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26)貴族会議

 ローズが退出した後、会議場は騒然とし始めた。


「相手を見たということかな」

アルフレッドの言葉に、アレキサンダーも頷いた。イサカは交易の町だ。疫病に苦しむイサカは、川を挟んだ東の隣国ティタイトの町との活発な交易があった。疫病が発生して以来、川を越えて来る船はなく、橋は封鎖され、イサカを出発した船は、着岸を許されていなかった。強引に着岸しようとした船が沈められてから、一切行き来がない。つながりの深いティタイトからの助けを期待したイサカの町の人々は裏切られたのだ。


「川向うの隣国、ティタイトからのイサカへの支援は、一切確認されていません」

ローズがティタイトに触れたのはその時だけだ。ただ、その瞬間、ローズは言葉を切り、無言で貴族達を見渡した。子供らしからぬ挑戦的な微笑みを浮かべていた。ロバートによく似た笑みに、わかっていてわざとティタイトの話題を出したとアレキサンダーも察した。


 ローズが突然口にした、東の隣国ティタイト。幾度となく戦を繰り返した相手国の名前に、貴族達の雰囲気が変わった。


「ローズが気づいていたとはな。将来が楽しみだ」

アルフレッドがほほ笑んだ。


「イサカをめぐっての戦は、数十年毎に繰り返されております。これは別の形での戦であり、ティタイトが気づく前に、我々は町を掌握しつつあります。イサカの自治組織の商人たちは、この国の領土となりながら、彼ら独自のやり方を続けていた。それが今やライティーザなくては成り立たない町になろうとしています。すでにライティーザの勝利は目前です。今、ここでみすみす勝利を逃してはならぬのです」


武官を束ねるアーライル子爵の言葉に、アーライル家の分家や、騎士を多く輩出する家の者たちが賛同を始めていた。すでに文官を束ねるリヴァルー宰相と、アレキサンダーの妻グレースの実家であるアスティングス侯爵家の賛同を得ていた。

 

 アーライル子爵が賛成することは分かっていた。ローズが、あの町の近くで戦争したときに、指揮を執る立場にいた偉い人と話がしたいと言いだしたのだ。その理由に、アレキサンダーは目を剥いた。自分の発言の意味が分かっているのか確かめようと、子爵と直接話をさせた。


「物資が無くては戦争はできません。今回も物資を運ばないといけないのです。戦争のときの物資の補給を参考にしたいと王太子様はお考えです。当時の方法を教えてください。また、当時何か改善すべきと気づかれた点がおありでしたら、それについてもぜひ、お話しいただきたいと、王太子様は考えておられます」


「町の人々の気性、考え方も知りたいのです。町の人達に受け入れられなくては、支援はできません。戦争をして、町を手に入れても統治するには人心を掌握する必要があるということを、王太子様もご存じです。今回の支援も同じです。あの町を直接知るアーライル子爵様のご意見をいただいて、それを利用して支援することで、この国の支援が、あの町の人々の心に届く、それを王太子様は願っておられます」


 ローズは露骨にアレキサンダーの権威を利用した。躊躇いもなかった。その大胆さ、潔さに、清々しさすらあった。アーライル子爵もそれを察したのだろう。あの日以来、アーライル子爵はローズの信奉者のようになった。長男では年齢が、次男が婚約していなければ、三男が居ればよかったと悔やむ彼に、アルフレッドが、ローズの行き先はあるからと牽制していた。アルフレッドの言うローズの行き先よりも、アーライル家長男のほうが、まだ年齢が近いのだが、アレキサンダーは口には出さなかった。


 近習達も、アレキサンダーに、ローズを王太子宮に置いて欲しいと訴えてきている。


「陛下のおっしゃる嫁なのか、殿下のおっしゃる妹なのかは、我々にもわかりかねます。ですが、ロバートからローズを取り上げるような真似は、是非なさらないでいただきたいのです」

普段、あまり無駄口をきかないエリックに真剣に言われては、アレキサンダーも承知するしかなかった。


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