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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
74/110

第25話『千恨万悔を巻き返すために』

【星間連合帝国 クリオス星―カルキノス星間宙域 輸送船内】



 窓の外に広がる宇宙は無限だが彷徨う宇宙船の広さには限度がある。にもかかわらずビスマルクとベンジャミンの喧嘩は一向に静まらなかった。

 今回の喧嘩の発端はベンジャミンの「カルキノス星は空気が悪いのでマスクが必要」という助言に対し、ビスマルクが「貧弱な奴はそうすればいい」と告げ、ベンジャミンが「対策を知らない無知な奴は勝手にくたばればいい」と煽った事が起因である。

 自身の右腕と左腕とも言える2人の相性の悪さはダンジョウにとって悩みの種である。それは決してチーム内の不和という点に限らず、精神衛生上良くなかった。これから惑星系全てに平穏を齎そうとしているのに、目の前の2人をどうにも出来なければ、自分の目標がほど遠かにあることを実感させられるのだ。


「嫌い合ってはいますが憎しみ合ってはいません。なので殿下がそこまでお気になさる必要はないかと思いますよ?」


「慰めありがとよ」


サポートをしてくれる美女イレイナの言葉にダンジョウは感謝の微笑みを送る。そんな彼女も謎の持病と語る鼻血の頻度が増えていたせいか、またしても鼻に詰め物をしている。ダンジョウの見たところ彼女はベンジャミンとビスマルクが喧嘩をする度に鼻血を流しているようだった。


「ダメだ。ちょっと頭冷やしてくらぁ」


ダンジョウは3人の仲間の事を考え過ぎてかぶりを振る。目の前で未だに取っ組み合いを繰り広げる巨漢2人も流石に外壁を突き破る程暴れることはないだろう。そう感じたダンジョウは1人待機室を後にして廊下に出ると船の最後尾へと歩き始めた。

 等間隔に設けられた窓からは海陽の光を反射した各惑星の小さな光が注がれ、電飾がなくともある程度の明るさが保たれていた。薄暗さと曖昧な光が織りなすどこか不気味な雰囲気がダンジョウの頭を冷やして、彼は徐々に冷静さを取り戻していく。


「(そうだよなーまずは戦皇団(ウチ)の連中を一枚岩にしねぇとな)」


ダンジョウは頭の中でどうにか結束力を深める方法を模索する内に、気付けば船の最後尾に辿り着いていた。


「……そういや……あの野郎はこん中にいんのか」


立ち止まった最後尾には後方の覗き窓とボロボロの扉が設置されている。

 ダンジョウはふと思い出してボロボロの扉に手を掛ける。扉は自動扉ではなく、ノブを引くという旧時代的なものだった。犯罪者を閉じ込めているというのに鍵も掛けられておらず、ダンジョウはその不用心さに少し呆れながらも中に入って電灯のスイッチを入れた。


「……何か御用ですかな」


扉の中は簡素な用具入れのようなものであり、その中央で拘束されながらも背筋を正して正座をしていたカンム・シーベル・ユリウスはゆっくりと顔を上げる。


「別に。ただウチの連中が騒がしいから来たってだけだ」


後ろ手に両手を縛られ正座で隠れているが両足も拘束されているカンムを見ながらダンジョウは再びため息をつく。


「アイツらずっと喧嘩だよ。俺も叱り疲れちまった」


ダンジョウはカンムにゆっくりと歩み寄ると、一定の位置に入った瞬間に歩みを止めた。……それは接収した彼の刀があった場合のカンムの間合い一歩手前の距離だった。


「……お見事。よくぞ見測りましたな」


「うっせぇ。今のオメェの間合いじゃねぇだろ」


始めて小さな笑みを見せたカンムに対してダンジョウはどこか恥ずかし気に頭をガシガシ掻くと、彼の間合いにズケズケと入り込んだ。

 ダンジョウは彼の正面に立つとその場で胡坐をかき、頬杖を突きながら三度目の溜息をついた。


「……」


「……」


2人の間に沈黙が流れる中、口火を切るようにダンジョウはカンムの目を見据えた。


「おい」


「何か?」


「オメェ、何で宇宙船の事故なんか起こしやがった」


唐突にして単刀直入の問いにカンムは戸惑ったような表情を浮かべるが、ダンジョウは不愉快そうな表情でさらに言葉を連ねた。


「言ったと思うけどよ。オメェが引き起こした事故のせいで俺のツレの親が死んでんだ。これからそのババァに引き合わせようと思ってたけど、あのババァはすぐに手が出るからな。否応なしにオメェはぶっ殺されるかもしれねぇ。その前に言い訳くらいは聞いといてやるよ」


