第十九話 密談
前回、戦闘指南
「アラディアさん! 恋愛のコツを教えてください!!」
桃花に訪れた私――黒雲美羽は、二階のソファーに座ってるアラディアさんに、開口一番そう言った。
アラディアさんは何かの紙面を見ていたその目をこちらに向ける。
蛍はご家族と他県へ旅行中。けどそれも数日。聞くとしたら今しかない。
「どうした、藪から棒に」
「私と蛍、付き合うことになったんです」
「ああ、やっとか。それで?」
「あ、ノーリアクションですか。
まあいいです。それで、この前デートして気付いたんですけど、なんか蛍の様子がおかしいなって。
手を繋ごうとしても必要以上に私と触れようとしないというか、触れても恐る恐るというか」
「そりゃあお前、デート初日で意識してる異性相手にベタベタ触るなんざ、そんな肝が蛍にあるとでも思ってんのか?」
「ないです。けれど、それを考慮してもなんかよそよそしいなって。
デート自体は上手くいったんですけど、それが私の中でもやもやっとしてて」
「ふぅん、それで俺に相談、ね。
・・・・・・つうかなんで俺? お前の学校に順風満帆な青春送ってる奴らなんざいくらでもいるだろ」
「親しい友達一人くらいしかいませんし、なによりアラディアさん桃花で唯一の既婚者じゃないですか!
どうやって奥さんと知り合ったとか、告白とかデートとか、色々知りたいです」
そう。目を疑う話だが、アラディアさんは結婚している。
奥さんと娘であるエヴァちゃん。2人はニライカナイにいるが、アラディアさんは1人葦の国にいる。
だから当然、そこに至るまでの経緯もあるわけで、私はそれを知りたい。
「既婚者つってもなぁ・・・・・・。
『おい、結婚するぞ』って俺が呼びかけて『ああ、分かった』ってあいつが返したくらいだぜ」
「ええ!? そんな20文字にも満たない呼びかけと返答で結婚したんですか!!?」
「20文字ってお前な。その言葉と言葉の間に小説四冊分の心情描写が入るんだよ」
「へ、へえ、そうなんですか。
じゃあデートはしたんですよね?」
「ああ、一緒に顕現者のコミュニティを潰し回ったり、新魔術の試運転でニライカナイを三割吹き飛ばしたり、
あと時間を見つけては殺し合ってたな。俺と同格の魔術師で、何回殺そうが俺と同じく不死身なんだよ」
「・・・・・・はは」
うん。喧嘩するほど仲が良いってことなんだきっと。そう信じよう。
けど私の思考を当然のように見抜いたアラディアさんは、話題を変える。
「喧嘩するほど仲が良い、か。
お前らは喧嘩したことあんのか?」
「いいえ、ありませんね。
些細な行き違いは4、5回ありましたけど、必ず蛍の方から謝ってました。
喧嘩とか、そういうのはこれまで一度も・・・・・」
「ない、と。まあいい。平和が一番かもな。
『喧嘩するほど仲が良い』なんて言葉も、あてはまる奴と当てはまらない奴がいる。お前らは後者なんだろう。
だが、確かに蛍は奥手だな」
「アラディアさんも、そう感じますか?」
「ああ。つうかあいつの自己肯定感の無さから容易に分かるだろ。
過去のことがいつまでも頭をよぎるのか、結果的に余計な事をしてしまう星の巡りゆえか。
咎人の粛正だって常にお前を立てて、怪我でもしたら顔面蒼白になって叫ぶだろ?
