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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
61/211

第十五話 過去の記憶 

前回、呪い




過去の話をしよう。

私の話だ。思い出したくもない過去の話。

私は普通の人間だった。普通の中学生で、普通の父と母と妹がいて、普通の友人がいる。

何の変哲もない日々を送っていた。今みたいに顕現や堅洲国のことなんて、一切知らず関わりを持たない日々。


だけど、私は異常に堕とされた。



あの日、雪が降っていた日。

私は高校の受験結果を不安に思いながら待っていた。

中学三年の冬。進学したい高校の試験や面接も無事終わり、受かりますようにと日々願っていた。今私と蛍が通っている高校だ。

そんなことをベッドに寝転びながら思っていた。


異変は唐突に起きた。

突然、()()()()()()()()


裂けた天井からは血のように赤い大地が広がっている。

そして、こちらを覗き込む異形の怪物が、亀裂から家に入り込んできた。

家が侵食される。空間が拡張され、部屋や壁は溶け、床は赤い大地に変わっていく。

あっという間に堅洲国と同じ世界になった。

(ほう)けながらその変化を見守る私たち一家。

そして、私たちを見下ろす一体の怪物。

下卑た笑い声を上げた、二十メートルもあろう巨体を揺らす、醜悪な怪物。

人型であることが、人類への冒涜だとさえ思った。悪臭とヘドロを身体中から撒き散らして、それは嬉しそうに騒ぐ。


「ゲ~ム!ゲ~ムだ!!ありんこが四匹いる!!やった!やった!!四回遊べるよ~!!!」


嬉しさのあまり、駄々をこねる子供のように手足をばたつかせはしゃぐ化け物。

私を含め家族は混乱している。しかし一言も発せられない。妹の美明(みあ)は恐怖のあまり泣き出している。

私も吐き気がするほど怖かった。この異常事態を夢だと信じたかった。

ひとしきりはしゃいだ怪物は、指さしながら私たちを選ぶ。


「ど~れ~に~し~よ~う~か~な~。よ~つ~の~お~ま~ま~の~ひ~と~が~た~み~。お前だ~!!!」


怪物が指差したのは父。呆然(ぼうぜん)としながら、一歩も動けないでいる。

お父さん。怒るときは怖いけど、後で私の好きな甘い物を買ってくれる、優しいお父さん。

化け物の尻尾が伸びる。注射針のように鋭く尖っている尾の先。

その先端が、父の胴体に深々と突き刺さった。


「ぐぶっ、ぁっ」


動物のような悲鳴が聞こえた。もしくは排水溝が詰まる音が。

何かを注入されたようで、父の身体がボゴッと膨れ上がった。肌は青白く変色し、その目が眼孔からポップコーンのように勢いよく飛び出た。歯がぼろぼろと全部抜け落ちる。口が無理矢理裂けて、身体中から骨の折れる音が連続する。

