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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 猛毒の青銅
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第六話 El Diablo Cojuelo

前回、蛍はわりと不死身です



場面は戻り、二人はやはりフェイスレスに苦戦していた。

徐々に正確に、早さと威力と鋭さを増していく魔術人形。

人形故に疲弊(ひへい)の概念が無いことも合わさって、二人との差は広がりつつあった。


蛍は双剣を創造し、手に持ったそれでフェイスレスを切り裂く。

戦闘の際、僕が最も多用する武器。

鋼鉄を遙か上回る硬度と金剛すら切り裂く強度を想像した。

両手両足、首と胸。一瞬のうちに十六もの切り傷をつける。


しかし両断には至らない。致命傷にもなりはしない。

やっとの想いでつけた切り傷も、魔術によってすぐに修復される。


「そこ!」


斬撃に怯んでいるフェイスレスに美羽が仕掛ける。

傷ついた首を狙った一撃。

急所を思いっきり殴られたフェイスレス。しかし吹き飛びながら空中で旋回し、何事も無かったかのように着地する。


想像する。それと同時に、フェイスレスの頭上から雷が降り注いだ。

轟音を響かせる落雷。一瞬でも生物が死に至る熱を、連続してフェイスレスに命中させる。

無貌の人形は雷の雨に打たれ煙を上げながら、しかし、その足は止まらない。

音速を超えて疾走する人形が、僕に向けて拳を振り上げる。


その拳が触れる間際に、僕の姿が消える。

フェイスレスからたっぷり10㎞は離れた位置に僕は現われる。

空間移動。そして人形を取り囲むように近代兵器の群れを想像する。


銃、爆弾、火砲、ミサイル、核爆弾、その他想像できる限りの兵器。

数百の国を吹き飛ばす火力を、一斉放火した。


それらがたった一人に集中する。爆炎と爆風と爆音と爆撃と爆破が巻き起こる。

衝撃で辺り一帯が砕け散る。綺麗なドーム状の爆発と熱が炸裂する。

もはや目と耳が使い物にならない。距離が離れているここにだってその衝撃が伝わってくる。


めちゃくちゃだって? ご冗談を。常識が通用しないのが顕現だ。


やがて視界が晴れて、フェイスレスの姿が見える。

・・・・・・・当然無傷だった。


(そりゃそうだ。美羽の攻撃が効かない時点で兵器なんて通用しないか)


僕の想像できるもので、美羽の攻撃以上に殺傷力に特化しているものはない。

次点を続々揃えたところで、最良が通じないのなら何の意味も無い。あの人形にとって、今の一斉放火など大きめの爆竹のようなものだ。


さて、どうするか。

僕の顕現では威力が足りない。

物理的な攻撃だけでない、様々な干渉を今も行っている。

素粒子レベルに分解したり、どこか異空間に飛ばしたり、身体が内側から弾けたり、魂が抜けたかのように死んだり。そんなことを今も想像している。

だが効かない。通用しない。


以前、帳ちゃんの顕現に巻き込まれた時に感じたこと。

僕の顕現は同格や格上の相手には干渉出来ない。干渉しても、相手の抵抗によって弾かれる。

僕がどれだけ想像しても、相手は何も変わりはしない。


このまま持久戦に持ち込むことも考える。僕は可能だが、美羽が心配だ。

隣を見ると、肩で息をしている美羽の姿が映る。


(美羽も疲れが見える。これ以上続いたら本当に負けそうだ。さっさとけりをつけないと)


