#1 BAD END
カクヨムから乗り換えてきました。
今日も誰かの暇潰しのおかずになれたら良いなと思いながら書いてます。
「よくぞ来た、忌々しい勇者たちよ。朕は魔王・ルシファーである。」
自らを魔王と自称する巨躯な図体は、まるで凛々しく聳え立つ富士山のようだった。魔王討伐を完遂して世界の平和を取り戻すべく発奮した勇者一行は、魔王城最奥部にて魔王と臨戦態勢に入っていた。
「魔導士、能力向上を付与してくれ。」俺は、魔法少女に魔法詠唱を促した。
翠色のとんがり帽に丸眼鏡をかけた魔導士は、取つ置いつ俺のすぐ後方でたじろんでいた。
「はわわわわわわわ...........」
いざ魔王を目の前にして、凄まじい殺気の圧力で戦意喪失しているみたいだ。やむを得ないが、リーダーである俺が一喝して、皆の士気を高めなくては。次の瞬間、恐怖で収縮した肺へ一挙に空気をとり込んだ。
「お前ら....世界救うんだろぉ!」
ピンと張りつめた緊張の糸が、一気に弾け飛んだ。
「おうよ。ウィルにき!ちょいと目が冴えたぜ。」
全身を重装備で覆う大男は、両刃斧を肩に担ぐと鼻を大きく鳴らした。
「私も動揺してました、すみません。では.....」
魔法少女が詠唱を始動すると、俺と大男を赤い光が包んだ。能力向上の魔法を付与されると、何処となく体の底から力がみなぎってくる感覚に陥る。少し癖になる感覚でゾクゾクする。
「やっと小細工は済んだ様だな。そんな愚行は取るに足らん、では....死ね。」
それまでの夥しい殺気のオーラは一層濃くなり、容赦なく勇者一行に降り注いだ。
「まずは俺だ、小僧!」
大男は死線でありながらも、事もなげに魔王を迎え撃った。これは魔王討伐の作戦通りで大男が対抗している間に、一撃必殺の剣撃を放つ手筈だった。
「やるしかないんだ。」
俺は恐怖を押し殺して一言呟くと、長期戦を回避する為に必殺技の構えをとった。それから十分近く経つと、大男が限界に達していた。
「ウィル......にきぃ。もうそろそろ.....」
大男はいつもの勇壮な声音とは違い、今にも消えそうなか細い声を発した。これくらい気力を溜めたら魔王を倒すには充分だろう。
「これで決める。聖剣の極技......エクスバースト!」
斬撃が放たれて魔王と相対していた大男は、すんでのところで避けた。
「なに!?」
魔王は死角からの斬撃に反応できずに、正面から受けきった。斬撃の閃光が消えると、穿たれた地面が露わになった。そこには魔王の姿はない。
「やったぞ。これで平和が訪れる!」
俺は勝利の美酒に浸り、剣を高々と掲げた。
「これでやっと村に帰れるよぉぉ。」
魔法少女は泣きべそをかき、俺に抱きついてきた。
これでやっと長い冒険も幕引きか。険しく苦難な道程だったけど、この二人と冒険出来たのは一生の宝物だ。
「本当にありがとうな......お前らが仲間じゃなかったら、俺.....おれっ.....」
「何言ってんだ、にき。みずくせえな。」
大男は笑ってはあるが、目元には大粒の涙が溜まっている。やっぱり最高の仲間だ。
「よし、魔導師。除霊を頼む。」
「分かりました。」
魔法少女は背負い袋から取り出した水晶に、手をかざし詠唱を呟き始めた。
「邪霊、ここに清められし.........」
俺はいつもの見慣れた光景を眺めていた。水晶は透明だが、邪霊を吸い込むと一時黒く染まる。しかし、一向に黒く染まる気配はない。俺が魔導師に質問を尋ねようとした時だった。
「ウィ.....ウィルさ.....さん。うし....ろ.....。」
「何だよどうした急に。」
魔導士の指差す方向に振り返ると、俺に向かって斧を振り下ろす大男の姿がそこにはあった。不意をつかれ防御もできなかった俺の体は、あっという間に引き裂かれた。
「らぶりゅすぅぅ........」
なんだ、こんなに呆気ない死に方か。逆に爽快だ。
引き裂かれても意識はあるのか。
大男は俺を殺った後に、魔法少女も切り捨てた。俺はいつの間にか全身の力が抜けて、意識が遠のいていった。
「り...」
何処からか遠い場所から声が聞こえてくる。一体誰だ。
「り..んと。」
聞き馴染みのあるその声には覚えがある。
「凛人。ねぇ、凛人、起きて!」
「分かったよ、妹子。あと十分だけ。」
「いっつもそれで遅刻じゃん。学習能力ゼロだなほんと。もう知らない、勝手にすれば。」
勢いよくドアを閉める音が部屋に響き渡り、巻き起こった風が俺に覆い被さった。
「夢.....か。」
目覚めてから夢の内容を思い出そうと思ったが、記憶の表面にモヤがかかっており、次第に完全にその夢の記憶は消失した。
今日もお疲れ!!