その変化はまるで、人が巨大な金魚に変わっていくようでもあった。


「あなた!!あなたぁぁぁあああ!!!!!」


母の絶叫が耳をつんざく。

異形と化していく父に、縋るように抱きつく母。

優しく、笑顔の絶えない、家族の中心にいる。

いつも私を()めてくれる母。

とても、張り裂けんばかりの悲鳴を上げ、滂沱(ぼうだ)の涙を流している今の姿とは重ならなかった。


「あぐがががっががががががあっがが、ぎゃぶばばっばあばっばばばばばば!!!!!」


訳の分からない絶叫は父のものだった。

その数秒後、異形が完成する。

十メートル大の、四足歩行の獣。口は顔の縦に裂け、異様に白い歯が目立つ。

肉はぶよぶよして、だらしなく地面に垂れ下がる。

キリンのような、犬のような化け物。頭部と思われる箇所には人間の髪が生えていて、それが余計に吐き気を促した。

父は私たちを引きずり込んだ化け物のように、醜く、臭く、気色の悪い怪物になってしまった。

それを父とは、認めたくなかった。


「あ、、なた・・・・・・・」


母の声が途絶え途絶えに聞こえる。その顔には絶望が張り付いていた。


「じゃあ、次お前ね」


慈悲はなかった。

粘つくような声が頭上から聞こえる。母が振り向いた瞬間、深々と針が突き刺さった。


「あ、ああああ」


母は震える手で針を引き抜こうとする。

しかし針は微塵(みじん)も揺るがず、謎の液体を体内に注入する。

膨張(ぼうちょう)する母の身体。細胞レベルで作り変えられ、異形へと変わっていく。


「あああああああああああああああああああああああ!!!!」


色が抜け落ちていく母の肌。

肉を蓄え、自重で潰れる手足。骨が折れ曲がって、獣のように四足歩行の構造へ変化する。

あっという間に二匹目の怪物ができあがった。


怪物たちは不慣れな身体に戸惑い、倒れたり立ち上がったりを繰り返している。その様は生まれたての子鹿のようだ。


「お父、さん。お母さ、ん」


隣にいる妹が、放心したように目の前の怪物たちをそう呼ぶ。

家族の中で私と一番仲が良い、お人好しで、少し自信が無いけど根は優しい美明。お父さんとお母さんが大好きな妹。私にとって大切な人。

その妹の体を、太い針が貫通した。


「あ――」


針は引き抜かれ、美明が地面に倒れる。

その身体がボゴボゴと泡立ち、皮膚が盛り上がる。

悲鳴は無かった。静かに変化が始まり、やがて終わる。


醜い魚だ。人になりかけた魚がいる。

大きさは父と母の化け物と比べるととても小さい。

左右非対称。一方の腕が巨人のように腫れ上がり、一方は赤子のように小さく縮む。

右脚は肉体の変化についてこれず身体からブチリと分離した。

青白い肉の塊がゴロンと転がっている。濁った瞳が私を見ていた。


「お、ねぇ、ちゃん」


見た目に反して、声だけは人のものだった。

人であった面影は、それだけだった。


「・・・・・・・・・・・・」


絶望しながら、静かに涙を流しながら、私は声も出せずに全てを見ていた。

最後に残った私を巨大な化け物が掴む。

圧迫(あっぱく)される身体。口から内臓が飛び出そうな圧力がかかる。

下卑(げび)た醜い顔に近くに寄せられる。悪臭がより強烈に匂う。注意していないと意識を失いそうだ。


「なんで、こんなこと・・・・・・・」


今更、何の意味もないけど、私は目の前の化け物にこの所業の理由を聞いた。

なんでお父さんとお母さんを、なんで美明を、なんで私を・・・・・・。

それを聞いて、化け物は笑みを深くする。


「最初に言わなかった?ゲ~ムって」


つまり遊び。化け物の遊びで私たちはこんな目に遭っていると。

嬉々(きき)として、化け物はゲームの内容を語る。


「こうして君たちみたいな幸せそうな家族をね、一人一人化け物に変えていくんだ。

すると残された一人はどうなる?家族をこんな化け物にされた悲しみ、絶望。僕に対する恨みや怒りを抱える。

いわば負の想念の集合体になるんだよ。君だってそうだろ~?僕を恨んで、憎んで、殺したくてたまらないだろう?

僕はね、そんな最後に残った一人を躍り食いするのがだ~い好きなんだ!!

その方が魂喰いにも効果的だし、一石二鳥だね~。

最近は一人暮らしが流行ってるから、一世帯あたりの人数が減ってるのかな?

