36)レオン・アーライルの謝罪
「申し訳ありませんでした」
三人そろって話を始めようとした矢先、開口一番謝りだしたレオンに、他の二人が驚いた。
「何が?」
資料を片手にローズが首をかしげていた。
「先ほどは大変な失礼を申しまして、申し訳ありませんでした」
レオンの言葉にローズは不思議そうに傍らに立つエリックを見上げた。エリックはローズに微笑むと、レオンには鋭い視線を向けてきた。
「何か言われた覚えはないけれど、何かしら」
本当に分かっていないらしいローズに、レオンは観念した。すでにエリックはローズをかばうような位置に立っていた。声が聞こえていたとしか思えない。
「あなたに、孤児のお前に何がわかると申し上げてしまったことです」
エリックが何か言う前に、ローズが笑った。
「そんなこと気にしなくても。私が孤児なのは事実です。私は気にしていないわ。仕方ないもの。うらやましいとは思ったことはあるけど、仕方ないもの。いないほうがいい親の話も孤児院でたくさん聞いたわ」
何でもないことのように笑うが、ローズが語るのは本来笑うようなことではないはずだ。子供でありながら、体躯が勝るレオンの大声にも落ち着いていたのは、それなりの修羅場も知るということだろうか。
「怒っているときは、何か、別の感情があって、そのせいで怒るってシスター長がおっしゃっていたわ」
ローズはにっこり笑った。見透かされたような気がした。レオンの中には、自分の方が人を率いる才があると思っているのに、後から生まれたから、家督を継げないことへの不満が常にあった。なぜ兄が先に生まれたのかという思いを、口にしたことはなかったはずだ。
ローズは笑顔を消した。
「では、時間がないので今日、お伝えすべきことの説明を始めます」
「ローズ」
口調をあらためたローズの説明をエリックが遮った。エリックは、ほとんど口を聞かず、ローズの話を遮ったこともなかった。
先ほどから、蚊帳の外におかれたかのようだったカールと、マーティンも、驚いてエリックを見ていた。
エリックは膝を折り、こちらに背を向け、椅子に座るローズに目線を合わせていた。
「あなたはもう少し、自分を大切にしましょう。そんなところまで、ロバートに似なくてもいい。あなたは十分頑張っています」
「ありがとう、エリック。でも、私は大丈夫よ」
エリックのため息が聞こえた。
「以前、私は同じようなことを言って、ロバートに叱られました。本当に大丈夫であれば、大丈夫とは言わないとね」
「エリック」
「尤も、ロバートがそれを言っても、全く説得力はありませんが。先に休憩にしましょう、ローズ。午後からいらっしゃる予定のお客様が、お菓子を使いの者に持たせて寄こしてくださったのです。ここにいらっしゃるかたの分もご用意いただいています」
「でも、今日は午後からその予定があるから、午前中にきちんと」
「ローズ、ミリアがすでに用意しているのですよ。ミリアの気遣いを無駄にはできませんし、そんなことをしたら、サラに私が一言二言いただいてしまいます」
エリックはそういうと、扉に向かって声をかけた。そう大きい声でもなかったが、待っていたらしい侍女がワゴンを押して入ってきた。