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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 千紫万紅の夏休み
200/211

第三十二話 葦の国防衛戦⑩

前回、トーテンタンツ



端的に言ってしまえば、それはただただ美しい顕現であった。

美しいものに心を奪われる、とはよくある話。

ある者は数的な美に。ある者は自然の黄金比に。ある者は絵画の極彩色に。

美の定義は人様々・・・・・・ではあるが、アデレードのそれはさらに圧倒的で、否定も反駁(はんばく)も許さない絶対美。

さながら美の定義は自分なのだと、相手の美の価値観そのものを改変してしまう程の美しさ。


アデレードの存在を察知した者に叩きつける美の暴力。

それは他者の精神性を狂わせ、自分の都合の良いように操る。

しかし、それは美羽が知る精神干渉の類とは、質も深度も何もかもが異次元の強度を誇っていた。


『完全に美しい自分にお前ら惚れろ』

アデレードの深層にあるその願いが具現化したらどうなるかなど、想像するまでもない。


知性を溶かしつくす美貌はそのままに、森羅万象に染み入る洗脳、暗示、催眠、誘惑。

まず認知能力が改変された。目の前に立つ美姫以外の全てが視界から消え音も聞こえない。


全身の感覚が総毛立ち、アデレードを感じることに対して極限の歓喜と、想像を超えた快感を覚える。

彼女に惚れる度に、美しいと思う度に、指数関数的に倍増する快楽の渦は、既に天文学的な数値に到達しなおも止まらない。

先ほどの魔眼が児戯に等しい程の、圧倒的な悦楽の奔流。まるで体の内と外が入れ替わったかのような衝撃は到底、人間が抱え込める快楽量ではない。


アデレードに惚れる。アデレードに仕える。自分の全てを投げ打ってうち捨て、彼女に身も心も魂も捧げたい。

それに対して疑問を抱くことすらない。それが新たな本能となり、存在意義そのものが書き換わる。

体の基盤そのものが(くつがえ)っていく。美羽の思考回路が全てアデレードに占有され、魂まで支配し一切の抵抗を許さない。

自らの内にある価値観は美姫を最上位優先事項に置いて、他の事象が並び立つことを許さない。


貧しく卑しい女性が、高貴なドレスを纏いガラスの靴を履いて王子と舞う。その伝承をなぞるかのように発動した顕現。

アデレードが具現した顕現は神話における魅了のアイテムのように、彼女を感じた対象をその美の下に平伏させる。

その顕現は知性の有無を問わず、あらゆる万物を掌握する。

石ころだって、空だって、概念だろうと彼女に惚れ込み(かしづ)かせる。

比喩ではなく、森羅万象がその美しさに戦慄し、歓喜に震え自ら隷属の道を選ぶ。


美羽もまた例外ではない。

彼女を視認してしまった美羽は、溺れるように落ちて、堕ちて・・・・・・






・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・






さて、ここで顕現者への精神操作ないし干渉がどれほど難しいか検討してみよう。

前提として、術者が他者の精神に干渉できる術を持ち、かつ暴発を起こさず制御できる腕を持っているとしてだ。



まず第一に、彼らの精神に干渉することそのものが危険極まりない。

深淵を見れば自らも深淵に見られるように、他者に対して自らの精神を晒すことになりかねない。

相手がまともに見える? 否。その精神性は既に常人が推し量れる域を超えている。


例えば美羽。彼女は普通に日常生活を送り、友人と共に過ごすこの日々を守りたいと願う、ひどく一般的な女生徒である。

しかしそのために、誰かが立ちはだかるのであれば森羅万象ごと、滅ぼし尽くすという絶対の意思がある。

自分の愛しいものが危機に瀕するのなら、彼女はそれ以外の世界を滅ぼしてでも、その愛しいものを守るだろう。

本人にとってそれは不朽の誓いであり、同時に不変の真理。

その一点において、彼女は魔の域を超え、神域にすら到達するほどの想念を発揮する。

顕現者が生活能力やコミュニケーション能力を失っていないことと、その想いの深度が浅いということは必ずしも比例しない。人それぞれということだ。


そんな想念を垣間見ただけで精神が焼き切れるなどまだまし。心に傷を負うどころか、致命的な傷を負い壊れ、廃人になることは避けられない。

溶岩に手を突っ込むようなものだ。腕を切り捨てる覚悟は常に持っていた方がいい。



第二に、顕現者の抵抗力の問題。

外からの干渉には当然抵抗が働く。その抵抗力に打ち勝てば干渉が成功するのだが、それは至難の業だ。

精神というと魂と同じく希薄で、障子紙のようなものという印象があるが、事実は大きく異なる。

常人のスケールで考えるなら、何千万トンものダイヤモンドでできた巨大な扉を蟻が必死になって押し開こうとするようなもの。

身体や物理的障害を引き剥がして、心を丸裸にすれば干渉など容易い? 