駄目だよ~、玩具(おもちゃ)が少ないと僕が遊べないじゃ~ん」


吐き気を催す口調で社会問題を口にする化け物。

ガパッと、奈落のように大きな口を開く。

躍り食いするって言ってたな。小魚を生きたまま口に入れて堪能(たんのう)する食べ方。

私もそうなるのかな。



・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


嫌だ。絶対に嫌だ。

何もかもが嫌だ。死にたくない。

こんなの嘘だ。全部夢だ。

覚めて。早く覚めて。夢なら覚めて。

誰か、助けて。


だけど願っても誰も来ない。

両親だったものは地面を貪っている。血のように赤い花を食べている。

妹だったものは相も変わらず地面に転がり(うめ)き声を上げている。

この場で一人。私しかいない。


誰もいない。ヒーローなんて来ない。夢は覚めない。化け物が私を食べようとする。死ぬ。

もう何もかもが嫌だ。死にたくも生きたくもない。




だけど、

いいや、だから。



「はえ?」


呆気(あっけ)ない声だった。

私を掴んでいた化け物は、数メートルはあろうその頭部を完全に破壊され、静かに大地に崩れ落ちる。

震動が響き、驚いて両親だった怪物が私を見る。


私も、私を見る。


「ッ!!」


腕に走る熱。見ると両腕が黒く染まっていく。

人のものではない、悪魔のような腕が形成されていく。


(なに、これ?)


疑問に対する答えは無く、唯一その答えを知っていそうな化け物に、今さっき美羽が腕を振った。

腕に触れた瞬間に、化け物は壊れた。


私を掴む腕の力が弱まり、私は巨大な腕ごと地面に落ちる。

二階建てのアパートの高さから落ちるようなものだが、不思議と痛くはなかった。

腕から這い出て、化け物を見る。

頭部を失い地面に倒れ、手先がピクピクと動いている。

死んでいる?あの化け物が。


無感情に、倒れ伏す化け物を見つめる。

色んなことが起こりすぎて脳が混乱している。情報処理が追いつかない。

ただ荒い息づかいをして、激しい鼓動を落ち着かせる。


瞬間、頭部を失った化け物から声が聞こえた。

上半身をわずかに起こし、私の背後に立つ両親に命令する。


「こ、ろせ」


背後を振り向く。

両親(だった化け物)がこちらを向き一直線に走ってくる。

四本の足をバタバタと乱雑に動かして、身体にこびりつく(うみ)を撒き散らして、私を食べようと口を開く。


「え、あっ、」


砂煙を上げて迫り来る巨体を前に、私は戸惑う。

どうすればいい。どうすればいい?どうすればいい!

化け物とはいえ、あれは両親だ。今まで私と数十年も一緒にいてくれた、唯一の両親だ。

心のなかで善と悪の葛藤が繰り広げられる。そこに一石を投じた者がいた。


「殺すと、いい」


下卑(げび)た声が聞こえる。

どうやって発音しているのか、頭部を失った化け物は息も絶え絶えに私に告げる。


「迷う、必要はない。そうしなきゃ、自分が殺さ、れる。

自分の好きなように、奪って、奪われて、それが堅洲国(ここ)だ。善も悪もお呼びじゃない」


両親が迫る。あと一秒もせずに私を押しつぶすのだろう。


「殺せよ!!!」


その言葉と共に、化け物は今度こそ血反吐を吐いて息絶えた。

同時に私は真横に飛んだ。

危機一髪。私がいた位置に化け物の(わだち)ができている。


「げえぇぇぇえええああっはははあはああああああああああ!!!」


奇声を発して、再び私に襲いかかる二体の化け物。

どっちが父で、どっちが母だったのか、もう分からない。


「来ないでっ!」


この時、私の前には色んな選択肢があったと思う。

誰かが来てくれることを信じて逃げることに専念する。

化け物となった両親に殺される。

顕現者はそうでない者には一切害されない。それを知っていればまた対応も変わっただろう。


「来るなぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」


だけど、その時の私が選んだのは拒絶だった。

それが取り返しのつかないことになるとは知らずに。


口を大きく開いた化け物の一体が、私を食べようとして、私はそれに触れた。触れてしまった。

バキンと、何かが砕けた音がした。


「あ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


人の叫声が間近で響く。

私に触れた口が壊れている。硝子の破片のようにボロボロとこぼれ落ち、亀裂が身体全体に広がる。

その(ひび)が全身をあっという間に蝕んで。

バリィン!!と。

化物(おや)が、粉々に砕け散った。


「あ、」


それを理解したくなかった。

私は今何をした?考えて言葉にしてみろ。どんな取り返しのつかない事をしたんだ?

