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19)受け入れる者、拒む者、送り出した者

 会議室を出るなり、ベンが振り返った。

「お前、あんな奴ら気にするな。俺を使え。この辻馬車も馬も俺もこの町から出られない。だから、俺を使え。この町にいる間は俺がお前の御者だ、この馬車はお前の馬車だ、馬はお前の馬だ。胴元には後から説明する。俺をお前の御者にしろ。俺の町を助けに来たあんたを、俺は助けたい」

義理堅いベンの申し出は本当にありがたかった。

「ありがとうございます。日当はお支払いいたします」

ベンの申し出はありがたいが、ロバートもベンの好意に甘えるわけにはいかない。

「要らねぇよ」

ここ数日の付き合いから、予想していた答えだ。ロバートも返答は用意していた。

「いいえ、支払わないと、私の主であるアレキサンダー王太子様に私が叱られます。私のためと思って受け取ってください」

町の者に仕事を与え、賃金を支払うことが、町の産業を維持することが必要だとローズは言った。

「町を助けに来たお前からは、もらえねぇ。俺が母ちゃんから怒られる」

「怒られてください。殿下のお怒りを買う方が恐ろしい。殿下のご命令とあらば、我々近習は自ら命を絶たねばならない」

万が一の可能性だが、使用人にとっては常識だ。

「本当か、それ」

ロバートは重々しく頷いて見せた。

「じゃぁ、仕方ねぇ。そういう理由なら母ちゃんも怒らねぇだろう」

「よろしくお願いしますよ」

いくら義理堅いベンからの申し出でも、無給で他人をこき使うことはできない。理想で腹は膨れないのだ。

「しかしまぁ、王太子様ってそんなに怖いのか」

ロバートは、結果としてベンをだましたわけだが、誤解を解いておく必要はある。

「可能性の一つです。王太子様は大変慈悲深い方ですから」

ロバートの言葉にベンは片頬を上げた。

「お前、もしかして、かなりいい性格してねぇか」

「おほめに預かり光栄です」

「食えねぇやつ」

翌朝の迎えを約束し、ベンは家へと帰っていった。


 ロバートが寝所としてあてがわれた庁舎の一室は、とてもつかえたものではなかった。人がしばらく出入りしていなかった部屋なのだろう。埃が積もっていた。歓迎されていないことを、肌身で感じる。本当に、ローズを来させないで良かった。貴族ではないとはいえ、王家に近い立場の、成人男性の自分でさえこの扱いだ。子供の扱いなどもっとひどいものだろう。

 部屋の惨状に何から手を付けたものか、侍女に掃除を頼むのか、掃除道具をかりて自分ですべきか、そんなことをぼんやりと考えた。掃除していない部屋で寝るなど、ありえないとローズは言うだろう。


 ロバートは、埃まみれの部屋の片隅に、自分の荷物がすでに置いてあるのを見つけた。歓迎はされていないが、追い出されるほどではないらしい。

「多分、着いたら困ると思うから、これが使えると思うわ。着いたら開けてね。役に立たないほうがいいけど」

そういわれて、ローズが示した箱が一番上になっていた。

「まずは開けてみますか」

無駄に声でも出さないと、気が滅入りそうだった。何が入っているかわからない箱をあけて、ロバートは微笑んだ。少人数用の野営道具が一式入っていた。荷物の間には不要布が詰め込まれている。真新しいシーツも2枚あった。茶葉に、兵糧用のビスケット、干し肉等の保存食も入っていた。

「ローズ、あなたの予想通りでしたね」

当然返事はない。八つ当たりだから。気にしたらだめ。そういったローズの言葉がよみがえってきた。


 部屋がこれでは、食べ物も期待できない。明日からどうしたものか。明日から何とかしないといけない。井戸水をもらい、部屋を掃除し、使えるようにしたあと、箱に入っていた真新しいシーツに身を包んだロバートは横になった。


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