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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3356年 皇帝崩御
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皇帝崩御 第25話『麒麟児の推測』

【星間連合帝国 惑星ジュラヴァナ マリンフォール大聖堂】



 普段ならば参拝者で賑わうマリンフォール大聖堂だったが、その日は人の気配が一切と言っていいほど感じられない。

しかし1つの枢機卿の個室からは小さな笑い声が響いていた。


「新しい皇帝はんの誕生かぁ。めでたいなぁ。そう思わへんかネメシス?」


帝星ラヴァナロスから中継されるホログラムを眺めながら、コウサは隣に座る親友ネメシス・ラフレインの方に振り返る。彼は表情を一切動かす事なく答えた。


「皇帝が誰であっても国民の生活にそれほど変化はない。ただ単純に今までの制度を誰が引き継ぐかが変わっただけだ」


ネメシスは興味なさげにそう言い残すとゆっくりと立ち上がった。


「コウサ。そろそろいいか? 妹に会っておきたい」


「何や。そんなに溜まっとったんかいな」


コウサは冗談混じりに下衆い笑みを浮かべるが、ネメシスは心外だと言わんばかりに眉間に皺を寄せた。


「勘違いはよしてもらおう。僕と妹は純粋に愛し合っている。お前もその愛の結晶をその手に抱いた筈だ」


清廉潔白な目でそう告げるネメシスにコウサはまたしてもケラケラ笑う。

すると、室内に来客を告げるベルが鳴り響いた。


「お、来たみたいやな。開けてくれや」


コウサの言葉にネメシスは不服そうな表情を保ったまま扉に向かう。

どうやら先程のコウサの誂いが気に触っているらしかった。


 マリンフォール大聖堂は極力現代的な機器は取り除かれているので、このご時世では珍しく手動の物に溢れている。

ネメシスがドアノブに手をかけてその扉を引くと、それまで不服そうな表情を浮かべていた彼の表情が変わった。


「キョウガ……殿」


警戒心を露わにするネメシスを見てコウサは思わず小さく鼻を鳴らす。

どれだけ揺さぶられてもすぐさま平常心を取り戻すのはネメシスの美点だったからだ。


 警戒心を露にするネメシスとは対照的にコウサの兄キョウガはまるで気にしない様子……というよりもいつも通りの無表情で彼の顔を見据えていた。


「……ラフレイン君か。久しいな。相変わらず弟と仲良くしてやってくれているようで何よりだ」


キョウガは顔はネメシスに向けたまま視線だけを動かしてコウサの姿を確認してくる。

そんな兄を見つめながらコウサはニヤリと口角を上げた。


「ネメシス。妹ちゃんの所に行ったってや。こっちも兄弟水入らずで話したいからなぁ」


コウサの表情と言葉は笑顔に満ちていた。その言葉と表情の中に織り交ぜた「出ていってくれ」という本心をネメシスは何となく感じ取ったのだろう。彼は小さく頷くとキョウガに「では」と一言だけを置いて出ていった。


