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28)次の段階へ

 イサカの町では、物資が送り込まれ、要所毎に信頼できる協力者を得ることができた。対策も徐々に町の者に広がり、町の死者、新規感染者も減少していた。


市場を移動させる等、無茶なこともしたが、結局それで感染者が激減し、感染源の特定にいたった。最初の関門は越えた。


 次の大きな問題は、いつ、検問を解くかだろう。今は物資の搬入だけが許可されている。この町の主な産業である商業は、人と物の移動を伴う。一つの問題が解決しても、次の問題が生じてくる。まだ、何も終わっていないのだ。

 

  安堵もしたが、気が緩んだときが危ないというローズの言葉もあった。気を引き締めなければならないのだろうが、数日前から、ときおり軽く眩暈を起こしていた。疲れがたまっているのだろう。


ベンの妻に見抜かれてしまい、夫婦から一日外出禁止が言い渡された。部屋で書類を書き、王太子宮と同じ紅茶を飲んでいると、強い望郷の念に駆られた。ふと頭に浮かんだ小さな人影は、頭から追い出した。ローズが好む紅茶の香りのせいだ。


 疲れる時期を予見していたかのように、ローズからの手紙がきた。


ーもうすぐ、あなたの代わりの人を送ることが出来そうです。それまで体調を崩さないようにしてください。引継ぎの用意もお願いします。予定は三人です。王都に戻るまで気を抜かずに、元気に帰ってきてくださいー


 ロバートの仕事も終わりを迎えることになった。記憶にある限り、王太子となったアレキサンダーの元をこれほど長く離れたことはない。自分がいなくても王太子の執務には滞りないように手はつくしてきた。エドガーからは、特に大きな問題はないから心配せずに、イサカでの仕事に励んでほしいと、連絡があった。


その翌週、イサカに関することも含め、些細な問題はあるが対処は出来ている。体調に万全を期して過ごしてくださいというエリックからの連絡があった。表向きは従兄弟である性格の違う二人の仲の良さが懐かしかった。


 一か月も経てば、王都にいるローズが、十二歳の少女で、この件に大きくかかわっていることは、市井のものにも知られるようになっていた。


「兄ちゃん、恋はいいけどな、相手選べよ。子供じゃねぇか」

呆れてくれたベンにロバートは抗議した。

「違うと何度も申し上げたはずです」

帰りたいと思ったときに、思い浮かんだ顔のことは、頭から追い出した。


「男が命張るのは、惚れた女のためだろうが!兄ちゃん、むずかしいが、頑張れよ、おれは応援しているぞ。親父と近い年でも、自分のために命張った男に惚れない女はいない!」

ロバートの抗議は、ベンの耳には全く入らなかった。そもそも、聞いていたなら誤解などしないはずだ。

「だから、違います」


簡単に持ち上げることができてしまうくらい小さい子供だ。かつて、弟のように思っていた少年と近い年頃だ。妹というより、娘のように見えかねないくらい小さな子供だ。

「子供を、ここに来させるわけにはいきません」

「じゃぁ、幾つだったらいいんだい」


ベンはそういうと、質問に答えられないロバートに、したり顔になった。

「この町はいい町なんだ。春の丘はきれいだ。落ち着いたら二人で来な。まってるよ」

「見せてやったら喜ぶでしょうね」

ローズに彼女が救った町を見せてやりたいとは思う。


「ちゃんと、惚れてるっていっとけよ」

「だから、違います」

「違わねぇよ。兄ちゃん頑固だなぁ」

もう何回、この会話をしたか、わからない。ロバートは苦笑するにとどめた。




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