教えて! ウリエル先生!
前回、これまでの設定
ウリエル「というわけで、今回は七大天使の僕が『ニライカナイ』について説明しよう。
それなりに事情に通じているし、ホームグラウンドだからね」
ウリエル「そもそも『ニライカナイ』とは何かから話そうか。
堅洲国に存在する異界。本来共存不可能な鼠たちが、特殊なフィールドゆえ共存できる不可思議な場所さ。
連日数京数垓の死傷者が出てるけど、それなりに面白い場所で、見所も多数ある。
今からその名物を説明していくよ」
ウリエル「まず最初に紹介するのは『ダイニングテーブル』。
百王の一柱である『料王』が料理長を務めている飲食店だ。
ニライカナイに来たらまずここに来るといい。
この世のものとは思えない至極の味が、君を満たすと約束するよ。
全品無料だから好きなだけ頼むといいよ。
僕や他の七大天使、特にミカエルがよく通ってるね」
ウリエル「そして、ニライカナイにある刑務所が『獄府・タルタロス』
ここのトップもまた百王の一人。絶大な権限と力を持つ冥府の支配者だ。
そしてそれに仕える『ケルベロス』と呼ばれている熾天使も相応の実力者。僕たちくらいはあるかもね。
彼らが独断と偏見で適当にニライカナイの住人を捕まえて終身の刑に勝手に処す。
ガーデナーと並んで、数少ない抑止力の一つかもね」
ウリエル「『粛正機関・ガーデナー』
葦の国にある全ての粛正機関の産みの親であり、同時にトップに位置する。
ニライカナイ唯一の粛正機関だ。ここに属する粛正者はいずれも高水準の質と量を有している。
ただ、彼らといえどニライカナイ全土で毎日のように巻き起こる事件を全て対処するのは難しい。
僕らも、彼らとは顔なじみだよ」
ウリエル「『マナス検索機能』。
空間中に張り巡らされた不可視で不可触のネットワーク。
それが対象の思考を読み取り、最適の検索結果を思考と同速で提示する。つまりインターネットの進化板だよ。
それまでは体内のナノマシンを使ったりして外と同期してたらしいけど、あまりに古すぎる。正確性、即時性、普遍性。どれもこちらと比べものにもなりはしない。
これの素晴らしい特徴は、他の技術に適用可能な点かな。
例えばワープ装置と併用することで、頭の中で思い描いた場所に瞬時に空間移動することができる。
便利なものだよほんとうに」
ウリエル「魔道具№54 自動学習装置。
ニライカナイに設置されている魔道具の一つだ。
指輪の形をしていて、それを左手の中指にはめることで発動する。
純度100%の知識・情報を、対象の肉体の細胞一つ一つに浸透し、脳に覚えさせ、魂に直接書き込む。
当事者の体験といった個人的なものまで、全て長期記憶に叩き込むことができる。結果、知識や術技は完全に対象者のものとなる。たった数秒で武術の達人や、千年の知識を持った賢者が生まれるんだ。
本来なら死と共に失われる知識、記憶、経験。それらを全て第三者にまるまる移すことができる。
さらに、自分に好きな能力を好きなだけ付与できる。
魂をノートと見なして、その紙面の上に直接書き記すようなものだからね。
ここで手に入れられる能力は顕現に遥か劣る代物で、顕現者を傷つけられはしないけど、1~3層までなら護身用のナイフにはなるんじゃないかな。
これを利用するために、連日長蛇の列が出来ているよ。
これの登場で努力の九分九厘は駆逐されたと思っていい」
ウリエル「『憤怒のイーラ』
激怒の猛火と共にニライカナイに君臨する、紅蓮の女王。
世間一般に言われている、人を殺す事や騙し欺くことなんて比べものにもならない罪。『憤怒』という大罪を持つ咎人だとか。
ガーデナーの粛正者が復活するたびに封印してる。けど一ヶ月後にはさらなる力と共に復活する。いたちごっこだ。
怒り狂う彼女に理性があるのかないのかすら分からない。けど、壮絶な破壊をもたらすことは間違いない。
まあ、僕たちにとっては月一のイベント的な存在かな」
ウリエル「『レディエラ』。僕たちが塔と呼んでいる建造物。同時にコミュニティ。
天を貫くほど高い、ニライカナイを支える柱。
その内部では様々な専門職や研究家、あるいは道楽者たちが、自らの道を突き進んでいるよ。
フロアは上下合わせて数十万を超えるけど、移動手段はちゃんとある。
マナス検索機能とワープ機能の合わせ技で、好きな階層を思うだけでそこに移動できる。
塔の全権は七大天使が握ってる。どこを廃止するか、どこを新設するかは思いのまま。
主に僕は研究者たちに指示を出して、彼らがチーム一丸となってその分野の研究に取り組む。
なお、僕たちの下で働く研究者になるための敷居は高くてね。
最低限30以上の分野でスペシャリストでないと、研究者とは呼べないよ。
まあ当然の話だ。世界を一つの視点で見るなんて不完全に過ぎる。知識は多すぎて困ることはない」
ウリエル「『七大天使』について話そうか。
七大天使は主に仕え、各々仕事をこなしている者のことを言う。だからそれぞれが天使の名前をニックネームとして使ってる。
僕も本来の名前は忘れたよ。
今の七大天使は
『ミカエル』『ガブリエル』『ラファエル』『ウリエル』『アズラーイール』『カマエル』『アリエル』だね。
今の、と言ったように、途中で人員が入れ替わることもある。主に前任者が死亡したとか、そういう理由で。
担当する仕事は様々だ。
僕みたいに実験や調査とか。
ラファエルみたいに、堅洲国の整地や環境調整とか。
アリエルみたいに、顕現者の育成や教育とか。
アズラーイールみたいに、堅洲国に攻め入ってくる高天原や粛正機関との戦闘や妨害とか。
・・・・・・え、僕たちが仕えている主とは誰かって?
