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21)王都からの支援

 数日後、王都から大量の荷を積んだ荷馬車が四台到着した。王都の東西南北の騎士団の印が描かれた幌をかけた荷馬車は、人気のない庁舎前の広場に並んだ。


「ロバート様。国王陛下並びに王太子殿下からの荷をお届けに参りました。必ず直接ロバート様にお届けするように、他の方々宛ではないと、厳命をいただいております。どうか、お受け取りください。馬車も我々御者もすべてご自由にお使いください。全員、覚悟はできております。我々は、あなた様の御命令のままに働くために参りました。どうかご命令を」


 ロバートの前に跪いた御者達の言葉が、庁舎の前に響いた。町の代表者達が、ロバートを見る目が変わった。


 それ以降も、アルフレッドとアレキサンダーからロバート宛てに物資は潤沢に供給された。大量の物資の影響は大きかった。


行政にかかわるものが、ロバートに従うようにするため、支援物資はすべてロバートへ託すという体裁をとれ。町の中の行政による統制を維持するためには、物資で絶対に不安を持たせるな。特に貧民層も保護しろ。貧民層から感染が広がる。そこでの感染を抑えるべきだ。と、ローズが主張したと、御者となって手綱を握っていた騎士達は言った。


 物資輸送に関しては、各地の騎士団が協力する手はずになっているから、問題ないと騎士達は笑った。騎士である彼らが尊敬する、とある人物が、ローズを大変気に入ったと教えてくれた。


 ローズは、町の疫病対策に関しての権限をロバートに集中させ、それを明文化し、イサカの町の者に伝えるようにとも要求したという。そのおかげで町の者で表立ってロバートに反対するものはいなくなった。


 一方で、国からの全ての権限を握らされたロバートも、当初は困惑した。


 ベンは御者仲間を通じて、町の各地域の代表者に連絡をとり、ロバートと彼らを引き合わせてくれた。ベンの仲間たちは、町の各所への物資の搬送を担ってくれた。


「お前の役に立てて、俺はうれしいよ。いやぁ、俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇな」


 ベンと彼の妻は友人、知人を訪ねて回り、ロバートに協力するように説得してくれた。様々な職人の棟梁たちが、ロバートを訪ねてきた。職人たちは、今のままでは食べていけないと支援を要請した。職人である彼らの技能が、能力が必要だというと、職人の誇りにかけてと協力を約束してくれた。


貴族ではない彼らの言葉は、粗削りで粗野で、時に耳障りだった。だが、彼らは言葉通り、嘘偽りなく協力してくれた。その心意気にロバートは心地よさも感じた。


 王領と王太子宮しか知らないロバートにとり、未知の人々との付き合いは新鮮だった。


 アレキサンダーの乳兄弟であり腹心とも言われるロバートは、常に成果を出すべく努力してきたし、成果を出してきた。


名代として派遣されたイサカの町で結果を出すのは、ロバートにとっては当然の責務だ。ロバートの気負いなど知らぬ多くの人達が、支えてくれた。とてもありがたかった。礼を言うと、彼らは照れたように笑った。


「そんなの気にすんなよロバート」

「お前こそ、わざわざ遠くからきて大変だろ」

「礼を言うのはあんたじゃなくて、俺たちの方さ」

「兄ちゃん、若いのに、頭硬いなぁ」

時に、背中や肩を乱暴に叩かれるのには閉口したが、徐々に慣れてしまった。


 国から、王家から見捨てられていないという安心感が町を落ち着かせていた。聖職者たちが町を訪れ、死者の弔いも滞りなく行われるようになった。棺桶を作るための大量の木材や、釘をつくるための鉄も運び込まれ、町の大工や鍛冶屋に仕事を与えた。墓を掘ることで日当を得るようになったものもいた。


死者を悼む町の人々のために、聖職者達は祈った。嘆き悲しむ声が町を覆ったが、涙とともに、哀しみが癒されていくようだった。


 王都から、最初に大司祭が来た影響は大きかった。

「この災厄のなか、近しいものを亡くし、自分達の明日の命をも思い煩う街の人々への、魂の救済が必要です。苦難にある人々に神の声を届け、救済できるのは、聖職者の皆さまをおいて、他にありません」


 まだ幼いローズの言葉に、大司祭は感銘を受けたという。疫病の知識を持ち、町の救済を訴えるローズを、聖女アリアの再来に大司祭は例えた。


 頬に菓子の屑をつけたローズが聖女アリアの再来と言われても、ロバートには実感などわかなかった。


 大司祭の語るローズの姿は、王太子宮に来たばかり頃の琥珀色の目に鋭い光を宿していたローズを思い起こさせた。


 ローズはあの朝、助かる人を助けるため、一人でイサカの町に行くといった。ロバートはローズを引き留めた。引き留めた以上、ローズ一人では成しえない成果を上げてやりたかった。


 医師も薬師も、志願したものが、町に派遣されてきた。疫病に対する知見と、町を救う一人となったという栄誉のためだけに、自らの命を危険にさらす覚悟をした者たちだ。全員がローズから覚悟のほどを聞かれたらしい。


「死ぬかもしれません。本当に行きますか。家族がいる人もいるでしょう。家族を護るために残るという選択肢もあります。それも立派なことです。今のあなたたちの患者さんたち、命を預かっている人たちはどうなりますか。そういった方のことを、忘れないでください。御自身の命を惜しむのも当然です。一度きりの人生ですから。あなたの意思で選んでください。私はあなたを責めません。誰もあなたを責める権利はありません。あなたたちは与えることができます。疫病に苦しむ町の人を救うことができます。救おうとするあなた方の思いが理解される保証はありません。全ての人が助かることはありえません。助けられなかった命のことで、罵倒されることもあるでしょう。少なくとも今回のことで知識は得られます。それだけでもいいという方のみ、残ってください」

 鋭い、見透かすような眼で一人一人を見つめていたという。


 町を封鎖している部隊も、入れ替えているという。情がうつって、町のものを外に出したりしてはいけないのと、封鎖そのものも、部隊に経験させるためということだった。


 ロバートが王都を離れたころよりも、ローズはイサカの町での疫病対策に関して、様々な方面に関わっていた。王都から派遣されてくる人々は一様にローズを褒めた。


「お小さいのに、大変賢い方でした」

「ご自分一人で教えるには手が足りないと言って、自分の代わりに教えるものを育てようとしておられました。知識の出し惜しみをなさらないとは、素晴らしい方です」

「必要なものを作るんだといって、最近、学者たちと相談しておられましたよ。本当に聡明な方で」


 ローズの話を聞くことができるのはよいが、だんだん心配になった。まだ子供なのに、無理をしていないだろうか。早朝の庭で見せた、強い責任感だけで無理をしていないだろか。


 ロバートは報告書の片隅に、あまり無理はしないようにというローズへの一言を書き添えた。


この頃の王太子宮のローズの様子は幕間にあります

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