まさか。常識に囚われすぎだ。

まして無限に増大する彼らの精神に干渉するなど、到底できることではない。無効化されるのが関の山であり、下手したら精神の重量にこちらが潰れかねない。



第三に、顕現者が纏う防壁。

精神攻撃など戦闘の基本。そんなこと誰だって知っている。

当然咎人は使ってくるし、粛正者だってそうだ。

だから対抗策を練る必要がある。


防壁はその一つ。精神干渉が念波や音のように空間を伝導するものであれば、伝達阻止の防壁に阻まれ即消滅。

その他時空停止、攻性消滅防壁、事象改変の幾十の障壁を突破しなければならない。美羽に関してはこれに加え、自分に害なす攻撃や情報を悉くぶっ壊している。

仮に外の防壁を突破しようと、今度は内部に張り巡らせた心理防壁がある。

その数も数十か数百か・・・・・。もはやその労力を察するだけで疲弊する。



第四に、顕現者がそれぞれの方法で実行している情報遮断。

例えば咎人がとんでもない美貌で、その姿を見た途端心を奪われ、身も心も捧げて平伏するなんていう事例もある。

他にも咎人がとんでもない醜悪な姿で、見ただけで吐き気を催し発狂する、などという事例もある。

その両方とも戦闘になりはしない。それ以前の問題だ。


それを防ぐための情報遮断。戦闘に役立つ情報だけを取得し、不必要な情報を切り捨てる。一種のフィルターを張っているのだ。

だから相手の姿を見ただけで発動する類の精神干渉、本人の心を喚起させる自発的な精神攻撃もあまり意味が無い。

本来ミーム攻撃を防ぐためのものが、副産物的な利用意図を伴ったのだ。



そして、まだあるのかよと思われるかもしれないが五つ目。

精神に干渉したとして、逆にそれを相手が探知し、逆干渉を行うこともあり得る。

当然干渉の自壊や、術者自身に干渉が返ってくることすらあり得る。

一種の呪詛返しのようなものだ。精神干渉に限った話ではないが、他者に対して攻撃を仕掛ける時は常に反撃を警戒しなければならない。

感染魔術を利用すれば、干渉術式を破壊することで術者も壊せるのだから。


以上、細かいものを端折ってもこれだけある。

だから通じるとしても言葉によって相手の心を揺さぶることくらいだが、それだって本人が不必要な情報を削除すれば聞こえはしない。見えはしない。

基本だからこそ多くの対抗策が取られた結果、イタチごっこの様相を呈したのだ。

試行錯誤は今も続いており、更なる対策はこれからも出てくるだろう。

これらの要素を加味して、それでも熾天使の精神を完全に掌握できる者など、高天原に一人いるくらいだ。

さらにさらに、精神や魂が完全に支配されようが自由に行動する術を美羽は持っているわけで・・・・・。

つまりアデレードの顕現は、美羽には通用しなかった。



ググッと、見えない重りが乗せられているかのように、美羽の身体はぎこちなく動く。

身体の内では押し潰されそうな快楽の渦。今すぐにでも目の前の彼女に跪き、その至福の境地を味わいたい。

自分の人生も友人も知り合いも、何もかもを捨て去って隷属できれば、それはどれだけ幸せだろう。

感じるのは目眩なんてものではない。三半規管は狂いに狂い、口を開けば液化した脳と骨髄のミックスがどろりと溶け出る。

細胞の一つ一つが蒸発して、肉体はほぼ役に立たない。

今立っていることが奇跡。それほどの魅力。それほどの精神操作。それほどの美しさ。




・・・・・・で? だからなんだ?


そんなものが膝をつく理由になどなるわけがない。

そもそもそんな偽りの幸福程度で、私が満たされるとでも?

