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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 千紫万紅の夏休み
168/211

第二話 三者面談

前回、恋が芽生える海岸



世間が夏休みに突入してから、数日経ったある日。

桃花の二階。ソファーに座り、本日52杯目の発泡酒を胃に流し込んでいた霞の姿があった。

散乱するビール缶の数々は、こいつそろそろ死ぬんじゃないか? と、見る者に思わせるには充分な量。


それもそのはず。人間は必要以上の水分を摂り過ぎると水中毒を引き起こす恐れがある。

めまいや頭痛、下痢など、酷いときには死に至ることさえある。

一日の適正な水分摂取量は約2.5リットルと言われているが、どう考えても霞が摂取した水分量はそれの倍以上はある。

加えて霞が飲んでいるのは酒。多分にアルコールを含んだ酒。

どう考えても自身の肝臓を殺しにかかってるとしか思えない。



だがそれは常人の話。

常識の内に生きている人間の話。

顕現者である自分には関係のないことだと、霞は52杯目の発泡酒を飲み干した。


別に自棄になっているわけではない。失恋したり、業務が上手くいかなかったストレスからがぶ飲みしているわけではない。

霞は平時でこれだ。

空気を吸うと同時に酒を飲み、何もしなくても酒は飲む。当然、血液含む体液は全てアルコール濃度100%なのは間違いない。

そして53杯目の発泡酒に手を掛けようとした、その時―


「霞さん」


ふと、階段の方から自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

目を向けると、そこには後輩の姿があった。


「あっれ~、美羽ちゃんどしたの~?

確か夏休み中はずっと休んでていいんじゃなかったっけ~?」

「はい。その通りなんですけど、霞さんに頼み事があって来ました」


綺麗な黒髪。端麗な顔立ち。少女の瑞々しい肢体。

桃花の後輩――黒雲美羽は散乱しているビール缶を避けて、霞の元までやってくる。


「私に頼み事~?