「それほど恐ろしい方ですか?」


「ああ怖ぇ! 口より先に手が出るタイプでよ! いい年して色恋の話も聞かねぇし未だにガキの姿形してやがる! その癖怖い話とかはまるっきりダメで金も使わねぇで貯金ばっかりしてやがるケチな女だ!」


「なのに、その方の為にこうまで動くとは……大切なお方なんですな」


「あたりめぇだろ。俺にとっちゃ姉貴だ。友達はいっぱいいるけど家族はあのババァだけだからな」


「なるほど。貴方はお連れの御三方に絶大な信頼感を寄せているようですが、そのお方は少し毛色が違うようだ」


「まぁな。……って俺の事はどうだっていいんだよ。ほら! オメェの話を聞かせろ」


ダンジョウは少し恥ずかしそうにして腕を組むと、大きく息を吐き出してカンムの目を見つめた。


「何より。オメェをぶん殴った後でこんなこと言うのは気が引けるけど……あのフィルディクナって女将さんに罵られてるオメェは受け入れてるっていうより全部諦めてるって面だった。何でそんな腐った魚みてぇになったのか聞いとこうと思ったんだよ」


ダンジョウの言葉にカンムは小さく鼻を鳴らす。そして大して面白くない話をするかのように話し始めた。


「フィルディクナ……あの酒場の女が言っていたことに間違いは無いのです。ユリウスの名を継ぎながら薄汚い連中の手足となり、多くの汚い仕事に手を染めてしまった愚者に過ぎません」


カンムはそこまで告げるとゆっくりと顔を上げる。彼の表情は澄んでいるが、それは諦めの境地にも似た開き直った表情にも見受けられた。


「請け負った仕事は殺しです。権力を利用し私腹を肥やした要人の抹殺。襲撃してきたテロリストの殲滅。ですが後に調べて分かりました。私が手を下したのは誰もかれもが依頼人にとって都合の悪かった人間だけであるという事、そして彼等は決して悪意に満ちた人間ではなかったという事です。それを追及しても結局は手を下したのは私自身だ。何も考えずに言われたことだけを遂行した無様な行い……私は自らの罪を認めています。穢れた人間である以上、私は死をもって罪を償わなければならないでしょう。しかし()()()()は私を死なせてはくれなかった。死ぬならば最大限利用してからという意図があるのでしょう。どうです? 大した話でもないでしょう?」


「何でその薄汚ねぇ連中に手ぇ貸したんだよ?」


カンムの長い語りに対してダンジョウはあっさりと尋ねる。カンムは少し戸惑った表情を見せるが、ダンジョウは逆にスッキリしていた。クリオス星で彼を捉えた時に感じた違和感の正体がようやく分かった様な気がしていたからだ。


「こう見えて俺もクソみてぇな野郎はたくさん見てきた。そいつ等に証拠突き付けて地獄に落としてやる時、連中は大抵筋違いの言い訳だとかくだらねぇ自己弁護をしやがる。中にゃ全然関係ねぇ話して自分は加害者じゃなくて被害者だとか抜かすバカもいたし自棄になって暴れ出す野郎もいた。でもオメェは違う。贖罪してるって訳でもねぇ。死んで償いたきゃ自殺すりゃいい。なのにオメェは生きてる。それはテメェは自分が悪くねぇと思っているからだ。オメェ……何か隠してんだろ?」


ダンジョウは思いのままにそう告げる。カンムはまるでその気迫に飲み込まれるのを避けるかのように目を逸らした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 核心に迫る言葉は人を動揺させる。それが唐突に告げられたならば尚更である。カンムは不様であると自覚しながらも自らの目が泳ぐことを止めずにはいられなかった。


