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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
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第8話『荒唐無稽な研究目的』

【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所内】



 デセンブル研究所は最古の歴史を持つ研究所であり、その創設は帝国の建国以前である神話の時代に遡る。少し胡散臭い話になるが、この研究所の創設者というのが神栄教の主神でもある女神メーアに従った三賢者の1人、博識の賢者パネロ・デセンブルであるという伝承が残っていたのだ。

 パネロ・デセンブルとは女神メーアの姉とも呼べる存在であり、その博学な知能をもって彼女を支えた知の神として崇められている。この研究所だけでなく、ファーストネームが用いられたパネロ大学も帝国屈指の名門校として知られる程だ。そして当然だか、そんな由緒ある研究所の所長となれば、卓越した知識と経歴が必要とされる。問題なのは人間性は求められないことだろう。そうでなければあのノヴァ・ホワイトがここの所長になり得るはずがない。

 長い廊下を足早に歩いていたシャインはやがて辿り着いた一室の前で立ち止まると、ノックをすることなく手動で扉をこじ開けた。


「入るわよ」


「あぁ。お疲れ様だもんね」


何層にも重なる不気味なゴーグルを付けたノヴァは、目の前のディスプレイから視線を外す事なく出迎える。そんな彼を睨みつけながらシャインは適当な椅子に腰を下ろすと呆れたように頬杖をついた。


「話を聞かせて貰おうかしら。何でも試作機のBE3着をここで保管するつもりらしいじゃない?」


シャインは嫌味の中に怒りの感情を織り交ぜながらそう告げるが、ノヴァは全く意に返すことなく違う話を始めた。


「フェフェフェ! そんなことよりも団長! これを見て欲しいもんね!」


ノヴァはそう言ってシャインの前にあるテーブルの上にあるデータを浮かび上がらせると、まるで新しい玩具を買ってもらった子供の様に目を輝かせた。


「これが1グラム当たりのヤシマタイトのエネルギー含有量、で、こっちが色付きのヤシマタイトの含有量だもんね」


ノヴァの提示するその含有量は明白であり、無色透明のヤシマタイトには豊富過ぎるほどのエネルギーがあるにもかかわらず、色付きのヤシマタイトには全くと言っていいほどの含有量は含まれていない。当然のデータにシャインはウンザリし多様な視線を向けた。


「アタシはこんな話しにきたんじゃないのよ」


「フェフェフェ! これは今までのデータだもんね。ヤシマタイトに特定の周波を与えればエネルギーが発生される。その周波を出すには専用の機材、もしくは神通力持ちの脳波が適している訳だもんね。でもその神通力の中でもさらに特定の脳波を与えると……?」


シャインの言葉など聞こえていないのか、ノヴァは鼻息を荒げながらデスク上の機器を操作すると新たな仮説データが浮かび上がった。シャインは渋々データに目を落とすと、僅かに眉間に皺を寄せた。

 異端者と呼ばれる神通力持ちの人間……シャインを含むそのような人物の中でもさらに特殊な脳波が当てられた時――色付きのヤシマタイトは発光して無色透明の物よりも数倍の瞬間エネルギーを発生させていたのだ。


「……この波長はどうやったら出せる訳?」


シャインは再び睨みつけるように尋ねると、ノヴァはその特徴的な脳波の電波図を指さしながら答えた。


「それはまだ分からないもんね。この独特過ぎる波長は異端者の中でも更に一部の人間しか持ちえない波長だもんね。ちなみに、これを発生させる装置を生み出すならこの波長が出せる人間があと10人ほど必要だもんね。フェフェフェ! まぁ被験者は無事には済まないだろうけど!」


「つまり……神通力持ちの中でも一部には色付きを動かせる場合があるってことでいいのね?」


「理解が早くて助かるもんね」


「凄い発見だわ。……でもアンタがこの事実を見つけたってことは、この脳波を発生させる人間がいるって事でしょ?」


シャインがそう告げるとノヴァは不気味に笑う。そしてデスク上から別のウィンドウを浮かび上がらせると1人の子供のデータを提示した。


「……クジャ……?」


シャインは表記されたコードネームのような名称に訝しげな表情を浮かべる。しかし、それ以上に不気味に感じたのはその子供の風貌だった。その子供は顔立ちはフマーオス星人のように端正で、ジュラヴァナ星人のように右の瞳は大きく、その色はローズマリー共和国の翠色をしていた。さらに左目はラヴァナロス星人のように赤く、こめかみからはアイゴティヤ星人の角が伸び、頭頂部にはレオンドラ星人の耳が生え、スコルヴィー星人とカルキノス星人が混ざったような紫色の肌をしていたのだ。


