↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/110

第20話『一別以来の騎士団』

【星間連合帝国 ヴェーエス星―カルキノス星間宙域 フローズヴィトニル号】



 広大な宇宙の中をフローズヴィトニルは順調に進んでいた。船の中腹にある休憩スペースで今後の予定を練るシャインは卓上のホログラムを見て時間を確かめる。彼女が操縦をマニュアルからオートに切り替えてから既に7時間経過していた。

 海陽系で最も辺境にあるヴェーエス星から比較的中枢に位置するカルキノス星まではかなり時間を要する。無論、こういう時の為に超速移動宙路があるのだが、帝国軍の網が広がっているおかげで通常宙路を通るしかなかった。


「(クリオス星の協力者が信用できるなら……今頃バカもカルキノスに向かってるところかな?)」


シャインはそう呟いてから思わず溜息をつく。アンドリューへ協力要請をした人間がクリオス星の知事と関連する人物であるという事は先ほどシャインの耳に入っていた。しかし、それ以降アンドリューとの連絡が途絶えているのだ。


 シャインにとっての不安要素は2つある。1つはクリオス星の協力者が裏切り行為を働く可能性があるという事である。


「(でもクリオス星知事のミドガルド・アプリーゼが本当にあのバカの命を狙っているなら、実力行使に出るよね。わざわざこっち懐に入り込むなんて回りくどい真似はしない筈……)」


シャインはそう考えながら1つの不安要素を消し去ると、もう1つにして最大の不安要素である少年の顔を思い浮かべた。


「ップハッ! ダメだわ……あのバカの考えは分かんない」


シャインは思考を停止させると、まるで潜水していたかのように息を吹き返す。

 自分の思い描く筋書きをことごとく破壊する弟分……トラブルメーカーにしてトリックスターのダンジョウの行動を予測しようとしてシャインは頭を抱えた。凡人は天才の行動を理解できないと言うが、その逆もまた然りなのである。


「(あのバカの事は考えてもしょうがないか……イレイナやベンジャミン、ビスマルクがいるし何とかなるでしょ。アタシが出来ることはバカと合流する前にライオットインダストリー社の奇婦人を味方につける事よね)」


彼女はそう結論付けて再度今後の計画を練り直し始める。そんなシャインの宇宙航行にこれから3つの不測の事態が起きるのだが、その1つ目は急にやってきた。

 彼女が本日3杯目のコーヒーを飲み終えた時、船の可動域内に船影が見つかったことを告げるランプが点灯した。


『進行方向ヨリ後方、-10.-3.+14ノ地点ニ船影ガ見ツカリマシタ』


A.Iの機械的で説明調な言葉の羅列にシャインは面倒臭そうに顔を顰める。そして空になったカップをリサイクル変換機能の備わったゴミ箱に放り捨ててからA.Iに尋ねた。


「何機?」


『1機デス。通信ヲ希望シテイマスガイカガ致シマスカ?』


「向こうは名乗ってないの?」


『帝国ノ記録ニナイ宛名コードガ使用サレテイマス。読ミ上ゲマスカ?』


「お願い」


『“皇妃の傍ら”』


A.Iの発した単語にシャインはピクッと反応を示した。


「……懐かしい響きだこと……OK。通信許可どころかドッキング許可もあげちゃって」


『承知致シマシタ』


シャインは小さく笑みを作りながらも僅かに眉間に皺を寄せていた。この来訪が好機を齎すものではないと直感で感じ取っていたからである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ランデブーポイントに到着しドッキングが完了する振動が床から響き渡る。船同士のドッキング用ルートに繋がる扉の前でトーマスは整っている襟を今一度正した。ジュラヴァナ星人はおおらかな性格が多いと言われているが、彼は全人類の中でも生真面目な部類に入ると自覚していた。


『閣下。やはり護衛をつけるべきかと思いますが』


スピーカーから聞こえてきた部下の声にトーマスは苦笑した。トーマスの身に危険が及ぶことはないと彼自身が確信している。だからこそ彼は1人であの童女に会いに行くのだ。彼の苦笑は先程説得したばかりなのに再び蒸し返されたことへの辟易からくるものだった。


「問題ない。通路を繋いでくれ」


『……はっ』


部下の渋々な返事を合図にドッキングルートに繋がる等間隔に設置された扉が螺旋状に回転しながら開いていく。真っ白なドッキングルートは暗闇の宇宙空間の中にあるせいか眩しく見え、トーマスは思わず目を細めた。そして最後の扉が開くと、そこには17年前と変わりない童女の姿があった。


