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39)アスティングス家の噂

 エミリア、ケイト、スーザンの三人は、大司祭が来た翌日、救護院へと送られた。


見送りは、三人が暴れださないように見張る騎士と、その騎士を監督するロバートだけだった。


ロバートがその足で向かったのは西の館だった。

「ご不自由はございませんか」

答えが分かっている問いを、グレースに投げかけた。あの三人の侍女が減っても、グレースの生活に支障があるはずなどなかった。


「えぇ。特に問題なく過ごしております」

グレースが連れてきた侍女は、侍女頭のサラ、その娘のミリアなど、優秀な侍女が多かった。だから、あの三人は目立っていた。他の侍女に比べて気配りも仕事ぶりも明らかに劣っていたのだ。おかしいとは思っていた。


「グレース様、一つお伺いしたいことがございます」

ロバートは、あの三人をグレースが連れてきたことと、アスティングス家の内情と関連しているのか、確認をしておきたかった。グレースが頷いたことを確認して口を開いた。

「あの三人を連れてこられた理由をお伺いしたいのです。無論、本当の理由をお聞かせ願えますでしょうか」

「それは、アレキサンダーの命令ですか」

「いえ、私個人の判断です。三人減りました故、新しい侍女のこともご検討いただく必要もおありでしょう。私自身も使用人でございます」


「あなた、どこまで知っているの」

グレースが不審に思うのも無理はない。

「他家の使用人と会う機会もございます。また、王太子宮には行儀見習いとして、他家の使用人がくることも多くございます」


アスティングス家の使用人も数人、行儀見習いとして預かったことがある。

「人払いを。サラ、あなたは残って」

もう少し早く、この話をグレースとした方がよかったかもしれない。侯爵家の令嬢グレースは、人柄はよかったが、政にどこまで関われるか不明だった。だが、アレキサンダーに、三人の処罰を願い出た決然とした姿に、王太子妃としての、未来の王妃としての姿を見た。


「ロバート、あなた、何をどこまで知っているの」

「アスティングス侯爵家、御次男ウィルヘルム様の御素行にやや問題がおありと、小耳に挟んだことがございます。特に、若い使用人にとって恐ろしい方だという噂を耳にしました」

 アスティングス家に仕える者達も、詳しくは語らない。彼らには彼らの忠誠がある。ロバートが知ることも、あくまで噂話の域を出ない。無論、証拠もない。


「そう。他にもあるのですが、その件に関してはその通りです」

他にもあることを認めたグレースに、ロバートは内心驚いた。

「先日から、こちらで預かるアスティングス家侍従長の娘トレーシーも同じですか」

「えぇ」

「トレーシーから、異母妹がいると聞いております」

「侍女とするには、まだ幼いのです」

「では、お生まれになる御子様の、御遊び相手として呼び寄せるのはいかがでしょうか」


ロバートは同じ使用人として、アスティングス家の使用人を助けることができたらと思った。

「まぁ」

グレースの顔が輝いた。

「でも、あなたはそれでいいの」

「西の館のことです。サラが良ければよいでしょう」

「でも、まだ生まれていないのよ」

「まず、王太子宮に慣れていただく必要があります。あらかじめ連れてこられた方がよろしいでしょう。他にはいらっしゃいませんか」

「えぇ。おそらくは。早速使いをやります。ロバート、私では兄達を止められません。なんといっていいか、本当に心からお礼を言います」


グレースが晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「もったいないお言葉、ありがとうございます。これもアレキサンダー様が、グレース様を思われてのことにございます」

ロバートは一礼した。動揺を隠すためでもあった。兄達というのであれば、長男のウィリアムと次男ウィルヘルムの両方ということになる。ウィリアムに関する噂も、やはり真実らしい。


 アスティングス家からは、アレキサンダーの側近は期待できない。当主のフィリップは、二人の息子をどう養育したのだろう。あるいは、教育係は何をしていたのか。確かめることができたのはよいが、問題が増えただけだった。


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