18)祝いの品
アルフレッドは、随分前に自身の身の丈を追い越したロバートを見てほほ笑んだ。
「ロバート、私は、アリアの兄達の生き残りとして、私達の可愛い妹アリアの忘れ形見のお前を、家族のように大切に思っているよ。息子アレックスの乳兄弟でもあるしね。身分だなんだと、お前たち一族は堅苦しいことをいうが、今は気の置けないものばかりがいる場だ。可愛い妹の忘れ形見が、ようやく婚約したんだ。アリアの兄達を代表して、祝わしてくれ」
アルフレッドの言葉に、アレキサンダーが立ち上がりロバートとローズの間に一つの箱を置いた。先程、アルフレッドが持参した箱だった。
「アレキサンダー様」
慌てて立ち上がろうとしたロバートを、アレキサンダーは制した。
「だからお前は堅苦しいんだ。ロバート、父上がおっしゃったとおり、今日はお前たちの祝いの席だ。さっさとその箱をあけろ。いや、ローズが開けたほうがいいな」
アレキサンダーに促され、箱をあけたローズは、中を見て、目を丸くした。さすがにロバートも驚きを隠せなかった。
緑色と黄色の宝石に彩られた一対の指輪があった。
「ようやく渡せると思うと、感無量だ」
アルフレッドは言葉通りの感慨に浸っている様子だった。
「兄達を代表して、婚約指輪を贈らせてくれ。受け取ってくれるね。断られたら私が困る。すでに亡くなった兄上達に、不甲斐ないと言われてしまう」
「しかし、アルフレッド様、このようなものは」
指輪は王家の宝飾品を見慣れているロバートが見ても、素晴らしい品だった。
「婚約指輪だ。ロバート、ローズに嵌めてやれ」
遠慮しようとしたロバートの言葉をアレキサンダーは遮った。
「ですが、アレキサンダー様」
「父上がいつからその指輪を用意しておられたと思っている、お前は。これ以上父上をお待たせするつもりか。本当に堅苦しいな、お前は」
アレキサンダーは、ロバートを呆れたように見ていた。
「エメラルドはお義父様からの贈り物よ。もう一つはローズの瞳の色に合わせたの。可愛いローズに似合うわ。ローズが、可愛いといった、私の小鳥のブローチを作った職人たちを陛下にご紹介したの。気に入ってくれると嬉しいわ」
グレースに懐柔されたローズに、期待した目で見上げられては、ロバートも降参するしかなかった。そっとローズの左手の薬指に、小さい方の指輪をはめてやった。ローズがそっと指輪に触れた。少し大きいが、数年も経てば丁度良くなるだろう。
「綺麗、うれしい」
ローズの小さな声に、ロバートもほほ笑んだ。
「ありがとうございます」
満面の笑みで礼を言ったローズの隣でロバートも頭を下げた。
「ローズ、ロバートの手には、君が嵌めてやるといい」
ロバートの左手薬指に、アレキサンダーに促されたローズがそっと指輪をはめた。
「ありがとうございます」
アルフレッドは、揃って礼を言う二人に微笑み、鷹揚に頷いた。
「私たちからはこれだ」
アレキサンダーから箱を受けとったグレースが、ローズの目の前に箱を置いた。
「ローズ、開けてごらんなさい」
箱には、金の鎖が2本、輝きを放っていた。
「その指輪は、今のローズには少し大きいから用意したのよ」
「ロバートは弓を引くからな。首からかけていたほうが邪魔にならんだろう。遠慮は無粋だぞロバート」
アレキサンダーの言葉に、ロバートは鎖の1本をとり、ローズの指から抜いた指輪を通すと首からかけてやった。同じように鎖に指輪を通したローズの手が届くように、ロバートは身をかがめてやった。