第十八話 稽古
前回、天使も天使で大変です
とある日。
美羽と蛍は、アラディア製のスライム、その内部で手合わせを行っていた。
夏休み中は粛正仕事がない。それは確かだが、別に来るなとは言われていない。
戦闘の感覚を忘れないために、そして新たな戦術を試すために、二人は時々スライムを利用している。
スライムが激しく脈打つ。
内部では二人の手合わせにより、天地の創造と破壊が刹那の間に幾億幾兆の回数繰り広げられる。
破壊の腕が唸れば、触れた箇所は有形無形問わず破壊され、余波で那由多の多元宇宙が消え去っていく。
創造の神剣が振われれば、再生不可能な破壊であろうがその事実を覆され、切断すれば対象を根本から創り変える。
一発一発が必中。空間を超えて到来する必殺を、二人は弾き、いなし、防ぎ、反撃を狙い、相手の攻撃を利用してカウンターを行う。
結果限界知らずに膨れ上がる力の場。
古代の呪術合戦が、相手が送ってきた呪いに自らの呪いを上乗せしそれを返礼する、いわば相手と自分との協力技であるのと同じく。
美羽と蛍が相手の攻撃に自分の全霊を上乗せし、相手に返す作業もそれと似ていた。
いわば爆弾の押し付け合い。しかも二人ともその爆弾をプロ野球の剛速球並の速さで投げている。
速く爆発しろと、一球一球に万感の想いを込めて投擲を繰り返す。
処理能力を超え、爆弾をキャッチできなかったらその時点で終わり。
肉体も魂も、爆発したかのように四散するのみ。
無論、その程度で死ぬ二人ではないが、それでも一瞬隙は生まれる。
その時に自分の切り札を叩き込むのだと、二人の高度な駆け引きを数十時間は繰り広げていた。
膨れ上がる力場。それは一匹の動物のように、荒れ狂いながらのたうちまわり、空間内に破壊をもたらす。
いかにアラディア製のスライムとはいえ、このままでは二人の戦闘に耐えられそうにない。
(あの時と比べて成長したもんだ。
いや、これは成長と呼ぶよりも――)
その様を、アラディアは壁にもたれかかりながら見ていた。
二人はその存在に気付いていない。音も熱も気配も感じさせないアラディアが使用する穏形の術を破るなど、第六感をどれだけ研ぎ澄ましても不可能。
スライムの異常を察知して内部に入り、二人の様子を観察していた彼は、複雑な心境を伴って思考する。
(まさか、こいつらがな・・・・・・)
アラディアは立ち上がり、指鉄砲を形作って、戦闘中の二人に向ける。
ガンド魔術。魔術師ならば誰もが知っている基本の魔術であり、それゆえ多くの者が使用する。
指の先から放たれる呪いは、打たれた人間を心臓麻痺に陥らせることはできるだろう。
だがそれは凡百の魔術師の話であり、魔術王たる彼がそれを使用すれば、
ドッッ!! と、荒れ狂う力場をかき消し、一度に二人を千は滅殺出来るほどの魔術弾丸となる。
「「!!」」
突然の事態に、二人の動きは止まり、弾丸が飛んできた方向を見る。
アラディアの姿を認識し、なぜ横槍を入れたのかと視線で尋ねる。
「おい、お前ら」
それに対し、アラディアは二人に歩き寄りながら答える。
「丁度いい。久しぶりに俺が稽古をつけてやるよ。
二対一でいいからかかってこい」
突然の申し出に、僕たちは思わず固まった。
なんだって? アラディアさんが稽古をつけてくれるって?
嬉しい反面、一体どうすればいいものか悩む。
「あ、アラディアさんが、ですか?」
「なんだ? 不服か?」
「いえ! 違います!