それって店長とか天都とかじゃ駄目なの?」

「はい。どうしても霞さんにしか頼めないんです」


美羽が霞に頼み事とは珍しいことだ。

こう言ってはあれだが、霞より頼りになる大人はいる。

戦闘指南であればアラディアや天都が、日々の生活や堅洲国のことであれば店長である否笠が。

だから霞が美羽に与えられることはなく、これまで相談らしい相談もされたことがなかった。

買い物に付き合って欲しいとか、そのへんかな~と霞は思っていたが、



「霞さん、私のお母さんになってくれませんか?」

「・・・・・・お母さん?」



一瞬、酔いも何もかも引っ込んだ。



■ ■ ■



桃花の一階からは、夏の風物詩ブラッドカレーを食した客の、あまりの辛さに絶叫する悲鳴が聞こえてくる。

それをバックコーラスに、ソファーに座った二人は話し始めた。


「はは~ん、にゃるほどね~。

今度三者面談やるから、私にお母さん役をしてもらいたいと」

「はい。霞さんにしか頼めなくて」


三者面談。学生の進路や学校での生活などについて、教師と親が学生を立会人として話し合うもの。美羽や蛍の通っている高校では夏休みの間にそれが行われる。

それに親代わりとして出て欲しい。

なるほど、理由と目的は分かった。

だがその前に、疑問の解消を。


「美羽ちゃんって、学校には家族はいることにしてんの?」

「いいえ。親戚の家に引き取られたって設定にしてます。

けどこれまで先生と会わせた事がなくて、そろそろ怪しまれるかなと思って」

「まぁ、いないもんを連れてくることなんてできないしね」


美羽は中学三年の冬に、家族を咎人に殺されている。

しかしそんなことを世間に公表できるわけもなく、表向きには交通事故で美羽一人を残し全員亡くなったことになっている。

今美羽が住んでいる家も、本来なら親戚と一緒に住んでいることになっている。

少なくとも店長はそうやって話をつけたし、そのように高天原が改変した。


「なら蛍は? あいつの顕現なら親作るなんていくらでも可能でしょ」

「はい。蛍に相談してみたんですけど、蛍がそれを強く否定したんです。

あんなにはっきり『嫌だ』って、久しぶりに聞きました」


蛍の創造とて万能ではない。人間という複雑な思考回路を持つ生物を創造するとなると、どうしてもバグの心配が付きまとう。

さらに、本人は過去の経験からそれに対して強い拒絶反応を示す。つまりトラウマ。

生命に対する冒涜も甚だしいと考えているのだ。いつも弱気な彼がきっぱりと断るのも頷ける。

そこら辺の事情も踏まえ、霞は脳内で展開した人物相関図を折りたたむ。


「ま、妥当な人選だね。

店長は年取りすぎてるし、天都は目つきが鋭くてヤクザかなんかと間違えられるし、アラディアは外国人だし。

かといって集を連れてくわけにもいかないからね~。お兄ちゃんつっても無理あるし」

「はい。ぴったりなのが霞さんくらいしかいなくて」

「ふぅむ、三者面談ね~」


いつもの陽気な表情を消し、顔を曇らせる霞。

だけどそれは一瞬。ほろ酔い気分を取り戻し、美羽の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「しゃ~ない。美羽ちゃんの頼みなら断るわけにもいかないしね~。

