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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 子供の理想郷
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第二十九話 ガーデナー

前回、ヴァルキューレ



「うわ!危ね、下あったんですかここ」

「ええ。いつも見えていないだけで地下にずっと街や住居、施設が連なってますよ。

最下層から上を見上げれば、さぞ面白い光景が見えますね。

・・・・・・さて、そろそろですか」


あの後、無事落ち合った俺と店長は、それから粛正機関総本部・ガーデナーへ向かった。

店長が呟き、その足は通りから外れて横に。

俺も続く。急に道が狭くなり、裏道に入る。

そこから右に左に曲がったり、時には無人の家のドアを開けて、再び外に出たと思ったら螺旋階段を下る。

ランプの光が道行く俺たちを照らす。ガーゴイルの石像らしきものを横目に見ながら、俺は店長に確認する。


「あの、店長。本当にこんなところに粛正機関の総本部があるんですか?

てっきり見晴らしの良い高層ビルとかにあると思ったんですけど。

それともいつもは地下に潜伏してるとかですか?」

「見晴らしの良い高層ビル・・・・・。

集君はどうしてそうだと思いましたか?」

「え、そりゃあ。高い場所に陣取った方が下で何が起きたか分かるから、ですかね」

「いい着眼点です。実際その通りですよ。

監視するには上からが一番いい。

神話でもそうですね。神様は天の国で、我々の一挙一動を常に見守っているとか、そう言う記述をよく見かけます」

「けど、俺たち今降りてますよね」

「ふふふ、実はですね。ガーデナーの入り口は毎回違うんですよ」

「毎回違う?」

「主に侵入者を寄せ付けないため。防犯のためですね。

ガーデナーに属していない者を容易く入れるわけにはいきませんから」

「けど、そうだったらガーデナーの粛正者たちはどうしてるんですか?まさか俺たちみたいに毎回手探りで入り口を探しているんですか?」

「まさか。ちゃんと彼らには専用のパスポートが与えられます。それを使って、一日一日入り口が異なる本部へ空間移動するんです」

「店長はガーデナーと面識があるのに、それを渡されてないんですか?」

「渡されていますが、集君に色々見せようと思ったので今回は徒歩を選びました」


そうじゃなかったら、店長は一瞬でガーデナーに到達しているとのこと。

やがて螺旋階段を降りきり、辺りに人は誰もいなくなった。

代わりに一人誰かがいる。床に風呂敷を広げ、その上に見たこともない金属を並べている。

店主は、フードを深く被り、そこから一つ目を覗かせていた。

店長が彼に声をかける。


「お久しぶりです、ゲートキーパー。通して貰ってもよろしいでしょうか?」

「・・・・・・・・・」