その、なんていうか、アラディアさんに刃を向けた瞬間にミンチにされそうっていうか・・・・・・」
アラディアさんは桃花最強の実力を誇る。
魔術を極めた魔術王。ファルファレナとの戦闘では、結局アラディアさんだけは無傷を保ち、その笑みが崩れることはなかった。
同じ位階に上り詰めたとはいえ、いまだに勝てるイメージが全然できない。
加えて、僕たちは特訓と称してアラディアさん(とその人形たち)に過酷な拷問を受けたことがある。
学習性絶望感。とある犬を使った実験では、逃げることもできない理不尽な環境に置かれると、抵抗しても無駄だと学習し、その環境から逃れようとしなくなるらしい。
どうしようもならない現実を前にしたら、人は抵抗することも抗うことも止めて、その現状に甘んじてしまう。
自分たちはそれに近い経験をした。あの、ただ陰惨に殺され続ける地獄を。
だからその影響も相まり、余計にアラディアさんに敵うとは思えないんだ。
「稽古つってんだろ。俺が本気だすわけねぇだろうが。
おまえらはいつも通り殺すつもりでかかってくればいいんだよ」
「・・・・・・負けたら拷問メニュー追加とか言いませんよね?」
「てめえは俺を何だと思ってんだ」
とは言われても、やばい人としか形容できない。
僕も美羽も、「えぇ、ほんとにやるんですか?」という雰囲気を限界まで醸し出す。
「どうしても確認したいことがあるんだよ。ついでにお前らがどこまで――」
アラディアさんの会話が途切れた。
瞬きをした瞬間に、その顔ナノメートル先にまで、僕と美羽が黒腕と長刀を突きつけたからだ。
吹き荒れる突風すら切り裂いて、完全に同タイミングで放たれた二発の必殺。
遠慮なし。加減もなし。鏖殺してやると万感の想いを込める。
過去の所業を思い出し、特訓とはいえよくもあんなことしやがったなこの野郎と、私怨も含めた全てをぶつける。
同時に発生する破壊と創造。直撃すれば熾天使でさえ葬る御腕と神剣。
「いいぞ。不意を狙えって言ったのは俺だからな。
しっかり守ってるのは褒めてやるよ」
遠く、自分たちの後方100メートル先に立っているアラディアさん。
ナノメートル先にまで迫っていた僕たちの攻撃を避けた。あるいは何らかの方法で対処した。
何をしたのかは分からないが、当たらなかったのは事実。
振り向きざまに斬撃と爪を振るって、周囲に破壊の嵐を巻き起こす。
協力意思を発動させた僕たちの一撃は、二人の霊格が乗りさらに相性も合わさって、平時の数十倍から数百倍の威力をたたき出す。
そんな一撃が横から降り注ぐ雨のように、無数の弾幕となってアラディアさんに押し寄せる。
「はっ、息がぴったりすぎるのも問題だな。
どっちかの動きを見るだけで簡単に次の動きが予想できるぞ~」
壁と形容して間違いない密度に対して、アラディアさんは手から水を生み出した。
ほんの数㎝大の、水の球体。
それがアラディアさんの手から離れた瞬間に、
押し寄せる津波の如き斬撃と爪の衝撃が、一斉にその姿を消した。
ジグザグと神速の鋭角運動をする水球が、億を超えるそれらを一つも残さず、横から貫通してかき消したんだ。
(っ、まじか・・・・)
二人の協力意思が乗った全力を、あんな簡単な魔術で。
僕たちとアラディアさんの間に差が開いていることは分かっていたが、こうも通じないものなのかと驚愕する。
アラディアさんは魔術を極めた者。曰く世界に三人いる魔術王の一人であり、その行使する魔術は全てを表現するのだとか。
それがどういうことを意味するのかは今でも分からない。
だが驚いてばかりはいられない。
驚愕を刹那の内に沈め、次に僕が選んだのは遠距離の武器。
左手に現われる、神聖な白いショットガンが現われる。
周囲から霊子、エーテルなどと言った架空粒子を吸収。
無尽蔵に集めたその引き金を、僕と美羽が引く。
