↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/125

5)ロバートへの謝罪

  翌日、ローズとの軽食からロバートが戻ってきた時だった。

「ロバートと二人で話がしたい。他は下がれ」

アレキサンダーの命令に、近習達は退席していった。


アレキサンダーは、 二人きりになった執務室で、ロバートを向き合う位置に座らせた。

「何か、ございましたか」

ロバートの声には緊張感があった。


「すまなかった」

アレキサンダーの言葉に、ロバートが目を瞬いた。

「アレキサンダー様、何か、ございましたか」

「昔のことだ。いろいろ、すまなかった」

「そうおっしゃられましても」

アレキサンダーの言葉に、ロバートは戸惑い続けるばかりだった。

「子供のころのことだ。アリアのことで、色々お前に強いてしまった」


ふっとロバートが息を吐いた。いつもと同じ、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「昔のことです。母は、アレキサンダー様の乳母です。アレキサンダー様をお育てすることは、母の大切なお役目でした。当然のことです」


アレキサンダーもため息をついた。

「お前はそう言うだろうと思っていた」

「そういうものですから」

ロバートは微笑む。


「それでも、お前に、母親を、アリア様と呼ぶように強いたのは私だ。葬儀の日、詰ったこともすまなかった。お前の辛さもわかってやれなかった」

ロバートが目を大きく見開いた。何かを言おうとするかのように、ロバートの口が動いた。

「それは、あの日のことは」

ロバートの目から涙が零れ落ちた。

「すまなかった」

ロバートの目から次々と涙が零れ落ちる。

「本当に、すまなかった」

「いい、え」

「お前と、アリアのやさしさに甘えていた」

「それが、お役目、です、から」


ロバートが両手で顔を覆い、アレキサンダーから顔を背けようとした。

「申し訳、ありま、せ」

「すまなかった」

そっとロバートの頭を抱いた。

「あの時、お前はこうしてくれたろう」


 アリアの葬儀で、泣くアレキサンダーをロバートは抱きしめ、そっと背を撫でてくれた。あの時も、あの日以降も、いや、あの日より前も、ずっとアレキサンダーはロバートに甘えてきた。ロバートなら、常にアレキサンダーのために何かしてくれると思っていた。ロバートなら、何かあってもきっと解決してくれる、助けてくれると思っていた。

「ずっとお前に甘えていた。すまなかった」


 あなたもロバート離れをそろそろなさったら、というグレースの言葉どおりだと思う。アレキサンダーは、すすり泣くロバートの背をそっと撫でてやった。


どれほどそうしていたろうか。

「お手を煩わせました。もう、落ち着きましたので」

ロバートの声にそっと腕を外した。

「申し訳ありません。みっともないところをお見せしました」

「いや。もとはといえば、私のせいだ」


 ロバートはゆっくりと首を振った。

「アレキサンダー様、お互い子供でした。それに、ご存じなかったでしょうが、時々、夜、母の部屋にいったりもしていましたから」


ロバートはそういうが、いつからか、部屋は隣同士だった。大人たちは、ロバートに夜間もアレキサンダーを護るようにと、教えていたはずだ。おそらくは、それまでの間だろう。夜、屋敷の中にほとんど灯りはなかった。暗い中、子供のロバートが、母会いたさに屋敷の中を一人歩いていたと思うと痛々しい。だが、本人はそれを何とも思っていないようだった。


「そうか」

「なぜ、突然昔の話をされたのですか」

「グレースからきいた」

「グレース様が?」

「ローズに、膝枕とは悲しいものなのかと聞かれたそうだ」


 ロバートが照れたような表情を浮かべた。ローズがきてから、表情が豊かになったロバートの顔を、アレキサンダーは感慨深く見ていた。

「あぁ、ローズに口止めをするのを忘れていましたね。あの時は不覚でした。急に、涙が止まらなくなって。あの時まで、ずっと忘れていたのですが。私自身も、忘れていたほどです。ですからどうか、お気遣いいただきませんように」

ロバートはいつもと同じように穏やかにほほ笑んだ。

「まぁ、お前がそれでいいならいいが。すまなかったとは思う」


 ロバートが忘れていたのか、忘れようとしていたのか、それはわからない。だが、アレキサンダーが、追求したところで、何かが好転するわけでもないだろう。

「しかし、この顔では困りましたね。人払いはよいですが、彼らの職務もあります」


 泣いた顔を部下に見せたくないが、仕事のことを気にするロバートは、いつも通りだった。


「大丈夫だ。今日の午後は全員、ローズとサイモンに貸している」

「図書館ですか」

「あぁ、なんでも奥の方の高い棚の掃除をしたいが、ローズの背丈では手伝いにならんし、サイモン一人では体力が先に尽きる。下男には文字が読めないものが多いから、資料や書籍の整理は出来ない。どうしたらいいかと相談されていたんだ」


「ローズが張り切っていそうですね」

「下女に頼んで、掃除道具をあらかじめ運び込んでいたぞ」

「では、私達は後から恨まれないように、書類を片付けておきますか」

手洗い用の水で軽く顔をあらったロバートがいつものとおり席に着いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。