明日は久々にまともな服着てきますか~」

「ほんとですか!? ありがとうございます!!」


座っていたソファーから立ち上がり、霞に勢い良く頭を下げる美羽。

「良いの良いの」と言うと、霞は散乱したビール缶を片付けて、準備をすべく自分のマンションに帰った。



■ ■ ■



そして当日。

美羽は待ち合わせ場所である自校の校門で、



・・・・・・人選間違ったかな? と、頭を抱えていた。



自分の知り合いの中で、霞が一番親代わりとして適していた。それは確かだ。

だが、自分の知る霞は平時で酔ってる。

万年アル中で、酒の香気を纏い、千鳥足でふらふら歩く。

そんな人が親って、先生にどう説明すればいいんだろう・・・・・。


まともな服を着てくると本人は言っていたが、それでさえ信憑性はない。

不安の念は時間と共に増大する。



その時、視界の端で、こちらに歩いてくる人影があった。

白いセレモニースーツ。きっちりとした服装に身を纏い、肩に小さい鞄をしょっている。

歩く姿はまるでモデルのよう。スカートの下にはベージュのストッキングをはき、コツコツと控えめにハイヒールを鳴らす。

その人物は、まさか・・・・・



「か、霞、さん?」

「どうしたの美羽? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して。

そんなに私の姿が意外?」


いつもと違い大人びた口調。

言葉にはいつもの酔った雰囲気はなく、本当の母親のような柔らかさが込められている。

纏う匂いは酒気ではなく、鼻腔をくすぐる甘い香水の香り。

霞さんが近くまで寄ってくれば、よりいっそう美々しいその姿を間近で見ることができる。


「それに、()()()じゃなくてお母さんでしょ?」


ハッとして、私は言葉を変える。


「ごめんなさい。お、お母さん」

「ふふ、まだぎこちないけど、まあとりあえずは大丈夫かな。

教室で面談するんでしょ? 案内して」

「はい。あ、うん」


私は霞さんを連れて、学校へと足を運んだ。




三者面談の場所。私が普段通ってる教室に二人で入る。

先に中で待機している先生が、私たちの姿を認識して頭を下げる。


「初めまして、先生。美羽の親戚の、霞と申します。

昨年は出席できず申し訳ありません。

どうしても外せない仕事の都合があったもので」

「初めまして。

お会いできて嬉しいです。どうぞお座りください」


私たちも頭を下げて、先生の勧めがあってから用意された席に座る。

そこから、話が進んだ。


「最近は暑いですね。ニュースでも毎日のように熱中症で倒れている人が増えていると聞いています。

先生方や学生は大丈夫なのでしょうか?」

「お恥ずかしながら、学生が3名、教員が1名熱中症にかかってしまいました。

今年は例年以上に暑いですから」

「それは大変ですね。先生もお気をつけください」


本題に入る前の軽い世間話を挟んで、場の空気を和ませる霞さん。



その後、学校での生活や友人関係、話は進路の方向へ。


「高校卒業後、本人は大学への進学を望んでいます。

美羽さんの成績を考えると、ここらが妥当ではないでしょうか」


そう言って、先生はパソコンを開きいくつかの大学の情報を私たちに見せる。


「ふむ、なるほど。

美羽はどこがいいの?」

「私は、この大学が第一志望です。お母さん」


私が指し示した大学。それは集先輩が通っている大学だった。

正直な話、進路を決める必要は特にない。

現在の時点で生涯生きていけるだけのお金はある。だからお金を求めて仕事をする必要はない。

それに、自分はずっと桃花で働き続けていくのだろうという確信もある。

あそこが一番安全だし、同じ顕現者がいるし、仕事はきついといえばきついけど慣れてきたし。

だから正直進路はどこでもいいのだが、同じ粛正機関の集先輩が通っている大学を選んだ。蛍もそこに行くって言ってたし・・・・・・。



それを知ってか知らずか、霞さんは「ふぅ~ん」と頷く。


「では先生。この大学の詳細をお聞かせください」

「ええ。ここにはうちからも毎年数人は進学しています。

彼等の志望理由書や小論文を――」


大学の話は進み、霞さんはそれをふんふんと興味深そうに聞く。

私は話を振られたらそれに答えながらも、その横顔をずっと見ていた。



■ ■ ■



「いやぁ~、学校行くなんて何っ年ぶりなんだろ。

らしくもなく敬語なんて使っちゃったよ」


学校を出た後、私たちは喫茶店に立ち寄った。

霞さんのおごりで、「何でも頼んで良い」と言ってくれた。

私はそれに感謝しながら、フルーツパフェを頼んだ。

霞さんはコーヒーとサンドイッチを頼み(酒を飲まないことにすっっっっごい違和感がある)、それを食べながら話していた。


「霞さんは大学行ったんですか?」

「行ったよ。東大」

「ふぇ!?」


何気なく呟かれた言葉に、思わず口にしていたスプーンを飲み込みそうになる。

だって、霞さんのイメージとあんまりにもかけ離れた大学名が出てきたから。


「東大? 東大行ったんですか?」

「うん。といっても学生の時は夢なんて全然無かったから、とりあえずでそこに決めたね。

東大行っとけば就職先もたくさんあるだろって思ってたから」


とりあえず? とりあえずで東大って行けるの?

自分とは別次元の思考に、目をパチクリ。


「・・・・ちなみにですけど、高校時代の偏差値って聞いてもいいですか?」

「偏差値?ど~だっけかな~。

70、75は当たり前として、時々80は取ってたかな」

「・・・・・・・」

「あ、もちろん顕現者になる前ね。

前この話した時、集にそれ疑われたんだよね」

「そ、そうなんですか」


呆然としながら、この人は一体何を言っているんだろう? と、脳内で霞さんの言葉を反芻(はんすう)する。

偏差値80ってなに? どうやったらとれるのそれ?

この人顕現者になる前から超人だったの?