 キョウガは無言で来客用のソファに腰を下ろす。

コウサは近くのテーブルの上に置かれている年代物の銘酒とグラスを手に取すと、座っていた椅子を回転させて兄と向き合った。


「お兄ちゃんも悪いやっちゃなぁ。宰相の筆頭秘書官が戴冠式て一大事にこんなトコにおってエエんかいな?」


相変わらずの飄々とした笑みと軽い口調でそう告げるが、キョウガは彼の兄弟とは思えない程の無感情さで口だけを動かした。


「皇帝のこれまでの経緯を踏まえると同情してしまいそうでな」


心にもない言葉にコウサは再びケラケラ笑う。

そして瞳の奥にドス黒い感情を滲ませながらキョウガの顔を覗き込んだ


「クカカ! 殺す時に情でも湧くんかいな?」


コウサはそう言ってキョウガにグラスを差し出した。

キョウガがグラスを手にした事を確認して、彼はグラスに琥珀色の液体を注ぎ込んだ。


 琥珀色の透明感のある液体がグラスの中で揺れる。

コウサは兄に続いて自身のグラスに酒を注ぎ始めると、キョウガは年代物の銘酒を確かめるようにグラスを窓に掲げた。

海陽の光を当てると、琥珀色の液体は優しい輝きを放った。


「お前の助言通り、宰相閣下にはセルヤマ星を注視するようにお伝えしておいた」


キョウガはグラスから目を離すことなく、懐から書面の報告書を取り出してテーブルに投げてきた。

この時勢で書面にする伝達事項はすぐに消去出来るものに限られる。

データにして残すと、様々な所に出回る可能性があるからだ。


コウサはグラスに注がれた酒を一口含みながらその書面を手にして内容を確かめる。

ややあって彼は小さく笑いながら中継される戴冠式のホログラムを眺めた。


「彼は愚弟やなくて賢兄の方やった訳や」


コウサはそう告げて書面をテーブルに放り投げる。

そこにはランジョウ=サブロ・ガウネリンの遺伝子情報……つまりB.I.S検査の数値が記載されいた。


「遺伝子情報の元はホンマにランジョウ君のもんなんやな?」


「後宮に探りを入れていた宰相派の侍女が持ち出した食器からだ。何より、これだけ純血のラヴァナロス人で16歳の男性は皇太子以外にいらっしゃらないだろう?」


最もな意見にコウサは苦笑しながら頷く。

そして中継のホログラムに映るランジョウの姿を見て、彼は少し同情した。


「何でも出来るのにアホと思われながら生きる。どういう気分なんやろぁ?」


「分からんな……」


コウサの呟きを他所にキョウガはグラスに口を付けて一口含むと、ゆっくりと口の中で燻らせてから喉に流し込んでいた。

そんな兄の上品な飲み方を見てコウサはケラケラと笑いながら答えた。


「カカカ。そらそうやな。他人の気持ちちゅうんは察することは出来ても理解することは出来へんもんや。こら説法の1つやけどなぁ」


「皇帝の心情の話ではない。コウサよ。お前はどこまで分かっている?」


コウサは自身の言葉を遮るキョウガが珍しく感情的になっていることに気付いた。

彼は無表情ながらも、心の奥底で少し苛立ちを感じている。その理由はコウサには手に取るように理解できた。

キョウガという男は非常に合理的であり、予定調波が崩れるような事柄を非常に嫌う。

だからこそ今回の件で理解できない事が多すぎて苛立つのだろう。


「お前から双子の片割れが生きている可能性があると言われたのが一週間前、その不安要素を取り除くために宰相閣下はブランド運輸を利用してまでセルヤマ星に注力している。だが、不可解な点が多すぎる」


キョウガはそう言ってコウサを見つめてくる。無表情の彼が見つめるとどうも睨まれているように感じるが、彼はそんな事に気付く様子もなく淡々と疑問点を並べ始めた。


「賢兄を愚弟と偽って育てる……皇族派は何故そんな真似をした? 首謀者は誰だ? ベルフォレスト・ナヤブリか? そしてお前は賢兄が愚弟であるという事実だけでなく、何故片割れが生きているとまで推測できた?」


まるで好奇心旺盛な子供のように尋ねてくる兄を見て、コウサは思わず笑ってしまった。

決してその姿をバカにしているわけではない。コウサ自身もキョウガとそこまでの認識の違いはなかったからだ。


「カカカ! まぁ落ち着きやお兄ちゃん。一から説明するわ」


コウサはそう言って座りなおすと、少し前屈みになりながら話した。


「まず首謀者やけど……ナヤブリのおっさんはそんな器用な人間ちゃうやろ?」


コウサはキョウガの時と違い、完全にバカにしながらケラケラと笑う。

そんな弟の態度にキョウガは嫌な顔一つせず、相変わらずの無表情で尋ねてきた。


「では、誰の仕業だ? そしてその目的はなんだ?」


回転椅子に右足を乗せながら座るコウサは、降ろしている左足で床を蹴りクルクルと回転しながらグラスを傾ける。

高価な銘酒であるにも関わらず、コウサはその香りを感じるような上品な飲み方はしない。それはさながら、夏場の給水の様だった。


 コウサは嚥下音を鳴らしながら一気にグラスを空けると「プハーッ」と息を吐いて微笑んだ。


「皇族派でボクにも想像でけへん事をしでかすんはたった1人! 愛しのシャインちゃんだけや」


コウサは笑いながらもその表情を歪める。

そして再びキョウガに視線を送るとケラケラ笑いながらほとんど空になったグラスをデスクに置いた。


「なるほど……お前が執着するわけだな。では賢兄を愚弟と偽った目的は?」


「そこまでは分からへん。せやけど、だからこそ死んだっちゅう双子の片割れが生きとる可能性を示すんや」


コウサはそう言ってキョウガに人差し指を突きつける。

そしてその指をこめかみに持っていくと、思案するかのように首を傾げた。


「シャイン=エレナ・ホーゲンのホンマの目的は分からへん。ただお兄ちゃんも頭に過ったやろうけど愚弟っちゅうて宰相派を油断させるっちゅうことはないで」


「随分と確信あり気だな」


「そらそうや。もしそんな単純な話やったら、ナヤブリはんもその事実を知っとる筈や。せやけど、あの血闘ん時のオッサンの反応見る限りランジョウ君を愚弟やと思っとるのは間違いないやろ? つまり、ナヤブリはんも知らん所で事は動いとるっちゅうことや。ここでまた1つ疑問が出来る。賢兄を愚弟と偽る事は皇族派にとって宰相派を油断させるっちゅうこと以外にメリットは無いっちゅうことや」


