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1)王太子宮に現れた少女

リゼが王太子宮に押しかける

「王太子妃様にお話ししたいことがあります」


王太子妃の名を冠する孤児院からきたという少女は門番に伝えた。

まっすぐな視線、柔らかそうな茶色の髪。やせた粗末な服をまとっただけの少女は、用件を尋ねても、本人以外には言えないと繰り返すばかりだ。

そうでなくてもここ数日は来客が多い。国境近くの町で、流行り病のうわさがたち、それ以来、次々と人が訪れていた。


「どうか、お目通りを」

数時間前から、全く同じことを繰り返す。とうとう根負けして彼は上官に伝えた。

同じことが数回繰り返された。

「あの孤児院からきたというならば、話を聞きましょう」

王太子妃は、年に1回はグレースという自分の名を冠された孤児院を慰問している。そこから来たというならば、会ってやっても良いと思っただけだった。


 少女は明るい琥珀色の目をしていた。

「お目通りを頂きありがとうございます」

そういうと、少女の目つきが鋭くなった。

「早速ですが、国境付近の町の疫病のことは御存じであらせられますね」

王太子妃を相手にしながら、詰問に近い口調だった。平民に許されたものではない。普段、王太子妃に仕える侍女達が顔をしかめた。王太子がよこした近習達が、咎めようと口を開いたが、少女のほうが早かった。

「町を閉鎖してください。他の国へ疫病が広がったら、大変なことになります。人は当然。ネズミ一匹、紙きれ一枚、馬車の車輪についた土すら危険です。決して何も出してはいけません。かつて、私の知るところでは、数えきれないほどの者が死に、町は打ち捨てられ、国は滅びました。どうか、町を閉鎖してください」

一息で少女は言い切った。声に宿る危機感に息をのむものもいた。

「そんなことは聞いたこともない」

近習の一人が言った。

「むろんです。数百年前の出来事です。ですが、それから幾度も繰り返し発生しています。早期に封じ込めないと、止める手立てはありません。無礼を承知で申し上げます。このままではこの国が滅びます」

少女の鋭い語気はかわらなかった。

「不敬だ」

剣の柄に手をかけた近習の言葉にも少女は動じなかった。

「国のため、知ることを王族の方に申し上げているだけです。知りながらも黙っていることのほうが不敬でしょう。どうか、町の封鎖を。町の調査を。感染源を特定し、防疫手段を講じる必要があります。町の外へ広げてはいけません」

少女は一歩も譲らない。蒼白なのは、事態をわかっているからなのだろう。

 王太子妃はため息をついた。これは自分一人の手にはあまる。近習の一人に、連絡を頼んだ。


 少女は握りしめていた手を開いた。王太子妃に何とかしてお会いして、話を聞いていただくことはできた。内容に関心を持ってもらうこともできた。

 引き返すことはできなかった。引き返したらきっと後悔する。シスターたちが話す町の噂は、疫病の流行を示唆するものだった。疫病の流行が始まり、国全土に広がれば、何がおこるか、少女には予想できた。だから、リゼだった自分を捨てることを決意した。

 あなたはきっと、何かやるべきことがある。そういって、シスター長は見送ってくれた。きっとこれが正しい道のはずだ。少女は必死で気を落ち着けていた。


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