「霞さんって頭良いんですね」

「まさか。あんなぺらっぺらの紙切れで何が分かるっつう話ですよ。

むしろ私テストなんて嫌いだったよ? それで自分の全てが評価されてるみたいで気持ち悪かったな~」


霞さんはそう言うと、嫌悪感を瞳だけに表わして、サンドイッチを一つ食べる。

その所作はとても丁寧で、育ちの良さを窺わせる。

だから、ぱっと頭に浮かんだことがある。


「お家、厳しかったんですか?」


ピタリと、一瞬霞さんの動きが止まった。

何を考えているのか分からない目で私を見て、一瞬の後に花が咲いたかのような笑顔に戻る。


「厳しかったっていうか、押しつけがましかったというか。

ま、その認識であってるよ。

家に帰る時間も6時までで、必ず10時には寝てないといけないし。

必ず3時間以上勉強させられて、携帯は当然没収。テレビもまともに見れなかったな~。

当然礼儀作法も叩き込まれたね。

あと、ピアノ。突然ピアノしろって言われたときには頭を抱えたよ。

挙げ句の果てには友達まで制限されたし、無駄な交友関係なんて許されなかった。

父親がふっっっるい価値観をいつまでも持ってる典型的な駄目親父でね。

いつもいつもいっつも私の意見を否定して、自分の価値観を押しつけてた。

やっぱ親って子供の生育に大事なんだね。

駄目駄目な親の所に生まれた赤ん坊にはほんとに同情するよ。割とまじで生まれなかった方が幸せだね」


語る内に、霞さんの言葉にも熱が乗ってきた。

言葉に棘はない。口調もむしろ爽やかで、聞いている側は笑い話にも思ってしまえる。

けど、心の奥底のドロドロとした感情が、どことなく滲みでていた。


「ご家族の方に関しては、どう思っているんですか?」

「家族~? 殺したいと思ってるよ」


ぱっと出てきた、何の邪気も殺意もない殺すという単語。

それを聞いて、ゾッと背筋が寒くなった。


殺すなんて、堅洲国で何度も聞いたし言われた言葉。

なのに、自分のよく知る人物がそれを言ったことに、強い衝撃を受ける。


「だって相当な時間私の人生滅茶苦茶にされたも~ん。

特に価値もなければ大事だとも思わない、血のつながりがあるだけの他人にだよ?

冗談じゃないと思わない?」


その言葉に、私は曖昧に頷く。


「むかつくのは親だけじゃなかった。

当時の社会も、周りの空気もみんな鬱陶しかった。

今はまあまともになったけど、女に対して風当たりが強かったし、差別がまだ希薄化されてなかったのよ。

ありえると思う? 女ってだけで大学の入学選考から外されて、それが疑問にも思われなかったんだよ」


それはひどい。信じられないし、自分の立場だったら許容できるものではない。

そんなことにあったらその大学に乗り込んで、学長の顔に一発蹴りを叩き込みたい衝動に駆られる。


「女は男に仕えろ。女は男に守られろ。そ~んな空気が今も蔓延(はびこ)ってる。

就ける職なんて限られて、払拭できない差別の念は社会に散らばってる。

ず~っと閉塞されてて、ず~っと息苦しかったよ。

見えない首環をつけられて、飼い殺しにされてる気分だった。

窒息寸前のあれを生きてるだなんて呼べはしないし、当然ストレスも溜まるよね」


どこか遠い目をしながらコーヒーを飲む霞さん。

霞さんが体験したであろう過去を、想像するだけで胸が痛い。

どうしても埋まらない男女の認識。古い昔から受け継がれてきた呪われた価値観。

一種の試練なのかもしれない。人間が精神的な進化を遂げることで、初めて消滅する試練。

その時が来るのは、すぐ近くなのか遙か遠くなのかは分からないが。


と、ここで当然といえばと当然の疑問が浮かんだ。


「あの、すっごい失礼なこと言っていいですか?」

「ん? なになに? 何でも言っていいのよ?

私煽り耐性はそれなりにありますから」


晴れやかな笑顔で発言を促す。

当時の霞さん。本人がどうかはともかく、社会的に言えば大変立派な人だったのだろう。

なにせピアノも弾けて、学業優秀で、まあ失敗する人生ではない。


「なんで、今の状態になったんですか?」


だからこそ、どうして今の霞さんが、酒浸りの生活を送っているのかが大いに気になった。


「ははは、確かにね~。

世間一般的に見ればけっこう堕落してるのかもね、私は。なんならこれでもまだ自粛してる方だけど。

けど、私の場合はそれで良かったんだよ」


ひとしきり食べ終わった霞さんは、手を組んで椅子にもたれかかり、目を閉じて話始めた。


「鎖を断ち切るものは狂乱と陶酔である」


ラテン語とかの格言にありそうな、そんなワードが飛び出てきた。


「これ、私のテーマね。

そんでたぶん顕現が発現したであろうきっかけ。

私の場合、酒飲んで酔っ払った時にそう思ったよ。

大学のサークルかなんかでさ、新人が入ってきたら飲みに行くとかあるでしょ?