これはアラディアさんにも見せていない。即座の対応は無理なはずだ。
「ケラウノス・オーベルテューレ!!!」
雷鳴と共に、三つの銃口から放たれる弾丸。
霊魂を砕くことに特化した三つの銃弾が、構えを取っていないアラディアさんに向かって突き進む。
「雷霆・・・・・・そして悪魔の発明品・・・・・・。
なるほど、そういうことか。自覚はしてないだろうが、なかなか面白い発想するじゃねぇか」
アラディアさんにしては珍しく、純粋な感想を口にした。
何がそんなに気に入ったのか疑問に思ったのも一瞬。
アラディアさんは何事もなく、物理概念を超越し迫る三つの弾丸をパシッと掴み取る。
「だが、まだ魔術初心者だな。基本を完全には理解してない」
掴み取った弾丸を僕たちに見せ、それを握り潰す。
変化があったのは僕が左手に持つショットガン。
バキッと、総身に罅が走り砕けて、200以上の破片となった。
「なっ」
「遠距離からちまちま攻撃してりゃあ大丈夫だと思うなよ。
感染魔術を思い出せ」
その言葉を聞いてハッとする。
そうだ。感染魔術は一度接触したもの、あるいは一つであったもの同士は、離れていても影響を及ぼし合う原理に基づく魔術。
分かりやすい例を挙げると、呪いたい相手の髪の毛を藁人形に入れて、それを釘で打ち付けることで呪う丑の刻参りがある。もっとも、あれには類感魔術の意味合いもあるけど。
アラディアさんがしたことは、元々はショットガンに付属していた銃弾を握り潰すことで、大本であるショットガンに影響を及ぼし破壊したというわけだ。
それが意味することは一つ。
遠距離からの攻撃は通用しない。僕が斬撃を飛ばしても、アラディアさんは容易くそれを掴み、そして感染魔術を使用して長剣を壊すだろう。
どころか僕が創造した武器を壊されたら、僕の思考や想像にそのダメージがフィードバックする可能性すらある。
アラディアさんはそれを軽々と行ったが、そんなことまず熾天使でさえできはしない。
僕が同じことをしろと言われても即座に無理と言えるレベルの神業。それを息を吐くかの如く成し遂げるのは、さすがとしか言いようがない。
なんにせよ、これで接近戦をしかけざるを得なくなった。
僕と美羽は思考で会話し、アラディアさんの前と後ろから挟み込むように剣と腕を振り下ろす。
回避不可能。即死不可避の二つの顕現。
しかし目の前の魔術師にそれはあてはまらない。
全てを表現する彼は、回避不可能を回避し、即死不可避を耐える荒技を表現する。
僕たちと違い、アラディアさんは防壁の一つも展開していない。
それはファルファレナのように、むしろ自分が傷ついた方が都合が良いというわけでもない。
そこにあるのは単純な実力差。
こいつら相手に防壁の一つも展開するなどあまりにも可哀想だという意図が、その無機質な瞳から読み取れる。
だから空間を超越する僕たちの剣や腕はアラディアさんに届くはずなのだが、どんな魔術を使ったのか彼はそれを回避する。
触れられない。次元も時間も空間の入れ物を超越した僕たちが、それでも届かない高みにいる。
「顕現 穢る暴風破壊の侵犯」
ならばこれはどうだと、至近距離で浸蝕の顕現が炸裂した。
噴き出る猛独。侵す黒紫のマーブル模様。
座標を埋め尽くし、波動が輝きを喰らう。
掠っただけでも全身に広がり、艱難辛苦を発症させる黒津波。
美羽を中心に発生し、空間を塗り潰すこの顕現は攻防一体。
この空間に触れれば自己法則ごと塗り潰される。かといって距離をあけていてもいずれ黒い波は相手を飲み込む。
発動するだけで利点しかない顕現だが、アラディアさんを前に一つ難点をあげるとしたら、触れない限り効果が発揮しないこと。
黒一色の空間に包まれたのに、アラディアさんは動じない。
むしろ、
「っ!!」
苦悶の表情を浮かべたのは美羽。
浸蝕の顕現が後退、いや、押され出した。
何に?