ゲートキーパーと呼ばれた彼が、無言で奥を指差す。

通って良い、ということか。店長の後に俺も続く。

狭い店内を抜けると、奥に古びた扉が現われる。

店長がその前に立つ。ドアノブに触れると、突然魔術的な輝きが放たれた。

青色のレーザーが多角的に俺と店長をスキャンする。

やがて緑色で、空中に電子的な画面に『OK』と表示される。


今のは恐らく、俺たちが立ち入っていいかどうか確認したんだろう。

カチャッと、ドアノブから鍵が外れる音がする。

店長はそれを確認し、ノブを捻って引いた。

開かれた先は、光で溢れその先が見えない。


「堅洲国へのゲートと同じく、位相やら空間やらがずれているんですよ。

光の中に入れば自動で転送されます」


そう言って、店長は光の中へ足を踏み入れる。

すぐに消える店長の後を追い、俺もその中へ。

視界が白い光に包まれ、一瞬の後に、俺の目の前には。




「ここが、ガーデナーですか」


表現するなら、会社のロビー。広さはそれくらいはある。

鮮やかな極彩色のタイル状の床。無数の色が床に敷き詰められ、ともすれば目眩がしそうに感じるが、配置が工夫されているのか目にダメージはない。

左右二ヶ所に配置されているフロントには、計六人の受付係?が紙面を見たり電子的な画面を操作している。

四ヶ所に置かれている椅子と机。そこには数人が座って雑談に興じている。

ロビー内には木や花など、自然物がそこらかしらにあり、人工物だけの寂しい室内ではない。


辺りを見ながら店長の後に続く。店長はフロントにいる受付係の人に声をかけた。


「こんにちは。シェーレはいますか?」

「あ、こんにちは否笠さん!シェーレさんは六階にいます。

美味しい紅茶とお菓子を用意しているそうですよ」

「ほんとですか?困りましたね、少し挨拶しに来ただけなのですが」

「ふふふ、ごゆっくりどうぞ」


どうやら店長と受付の女性は知り合いのようだ。お客さんと話すような雰囲気ではなく、どちらかといえば身内に話す感じに近い。

というか当然か。何度もここに顔を見せたことがあるなら、当然受け付けの人にも顔を覚えられているだろう。

店長が奥のエレベーターに足を運ぶ。俺も受付の女性に礼をして、店長と共にそのエレベーターに足を踏み入れる。


移動は、入ると同時に瞬時になされた。

どうもニライカナイという世界は効率化が最先端で進んでいるようで、作業のどれもこれもが刹那以下の時間で完了する。

エレベーターのドアが閉まると同時にすぐに開き、先ほどまでと違う光景が目に映る。

店長は迷いなく先へ進み、床も壁も一面白い通路を歩く。俺もそれに続く。


少し歩いていると反対側の通路から、白衣を崩し着ている白髪の女性と、オレンジの髪の男性が現われた。


「くそ、また憤怒の馬鹿が暴れやがったなんてな。

あの野郎、月に一回は爆発しなきゃ気が済まねぇのかよ」

「はっはっは!祭りみたいで楽しいじゃねぇか」

「ふざけんな。そのたびに前よりも強力な封印を施さなきゃならねぇのは俺たちだぞ!