「…………何も隠してなど……」


「言ってる事と態度があべこべになってんぞ」


戸惑うカンムを他所にダンジョウは堂々と胸を張っている。そしてその目は真摯にカンムの事を見据えていた。


「……私の話などどうでも良いことでしょう」


「お、今のはやっぱ何か隠してるって白状したようなもんだぞ?」


「仮に……私が何かを隠していたとしましょう。しかしその事実が貴方にどうこう出来る物ではないのです」


カンムは背筋を正して純粋な目をしたダンジョウに諭すように告げた。


「何より……世の中には知らない方が良い事もあります」


その言葉に痺れを切らしたようにダンジョウは頭を掻き毟った。


「かぁ~ッ! 奇麗事はいいんだよ! 鬱陶しい野郎だな! もういい! じゃあオメェの隠してる事を仮の話としてしてみろ!」


「そんな話を聞いて何になるというのです? 貴方には何の利益もないでしょう?」


「あ? 何言ってんだテメェ?」


ダンジョウは目を吊り上げると、身動きできないカンムの胸倉を掴んで中腰状態まで引き上げてきた。


「利益なんか関係ねぇんだよ。俺は俺が気になるから聞いてんだ」


「何故そんな気になるのです?」


「もしもオメェが悪くもねぇのにシバかれたら……それは気に入らねぇ。俺は世の中を平穏にしてぇと思ってるが、その為に意味なしで誰かが犠牲になんのは我慢ならねぇんだよ」


正論は耳心地が良い。しかしどうも彼が言うとエゴに聞こえなくもない。それでもダンジョウの真っすぐな言葉は多くの人の心を捉えるだろう。とカンムは思った。


「随分とお優しいんですね」


カンムは決して皮肉でもなく心からそう思い微笑む。ダンジョウは不可解そうな表情を浮かべながらカンムの胸倉からそっと手を離した。


「優しい? 何がだよ? 俺が言ってる事は当たり前の事だろ。こんな当たり前の事がまかり通らねぇ世の中がおかしいんだよ」


「世の中が……確かに。そうかもしれませんね」


カンムはそう告げて小さな窓から広い宇宙空間を眺めた。

 漆黒の闇の中には小さな星々が輝いている。カンムがダンジョウの方に振り返ると、彼の目は星々と同じ輝きに満ちているように見えた。


「仮の……話です」


カンムは意を決してそう告げる。目の前のダンジョウを関係のない事変に巻き込むのは気が引ける。それでも言わずにはいられなかった。何も出来なかった自身と違いダンジョウには現状を打破してくれるような希望の光があるように感じたのかもしれない。


「私が属していた虎殺流……貴方はどの程度御存じですか?」


「詳しくは知らねぇな。ベンからは帝国が出来る前からある古武術の流派って聞いてっけど」


ダンジョウの返答にカンムはゆっくりと頷く。そして長きに渡る虎殺流の総本山が抱えたどす黒い歴史を語り始めた。


「その認識で問題ありません。その分野は徒手空拳から片刃剣、両刃剣、槍、棒、斧など多種多様の武器に広がり、今や海陽系における流派の全ての源流と呼ばれ、ユリウスの名を継ぐ者は皇族の武術指南役も担っております」


カンムはそこで言葉を区切るがダンジョウは難しそうな表情で頷くだけだった。どうやらあまり頭を使うことは得意ではなく、本能で生きているのだろうと察しながらカンムは再び言葉を連ねた。


「しかしそれは表向きの話。裏では黒い歴史がございます。虎殺流の家元となるユリウスの名を継ぐ者は皇帝を脅かす存在を抹消するという任を請け負っているのです」


「要は邪魔モンを殺すって訳か」


カンムは小さく頷く。


「帝国3000年の歴史の中で皇族が長きに渡りその文化を継承してきた裏では血生臭い闘争が行われていたのです。その先陣を切るのユリウスの名を継ぐ者であり私に課せられた使命でした」


カンムは再びそこで息を付くと小さく息を吸い24年前の真実を語った。


「ユリウスの名を継いだ当時16歳だった私は多くの暗殺業務をこなし、皇族派の中でもそれなりの信頼度を得ておりました。その日も当時の皇族派筆頭であるグリオルス・ラフレイン宰相からの指示で1人の男の暗殺業務を請け負い私は夜中に指示された屋敷に忍び込みました。標的が眠る寝室に入ったところで私は違和感に気付きます。室内に強烈な血の匂いがあったのです。不可解な状況に私は目を凝らすと、そこには……すでにこと切れたラフレイン宰相の死体が転がっていたのです」


「ああ? 依頼主が死んでたって事か?」


混乱するダンジョウにカンムは肯定の頷きを見せると話を続けた。


「動揺する私を他所に扉が開きました。そこに現れたのは……本来私がラフレイン宰相閣下より抹殺を請け負っていた男……国家転覆を目論む当時の帝国議員であり科学省を統括していた……現宰相であるハーレイ=ケンノルガ・ルネモルンです」