コウサはそこまで言って小さく息を付く。

そしてグラスを傾けて僅かに残っている琥珀色の液体で喉を潤してから再び口を開いた。


「つまり、賢兄を愚弟と偽るのは愚策も愚策。ナヤブリのおっさんだけやったらそんなことを考えてもおかしくないやろ。せやけど、シャイン=エレナ・ホーゲンが絡んどるとなると話は別や。彼女が何の策もなしにこんな真似するとは思えへん。そこで話を最初から疑ってみるんや」


「……どういうことだ?」


キョウガは不可解そうな表情で尋ねてくる。

コウサはニヤリと微笑みながら諭すように言葉を連ねた。


「まず大前提。双子の片割れが死んだっちゅうことにや。考えてみてた? 死んだっちゅうホンマの愚弟の遺体を誰も認識しとらんやろ?」


コウサはそこまで告げると、キョウガは不意を突かれたかのように目を見開いた。


「た、確かに……あの時、亡骸は人の形を留めていなかったため見せられないとしていたが……」


「そうなると辻褄が合って来るんや。双子は両方生きとる。ナヤブリのオッサンは賢兄を安全な場所に移して死んだことにしようとした。せやけど、この愚策を見抜いたんか、それとも他に目的があったんか、シャインちゃんが賢兄を残して愚弟を安全な場所に連れて行った」


コウサがそこまで告げると、キョウガは感服したように背もたれに体を預ける。

しかし、思い出したように次の疑問を声に出した。


「では、何故お前はセルヤマ星にその片割れがいると思うのだ? あれは観光準惑星だがスラムもあり決して治安が良いとはいえん。むしろ他にも最適な星はありそうだが?」


「さぁなぁ? 何でセルヤマを選んだんかっちゅう理由は分からへんけど、根拠はあるで? お兄ちゃんも知っとるやろ? シャインちゃんは今諜報部に左遷されたっちゅう話や」


コウサが逆に尋ねるとキョウガは頷いた。


「ああ、調べたが部下もおらず、たった1人で諜報活動の事後処理や雑務を押し付けられているようだったが……」


「ほぉーぅ? ……それはそれで少し気ィ悪い話やな」


コウサは誰よりもシャイン=エレナ・ホーゲンという女性を買っている。

だからこそ彼女のような才能を埋もれさせる皇族派に苛立ちを感じずにはいられなかった。


「ま、とにかくボクの伝手で彼女の動向を調べてもらったんや。こう見えて諜報部にも顔が利くからなぁ」


「諜報部は皇族派が多数派を占めているんだぞ? 一体誰が……」


キョウガがそこまで告げたところで、再び部屋の扉を叩く音が室内に響き渡る。

コウサはゆっくり立ち上がろうとすると扉が開き、先程出ていったネメシスが入ってきた。


「失敬、キョウガ殿。そろそろお時間だとお付きの方が申していますが?」


「ああ……すまない」


キョウガはそう言って立ち上がると、コウサの方に振り返った。


「すまんが。話の続きはまた今度だ。では私はこれで。ああ、それと最後に宰相閣下から伝言だ。以前お前が懇願してきたジュラヴァナ星の治安警護部隊の話だが、帝国軍の管轄下という条件で可決の方向で進ませる。だそうだ」


重要なことを最後に告げる兄にコウサは再び笑い声を上げた。


「カカカ! お兄ちゃん。それはもっと先に言ってや」


コウサは砕けた笑みを浮かべるが、キョウガは無表情のまま着ているスーツの襟首を治していた。


「では失礼する」


「ああ。またいつでも遊びに来てや」


コウサはそう言って片手を上げると、キョウガはそれ以上何も告げることも振り返ることもなく部屋から出ていった。


 キョウガと入れ替わるように部屋に入ってきたネメシスは少し呆れたように肩を竦めた。


「やれやれ。困ったものだ。久しぶりに会った娘に落胆させられてしまったよ」


ネメシスはそう言って椅子に座り込むと少し恨めしそうにコウサを睨みつけてきた。


「娘とは可愛いものだ。今の年頃は特にな。なのに、その愛おしい娘に将来の夢を聞けば『枢機卿様のお嫁さん』と来た。よもや父ではなく父の親友と結婚したがるとは不条理な世の中だと思わないか? 父親はその親友の為に()()()に諜報を掛けるという危険業務を行っているというのに……」


ネメシスの嘆きと愚痴と嫌味の三重奏を聞きながら、コウサは先程まで自分が飲んでいたグラスに再び酒を注いだ。

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