まったく、これだから超越者のいかれ眷属(けんぞく)は相手してて疲れるんだ」


男性が愚痴(ぐち)りながら早歩きで俺たちの横を通り抜ける。

落ち着いた様子で笑みを浮かべる女性が彼に続く。白髪の女性は俺たちと交差する時、指で後ろを指し示した。


「シェーレなら突き当たりの部屋にいますよ」

「これはどうも」


店長の会釈(えしゃく)を受けて、白髪の女性は俺たちの横を通り過ぎた。


「ガーデナーの粛正者です。実力は折り紙付きですよ。少なくとも私よりは上です」


彼女の姿が見えなくなった後に、店長は俺に言った。

そうだろうな。霊格を完全に隠しきってる。

店長が感じ取ったらまた違うのだろうが、格下である俺に実力の一片すら見せない。

穏形(おんぎょう)の術を使っているのか、それとも自分で霊格を完全制御しているのか。


そんなことを考えながら歩いていると、俺たちは女性が言った突き当たりの部屋の前に来た。

ノブのついていないドアの前に立つ。すると、白いドアが自動で開閉した。


開いた先。そこは一面の花畑だった。

奥まで続く白い床。その両脇、赤青黄緑紫白黒・・・・・・。

見れば、土の上に咲いているのもあれば、蓮のように水の上に浮いているものもある。

美しい。心の中で言った第一声がそれだ。


そういえば、この粛正機関の名前は『ガーデナー』。

さきほどのロビーにも花が植えてあった。花と強い関連があるのはどういう理由か。

鼻腔(びこう)をくすぐる甘い匂い。水がコポコポ湧く音。

白い床の続く先には、テントのように、白い幕が下りている天幕がある。

微かに見える天幕の中。机と椅子。そして座る誰かの影。

神聖な雰囲気すら(かも)し出される空間を、俺と店長は奥へ歩く。


天幕に近づく度に、その影の姿が明らかになっていく。

男性、だな。透けた金色の髪とは反対に黒くダボダボした服を来ている。

年は20後半、いや、30はいってるな。

緩く垂れた目。淡い笑み。

その人は俺たちが近づくと立ち上がり、歓迎した。


「やあやあやあ、よく来てくれたね二人とも」


明るく、落ち着きのある声。

店長が笑顔を浮かべながら、彼と握手を交す。


「この前も来たばかりなのに、すいませんね。

集君。この方はシェーレ、ガーデナーの現頭首です」

「ははは、『仮』だけどね。リナは今月もどこかへ雲隠れ中だよ。

よろしくね、集君」

「あ、よろしくお願いします」


伸ばされた手を、握り返す。

傷一つ無い細い手だ。


こう言ってはあれだが、目の前の男性から覇気と呼べるものは一片たりとも感じられない。

むしろ近所にいる人の良いおにいさん。そのイメージが最も合致する。

先ほど通り過ぎた二人のように、諸々の所作から感じ取れる隙の無さもない。むしろ隙だらけ。

総本部の頭首(本人は仮って言ってたけど)と聞いたもんで、てっきり筋肉もりもりのとんでもない超人だと思ってたけど、そうでもないんだな。


「さあさあ、立ちながら話すのもあれだ。

聞けば君はニライカナイに来るのが初めてなんだね?

美味しいお菓子と紅茶を用意したから、遠慮無く食べるといい」

「ありがとうございます。では集君、座りましょうか」

「はい」


シェーレさんの言葉に従って、俺たちは椅子に腰掛ける。

目の前の机には、高級そうなお菓子スタンドに色とりどりのお菓子が飾ってある。なんかこう、お城に住んでるお嬢様とかが食べてそう。

並べられているそれを取って崩すのが(はばか)られる。


「さて、何を話そうか。話せばいいかな。

実は否笠が誰かを連れてくるのなんて初めてでね。

しかも粛正機関の後輩と来たもんだ。

そうは見えないかも知れないけど、実は今けっこう緊張してるよ」


そう言って笑うシェーレさん。その言葉通り緊張しているようには見えない。

店長はお菓子のスタンドからクッキーらしきものを手に取って口に入れる。


「先ほど、お二人の粛正者とすれ違いましたが、彼らがイーラを封印したのですか?」

「ああ。今回も無事イーラを止めてくれたよ。

うちのエースとスピードスターだ。あいつとも何回も交戦してる。

あの二人に任せておけば大抵の奴は鎮圧(ちんあつ)できるさ」

「それで、貴方は向かわなかったんですか?」

「ふふ、僕が行っても何の足しにもならないよ。それにお客さんを優先したいからね」

「君、働かない口実にしてません?」

「否定はしない。年がら年中戦ってるんだ、たまにはずる休みしたってバチは当たらないさ」

「部下に恨まれても知りませんよ」

「大丈夫。皆思い思いに休んでるから。

まあ、『超越者の後始末を俺たちにさせるな』とはいつも言われてるけどね」

「超越者、ですか。彼らの動向は?」

「確認できたら嬉しいんだけどね。いつも通り常世の内で悪巧(わるだく)みしてるんじゃないか?」


話し合うシェーレさんと店長。両者ともフランクで、その様子はほんとにただの友人同士のようだった。

その後も、俺の知らない単語がどんどん出てくる。話が一段落したところで、俺は質問した。


「あの、シェーレさんと店長はどういう関係なんですか?」

「僕と否笠?古くからの知り合いだよ。

僕はガーデナーの頭首代理として働き初めて、否笠も桃花で店長の役を受け継いだんだ。

その後も度々、否笠が僕の所に来て雑談してる、って感じかな」


つまり古くからの友人というわけだ。

今の話の中で気になる言葉が出てきた。

店長の役を受け継いだ、ということは店長以前に前任者がいたのか?