「……どういうことだ」


ダンジョウの目の色が変わるのを確認しながらカンム小さくかぶりを振った。これ以上はの真実を彼も知り得なかったからである。


「状況的に私は宰相を殺害した実行犯として扱われました。拘束される中、奴が言った言葉を今でも覚えています。

《宰相殺害の件が公になれば虎殺流の家元を含む全ての一族は処刑に処されるであろう。しかしこれまで皇族を支えてきた功績に免じて黙殺してやらんでもない。クリオス星宙域で起きた宇宙船の衝突事件……その件を被れば今回の件は反帝国過激派の件として処理してやらんでもない》

――と」


カンムは覚えている言葉を全て吐き出す。その言葉を連ねる度にあの時の光景が蘇り屈辱が彼の喉元をはい回る様だった。


「私はあの男の言葉を受け入れました。事件は私が反皇族の過激派に加担していた事となり、宇宙船の衝突事故を引き起こした主犯として冷凍刑に処されました。ですが私も知り得ない何かが動いているのは確かでしょう。特に……ブランドファミリー……ここまで一切加担していなかったにもかかわらず、何故か冷凍刑後はブランドファミリーの所属になっている。頭首のライアン・ブランドはかつて虎殺流の人間と関りがあり、ルネモルン現宰相と繋がりを持っていると聞きます」


「……」


カンムは全てを語り終えるとダンジョウはじっと考えながら固まっていた。

 ややあって彼は顔を上げ、ようやく理解したのか頷いた。


「分かった! つまりオメェは宇宙船の爆破には関わってねぇって事だな?」


非常に浅はかで短絡的な回答にカンムは少し拍子抜けするが苦笑しながら頷いた。


「端的にはそうなります。……仮の話ですが」


「そうなりゃ話は簡単だ。オメェは今の話をシャインにしろ。何よりハーレイの野郎をぶっ潰すネタになるってもんだ!」


ダンジョウはそう言ってニッコリと笑う。あまりにも単純だが選択肢はそれしかないと言わんばかりの自信に満ちた表情にカンムはただただ苦笑するしかなかった。


「それで? その後はどうなさるおつもりです?」


「そりゃあオメェ、キナ臭い連中をぶっ飛ばす! もしくは説き伏せるかな?」


「無理ですね。貴方はご存知ない。奴等の裏には根深い何かが蠢いている」


「何だぁ? オメェはブッ飛ばそうとしたり説き伏せようとしたのかよ?」


ダンジョウはケロッとした表情で首を傾げる。一瞬で変わった空気とその純粋過ぎる目にカンムは吸い込まれそうになる。そして思わず目を逸らしながら「いや……」と呟いた。

 カンムの呟きにダンジョウは呆れたように頭をボリボリと掻き毟った。


「あのなぁ? 無理ってのは最低限試した奴しか言っちゃいけねぇんだよ。ま、仮に無理なら別の方法を試しゃいい。いいか? 世の中勝つまでやり続けりゃ最後は勝つんだよ」


ダンジョウはそう言ってニカリと笑う。その屈託のない笑顔で立ち上がると彼は堂々とカンムの間合いに足を踏み入れてきた。


「オメェ一人でやれねぇんなら俺がやってやるよ。うし! そうと決まりゃオメェはこれから俺と一緒に来い」


ダンジョウはそう言って手を差し出してくる。またしても唐突な発言にカンム戸惑うとダンジョウは得意気に胸を張った。


「虎殺流は皇族の指南役なんだろ? 俺、一応皇族だからよ」


勝手に進められた話にカンムは呆然とする。しかしダンジョウはどこ吹く風で差し出す手「ほら」とさらに前に突き出してきた。


「……いや、拘束されていて掴めませんので」


「あ、そうか。ワリィワリィ」


ダンジョウはケラケラ笑いながら背後に回って拘束具を弄るが、操作が分からないらしく一先ずカンムを引き起こした。


「とりあえず。事情は分かったからイレイナに言って外してもらおうぜ。歩けるか?」


ダンジョウがそう言ってカンムの腕を掴んだ瞬間――輸送船が左右に大きく揺れ動き、警報が響き渡った!


『未確認機多数接近中、ルートヲ変更シマス』


響き渡るAIの声にダンジョウとカンムは顔を顰める。カルキノス星までの道のりは厳しいようだった。

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