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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 喫茶店・桃花
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第九話 想いの喪失

前回、バトミントン大会



結果、カナの高校は準優勝だった。

優勝には一歩届かず。けれどカナたちの表情は晴れ晴れしていた。

後悔を残さない。カナの部活のモットーだ。全力を出し切った彼女たちは快晴のようだった。


この後、カナ達は反省会があるらしい。

だからその前に、カナは私と蛍に会いに来た。


「美羽~! 蛍~! ありがとう!! 来てくれてたんだ!」


私たちの手を握りぶんぶん振りながら、カナは興奮冷めやらぬ様子で話す。


「うん。約束したからね。大会には応援しに行くって」


大会の前日に奏と交わした約束。大会に向けて自分に(かつ)を入れていた奏に、応援に行くと約束した。

これといった用事もないし、なにより友人の晴れ舞台だ。是非ともこの目で見ておきたかった。


「てっきり来てないかと思って休憩の合間に探してたんだからね!

だけど二人に会えて良かったよ。最後の最後に二人を見つけるとかもうドラマだよね!!

めっちゃ嬉しくて泣きそうになったんだから! 勝てたのは二人のおかげだよ!」

「ありがとう。でも勝てたのは奏の努力の賜物(たまもの)だよ。

それにしても聞くのと見るのとでは全然違うね。あんなにバドミントンがうまいとは正直思わなかった」


蛍が感心したように話す。先ほどの試合もそうだが、蛍は奏の技量に注目していた。

よっぽど努力したんだろう。一年前から、夏の日も冬の日も。

そう思うと感慨深いものがある。準優勝とはいえ報われて良かった。


「へっへっへ~。影でこそこそ努力しているタイプなんですよ奏さんは。

いやぁ、でも準優勝は嬉しい反面若干悔しいな~。

あと少しだったんだけどね」


口惜しそうに、目を伏せるカナ。優勝を狙っていたんだから、そう思うのも当然だ。

だけどそれも一瞬。顔を上げた奏の顔は、曇りのない笑顔だった。


「まあ、心機一転して次頑張ればいいや。

ともかくありがとね二人とも。

そろそろ反省会だから行かなきゃ」

「うん、お疲れ様。今日くらいゆっくり休んでね」

「夜更かししないようにね」

「蛍。あんたは私の母親か。

まあいいや、そんじゃあまたね」


笑いを交えながら、別れを告げる。

走り去る背中に、私たちは見えなくなるまで手を振り続けた。

後に残るは私たち二人。空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、会話する。


「さて、どうしよっかこの後」

「う~ん。本当なら奏を連れてどこかでご馳走してあげようと思ってたんだけど。

まあそれは別の機会にしよう。

そうだね。久々に総合運動公園に来たんだから、公園で遊ぶっていうのはどうかな?」

「うん、そうしよう」


方針が決まったところで、私と蛍は体育館を出る。

広い駐車場には数多のバスと車。部活生を乗せたものだろう、それらが一斉に動き出している。

私たちは右を歩き、すぐ近くにある公園を目指す。


ちょっとした階段を上ると、そこには広大な天然の芝生。そばには野球場がある。

私たち以外の人は少なかった。こんな時間だから無理も無い。


「あ、ブランコだ」

「本当だ。乗ってみる?」


目についたブランコ。ちょうど二人分ある。

私と蛍はそれに腰掛ける。

懐かしいなあ、このブラブラ感。ブランコに乗るなんて何年ぶりだろう。

そのまま勢いをつけてブランコを漕ぐ。あっという間に前後に揺れ、視界が忙しく動く。

遠くで、地平線の向こうに夕日が沈んでいく。そろそろ夜が来るのだろう。

二人してブランコに乗りながら、最近の話をし始めた。


「三層、行ってみてどうだった?」


話の内容は、桃花の裏の仕事。

堅洲国に住まい、世界に仇成す存在。咎人。

その咎人を殺し、粛正する。それが私たちが従事している仕事だ。


「自信はついたかな。傷一つつかないってわかったからね。

この分だとすぐに慣れると思う」

「そう、それはよかった。

僕も次からは油断なく振る舞えるようにしなくちゃね」


いつも通り蛍が笑っていると、ふいにその表情が曇った。


「それにしても、『顕現』か」


その単語を聞いて、私は自分の両手を見つめる。


「不思議なものだね。超常現象を容易く引き起こせる力。

まるで漫画みたいだ。今でも時々冗談のように思えるよ」


事実は小説より奇なり。それを二人は身をもって体験している。