自分から進言することはなく、可能な限り他者に黙従する。
高校でもそうじゃないのか?」
「・・・・・・・」
確かにその通りだ。カナや私の意見に、蛍は嫌な顔一つすることなく付き従う。
するとこちらが不信がってしまうのだ。
いつもニコニコして従ってくれるけど、どうしてここまで面従するのだろうと、時々自我があることすら疑うくらい。
「ともかく、あいつのお前への接し方はまるで蝶よ花よだな。
見て愛でるなら問題ないが、触るとなると抵抗が湧く。
あいつにとって超高価な宝石みたいなもんだよお前は。
輝きすぎて見ることができない。貴すぎて触れられない。
それで問題がないのなら別に構わないが、彼女がそれで俺に相談するんならな~」
「どうすれば、いいんでしょうか」
「じゃあ聞くが、お前は蛍ともっと触れあいたいんだな?」
直球なその言葉に、私は少し口籠もりしながら肯定する。
「え、ええ。そりゃあ付き合ってますから」
「手を繋いだり、キスしたりしたいと」
「・・・・・はい」
「そこから発展してR-18的な―」
「あ、アラディアさん!! そこから先は駄目です!!! 色々問題があります!!!」
その先を言わせまいと、急いでアラディアさんの口を塞ぐ。
反対にアラディアさんは、なんだよと不満げに目を細める。
「恥ずかしがるなよ。お前も思春期ならそれっぽいことは考えてんだろ?
性を否定することは生命の否定と同義だ。ま、お前が遁世したガリガリの仙人でも目指すんなら話は違うがな。
人間も動物の一種ならエロいことしたいってのは当然の思考だろ。
いつまでも巷からエロ本がなくならねぇのがその最たる証拠じゃねぇか」
「・・・・・そ、そうですね」
アラディアさんが最後小声で、『だから進化スピード蝿以下なんだよ』と言ったのは聞かなかったことにしよう。
「話を戻すが、お前は今の関係を改善して、さらに一歩踏み出したいと」
「はい。そのためにアドバイスを貰えたらと思って」
「つってもな、恋愛なんぞ魔術で使う程度しか知らねぇし。
ここは一度、蛍のことを整理しなおす必要がある。どうしていいかわからねぇなら基本を行け、だ」
「はい」
その提案に納得する。相手を知ること。これは恋愛において基本で、何よりも重要なことだ。
「蛍について、まずあいつの行動原理、その最上位にお前がいる。
あいつはお前のためなら120%でも15000%でも限界を超えるが、逆にお前が理由にならなきゃまじで使えない。
エンケパロスの時もそうだったな。今だから言えるがあん時のあいつの動きまじでひどかったからな?
隙は晒すわ、動揺しまくるわ、お前がいない時の戦術に切り替えられねぇわ。俺も店長も思わず渇いた笑いがこみ上げたよ」
「そんなにひどかったんですか・・・・・・」
「ああ、確信したよ。横に、あるいは心の中にお前がいねえとこいつは駄目だって。
ま、ようはあいつの中でお前がそれだけ大事だってことだ。よかったじゃねぇか」
「で、ですけど、常識的に考えて他者依存的な関係は―」
「常識なんざどうでもいいだろうが逃げ口に使うなよ」
私の言葉に、アラディアさんは今日一番の不快な顔を見せた。
眠たそうな目は一点して睨み付けるものに変わる。あれ、地雷踏んだかな。
「自分がそれに合わなかったら、そんなもんいくらでも捨てりゃあいい。
重要なのは自分と相手がどうありたいかの探索とその試行錯誤。
それを人に理解されるかどうかのくだらない枠に押し込むな。不幸にしかならないぞ」
でも最後の言葉から、アラディアさんなりに私を慮っての発言だということは分かった。
「お前は今言ったな。『他者依存的な関係は』。その次に続く言葉は『よくない』だろう。
なら聞くが、それのどこが悪い?」
「相手に迷惑をかけちゃいます。どころか自分にまで」
「本当にそうか? 蛍なら喜んでお前に尽くすだろうし、お前もお姫様気分になれて嬉しいんじゃないか?」
「・・・・・・でも、そうなったとしてもきっと、愛し合ってるとか、そう言うんじゃないと思います」
「なら恋人ってのは愛してあってなきゃ駄目なのか?
