートの命令だけ果たしていればいいと思ってるのって、もう、うるさいうるさい」
「本当にその通りですね」
エリックの辛辣な言葉に、ローズが笑った。
「お二人は、仲がよろしいんですねぇ。それにしてもお二人とも随分と個性的でいらっしゃいますが」
「あぁ、ロバートは実力主義だからな。俺はこう見えても仕事はできる。客人の前に出さなきゃいいだけだ。まぁまぁこき使われてるよ」
「ご存じありませんか、彼の一族は家名こそありませんが、貴族の間では有名な一族ですよ」
レオン一人が、取り残されようとしていた。