答えはすぐに分かった。
呼気、視線、念波、気。
そういった微細な、されど強大すぎるアラディアさんの付属物。
それと黒紫の波動がぶつかった結果、美羽が押し負けている。
空間を占領した黒が、徐々に美羽に収束し、やがて零に。
とうとう魔術すら使わずに顕現を征してしまった。
だが口を開けて呆ける時間はない。
こうなったら出し惜しみはなしだと、僕と美羽は最強の切り札を切る。
「開け、不浄門」
「アイン・ソフ・オウル――起動」
美羽の周囲に、衛星のように浮かび上がり軌道を描く魔的な記号群。
それはシジル。霊体が無事、美羽の身に呼び出された証拠。
そして竜の骸を纏う僕。
理性が飲み込まれそうになるほど暴走する獣性。産み出される無量光。
背中から噴き出す血色の翼。同時に口を覆うマスク。鋭く尖る手足の爪。まるで竜体そのものへと変化する。
無数の権能を発動する美羽。力のままに剣を振るう僕。
羽化したファルファレナとさえ互角に渡り合うことを可能にした、僕たちの奥義を前に、アラディアさんはただ一瞥して、
「え?」
突如、ガクンと失速し地に落ちる美羽。
勢いよく地面にたたきつけられ、周囲に浮遊していたシジルも軒並み消滅する。
疑問を浮かべる僕と美羽に対して、アラディアさんは解説した。
「ある道を極めた奴は、その概念を自分のものに、自分の支配下に置くことができる。
今俺がしていることもそう。魔術というカテゴリーそのものを支配下において、お前らにその使用を禁じた」
自分の色が、自分の属性が、限界まで高まった結果生じる現象。
神が天を治め、地を統べ、万物を司るように。
その道のプロ。極限に至った者は世界からその概念を奪い取り、自らがそれに成り代わることさえ可能にする。
それがアラディアさんの場合魔術。
アラディアさんが認可しない限り、この世の誰も魔術を使用できない。
だから美羽の不浄門も、それが魔術の一種であるのなら強制的に使用不能にする。
「まあ、最低限俺並みにならねぇとできないがな」
そう付け加えるアラディアさんの懐に潜り、良いことを聞いたと思いながらも勢い良く剣を振り下ろす。
今の僕は魔術による補助・補強を一切失っているが、それでも溢れ出るこの力は平時と比べものにならない。
例え葦の国にある全物質が前にそびえようが、緑々と鼓動する白翼の剣は紙のように切り裂くだろう。
「そんで、お前は偽物から竜か」
ピンと、アラディアさんが人差し指を弾いた。
ただそれだけで長剣を押し返し、砲弾を至近距離で浴びたような衝撃が、僕を遙か後方の壁に衝突させる。
穴を空ける壁。崩れ落ちながら、『アラディアさんの人差し指>僕の全力』という構図に愕然とする。
「ぐっぅ、あァァア!!!」
それでも再び疾走し、持てる限りの全てをたたきつける。
赤く染まった爪が人体急所を残らず狙い穿つ。
光明を携えた神剣が様々な角度から打ち込まれる。
翼が空間を切り裂きながら、天から断頭台のように振り下ろされる。
マシンガンの速射を遙か上回る速度と密度。
そこに僕の想造が加わり、さらなる推進力を得る。
現時点で引き出せる最高。限界の限界まで突破し続ける。
「まだ完全には使いこなせてないようだな。
顕現や魔術と違うそれは、いわば自分の魂と結びついた固有の性質。個人の能力。
自分の人生の軌跡、俗に言う功績や歴史が昇華したもの。あるいは属性か。
形は違えど自分の魂そのものだ」
嵐を超える連撃の中で、アラディアさんの流暢な言葉は水のように心に染み入り、僕の意識に関係なく記憶に書き込まれる。
四方からの迫撃など全く応えてない。魔術すら使わず最短の動きで回避する。
どうやら僕の想像する魔術師という概念像には、アラディアさんは一切当てはまらないらしい。
戦列に加わるとしたら後方。そこから仲間の支援や援助、遠距離攻撃などを行うイメージ。
ゲームでもそう。剣や鎚などの武器を持って前線に立つということはあまりない。