一緒にいることによって生じる不平、怒り、悲しみ、その他諸々。それらは全て目をつぶって無視しろと?」
「無視するなんて言ってません。
でも、ええと、その・・・・・・・・・・」
言葉が出ない。なんて言ったらいいのか悩む。
数秒経って結局何も思いつかなかったから、不平を含めてアラディアさんを見る。
「アラディアさんは懐疑主義者なんですか?」
「違えよ。一つの方法として使ってるだけだ。
あと簡単に人にレッテルを貼るんじゃねぇ。舐めてるぞ」
なるべく個人を個人として見ろ。そうアラディアさんは付け足す。
「ともかくこうやって疑問を重ねていけば、自分が無意識に受容してるものが、実は何の論拠もないスカスカで空っぽのものだって分かるだろう?
それは全ての事柄に言える。テレビや漫画見て、愛や勇気が素晴らしいなんて言えなくなってくる」
「けど、例えそうだとしても、人は何らかの足場がないと立ってられないと思います」
「ああ、そうだ。その通り。
その足場は、例えば神。例えば哲学。例えば価値観。例えば自分。色んな言葉で呼ばれている。
例え無意味だとしても、俺たちはいずれかを選びとることになる」
つまり、本質的には無意味であっても、自分の足場を自分で創る必要がある。
「自分だけの道を、自分だけの幸福を、求めるのは産まれた魂として当然のことだろう。
色も形も八百万なんだから、違いがあるのは当然だ。
自分の確固たる足場を見つけて、それを歩む。それが生きるってことじゃねぇのか?」
アラディアさんの講義は続く。私はいつの間にかソファーに座って、その口から紡がれる流暢な言葉を真剣に聞き取っていた。
「どんな主義主張意見哲学も、上から見れば全体の一部に過ぎず、長い歴史の中では『ああ、そんなものもあったんだな』程度のものでしかない。
何もかも変わる。移ろって色あせて死んで産まれて、その繰り返し。
それは形あるものも形ないものも、世界そのものだって例外じゃない。
だからこそ、これだけは変わっちゃいけないってものを胸に持ち続けるんだよ。
・・・・・・まあ、これも俺なりの答えでしかないがな」
答えの数も八百万だと、天を仰ぐアラディアさん。
予防線を張るなんてアラディアさんらしくない。疑問を抱えながらも、私はその言葉に同意する。
そしたら、アラディアさんは何かを思い出したかのように、
「恋愛のコツ、だったな。
そうだな・・・・・・。
美羽、お前個人の意見を蛍に言うのなら別に構わない。正しく人と人との会話なら俺は別に何も言わない。
だが常識とやらを蛍に押しつけるなよ」
「わかりました」
アラディアさんの言葉を胸に刻み込む。
色々話してくれたが、結局言いたいことは、自分たちなりの愛を見つけろと言うことだ。
それが世間から見ておかしいと思われても、全人類から嗤われても。
自分たちが幸せならそれでいいんだと、私達が笑えればいい。
納得し、なんやかんや言いながらもアドバイスしてくれたアラディアさんに感謝―
してた時、ソファーに背を任せていたアラディアさんが、思いついたかのように言った。
「そもそもお前、本当にあいつと触れあいたいと、心の底から思ってるのか?」
「・・・・・・どういう意味ですか」
質問の意図が分からないようで、けどどこか図星を突かれたようでもあって。
私の足は、思わず半歩下がっていた。
「美羽、腕を出せ」
「え? は、はい」
そんな私を逃がさないように、アラディアさんは腕をよこせと言う。
近づいて、言われたとおり右腕を出す。
アラディアさんは何を思ったのか私の手首を取り、そのままゴキンと肩からもぎ取った。
右半身が軽くなる。走る激痛はもはや慣れて何も感じない。
右腕が分離する。血は流れない。そのすぐ後に黒い粒子が集まり、新たな私の右腕を構成する。
採寸違わず、元の右腕になった。
けど、それは別に問題じゃない。
むしろ問題があるのは、分離した腕の方で・・・・・・。
アラディアさんは私の右腕を見て、皮膚を切ったり断面に触れたりする。