 トーマスは少し高揚しながらドッキングルートの中に足を踏み入れる。重力装置が起動しているおかげで彼は一歩一歩踏みしめることを実感しながら歩を進めていく。やがてルートを渡り切ると、迎え入れるように待っていた童女……シャイン=エレナ・ホーゲンはニヤリと微笑んだ。


「久しぶり。老けたね~」


「17年でっせ? そら年も取りますがな」


思わず出てしまったジュラヴァナ訛りにトーマスは自分でも驚く。彼女と再会した瞬間に彼は皇后直轄護衛騎士団副団長に戻ってしまっていたのだ。

 苦笑するトーマスを見ていたシャインは小さく笑いながら船の中に招き入れてくれた。


「ま、入んなよ。積もる話はありまくりだけどね」


「お邪魔します」


トーマスは小さく会釈しながら船に入る。恐らく彼の部下達はこの光景を固唾を呑んで見守っているだろう。トーマスは背中に部下の不安そうな視線を感じながら船内に足を踏み入れると、ドッキングルートの扉がピシャリと閉じた。

 小型でありながらシャインの駆る船は非常に高性能であることが伺い知れた。恐らく大気圏移動も可能なその船に感嘆の視線を向けながら通路を進んでいくと、船の中腹にある小さな共有スペースらしき場所に通された。


「この船1人で動かしとるんですか?」


トーマスは用意された椅子の腰を下ろしながら尋ねるとコーヒーを用意するシャインは笑顔で頷いた。


「まぁね。もっと腕の良い奴が操れば単機で戦場を駆け抜けられるよ。ほら、あのー皇后様を襲おうとした宇宙海賊を追っ払った時あったじゃん? あの時にあればもっと戦闘は楽だっただろうね~」


「あースコルヴィー宙域の時。覚えとります。団長が指揮官のくせにCSで出るもんやから僕も苦労しましたわ」


懐かしい思い出にトーマスは思わず表情を綻ばせる。昔語りを始めればキリが無かった。思えばトーマスは彼女と共に多くの死線や任務を潜り抜けてきたのだ。


「しょうがないでしょ? リーゼルが船揺らしちゃうから皇后様酔っちゃってしょうがなかったんだもん」


「ジュリアンはんが側に付いてはったんやから問題ないでしょ?」


「そうはいかないでしょ。さっさと戦闘行為を終わらせるならアタシが出てった方が手っ取り早いじゃん?」


「せやかて外にはクヌカが出とったんでっせ? アイツ一人で充分でっしゃろ? それに加えてベアトリスも出とるんやし」


「そういえばあん時はベアトリスがやけに張り切っちゃってさ~……あ! そういえばあの子は元気?」


「ええ。今日は陛下の護衛に付いて行っとります」


思い出話は長くなる。しかし楽しい話はするべきではなかった。先の事を話す上でそれがつらい現実の話であれば尚更である。


「そっか……じゃ、そろそろ本題に入ろっか」


シャインは安心したように……そしてどこか寂しげな表情で頷く。その仕草を見て彼女も自分と同じ気持ちであることをトーマスは察した。無論、理由はそれだけではない。長居すればするほど宰相派に気付かれる可能性は高まるのだ。ここで愚弟を逃がしていたシャインと皇帝側近であるトーマスが接触していたと分かれば、宰相派に要らぬ不信感と攻撃する口実を与えてしまうのだ。

 トーマスは小さく息を付くと、これまで話せなかったことも含めて今後の展望について語り始めた。


「団長。これまで連絡が取れんくてすんまへんでした。ナヤブリ元執政大臣の小間使いがまぁまぁ多くて団長と接触するのが無理だったんですわ」


「同じ皇族派だってのに厄介なもんよね」


「せやけどナヤブリ派はもう壊滅状態ですわ。これで皇族派の内部争いは終わりです。時間がかかってしまって申し訳ありまへん」


「アンタが謝る事じゃないでしょ?」


頭を下げるトーマスにシャインは微笑む。皇后直轄護衛騎士団解散の時――トーマスはベアトリスと共にシャインからランジョウの護衛、そしてナ(・)ヤ(・)ブ(・)リ(・)派(・)の(・)排(・)除(・)を指示されていたのだ。