自分の欲しいものを誤る気などない。気持ち良い・悪いに関わらず、立ちはだかるのなら壊すだけ。


気力一つで悦楽の海を踏み砕き、顕現に抗う美羽。

完全に美姫の顕現を喰らって、それでも動くという驚天動地。


自分を愛せ。自分に惚れろ。

その命令を深層心理や魂、肉体に直接書き込み、それ以外の思考の一切を封じる。

細胞の一つ一つに命令文を超速で書き込むような、徹底した支配の形。

身体はその通りに動き、目の前のアデレードに絶対の忠誠を誓うだろう。

水のように心の中に染み入り、大槌でその命令を心に直接叩き込む強力な暗示。催眠。洗脳の顕現。

その絶対命令を叩き込もうと、美羽にとっては精々動きにくい程度のものでしかなかった。



自分に屈しない。惚れない。

自らの代名詞である絶対(けんげん)が、切り札(とっておき)が通じない。

それは本来、耐えがたい事実であるはず。

自己否定の事実を前に不快に思わない者などおらず、それが己の顕現ともなれば矜持と誇りを穢されたと感じるだろう。

自分の信仰そのものを蹂躙されたと言い変えてもいい。

想定していない事実に顔を歪め、恐怖を抱いてもおかしくはない。


なのに、アデレードはその笑みを絶やすことはない。

どころか宝石のような眼をさらに輝かせる。

それもそうだ。安々と手に入るものに価値などない。

手に入らないものほどさらに欲しくなる。それが人の性というもの。


それに、自らの顕現はそれだけの用途だけではない。

純白のヴェールを揺らし、令嬢然(れいじょうぜん)とお辞儀をする。


「まず称賛を。私の顕現を喰らって、動ける者は久しぶり」

「・・・・・・全てが貴方に跪くと思ったら大間違いです。

それで、降参しますか?」

「まさか」


再び、ガラスの靴をトントンと叩いて鳴らすアデレード。

美羽もまた、自らの内側で昂ぶる快楽と精神支配の余韻を全て破壊し、必殺の構えを取る。


「だんだん、貴方が欲しくなってきたもの。

ここで逃がすなんて絶対嫌よ」


そして、再度二人は激突した。

先ほどのような舞踊ではない、本当の殺し合い。

交すのは殺意と殺意。互いに熾天使としての本領を全て解放し、確殺の一撃を叩き込む。


アデレードの戦法は代わっていた。

先ほどの舞が『柔』に位置する術技ならば、今の彼女が用いるのは『剛』の技。

女は美しく、そして強くて当然。自分に飛び散る相手の血すら化粧としてやろう。

その信念から放たれる彼女の拳は、細腕とは思えない破壊をもたらす。


その拳が美羽に触れた瞬間に、様々な霊体によって守られていた肉体が粒子レベルで吹き飛び、はじけ飛ぶことすらせずこの世から消え去って――

しかし次の瞬間には、その事実が破壊され無傷の美羽が現れる。

復活を成し遂げた美羽は、滅却の波動をアデレードに叩き込む。

片手でそれを受け止めた美姫は、破壊の損害をゼロに抑え込んだ。


後ろに退いた彼女を追うべく、美羽は黒い液体となって溶ける。

美姫は直感で危機を悟った。

アデレードの影から飛び出す美羽。そのタイミングは完全に相手の意表をついたもので、下から空を穿つかの如く放たれた天昇の黒脚が意識外の彼女に突き刺さる。

軌道上に位置する空間が砕け、割れた裂け目から黒一色の世界を覗かせる。

至近距離でそれを喰らったはずのアデレードは、肘で黒脚に一撃食らわせて、その直撃を回避していた。