そんなの、私は、親を。


「あああああああなああああたああああああああ!!」


それを見たもう一体の化け物が爆走する。

その声。母のものだ。なら、今私が、殺したのは。

影が射す。化物(はは)はその太い肉を蓄えた足で私を踏みつけようとする。

咄嗟(とっさ)に、手で頭をかばった。

その結果、私に触れた化け物の足が壊れた。


「あああ、アアアアアア、嗚呼アアアアア!?!」


全身を走る亀裂に絶叫し、鈍重な身体を振り回す。

触れた箇所から病のように破壊は広がる。既に触れた足はなくなり、罅が頭部に到達する。

人の声。親の声。母の声。

それを聞いて、ついに耐えきれなくなり、私は胃の中のものを吐いた。

口の中に胃酸の味が広がる。焼け付くような(しび)れが全身を襲う。寒くて身体が震える。

もう嫌だ、聞きたくない。でも耳を塞いでも声を遮断(しゃだん)することができない。

やがて化け物は父と同じように、全身に罅が入り、はじけ飛んだ。

空中に飛ぶ化け物の破片。それらは地面に落ちて、やがて消えていった。


後に残るは私。そして、

近くで(うごめ)く何かを確認する。

魚のなり損ないのような肉塊。魚に似せた人。

人の口や目が魚の位置にある。左右の腕は非対称に膨れ上がり、一本しかない足は魚の尾のようだ。


「お姉、ちゃん」

「・・・・・・来ないで」


妹が私を呼ぶ。肉塊(美明)が私をお姉ちゃんと呼ぶ。

私は後ずさりながらそれと距離を取る。

それでも、それは膨れ上がった手を使い、這い寄って私との距離をつめる。


「殺、したの?殺す、の?わ、たしを。お母さ、んとお、父さ、んを、」

「違う!!違うの、違う!!!」


何が違うのか分からないまま、私は半狂乱になって叫ぶ。


「やめて、来ないで、私は、そうじゃないそうじゃないから違う、だってあれは事故のようなものでだからやめて責めないでこうするしかなかったのしかたなかったのだからだからだから責めないでだってそうじゃないとそうでもしないと私が死んでた死んでた死んでたのけどお母さんもお父さんもみんなああなってそれでだから怖くて怖いからやめて来ないで来ないで来ないで来ないで来るな来るな来るなぁぁあああああ!!!」