それなりに桃花で働いてるけど、店長の事をあまり知らない。

シェーレさんは俺に顔を近づける。


「ほんと、あの頃と比べると丸くなったんだよこいつは。

粛正稼業に慣れなくてテンパってたお前が懐かしいな」

「さあ、どうでしょう。

私も年ですから、昔のことがぼやけてきてですね。

その時のことは上手く思い出せないんですよ」


店長はどこか素知らぬ顔をして、解答を誤魔化(ごまか)す。


「そんなことより、集君はここに来るのが初めてです。

シェーレ。仮にも頭首なら、ガーデナーの創業理由でも語ってあげたらどうですか?」


話を変える店長。アルカイックスマイルを浮かべる店長と対照的に、シェーレさんは苦い顔をした。


「創業、理由?そ、そうだね。詳しい話の全てはリナのみぞ知るんだけどな・・・・・・。

まああれだ。秩序の安定のためだよ。

ニライカナイが創られた当初はね、それはもうとんでもなかったんだ。

平行世界中から客人(まろうど)がやってくるわ、堅洲国中から原住の荒脛巾(あらはばき)が移動してくるわ。衝突ばかりでね。

ほんと、そこら中血みどろだったんだ。昼夜問わずどこかで大規模な抗争が起きてね、混沌っていうのはああいうものだとよく分かったよ。

あの頃と比べると今は相当落ち着いてるよ」

「それでも結構死んでますがね」

「仕方ないさ。闘争を取り除くことはできない。

それでだ。さすがにこの状況は酷すぎると判断した顕現者の一人が、やり過ぎた馬鹿を摘み取ろう、ということで対咎人の機関を創ったんだ。

それがガーデナーで、創業者はガーデナー頭首のリナ。

僕も彼女の付き添いとして、あの頃は西に東に動き回ったよ。まさに東奔西走(とうほんせいそう)って感じさ。

僕たちの働きが功を奏したのか、それとも時間が解決したのか。それから数年後、ある程度ニライカナイが落ち着いてきたんだ」

「ガーデナーの働きが普及して、葦の国でも顕現者が咎人の粛正稼業をし始めたのですよ」

「僕たちだって高天原を真似ただけだけどね」

「つまり、高天原以外で初めて咎人を粛正し始めたから、ガーデナーが総本部って呼ばれてるんですか?」


俺の問いに答えたのは店長だった。


「それもありますが、純粋に他と戦力が違うんですよ。

熾天使が四人いる我々も十分おかしいですが、ガーデナーはそんな比ではありません。

働いている粛正者は100人以上。熾天使クラスも10人以上。

粛正者の質も、数も、他の粛正機関と圧倒的な差があります」

「それでも人手が足りないのが悩みなんだけどね」


やれやれと、困ったようにシェーレさんはピンク色のマカロンを(かじ)る。

店長は紅茶を飲みながら、俺に目を向ける。


「他に、何か質問はありますか?