「いや、ナヤブリ派の規模は把握しとったつもりやったんです。それでもこんなに時間がかかってしもうた」


「腐ってもナヤブリ家は名家中の名家よ? でもいいのよ。おかげでちょっとした収穫もあったからね」


「収穫?」


「ううん。こっちの話。それで? ランジョウはこれからどうするつもりでいるの?」


シャインの問いにトーマスは口を閉ざす。彼女はその間を埋めるかのように矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。


「アタシはランジョウとはまだ一度も話が出来てない。あの子の真意はどうなってるの? まさか本当に噂通りの放蕩生活だけをしてるって訳じゃないんでしょ?」


シャインの問いにトーマスは神妙な面持ちで顔を上げる。そして最悪の事態がま逃れない事を察したように大きく息を付くと彼女の問いに答えた。


「団長……陛下の真意は……正直僕にも計りかねとるんです。ただ、陛下は宰相派を潰すんに文句はありまへん。せやけど……その……」


トーマスはまたしても言葉を切る。そして俯きながら唇を噛み締めて言葉を絞り出した。


「陛下は……弟君の……ダンジョウ様の存在を……抹消するつもりです……」


「…………ふーん…………………………そっか………………」


シャインはそう告げて言葉を閉ざす。そして自らのコップを手にして一口コーヒーを啜ると力の抜けたような笑みで口を開いた。


「……どうしてそう思う訳?」


「陛下は……セルヤマの爆発事故に……一枚噛んどります」


トーマスはそう告げるとさらに危険な状況を伝えた。


「発端は宰相派です。連中の誰かがダンジョウ様の存在に気付いてセルヤマの爆破事故を計画したんですわ」


「……そっか。ま、気付いた奴の目星は大体付くけど」


「そこの判断は団長に任せます。とにかく連中はクリオス星軍部の特殊部隊を使うて爆破を起こそうとしよった。せやけど……アプリーゼ知事はその件を陛下に密告しはったんです」


「ミドガルド・アプリーゼが?」


「せやからセルヤマの爆破事故は陛下の耳に入っとったんです。せやけど陛下は……」


思わず言葉が詰まる。あの時のランジョウが下した無情な言葉がトーマスの頭の中を駆け巡っていた。その心中を察したのかシャインは唇を噛み締めながら唸るような溜息をついた。


「……ダンジョウが殺されそうになってるのを知りながら見逃したと」


代わりに結論を口にしたシャインの言葉にトーマスはただ黙って頷く。

 前皇后に見出されたのはシャインだけではない。トーマスもまたその才能を買われて騎士団への入団が決まった1人なのだ。ジュラヴァナ人は宗教惑星の住人であるという理由で軍に関与するのを煙たがられる。トーマスも当然その煽りを受けてきたが、皇后だけが何の偏見も持たずにその実力を評価してくれたのだ。そんな大恩ある皇后の遺児が対立する。それはトーマス等にとって最も考えたくない事態だった。

 トーマスは拳を握り締める。そして意を決したようにシャインの方に向き直ると自らの気持ちを彼女にぶつけた。


「……団長。僕は……私は陛下をお守りします。あの方は孤独な方です。せめて私とベアトリスがお側に付き従いたく思っています……そして私は団長をこちら側に引き抜くよう説得する任を受けております」


トーマスの心は決まっていた。彼にはランジョウの心の底は見えはしない。しかし孤独の中で戦い続けた彼の行きつく先を見届ける事がトーマスの護衛騎士団としての最後の務めだと感じていたのだ。

 そんなトーマスの決意を聞き届けたシャインはジッと腕を組みながら黙考していた。恐らく多くの可能性を模索しているのだろう。やがてシャインは顔を上げると、微笑しながら小さく頷いた。


「アンタはそうしなさい。もう片方はアタシに任せてね」


「……団長ならそう仰ると思っとりました」


トーマスはそう言ってスッと立ち上がる。彼の意図を察したのかシャインも立ち上がると彼女はそっと手を差し出してきた。


「ランジョウの事……頼んだわよ」


シャインの言葉にトーマスは一粒の落涙を見せる。そして彼女の手を両手でガッシリと掴んだ。


「団長も……弟君を……ダンジョウ様の事をお願いします」


小さな手をそっと離しトーマスは涙を振って踵を返した。同じ目的のために袂を分かつ。今この時を持って皇后直轄護衛騎士団は真の意味で終焉を迎えたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。