顕現。自らの想いが顕われでたもの。

その形は大小様々。私のように形があるものもあれば、蛍のように形がないものもある。

そしてその能力も千差万別。似ているものはあれど、完全に同一の顕現はない。

私のように破壊する顕現もあれば、蛍のように創造する顕現もある。


その力を用いて、咎人を殺す。

異常な力を使って、異常な場所に行き、異常な存在を殺す。

非日常の連続。

だんだん、自分の中でそれが普通になっていくのが怖い。

慣れというのは便利な人間の能力だとつくづく思う。


いや、それだけならまだいい。結局時間の問題だ。

それよりももっと、二人の中で晴れない疑問として残っていることがある。


「なんで、僕達の顕現は勝手に発現したんだろうね」

「・・・・・・」



私たちには、顕現が発現した理由が無い。


顕現はよく植物に例えられることがある。

何も無い大地が広がり、種がその中に潜む。

そして水を与えることで、種はやがて発芽し、そして開花する。

これを、大地=身体 種=魂 水=感情 開花=顕現と置き換えてもらえればいい。

身体に宿った魂。魂に感情という養分を注ぐことで、いつかは顕現が開花する。


もちろん生半可なことでは無い。

生まれてすぐ開花する者もいれば、一生開花しない者だっている。いや、後者がほとんどだ。

だから堅洲国では、顕現に目覚めていない咎人が全体のほとんどを占めている。1~3層はその咎人の住処だから。

私たちの住む葦原中国においても、世界が無限に存在するにも関わらず、顕現者は有限にしか存在しない。

99.9%以上の存在は、きっと顕現を開花させずに一生を終えるだろう。

その意味で言うならば、私たちは幸運な部類に入るのかな?

まあ、嬉しくなどこれっぽっちもないが。


話を戻すが、私たちには顕現を開花するのに必要な想いがない。

私の顕現は破壊の形だ。因果的にものを考えるのなら、何かを壊したいという想いがまず先にあるはずだ。

だけど、私は何かを壊したいと熱烈に思った事はない。


物に当たり散らしたことはあるっちゃあるけど、それも一時的なものだ。

四六時中何かを壊したい、なんて普通は想わない。


蛍もそうだ。創造の顕現。考えただけで現実にそうなる魔法のような顕現。

だけど蛍に聞いた限りでは、何かを創りたいと熱烈に想ったことはないという。


先ほどの例えなら、二人とも水に当たる部分がない。

水を与えなければ、植物が発芽するわけがない。


「店長は、突発的な一時の衝動による顕現の開花って言ってたね。

前例が無いから、そう推測するしかないって」

「うん。言ってたね」


確かに、桃花店長の否笠さんはそう説明していた。

一年と数ヶ月前のあの日、顕現を発現し、どうすればいいのか途方に暮れていた私たちの前に現われたのが否笠さんだった。


否笠さんは私たちを保護し、居場所を提供して、さらには資金の提供まで提案してくれた。

私が今住んでいる家も、店長が用意してくれた物だ。


店長曰く、顕現者の保護も粛正機関の仕事らしい。

顕現者は希少なので監視下に置くという意味合いもあるとのこと。

咎人から見れば、顕現者は暗闇の中に光る宝石のように、探そうと思えば簡単に探せる。

つまり四六時中狙われているかもしれない。だから保護する。


そんなわけで店長に保護された私たちは、同じ顕現者である集先輩や天都さんたちと出会う。

顕現や咎人、そして粛正機関の説明を聞き、最後に店長は私たちに提案した。


『あなた方のその顕現。有効的に使ってみたいとは思いませんか?』


つまり、顕現を使い咎人を殺さないかと、否笠さんは提案した。



その提案に私たちは乗った。

理由は多々ある。

色々提供してくれた店長に対する、せめてもの恩返しという気持ちが一つ。

私たちが今のまま、顕現を発現できるだけの状態では、もしも三層より下、四層以降の咎人が襲ってきたらひとたまりもなく殺される。

それに対抗するため、少しずつ力をつけるという理由が一つ。


最初の頃はひどかったなぁ。うまく顕現を扱えず、店長たちの手を借りたこともあった。

初めて咎人を殺した時もそう。肉を貫いたあの感触。悲痛な断末魔をあげる咎人。誰かを殺したという実感。何回か吐いた。

今は違う。吐き気がこみ上げることはない。迷いも無くなった。そう考えれば少しはこの非日常にも慣れた。

顔を上げると、夕日は沈み、辺りはほのかに暗くなっていた。


「そろそろ帰ろっか」

「うん。そうだね」


私の言葉に蛍は頷く。

ブランコから降りて、帰路につく。

主を失ったブランコが、キコキコと寂しげに鳴っていた。



次回、Let's go 平行世界

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