そん時初めて酒飲んだんだけど、思わず「なんだこりゃ!?」って目玉飛び出るくら衝撃受けてね。

なんだか体が熱くなって、訳も分からず楽しくなって、地に足ついてるのに天国にいるみたいな。

酔ってる間だけ全てから解放されてるって錯覚させるあの感覚。

私一瞬でハマってさ。それ以来酒が大好きになっちゃったんだよ」


嬉々として語る霞さんからは、先ほどまでの滲み出るような悪意は全く感じられなかった。


「それが私にとって救いだった。

くだらない常識とか価値観から解放されて、ただ愉快で愉快でたまらない。

野生の姿を取り戻せ!

禁忌万歳!非日常万歳!

常識、規律、束縛、同調、絆、宗教、封建、文明、法則。

自らを縛る全て、引きちぎれよ!

八つ裂きにして、赤い液体を大地に捧げよ!

消耗したエネルギーを取り戻せ!

そんなことが頭の中でグルグル回って、そしたらいつの間にか顕現が発現したってわけ」


それが、霞さんのきっかけ。

顕現を開花させるに足る想い。


「きっと、どんな暴力的な形でもいいから、私は解放を望んでたんだろうね」


笑う霞さんの声が、唐突に冷めたものに変わる。

自分の首環を引き千切り、くだらない常識を踏み潰し、そして真なる自由へ。

悦楽の酒池肉林。それを指して自然の天国だと、自らの顕現が反文明の極地であると、彼女は自負している。


「そんじゃ、そろそろ帰ろっか」


その言葉に、私も霞さんも立ち上がる。

これをもって母親の役も終わる。

霞さんの非日常な姿。そして過去。

今まで語ることがなかったそれを教えてくれたのは、いかなる理由があったのか。


なんにせよ、これで三者面談は終わり。

明日から元の、粛正機関の先輩後輩の仲に戻るだけ。


「ねえねえ、美羽ちゃん」

「はい。なんでしょう」

「今日の私、お母さんぽかった?」


帰りの最中、霞さんは唐突に疑問を投げかけた。


「はい。お母さんぽかったです」

「そっか~、ぽかったか~。

ねえ、美羽ちゃんさえよければ、これからも私お母さん役してあげよっか?」


唐突な言葉に、私は足を止めて立ち止まる。


「それは、一体どういう」

「美羽ちゃんってさ、私に母性求めてるよね」

「え?」

「美羽ちゃんが桃花に来てからさ、なんだか私だけすぐに美羽ちゃんと仲良くなれたじゃん?

それってたぶん、美羽ちゃんが私に母親像を投影してるんだと思うのよ。

私と話す回数も触れあう頻度も多いし、私が抱きしめた時ほんとに安らいでる顔してるし、もしかしたらと思ってね。

どう? 当たってる?」


言葉に詰まり、私の過去の言動を思い返す。

そう、なのかもしれない。確かに他の桃花の顕現者と比べて、霞さんと接する機会は多い。

それは女性同士だからって理由だと思ってた。

だけど、今指摘されたように、無意識に霞さんに母親を重ねていたのかもしれない。


「ある意味当然だよね。

まだまだ甘えたい盛りでいきなり親が消えちゃったんだから、他人に投影でもしてないとやってらんないよね」

「・・・・・・ごめんなさい。迷惑おかけして」

「いいよいいよ、別に迷惑じゃないし。

こんなだらしない私でもお母さんできるんだって思うと、それはそれで嬉しいし」


霞さんが私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

昔、私がお母さんにそうされたように。

それを思い出して、胸に淡い暖かさが灯り、口角が自然と上がる。


「じゃあ。時々、お母さんって呼んでいいですか?」

「いいですよ~。私も美羽ちゃんのこと自分の娘だと思って接しますから」



そう言って、美羽の手を繋ぐ霞。

隣り合う二人の姿は、本当の家族のよう。



次回、先輩と後輩

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