プロローグ ユートピアに少年が一人
『自灯籠 子供の理想郷』 始まり始まり
目の前で展開されている電子スクリーン。
その大きさは映画館のスクリーンサイズにすら匹敵する。
スクリーン上では小銃片手に戦場を駆け回る男性の姿。
バトルフィールドは山の中。樹で囲まれ、木箱や小屋など遮蔽物に囲まれている。リアルなその質感は、遠目に見れば本物と大差ない。
そこで何をするのか?もちろん殺し合いである。
PVP。オンライン上でプレイヤー同士が戦うシステム。
テントの裏に隠れ、手榴弾を投げ牽制。
当たればいいなと思う程度の投擲。敵をあぶり出せればそれでいい。
と思ったら勝利のラウンドコールが画面に映った。
直前の映像が再生される。敵の足下に手榴弾が転がり、逃げようとしても爆発に巻き込まれてしまったらしい。
空中に浮かぶスクリーンから数メートル離れたところ。
フカフカのソファーに座り、身を乗り出しながらゲームをプレイしていた少年は、ここでようやく緊張を解いた。
「これで50勝目。あ~あ、最後は撃って止めを刺したかったな」
背筋を伸ばし、前面の机に置いてあるジュースを飲む。
中学生ほどの少年だ。年相応の顔つきに、150後半ほどの身長。茶色が混じった黒髪。少しぶかぶかな服を着ている。
ソファーから立ち上がり、伸びをして周囲を見る。
そこはまるでテーマパークだ。
少年がいるのは、そんなテーマパークの中でも一際大きな高層マンションの最上階。
眼下には並び立つビル群。夜の暗闇を塗りつぶす程、地上の明かりは彼を照らす。
点々と設置されるモニターには楽しげなCMが休むことなく映る。そのどれもがゲームの販促であるのは理由があるのか。
BGMはどこからともなく鳴り響き、全体の陽気な雰囲気を作り出すことに助力する。
しかしその規模に反して、人が一人もいない。どころか生命が存在しない。
カジノ街のような賑やかさ。だがその光に照らされる者は誰もいない。明るさの中に寂寥感がある。
ここは彼の王国。彼だけのためにある世界。彼が創りだした世界。
ならば彼の属性や趣味思考が反映されるのは当然のこと。
夜天を照らす光は眩しすぎることはなく、人の目にちょうどいい程度を保っている。
彼がそうしろと思ったのだ。そうなって当然のこと。
(今日はもう眠ろっと。明日は新作のアクションゲームでノーダメの縛りプレイでもするか)
少年の足は寝室へ向かう。顕現者は睡眠を取る必要はないが、それはそれ、これはこれだ。
おやつを取る必要がないのに食べてしまうようなもの。
娯楽として使えるし、夢見の魔術も存在する以上、必ずしも無意味とは言い切れない。
むしろ無意味な娯楽ほど本人にとっては重要な意味を持つ、と彼は思っている。
「――ん?」
だがその足が止まる。眠気で弛緩していた顔がわずかにこわばる。
異常を察知した。それは小さな、針の穴が空いた程度の違和感。
だがここは彼の世界。彼の体内。全てが彼であり、彼が全て。
素粒子レベルの変化であろうと、彼の目をかいくぐることはできない。
眼下に意識を飛ばす。そこには彼の縄張りにやってきた侵入者二人の姿があった。
男性と女性。見た目からして高校性くらいの年齢か?
だが堅洲国では姿形をいじれる奴なんて腐るほどいる。外見年齢と内的年齢は必ずしも一致しない。
何をしに来た?いや、そんなことはもう分かりきってる。
殺しに来たんだろう、この僕を。あの二人が咎人か、それとも粛正者かなんてどちらでもいい。
重要なのは僕の領域にやってきたこと。
そして遊び相手ができたこと。
無意識に少年の口角が上がる。侵入者が来るなんて何時ぶりだろう。門戸はいつでも開いているのに、なかなか入ってこないもんですっかりその可能性は考えていなかった。
寝るのは止めだ。眠気が消し飛ぶ、刺激的な遊びができる。
BGMを大音量に。近くには炭酸ジュースとお菓子を用意。
さあ、ゲームを始めよう。
存分に踊ってくれよプレイヤー君。
次回、白髪