断面から溢れた血を、自分の手に垂らした。
ジュワッ!! と、アラディアさんの手に落ちた血が蒸気を上げた。
同時に撒き散らされる、硫黄なんて比べものにもならないほど強烈な、即死レベルの悪臭。激臭。
立ち上る有害な煙は、この世のものとは思えない色をしていた。
アラディアさんはそれに目を細め、解説する。
「強酸性の血。触れれば手が腐り落ちる肉。
ブルーワズなんざ目じゃない毒性。血が循環するように体内を巡る数億の呪い。
平時でこれか。そしてお前自身は病の巣窟で、常人が触れたら即死は確定だろうな。
その皮膚の下は腐汁と腐肉の塊か」
「・・・・・コントロールはできてます」
「当然だ。そうなるように俺が教えたんだから」
そう言って、アラディアさんは私の腕を握り潰し、粒子レベルに分解した。
そう。そうなのだ。
体の異常。それは、最近になって感じていたこと。
時期としてはファルファレナ粛正前日だろうか。
あの日は明日のことに頭を使っていたから深く考える余地はなかったが、あの日以来自分の体調の変化に悩まされている。
血は劇毒。肉は腐り、骨は固形状の酸。
肉体の内に渦巻く病。呪い。この世を呑み込んで余りあるその呪詛。
この体を流れるたった一滴が、この小さな惑星を終わらせるに等しい毒なのだから。
自分の血が、肉が、体液が、腐り爛れて呪われ毒となる。
自分の体がだんだんと、着実におかしくなっていく。
全身腐ってる。全身呪われてる。全身病に冒され、全身毒で染まってる。
この世の何よりも穢らわしいものに成り果てている。
仮にも乙女として、いいや、人として。
これを怖いと、恐ろしいと思えない者は、きっと狂ってる。
だから、私はきっと狂ってるんだ。
腕をもげば、その断面図には緑と黄と紫と黒の、禍々しくグロテスクな腐肉と腐汁が顔を覗かせる。
この腹を割けば、嘔吐物すら清水に思える程に変色した体液と腐敗した内臓がそこにある。
涙なんて流せば、きっとタールのようにドロドロとした、形容もできない何かが垂れ流されるのだろう。
けど、それに嫌悪感を持つことはなかった。
むしろこの形こそが正しい在り方であるかのように、私の体と思考に馴染んでいる。
腐っているのに、喜ばしい。呪われているのに、安心する。
お誂え向きの身体だと、私の魂が赤子のように笑っている。
「これは、どういう理由でこうなってるんでしょうか」
「簡単だ。蛍は霊格が高まるたびに髪が白くなっていったろ。あれと同じだ。
過去に行った所業や性向性格等々が、自分自身の色や属性を定め、最終的に確固とした世界観が作られる。その副次効果だ」
「つまり、私の性格がこうなるくらい酷いってわけですよね。
私ってそんな性悪女なんですか?」
「さあ、確かに謎だな。
お前以上に他者を殺して、性格もねじ曲がってる奴なんて腐るほどいる。
それでもこうはならないんだがな」
頭を捻るアラディアさん。けどその瞳は何かを見透かしているようでもあり、真偽の程は分からない。
これ以上の質問は無意味。なので私は思考する。
私自身は納得しているけど、それを他者に見せられるかどうかは話は別。
特に蛍。彼には、彼だけには知られたくない。
アラディアさんの言った通り、私の体は蛆すら湧かない腐汁と腐肉の塊。
そんな人が彼女? そんなの・・・・・・。
目を伏せる私に、対面からアラディアさんの嗤い声が浴びせられた。
「はっ、滑稽じゃねぇか。
蛍の奴は大切すぎてお前に触れられず。
そんでお前は体が腐っているんで触れられない。本末転倒だ。
なるほど、他のカップルが参考になんねぇはずだよ。俺に相談してくるのもうなずける」
「うぅ・・・・・・意地悪言わないでくださいよ」
私はひどく困ってるのに、アラディアさんは意地の悪い笑みを浮かべる。
クククと悪役のように笑って、それから突然真顔になり、顔を近づかせてこう言った。
「美羽。蛍の前でそれを見せちまえ」
「え?」
いや、何言ってるんですか貴方?