「フェフェフェ! デセンブル研究所が創設以来行っている研究成果の1つだもんね!」


クジャがそう告げるとシャインは不愉快そうな口調で尋ねた。


「創設以来って……建国以前からってこと? それは何?」


「フェフェフェ! 神の復活。ようは女神メーアの再現だもんね」


突拍子のない言葉にシャインは言葉を失う。しかしノヴァはまるで意に返すことなく、研究者の探求心に満ちた目で言葉を連ねた。


「団長。女神メーアの最期を知ってるもんね?」


「……晩年はジュラヴァナ星で心の賢者と過ごしたって話じゃなかった?」


「それが違うんだもんね! この研究所に残されたデータによると、女神メーアはある事情によってその身体が分解されたんだもんね!」


「はぁ?」


シャインは呆れたような声をあげるが、ノヴァはゴーグルを額にズラして血走った目を剥き出しにしながら言葉を連ねた。


「つまり! 女神メーアの遺伝子情報はこの宇宙の中に粒子になって彷徨ってるんだもんね! 再構築にはこの海陽系に無数に散らばる彼女の遺伝子情報を集める事、それを集約して不純物を取り除けば女神が再誕するもんね!」


「……アンタ頭大丈夫?」


シャインは少し引きながら尋ねるが、ノヴァは益々目を輝かせながら不気味な笑みを浮かべた。


「フェフェフェ! 団長。団長は確かに帝国史に残る知能を持っているけど、過去の賢人も凄いんだもんね! パネロ・デセンブルはこの理論を3000年以上前から知っていたんだもんね。今ほど科学技術が発展していない世界でどうしてこんな理論を思いついたのか不思議だもんね!」


遂には実在が不確かな神話の話を始めたノヴァにシャインはかぶりを振った。科学という世界に生きる人間がオカルトに転じたことは驚きだったが、元々ネジの外れていたノヴァは本格的に頭がおかしくなっているようだった。


「もういいわ。それで? ええと、何の話だったっけ? そうそう、つまりこのクジャって子が色付きのヤシマタイトを光らせる脳波を持ってるって事でいいのね? その研究の為にBEを残すって訳?」


シャインは無理矢理話を戻すと、ノヴァはニンマリと笑いながら頷いた。


「そういう事だもんね! つまり、このクジャと色付きのヤシマタイトを備えた3着のBEを使えば更なる発展が見込めるもんね!」


「だからって何で3着も持ってくのよ」


「フェフェフェ! 団長。そうは言ってもそっちは4着も持っていくんだもんね。ハッキリ言って神通力持ちの人間なんてそうそう見つかるはずがないんだから充分だもんね! 何より、事実上3着BEがあれば戦況は一気に覆せる計算だもんね!」


ノヴァの意見は的を射ている。しかし、どうも腑に落ちない感情を抱きながらシャインはさらに尋ねた。


「んじゃアタシが持ってくBEに色付きのヤシマタイトを付けてんのは何でよ?」


「フェフェフェ! もしも発光させる神通力の持ち主が見つかったら教えて欲しいんだもんね!」


「ようはアンタの実験の手伝いって訳じゃない」


シャインは再び不愉快そうな表情を浮かべると、ノヴァはようやくどっしりと腰を下ろしてまともな言葉を発した。


「感謝するもんね。団長の開発したBEがきっかけでここまで色々な発見が出来たもんね。さらにそのBEを3着も置いて行ってもらう。そう考えたら僕の協力じゃ足りないもんね。だから……これを団長にあげるもんね」


ノヴァはそう言って再びデスクの機器を操作すると、これまで浮かんでいたデータが消え去り、ある宇宙船の立体ホログラムが浮かび上がった。


「我が研究所とライオットインダストリー社が開発した最新鋭小型戦闘宇宙艇フローズヴィトニル号だもんね」


ノヴァは得意気な表情でそう告げる。船のデータを見ながらシャインは頭の中を巡らせた。


――この宇宙艇とBE3着は同価値か?


この選択は今後の展開を左右するとさえ思えたのだ。

 しばらく黙考してシャインはようやく顔を上げる。そして小さく息を付きながら歪んでいた表情を軟化させた。


「分かったわ。じゃこの船は貰ってくわよ」


シャインの決断にノヴァは満足気に笑う。この選択が正しいか否か……それは今の時代では判定できない。

 残された3着のBEが遠い未来に起きる事件に関わる事。そしてその事件が帝国の運命を変える火種になるとは今のシャインも予測は出来なかった。

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