シェーレは大抵の事は知っていますから、気になることがあれば何でも言って良いんですよ。

こんな頼りなさそうなのに、ほんとにガーデナーの頭首なんて務まっているんですか?とか」

「ははははは!この野郎言ってくれるじゃないか。

だがそうだね、答えられる質問なら何でも答えよう。遠慮はしなくていい。

否笠の質問に答えるのなら、こんな男でも一応は部下が動いてくれるよ」


シェーレさんが屈託(くったく)のない笑顔で俺に聞いてくる。

さて、質問。質問か、そうだな。気になることがあったんだ。

来てからじゃなくて、ずっと前から知りたかったことが。


「七大天使って、知っていますか?」


それを聞いて、シェーレさんの目が細まった。

笑顔はそのままに、俺の問いに答える。


「ああ、知ってるよ。彼らとも長い仲だ。

七大天使の全員、ニライカナイに存在しているからね」

「居場所が分かっているんですか?」

「いいや。あくまでニライカナイのどこかで活動していることを把握しているだけで、詳しい所在地は分からない。

彼らは最優先粛正対象。放っておいたらとんでもないことをしでかしかねない。

僕たちとしても見つけ出そうとはしているが、どうしても後手に回らざるを得ないんだ。

・・・・・・どこかで彼らと出会ったことがあるのかい?」

「あ、いえ!同僚にそんな奴がいるって聞いただけで」


嘘だ。

この前咎人ヘスリヒ、いや、レイナを殺した時記憶の中からその存在をのぞき見ただけ。

あれ以来、どうも心の奥底に(ウリエル)の影がちらつく。

それがうざったいことこの上ない。

けど、そうか。奴らがこのニライカナイのどこかへいるのか。

・・・・・・・・・・。


「七大天使しかり、百王しかり、逆らわない方がいい存在もいます。

もし出会ったなら、無闇に手は出さないことを推奨しますね」


店長が言葉を紡ぐ。その中に聞き慣れない言葉が出てきた。


「百王って、この前霞さんが王って言ってた存在の事ですか?」

「はい。堅洲国で最も影響力のある熾天使のことです。

彼らを指して熾天使の上にいる者と呼ぶ人もいますね。

ですが、必ずしも暴力的な方だけではありません。

その霊格が熾天使の中でも特に大きい者たちのことです」

「それは、さっき店長たちが話してた超越者とは違うんですか?」

「ええ。それは後々お話しましょう。

今日見聞きしただけでそれなりの情報量です。これ以上の詰め込みはあまりよろしくない。

平穏が訪れた後にゆっくりと」


その言葉に反応したのはシェーレさん。

手に取った紅茶を置いて、


「そういえば、例のファルファレナだったかな。

最近の咎人の異常、その発生源。君たちが粛正を担当するって聞いたけど」

「ええ、その通りです。

うちの後輩が嘲笑されたあげく危うく死にかけましてね。桃花の店員全員で仕返しをして差し上げようかと」

「お前の実力はよく知ってるが、本当に大丈夫か?

なんならうちの粛正者でも――」

「いやいや、いつも人手が足りないと嘆いているのは君でしょう?

ご心配なく。アラディアさんがもうそろそろで居場所を特定できると言っていました。

それに、明日高天原から援軍を寄越すとお言葉を頂きましたし」

「え?」


疑問の越えにを浮かべたのはシェーレさんではなく俺だった。

店長は慌てて弁解(べんかい)する。


「ああ、すいません。言うのが遅れましたね。

なにぶん先ほど堅洲国に出発する前に羽鶴女さんから言われたことなので、皆さんにはまだ伝えてませんから」

「その援軍って、まさか十二天ですか?」


十二天。

高天原で粛正稼業を行い、それぞれ個別の部隊を率いる咎人粛正のスペシャリスト。

下層の咎人を主に担当する彼らの助力が得られるなら、これ以上心強いものはない。

だが店長は違うと首を振る。


「いえ、十二天ではありません。

名前は言えない御方と言っていました。

詳細は明日、本人が話すらしいです」


なるほど、十二天ではないのか。

そうだとしても、咎人粛正のスペシャリストが一人でも来てくれるんだ。ありがたいことに変わりはない。




その後、俺たちは数十分くらい雑談してガーデナーを去ることにした。

シェーレさんは気の良い人で、ガーデナーのこともニライカナイのことも、順を追って何でも答えてくれた。お菓子も紅茶もめちゃくちゃ美味しかった。


「ああ、そうそう。二人とも」


去る間際、シェーレさんが俺たちに何かを渡した。

花の紋様が描かれた、札にも見えるカード。


「僕たちガーデナーの専用通行ゲート、その鍵だ。

これがあればすぐにでもガーデナーの本拠地に来ることができる。

何か困ったことがあったら何でも頼ってくれ。否笠の後輩なら僕の後輩も同じだからね。できる範囲のことをすると約束するよ」

「いいんですか?ありがとうございます!」


お礼と共にそのカードを受け取り、俺と店長はガーデナーを去った。

再び歩き、ニライカナイの街並みを見ながら帰路(きろ)につく。

ここに来て最初に渡った橋を前に、前を行く店長が振り返って俺に言う。


「集君。もし、私たちや君の身に何かあったら、ガーデナーを頼ってください。

シェーレなら快く力になってくれますから」


店長のその言葉が、どこかこの先の未来を暗示しているようで、少し不安になった。


最後にもう一度ニライカナイを振り返った。

咎人と鼠たちのパラダイス。死亡率99%以上の魔界。

今日一日を思い返しながら、俺はそこを去った。



次回、QandAコーナー

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