こんなもの見せられるわけが――。
「それを決めるのは俺でもお前でもなく蛍だ。
さっきも言ったろ。常識とやらを蛍に押しつけるなと。
お前の予想通りに蛍が動く保障なんてどこにもない。
悩みや不安があるならぶちまけちまえ。抱えててもお前が無駄に悩むだけだ。
それで終わっちまうようなやわな関係じゃねぇだろ、お前達は」
その言葉に反論できず、私は押し黙り、考える。
確かにその通り。一番最悪なのは答えの出ない問答に嵌まり、負のループに陥ること。
ならば答えを出すのが最も手っ取り早い。私の場合、自分の身体はこうなっていると蛍に見せること。
だけど、それ以上に、蛍に拒絶されたくない。その思いが強いのも確か。
だって、どう思う? 自分の彼女の中身がドロドロでグチャグチャでベチャベチャだったら。
触れあいたいか? キスしたいか?
・・・・・・・。
私が悩んでいると、またもアラディアさんが話しかけた。
「そんな悩むもんでもねぇだろ。顕現者は形は違えど全員狂ってる。
それは蛍も同じだ。あいつだけ常識人枠だなんてあるわけねぇだろ」
「むっ、蛍は良識的です。優しいし、理にかなった事を言ってくれます。
どこを見て狂ってると言うんですか?」
思わず、自分でも驚くほど熱が篭もってたと思う。
自分の彼氏を悪く言われて、腹が立たない彼女はいない。少なくとも私はそう思って、だからこその抗議の言葉。
だがアラディアさんは、怪訝な目をするだけ。
「そうか? 蛍の奴羊の面被ってるだけで、あれでけっこう腹黒だぞ。
仮にお前がナンパでもされたもんなら、そいつの住所特定して放火するくらい普通にやると思うがな」
「ほ、蛍はそんなことしませんっ!!」
「ああ、そうだな。訂正するわ。
全人類から男を皆殺しにするだろうな」
「だから、しませんって!!!」
「どうだかな。お前の眼には蛍が清廉潔白に見えるだけかもしれないぞ」
アラディアさんの目にはどれだけ蛍が極悪人物に見えているんだ。
そりゃあ咎人を粛正する都合上、誰かを殺すことに躊躇いなんてないけど、
それでも最低限の良識は持ってる。
今、自分たちを3次元上に押し込んでいるのがその最たる証拠。
本来の力の一端でも漏れ出せば、こんな狭い宇宙一瞬で終わる。
「まあいい。何はともかく一度蛍と会え。
そうすればあいつの本性が分かる」
言葉が終わると同時に、アラディアさんが微かに笑った。
その理由を問うと、愉快そうに答えた。
「いや、お前が俺に噛みつくとはな。
初めてじゃないか? ははっ。
よほど蛍が好きなんだな。あるいは階位が近づいて俺が怖くなくなったのか。どちらにせよ喜ばしいことだよ」
「なぜですか?」
「俺の言葉を受け取るだけだったお前が、いつの間にかタメを張ってきやがった。
これが喜ばしい以外の、どんな感情で表現すればいい?
押しつけるわけじゃないが、いつか娘ともそんな、口論の一つでもできればな」
「エヴァちゃんとですか?
そうなったらアラディアさん、絶対泣き崩れると思います。
そうじゃなかったら椅子に座って、『考える人』みたくなんでこうなったかな~って、一週間くらい悩むと思います」
「はははっ、かもな」
怒られると思ったけど、その予想は弾ける笑いによって裏切られた。
家族が絡むと、普段とは違う一面を見せるアラディアさん。
それを羨ましいと思う。奥さんを、エヴァちゃんを愛してるって分かるから。
その後も会話は続く。有力なアドバイスも聞けた。
『時に強引に迫るのもありだ。蛍みたいに奥手な奴にはな。
だから二次元で空から女の子が降ってきて、振り回される形で主人公が活躍するラノベがあるんだろ?』
『愛は征服でも支配でもない。互いを認め合う作業だ。
前者をするくらいなら洗脳でもしちまった方が速いはずだ』
『キスしたいのならな。
一回しちまえば、後は数を重ねる度にそれをするハードルは低くなる。
強引に蛍の唇でも奪ってやれ』
そして、その日は幕を閉じた。
次回、果たして彼は・・・・・・