それはのちのち分かるさ。今話すことじゃない」
ウリエル「『プラント』。
『天然』と『生産物』の違いは上の説明で理解できたかな。それを念頭に置いて説明させてもらうよ。
プラントの種類は主に二つに別れている。天然プラントと生産プラント。
前者は文字通り天然――自然な方法で産まれこの世に発生した者――を生み出す場所だ。
どこまでも並んだカプセルの一つ一つに、母胎が入っている。
それぞれの種族ごとに、適切な出産方法をカプセルが実行する。人間だったら子宮内に精子を注ぎ込むみたいにね。
内部の時間や空間を弄ってあるから、秒もかからずに千人以上の赤子を出産することも可能。ははっ、少子化解消だね。
あ、勘違いされることがあるけど、別に女性限定の話じゃない。男にだって、子宮を植え付ければ子供を産ませることは可能だからね。
そんなわけで彼らには『母胎』としてどんどん将来の顕現者候補者を産んで貰うんだ。ここで産まれた子はアリエルの元に運ばれて、そこで教育を受ける。
・・・・・・あ、もちろんだけど事前に希望者は募ったからね? 決して全員を強制的にプラントに押し込んだとか、そんなわけじゃないからね?」
ウリエル「そしてもう一つが生産プラント。
生産物――クローンや被造物、コピー、機械とか、人為的に作られたもののことを言うんだけど、それを最短で大量に生み出すプラントだ。
量産可能で、安価な魂を無数に生み出せる。マナス検索機能を使っているから、ボタン一つ押す必要もない。
僕たちは主に餌として、堅洲国にいる鼠たちに提供してる。彼らに早く強くなって欲しいからね。
キャラメイクに凝れば、好きな彼氏や理想の嫁を作れるから、それ目当てで飛びつく奴も多いよ。
飽きたら殺して別のものに取り替えればいいからね」
ウリエル「最後、ニライカナイに多く存在する百王。
その内の一体、平和王・シャロについて説明をして終わりにしようか。
【平和王・シャロ】
世界に名だたる百王の一個体。
葦の国、堅洲国で主に活動してる。
戦場や戦乱の激しい地域に出没し、対立する両陣営を皆殺しにした上で、世界から戦争という概念を消去し、生存競争に至るまで奪い去った果てに次の戦場へ移動している。
結果、生きるために当然の闘争まで排除される(狩り、釣り、屠殺など・・・・・・・)
いずれ、世界の全てが平和一色で染まる未来を信じて、果てしない殺戮を繰り返す平和の使徒だ。
通称、戦闘虐殺者。戦争を虐殺する絶対平和の体現者。
高天原の随神とも幾度も交戦していて、互いに顔なじみの関係。
その厄介な顕現ゆえに、随神ですら彼女を粛正できていない。
会話ができても言葉は通じない。自分の意思を貫き通し、それによって生じる被害など意識にも昇らない破綻者。
ニライカナイにも時々現れるけど、僕は直接会ったことないな。
七大天使と百王が戦ったらどうなるかって? さあ、僕は敵わないだろうけどミカエルならどうだろうね。
その顕現は 『全ては戦乱なき永遠平和のために』
無形型。能力は、戦闘行為の中断及び停止。能力行使無効化。
これを発動すると、戦うという選択肢が意識にも昇らなくなる。
当然、戦闘という攻撃、防御、回避、思考も許さない。
つまりいかなる技も能力も、そもそも発動できず無用の長物と化すんだ。
能力の発動に至るトリガー、発動条件を潰す。
戦闘っていうけど、実際は他者を害そうとする全ての事象に働く顕現だから、例え100%の善意で他者を害そうとしてもこの顕現はそれを許さないね。
それと、武装は強制的に解除されるから、武器の類で傷つけることもできない。
強制武装放棄。どころか武器とみなされる全てが消滅する。
武器はもちろん、魔術や人を傷つける言葉なども対象になる。
知識が武器となるならばそれを消滅させ、才能や努力が武器となるならそれすら消去する。
自己防衛のための戦いすら許さないこの顕現に穴なんてない。
一切の暴力を排除された空間で、彼女だけは他者の殺傷害が許されるなんて不条理極まりないって?
だけど彼女の属性は平和の使徒よりも、戦乱の終焉に秤が傾いているんだ。
彼女は戦争の殺戮者であり、生涯を戦争の排除のために捧げている。
相手に戦闘を許さず、自分だけは戦闘をぶち殺すことを許すのは、上記の価値観からすれば当然のことだね。
無形型特有の厄介な能力。大抵の場合、相手は何もできない案山子となる。
今回、主人公の美羽ちゃんはサンドバッグになれただけまだマシだね。
彼女がどういった経緯でこのような顕現を発現したのか。また、なぜその壊滅的な活動を続けているのか。それは彼女以外誰にも分からない。
次回、未定