それゆえ物理的な頑強さはない。そんな位置づけ。
では目の前の魔術師はなんなんだ。
指一本で僕の全力を凌駕し、得意の魔術を使わず僕の攻撃を余裕で躱し、その中で息切れすることなく講釈すらできる。
僕とアラディアさんの間には、一体どれほどの力の溝が開いているのか。
きっとマリアナ海溝よりも深いんだろうな。
「なるほどな。大体分かってきた」
欠伸を噛み殺しながら、アラディアさんは僕の左手を掴み、ブンと大きく振る。
浮遊する僕の体。視界が回転し、自分が今投げ飛ばされていることだけを理解する。
弾丸のように吹き飛ぶ僕の進路には、今まさに復帰しようとしている美羽の姿があった。
「え、きゃあっ!」
とばっちりを喰らった美羽は、僕と一緒に壁にたたきつけられることになった。
「美羽、ごめん!」
「ううん、大丈夫。蛍こそ怪我ない?」
しっちゃかめっちゃかな姿勢になりながらも、互いの安否を確かめる。
幸いどちらも怪我はない。美羽の肌には切り傷一つない。
その事実に安堵した瞬間に、遠くから声が届いた。
「今日はしまいだ」
終わりを告げる声。
アラディアさんがパチンと、指を鳴らす。
そして発生した現象は、僕にはとても形容が不可能なものだった。
絶対に当たり、絶対に勝利し、絶対に防げず、絶対に抗えず、絶対に回避不可能で、
絶対に理解できず、絶対に表現できず、絶対に再現できず、絶対に無謬で、絶対に超越している。
飛び込んでくる絶対のオンパレード。
世界が有する概念に対して無限に拡張を続けたら、こんなでたらめを説明できるのだろうか。
その無色透明な何かに押し潰されるように、僕たちの意識はそこで消え――
■ ■ ■
「起きろ」
頭上から響く男性の声。
重い瞼を開ける。
まず映ったのは白い光。徐々に輪郭が浮かび上がり、こちらを覗き込んでいるアラディアさんの姿を映す。
ここでようやく、僕は自分が寝転んでいることに気がついた。
体は痺れ、上手く動かせない。感覚がないので、手足がついているのかどうかすら判然としない。
「あの、僕たち五体満足保ってますよね?」
「当然だ。加減はしたんだから」
あれで手加減してたんだ・・・・・・。
結局、アラディアさんが手の内をほとんど見せることはなかった。
けど、全てを表現するアラディアさんの魔術を、一端とはいえ堪能できたと思う。
顔を横に向けると、すやすや寝ている美羽がいる。
こちらも目立った外傷はない。
「蛍」
起き上がって体調を確認していると、アラディアさんが、
「お前はカバラ系統の魔術を学べ。セットでゲマトリアも。
お前に適してるのはそれだ」
カバラというと、ユダヤ教の神秘主義思想だったか。
10個の球と22の小径からなる生命の樹を元にした魔術群。一番有名なのはゴーレムかな。
そしてゲマトリアとは数秘術。言葉を数字に変換し、暗号を解読するように新たな意味を見つけ出すもの。
それが、僕に合っていると。
「美羽にも伝えとけ。
瞑想と精神統一に時間を割け。自己の内面という大海に深く潜行しろ。
見た感じまだまだ開花できる派生顕現がある。あとはそれを自覚するだけだ、ってな」
僕だけでなく、美羽の今後すら指南してくれた。
戦闘の最中に、僕の適正を見抜き、それを教えてくれる。
稽古と最初に言った通りだ。
僕たちのボロ負けだったけど、学べたことはとても多い。
「ありがとうございました」
「ああ、精進しろ」
頭を下げる僕を一瞥もしないで、アラディアさんはスライムの中から立ち去っていった。
さて、僕も美羽が起こしてここを出ようか。
・・・・・・そういえば、
『確認したいことがある』
『大体分かった』
アラディアさんはそう言っていた。
果たして何を確認したくて、そして何が分かったのか。
その答えは結局分からず、僕が美羽が起きてからスライムの内部を出た。
次回、恋の相談




