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23)イサカの町の者達

町で生きる人々が生きるために、町の産業の保護を、町で商売をしている人たちの援助をしてほしいと、ローズが手紙で書いて来た。


 物資の運搬、人の移動のため、ベンの仲間の御者たち、馴染みの人足達の手は既に借りていた。足りない人手は、安い賃金でも働いてくれる貧民たちの手を借りていた。


 物資が潤沢すぎては、町にもとからある店を潰してしまうという懸念をローズは伝えてきた。それに伴い支援物資も変わってきた、パンから小麦へ、衣服から布へ、薪や板は丸太になった。支援物資には、各地の貴族の紋章が印されていた。

ロバートも驚くほどの遠方に領地をもつ貴族もいた。商人の町だ。紋章の意味の分からぬ者はいない。王家がこの国のすべての貴族達がこの町を救おうとしている。町の者は、彼らも知らないような遠方からの支援に感謝しつつ、小麦を挽いて粉にし、パンを焼き、布から衣服を作り、丸太を板に加工し、様々な日用品をつくった。町に活気が戻り始めた。

  

 検問所で物資を搬入する際、商人たちの仕入れた商品の相乗りを許可したところ、一部の商人たちの態度が軟化し、協力してくれるようになった。国王陛下も王太子殿下も交易の拠点としてのこの町の商業は維持したいと考えていると伝えると、さらに協力者が増えた。

 

 町の死者、新規感染者も減少していた。少しずつ町の平穏も戻ってきた。市場を移動させたりと、無茶なこともした。さすがにその時の反発は、強く、少々危ない目にもあいかけた。


 町に来て早々は、白刃を交える機会もあったが、四人の騎士は腕が立った。その噂が広まったのか、王国からの支援への理解が広まったのか、剣を抜く機会も無くなっていた時期でもあった。その油断を突かれた。


 夕食後、荷馬車の御者という立場に甘んじ、ロバートの護衛を兼ねてくれていた騎士達と、ベンの家を出て、庁舎に向かって歩いていた時だった。


「挟まれたようです」

騎士達の言葉に、ロバートも危険を悟った。武装した集団に、通りの前後で挟まれた。月明りに光る剣から、少なくない人数だということは知れた。


 馬車で移動していたら、強引に突っ切る手もあったが徒歩では無理だ。


 毎朝彼らと手合わせしているから騎士達の腕は知っている。だが、たった5人では、多勢に無勢、さすがに全員助かるのは無理だと覚悟した。


「あなたは逃げてください」

抜剣した騎士達の言うことはもっともだが、ロバートはその言葉に頷くことができなかった。


「あなたは逃げるべきなのです」

「あなたに何かあれば、この町を救おうとする機運がなくなる。もはや誰も来なくなる。違いますか」

「我々は、万が一の時、あなたを守るために」


 その時、どこからともなく人が大勢現れ、騎士達の言葉は遮られた。

「てめえら、どこの誰に断って群れてんだ。あぁ、馬鹿野郎、失せろ」

角材を手にした男の声には聞き覚えがあった。


思い思いの武器を手にし、新たに現れた者達が、次々と、武装した集団を詰り始めた。周囲の家からも人の声がし、窓から何かを投げつけ始めた。武装した集団は慌てて去っていった。

 

剣を鞘に納め、ロバートは最初に声を上げた男に向き直った。

「助けていただいて、ありがとうございました」


ロバートの言葉に、男が顔を隠していた布を取った。

「お前には世話になってるからな」

思った通り、人足として雇った男の一人だった。他の男たちにも、見覚えがあった。手にしているのは角材や鎌や鋸、その他、武器になりそうな物すべて、みなありあわせの得物でしかなかった。


「お前は俺たちに仕事をくれた。お前のくれた仕事のおかげで、俺たちは町の役に立てた」

「おかげで、後ろ指刺されなくなった」

「厄介者扱いされてた俺が、ちゃんと稼いで、家族に顔向けできるようになったんだ」

「あんたのおかげだ」


彼らの大半は、ローズが特に手厚く支援するようにといった貧民たちだった。満足な武器も持たない彼らが、剣で武装した集団に立ち向かってくれたのだ。


 ロバートは少なからず感動を覚えた。

「貧富にかかわらず、すべての民を救うようにというのは、アレキサンダー王太子殿下の御意思です。あなた方の感謝の言葉は、必ず殿下へ伝えましょう」


 御前会議では、犯罪者も少なくない貧民を助けるなど、子供の理想論だと、貴族達は笑い、真剣に取り上げようとしなかった。

 

ローズは、悲しそうに最初から悪い人はいないと呟いた。近くにいたロバートや、アレキサンダーでないと聞き取れないような小さな声だった。貧しい暮らしを知るローズに、ローズの言う通りにしてやると、アレキサンダーは約束した。ロバートは、ローズの目に溜まっていた涙を拭ってやった。


 ローズは正しかった。ロバートは、詳細には触れず、貧民たちが国からの支援に感謝し、協力してくれているとだけ書いた。ローズを心配させずに、ローズが正しかったことを伝えたかった。


 今もロバートは腰に長剣を帯び、同じように剣を帯びる騎士達が同行している。ベンは鞭を常に身に着けている。安全とは言い切れないのは事実だ。だが、国がこの町の人々を、貧民達も含めて全て救おうとしていると、どこからか伝わったのだろう。少しずつだが、町中を歩きやすくはなっていった。

 

幕間にて、この頃のローズのお話をご覧頂けます

悪夢と添い寝と1 https://ncode.syosetu.com/n1164gt/

悪夢と添い寝と2 https://ncode.syosetu.com/n2371gt/

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