41)窓越しに二人を見守る人々
40)の別視線です
執務室の窓から、外の庭をみたティモシーは、硬直した。
「どうした」
アレキサンダーに問われ、ティモシーの硬直はとけた。
「あの、今、その」
自分が見た庭の光景を、なんというべきか、ティモシーはわからなかった。そもそも口にして良いのかもよくわからない。
「ロバートが、ローズの手を取り口づけをしましたね」
「エリックさん!」
エリックは、なんのためらいもなく、ティモシーがみた光景を口にした。
「なんだ。またか」
アレキサンダーは驚いた様子もなく、茶に口をつけた。
「アレキサンダー様、またかとは」
ティモシーの質問に、アレキサンダーは肩をすくめた。
「どうもこうもない。ロバートにローズの面倒をみてやれといったのは、私だ。ロバートは、王家の揺り籠らしく、面倒見が良い。子供も好きだ。気に入った相手であれば、なおさらだ。それが気付いたら、あれだ」
アレキサンダーが、窓の外に顎をしゃくった。庭では、ロバートとローズが仲良く座って、何か話をしている。
アレキサンダーの愚痴は続いた。
「弟や妹がほしかった。ローズは妹だとロバートはいうが」
「はぁ」
思わずティモシーは気のない返事をしてしまった。
「いつ、押し倒すかと思ってましたが、全くその気配がないですねぇ」
「えぇぇっ」
エドガーの言葉に、ティモシーは叫んでしまった。
「ロバートは、そんなことはしない。王家の揺り籠だ。子守の一族だ。王子と姫の良い手本であれというのが、家訓の一族だぞ」
アレキサンダーが言い切った。
「だから、私の頭が痛い。父上に、まだかと、せっつかれる身になってみろ」
「アレキサンダー様の愚痴を聞かされる、私達の身になってくださるのであれば、検討いたしますが」
「トビアス、おまえ、そんな事を言っていいのか。この間、ローズに書類を手伝ってもらっていただろう」
「アレキサンダー様、人のこと言えますか」
突如騒ぎ出したアレキサンダーと先輩である近習達の様子に、近習見習いのティモシーは目を丸くした。
「驚いたか、ティモシー。ここは、時々こうなる」
エドガーは、自分は関係ないというように肩をすくめた。
「エリックかロバートの一声で、たいがい収まるんだが。前にローズが、『みんな、ちゃんとお仕事してください!』と言ったときは、面白かったな」
「あの時の発端は、あなただったのではありませんか」
エリックが自席に座ったまま、エドガーを睨んでいた。
「ティモシー、仕事は仕事だ。真面目にきちんとやれ。成果は出せ。そこを抑えておけば、あとはお前はお前でいい」
従兄弟の苦言を、エドガーは無視した。
「少し肩の力を抜きなさい。真面目であることは大切です。一方で、真面目に仕事をすることは、良い結果を出すための手段の一つでしかないのです」
穏やかにティモシーに語るエリックが、エドガーの片頬を摘んで引っ張っているのは、ティモシーの目の錯覚ではない。ティモシーが、思わず笑ってしまうと、二人も笑ってくれた。
エドガーとエリックは、近習見習いになって日の浅いティモシーの緊張をほぐそうとしてくれたのだろう。
少し嬉しかった。
アレキサンダーと先輩の近習達の下らない騒ぎを放っておいてよいのかも、気になったが。
「何事ですか」
ノックと共に戻ってきたのはロバートだった。
「いや、大したことはない」
喧騒は一瞬でおさまった。
「左様ですか」
アレキサンダーの言葉に、ロバートは、それ以上詮索することなく、自席に戻った。ロバートは、どこか、機嫌が良さそうに見えた。
「寛ぐことも大切です」
ティモシーの耳に、エリックの囁きが聞こえた。
第二章幕間 フレデリックの余計な一言https://ncode.syosetu.com/n0180gv/
の頃から時も経ち、皆、窓の向こうの相変わらずな二人に、大半が慣れてしまいました。
第二章はここで完結です。お付き合いいただき、ありがとうございました。お楽しみいただけましたら幸いです。
41は、40のおまけでもあります。
4月25日と26日の7時に幕間を更新します。シリーズで投稿しています。
アーライル家の兄弟 https://ncode.syosetu.com/n0186gv/
6月6日に更新の幕間は、この頃のお話です。
ローズの楽しく甘い秘密 https://ncode.syosetu.com/n0855ha/
第三章の更新再開は、4月26日7時から、連日更新です。
それもこれも、アクセス頂いていること、評価、ブックマーク、ご感想 等、全てが励みになってのことです。ありがとうございます。
先に投稿した幕間、
頑張った小姓達のお話も、お楽しみ頂けたらと思います。
王太子宮の近習筆頭代行と小姓達と、近習筆頭の掌中の珠 https://ncode.syosetu.com/n1560gx/