無傷。美羽は身体を捻り、身体の構造上ありえない角度からの蹴りを炸裂させる。

果たして旋脚はアデレードの指二本で無力化され、どころかその勢いを利用され、美羽本人が彼方に吹き飛ぶ。

恐るべき速度で遥か下の大地に激突した美羽は、全壊した宮殿内に一足で復帰し、煌めく美姫に打撃の雨を喰らわせる。


嵐のような美羽の連撃を、アデレードは丁寧に一撃ごとにいなして、なおかつカウンターまで繰出すという驚動の体術。

攻撃を繰出す美羽本人の身体が反対に壊れ、千切れ、形を失っていく不条理極まりない光景。


肉弾戦は意味が無い。美羽は悟ると、さらなる切り札を発動した。

不浄なる蝿王(ドゥルジ・ナス)。美羽の有する顕現の中で、最たる威力を発揮する顕現を。

掌大に凝縮された黒点は異界そのもの。その内部はあらゆる不浄と不義で満たされた負の絶対領域。

それを叩き込まれた者は、天井知らずに上がる熱量に焼却され、同じく絶対零度を超えて下回り続ける冷気に芯まで凍りつく。

一撃必殺の色が強いそれに、美羽が信頼を置いていることは納得の話であり、ここぞという時に使うものと決めている。


だがその一撃必殺が、視界の八割を覆う程に周囲に浮かんでいるのは一体どういうことだろう。

アデレードの周りに滞空するその黒点が、美羽の合図で一斉に動き出す。

それは見方によっては、蝿の群れが一箇所に殺到しているかのよう。


天を覆う黒球の群れを相手に逃げ場などない。ゆえに被弾。

一つの蝿が弾け、黒球が彼女の全体を包み込み、内部を異界の常識で滅却する。

その黒球にもう一つが飛び込み規模を増して、さらにさらにと怒濤の勢いで黒球は膨れ上がっていく。


周囲を飲み込み闇を広げるそれは、さながら地獄の門が開いたようだ。

外界に漏れ出るわずかな瘴気はそれだけで、この星を億万回は穢し尽くしてあまりある魔王の吐息。

陵、辱、嘲、嗤、侮、罵、汚、恥、屈、蔑、貶、誹、悪、羞。

今なお膨れ上がる黒球の内部は、全ての悪性が詰まりに詰まった獄界に他ならない。

それを喰らって無事なものなど、この世に一人もいはしない。


・・・・・・無論、咎人を除いてのことだが。


黒球が収まる。徐々に収束し0になるその悪意。

現れたのはいまだ無傷のアデレード。ドレスの端が焦げ凍てついているものの、その本体に傷はない。

どころかその美麗さがさらに増しているようにも見える。


どうやら相手の攻撃を吸収して、自分の美しさに変換しているようだ。

きっとそれが、あの顕現の本質。

先ほどの精神干渉などあくまで副次的なもの。

他者の舞い散る血肉までも自らの美に変えてしまうという、強欲なまでの美への欲求。


強い。

美羽は、不浄なる蝿王(ドゥルジ・ナス)を突き破って出てきたアデレードを睨みながら思考を奔らせる。


具現型は単純な身体能力が他の型に比べて高いが、それでも先ほどとは重みが違う。

舞踊の本質は不変のまま、踊り子の舞から戦士の舞へと変化した。

戦闘の場そのものに干渉する魔の舞踏はそのままに、途方もないほどに強力な精神操作。力の流動を操る武威に、加えて攻撃を吸収し自らの美に変えてしまうという顕現。

収集班の肩書きを偽りなく背負っているのがアデレード。

その実力。自分の数歩先を行っていることは明らかだった。




対するアデレードも、美羽のことを隙間無く観察していた。

といってもその着眼点は相手の戦術や強さではなく、彼女の容姿に向けられている。