頭をかきむしりながら、私に近づく妹を拒絶する。

もう何を言っているか自分でも分からない。呂律が回らないまま、激情だけを口にする。

涙と(よだれ)は勝手に流れ落ちて私の服を濡らす。

トンと、妹の手が私に触れる。


「ひッ!」


慌てて払いのけようとして、その瞬間腕を止める。

私が触れたものは壊れてしまう。さっきの化け物たちの事例で分かった。

だから、私が払いのけたら美明は壊れる。硝子の破片のように脆くあっさりと。

ほんのわずかに残った理性が、妹に触れることを拒んだ。


「おね、えちゃん」


私に(すが)り付く妹。

彼女は、泣いていた。


「殺して、」

「え?」


妹は泣いて、そして芋虫のようにその身をよじる。


「おねが、い。おねえ、ちゃ、ん。もうむり。たえ、られな、い。

こんなの、いや、いや。だから、、殺、して」

「・・・・・・・・・・・・」


そんな、こと、、、

腕が震える。黒く染まった腕に触れた大地どころか空間まで壊して、罅が入り隙間から黒い世界を覗かせる。

どうしていいのか、どうしたらいいのか。

私は腕を伸ばす。それは拒絶のためか、それとも救済のためかは自分でも分からなかった。

ただとても怖かったことは確かだ。

躊躇(ためら)いは残り、触れようとしても触れられない状態を何秒も維持する。

けど、妹はその手に、自分から触れにいった。


バキンと、美明の全身に走る亀裂。

触れた胴体は粉々に砕け総身が二分される。

石像が割れるように、罅は広がっていく。


「・・・・と・、・・が・・」


私はそれを見ながら、最後に妹が何かを言っているのに気づいて、耳を近づける。


「あり、がとう、おねえちゃん」


妹にありがとうなんて言ってもらったのは、何時(いつ)以来だろうか。

そんなことを考える間もなく、肉塊ははじけ飛んだ。


「・・・・・・・・・・・」


妹だった破片が辺りに散らばる。それすら数秒で世界に溶けて、やがて消える。

一人。辺りを見渡して、私は自分が完全に一人であることを確認する。

やがて世界は変化した。

赤い大地は元の白を取り戻す。空間は収縮し、白い壁と部屋の形を取り戻していく。

世界の変化は数十秒続き、気がついたら私は自室にいた。

しばらく呆けて、その後家を探しても誰もいなかった。

私が殺したのだと、疑う余地はなかった。



■ ■ ■



堅洲国から帰った後、私は蛍に縋りつきわんわん泣いていた。

過去を思い出して泣いていた。今の尊さに気づいて泣いた。


ファルファレナは言った。

『用心するといい。君が永久不変と思っている日常が、いとも容易く瓦解するものだと』

『私がもう一度壊してあげようか?』


超越的な笑みを浮かべながらあの咎人は言ったのだ。

神のように。絶対者が運命を告げるように。


ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!


家族を失った。大事なものを失った。けれど今の状態までやっと立て直した。

何もかもが変わっても蛍はずっと隣にいてくれた。高校に入って、カナという素晴らしい友人ができた。私と同じ顕現者である桃花の店員と親しくなれた。


それなのに、お前達は私から、さらに友人と日常を奪い去ろうというのか!!!

あの時も!!そして今も!!!

どうしてお前達は私から奪うんだ!!

私が、何をしたって言うんだ・・・・・・!

罵声(ばせい)と悲鳴を口の中で噛み殺しながら、私はただ蛍に縋り付いて泣くしかなかった。




「美羽・・・・・・・・」


僕の胸の中で声を殺して泣く美羽の姿に、胸が切り刻まれるような痛みを感じる。

彼女の悲痛が僕の中に流れ込んでくる。どうしようもない怒りが伝わる。


(ごめん、ごめんね。美羽)


僕は謝っていた。

そうだ。僕が弱いからまた君を傷つけてしまった。

いつも隣で美辞麗句(びじれいく)を散々唱えながら、肝心なときに全く役に立たなかった。

君をかばうなんてほざきながら、何もできやしなかった。

自分の無力さに腹が立つ。ただ一人の親友の涙を(ぬぐ)うことすらできやしない。

君に笑顔でいてほしい。君に幸せであってほしい。そのためなら僕はなんでも差し出せるのに、それなのに・・・・・・・。

僕に抱きつく美羽を、抱きしめ返すことしかできない。




再び失意の底を垣間(かいま)見た美羽。

大切な友人に何もしてあげられない蛍。

今の二人には、強大な顕現者と渡り合う粛正者の姿はない。

年相応の少年少女が肩を震わせて泣いている。脆弱な人の姿があった。


けれど二人は生きている。

その意思は潰えず、滅びてはいない。

破壊の後には再生がある。破壊と創造は表裏一体。それは万物を貫く法則であり、顕現者も例外ではない。

そして、二人は決意した。



次回、店内会議

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