こうなったらあの作戦を使うしか無い。


「美羽!」


美羽がこちらを向く。僕の意図を察したのか、無言でうなずいた。

準備はできた。後は実行するのみ。


想像。

空中に現われる幾千の武器。剣であったり、斧であったり、槍であったり、ナイフであったり、槌であったり、その他諸々の武器がフェイスレスに襲いかかる。


一発一発が必中。なんせ当たるように想像したのだから。それら全てが音速を超えて襲いかかる。

フェイスレスから見れば視界の一切が武器で埋まっているはずだ。対処などできはしない。


雨のように襲いかかる武器群。しかしフェイスレスは間近まで迫ったそれらを、砕き、躱し、いなしていく。

その動きはとても軽やかで、まるで予行練習を幾度も続けてきたバレリーナのようだ。

先ほどよりも、さらに早く軽い身のこなし。

白いタイル状の床に幾千もの武器が降る。やがて武器の雨が止むころには、フェイスレスが無傷で立っていた。


さらに想像。頭上に白く輝く、白銀の太陽が出現する。

小規模だが、それでも視界の全てを白く照らしていく。


超高熱の光は、フェイスレスの一切を飲み込むように落ちていく。

熱で融解する床。蜃気楼(しんきろう)で歪む視界。


それをなんと両手で受け止めたフェイスレス。その手が黒く焦げただれていく。

しかし変化はそこまで。炭と化した手はあっという間に人形の白さを取り戻していく。


「太陽を受け止めるってどういうこと?」


僕の疑問に答えず、フェイスレスは何かを唱えた。

それは太陽を呪う幾多の聖句。その輝きを否定し、地に堕とす魔術。

聖句の文字は速やかに太陽を包み込み、その輝きを黒く染めて、直後に白銀の太陽は弾けた。


まるで風船のようにはじけ飛ぶ日輪。

その真下には、既にフェイスレスが腰を落として構えていた。


足下を爆発させ、爆音を轟かせて走り迫る。

これまでよりも早い速度。こうなったら僕でも反応できるか正直怪しい。


だけど予想通りに動いてくれて助かった。

今まさに動き出そうとするフェイスレス。しかし地面に突き刺さった武器。その影から美羽が躍り出る。


「!」


もしも彼に顔があったなら、今驚愕の表情を浮かべているのだろう。


これが僕と美羽の考えた作戦。

僕の顕現は万能性が高い。今までのように武器を創ったり傷を治したり地形を変えたり、できることはたくさんある。しかし威力が低い。


それに対して美羽の顕現は破壊一極特化。こと殺傷力になると僕の数十倍以上はある。

しかし射程が短い。両腕に武装する形であり、手が届く範囲でしか効果を発揮できない。


二人の弱点を克服するために産まれたのがこの作戦。

僕が相手の妨害、足止めをして、その隙を美羽が突く。


先ほどの大規模な攻撃も、美羽が近づくための目くらましが目的。無意味に創造していたわけではない。


しかし、近づいたからといって倒せるとは限らない。

先ほどの攻防で、フェイスレスは美羽の攻撃に耐性を得た。

このままでは致命傷には至らない。それはわかっている。

そしてその対策も、すでに美羽は持っている。


『掲げろ、鏖殺(みなごろし)の槍』


両腕に纏っていた黒。その左腕から黒が抜け落ち、右腕がそれを纏って膨張する。

黒が、燃えるように、波打つように、新たな形を形成。

それでも収まりきらない力が、光のように、瘴気のように周囲にあふれ出る。

黒々と、赤々と脈打つ異形の腕。それは決して人のものではない。

全てを引き裂く悪魔の腕。その名は・・・・・・・・・。


「El Diablo Cojuelo(穿て、跛行(はこう)の悪魔)!!!」


放たれる美羽最強の攻撃。

極限まで圧縮した破壊の力。

単純威力において、通常時の数百倍の威力を誇る、まさに必殺の一撃。

空間ごと打ち砕きながら、その手はフェイスレスを、上から叩きつぶすように振り下ろされた。


激しい震動。割れた地面が浮き上がり、直後に爆風で吹き飛ぶ。

その中心部はまるで光が爆発したかのように、煌々と、破壊の痕が広がっていく。

離れている僕の所までその罅が届いた。割れた空間の先には黒一色が覗いている。


やがて収縮。震動が収まりはじめ、破壊痕は世界に飲まれ空間が修復されていく。

立っていたのは美羽ただ一人。腕はその形象がほどけ、元の白い腕に戻る。


足下にはフェイスレス、だったもの。もはや原型を留めぬ程にバラバラになっている。

動かない。完全に破壊されたようだ。


対象の沈黙を確認し、僕は急いで美羽の元へ駆け寄る。


「お疲れ、美羽。なんとかなったね」

「う、うん。けど、少し疲れた・・・・・・」


美羽は気丈に笑顔を浮かべているが、疲労はだいぶ溜まってるようだ。肩で息をしている。


「少し休もう。美羽、横になって」


疲労の色が強い美羽に休息を促す。

美羽は言葉通りに、床に座った。僕は無から飲料水を創造して美羽に手渡す。


さて、どうしたものか。一応敵は破壊した。まさかこれ以上でてくるとか無いよな。

状況に変化は無い。やがて美羽の疲労も収まり、場の沈黙に戸惑いを浮かべる。

アラディアさんはここから出してくれないのかな?

あるかもしれない。アラディアさんの考えることだ。いつも僕らの想像の斜め上を爆走している。



数秒後、その予感が当たることになる。

すっかり体力が回復した僕ら。まるで初めからそれを狙ったかのように――

白いタイル状の床、僕らの座っているそこに、突如巨大な穴が開いた。


「「え?」」


驚愕もつかの間。叫ぶことすら許されぬまま、僕達はその穴に落ちていった。




「え?」


スライムの中にいる二人と同様の驚愕を、外で見ていた集も感じた。


スライムが突然動き出して、堅洲国への移動に使っている(ゲート)に二人を勢いよく吐き出したのだ。

これで驚かない以外の選択肢なんてあるのか?

こんなこと聞いてないぞ、どういうこったアラディアさん。

さっきまで、「あの中は気に満ちてるから、十分疲れがとれるまであの中に放置」とか言ってたけど。


「十分回復した。ならそのまま堅洲国にぽ~いってことだ」

「・・・・・・・・・・」


ある程度。ある程度はこの人のめちゃくちゃさはわかってた。だけどシミュレーション終わってすぐさま咎人粛正に向かわせる程の鬼畜だとは思わなかった。

諦めるように溜息をついて、先に宣言しておいた。


「言っておきますけど、少しでも二人の様子がやばかったらすぐに俺も向かいますからね。

そん時は止めないでくださいよ」

「え、やだ」

「はぁっ!?」



次回、青銅の翼

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