しなやかな筋肉。女体の柔らかさを捨てず、それでいて程よく鍛え上げられ、さぞ食べたら美味しそうな具合に仕上がっている。

服の下から小さく主張する、美羽の体躯を考えれば適正サイズの胸。

スカートの下から覗かせる健脚は無駄な贅肉を持たず、スラリと伸びて身体を支える。

夜闇に踊る光る赫々とした赤眼は、100%の殺意で睨み付けながらも、鮮血のようなその色は宝石(ルビー)のよう。


何より、その黒髪。

あの黒をなんと形容すればいいだろう。

烏の濡羽色(ぬればいろ)? いいえ、違う。

それとも黒漆(くろうるし)? 近いが、それでも本質を捉えられない。


彼女は収集班に属する美姫。美の求道者である以上、その審美眼も相応のもの。

だからこそアデレードは、上手く言葉で言い表せないその黒髪に対して大いに興味と執着を覚えた。


服装は残念だ(ダサい)が、それ以外は高水準。特に黒髪は100点を超えている。

これなら少しメイクを施すだけで、すぐに『美姫』の位に届きそう。

先ほど聞いた彼女の名前にも美の文字がある。ならばこれはもはや決定事項ではないかと、収集する対象に美羽をつけ加えた。


「綺麗・・・・・・・」


撃ち合い、破壊の限りを尽くす美羽を両目に収め、自然と口から言葉が零れていた。

断言できる。あなたは傷ついた方が美しい。その方がもっと輝く。

血と傷と煤に塗れ、不屈の輝きを目に宿しながら、破壊という華を咲かせ続けるのだ。

なんという破壊の美学。相手どころか自分すら壊し、破滅の道を突き進む自壊の理屈には思わず食指が動く。


美の基準は人それぞれ違う。人から見てガラクタでしかないものを美しいと言う者もいる。

当然、その人物にとって最適な美の形というものも異なり、それが美羽の場合上述のものであるらしい。


美を穢すマイナスが、美羽にとってはプラスになってしまうという不可思議。

薔薇を飾るよりも飛び散る血を。ドレスで飾るよりも全身に刻まれる打撲痕を。

その方が絶対に彼女は美しい。

それがなぜだかアデレードにも分からなかったが、彼女の直感はそうだと確信している。


なんという魂。美しさ。

しかしまだ円熟していない。

例えるのなら開花前の蕾。蝶となる前の蛹。

それが咲き誇り、殻を破ってその羽を広げた瞬間に、一体どのような美を見せるのか。

特異な美の在り方に、美姫であるアデレードが惹かれないわけがなかった。


「ふふ、あはは、これはいいわ。素晴らしい。

貴方を連れて帰れば、きっと姉様方もお喜びになられるはず」

「だから――」


瞳に熱を宿すアデレードに、美羽は大きく振りかぶる。


「全てが貴方に跪くと思ったら大間違いだっ!!!」


漆黒の掌底がアデレードに突き刺さる。

今日一番の威力を叩きだし、さしもの美姫も押し出され一旦後ろに下がる。

そして美羽は、完全な決着をつけるべく新たな顕現を発動する。



『因果率崩壊――論理崩壊――術理式崩壊――万有秩序崩壊。

されば残るは五濁悪世(ごぢょくあくせ)群生海(ぐんじょうかい)

いざ出で参れ、底の淵より黄泉のそら



最短で唱えられる詠唱。顕現の本質を捉え、さらなる力を引き出すパスワード。

言葉は地獄の深淵に繋がり、悪の片翼をこの世に呼び出す。



『顕現――悪想零落(アカ・マナフ)



次回、悪想に零落する

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