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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 子供の理想郷
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第十八話 そこにいたのは――

前回、蝕樹伐採



都市マタリオン地下

探索者たちは二体のドゥルフラの相手をしていた。

自らの分身を作り出し、二体で探索者たちを追い詰める。

分身にも体力がある。もちろん本体より体力は低い。

だがそれでも並のモンスターを上回る量。容易く倒すことはできない。


美羽たちは互いに話し合わずとも、二手に分かれ本体と分身体を相手取った。

美羽は分身体に立ち向かい、多彩な攻撃方法でダメージを与える。

魔術を学んだことで得た遠距離への攻撃。攻撃の合間の隙を狙い、近距離から破壊を叩き込む。

それの繰り返し。他の探索者の健闘も相まって、順調にその体力が減っていく。


「アアアァァアアアアアアアアァアアアアアアアァアアアァァァアアアアアアアアアァァァアアアアアァ!!!!」


無論、敵がそれを黙って見ているわけではない。

分身体の足下の影が爆発的に広がる。

それは波立ち、黒い腕のように探索者たちに群がる。

美羽が使ったスキルと似ている。けれどその量は尋常ではない。


脚を掴まれた者が悲鳴を上げながら武器を振り回す。

影の手を断ち切ったところで意味が無い。実態を伴わないそれは一度触れると、まるで皮膚に染みこむかのように広がる。握り込む力は減衰しない。

影の手が触れている間に発生する連続ダメージ。体力と共に生気も失われていくのか、触れた箇所から老化が進み、やがて全身がしわしわの老人になってしまった。


その光景を見て顔が引きつる探索者たち。

柱に張り付き迫る影を回避して、そこからドゥルフラに突撃する数人。

ある者はヒーローのような跳び蹴りで。ある者は雷光のような刺突で。

それらが分身体に突き刺さる。一挙に二割の体力が削れ、形が崩れ影となり消えた。


終わった。安堵の溜息をついた一同。

その一部が、突如黒い光の中に消えた。


「!!?」


視界外から放たれた黒いレーザー光。

発生源は美羽たちと反対側にいる本体のドゥルフラ。

13本の手で近くに群がる敵を相手しながら、残る13の手で黒いレーザーを放った。

光は横に動き、探索者を一人一人葬っていく。

極太のレーザーを前にして、美羽は柱のことを思い出した。


「皆、柱の影に!」


率先して隠れた美羽に続き、何人もの探索者が柱に隠れる。

数瞬置いて柱と衝突する黒い閃光。高レベルの探索者を一撃で葬るレーザーを、しかし神殿を支える柱は弾いた。

ドゥルフラは柱に向けて、さらに黒い光を強く照射する。

柱の近くに立てば、衝撃がこちらまで伝わってくる。


ある者はポーションを飲んで体力を回復し、またある者はスキルを使い自分にバフをかけている。

レーザーが途切れるその瞬間に備えて。


やがて、極太のレーザー光が徐々に勢いをなくし、最後には細い線となり消えた。

タイミングを見計らった探索者たちは柱から一斉に飛び出す。

本体と戦っていたメンバーと合流。26本の腕をくぐり抜けて、胴体に一撃を食らわせる。

蓄積されたダメージもあってか、ぐらりと大きく揺らぐドゥルフラ。

もうそろそろ終わる。誰もがそれを確信したとき、ドゥルフラの目に執念が宿る。


「ッ!」


射貫くような眼光。手を掲げた先には怪しく光る魔方陣。

込められた力は先ほどのレーザーの比ではない。この神殿ごと倒壊させることができるのではないかと、探索者たちに否応でも思わせる。

光を強める魔方陣に同調し、地鳴りが神殿内に響く。

全員がドゥルフラから距離を取り、来るであろうそれに備える。

恐らく残った全ての力を注ぎ込んだドゥルフラは、そして、


「アアァァアァァァァアアアァアアアアアアアアアァァァァ!!!!!」


魔方陣は天井に広がり、収束された未知のエネルギーが光の束と化す。

それはまるで矢のようだ。地上にいる探索者めがけて雨のように降り注ぐ矢。


「全員、避けろぉ!!!」


ゼナの叫び声が全員の耳に届く。


光の矢に追尾性能はない。ただ上から下に落ちるだけ。

問題はその量。神殿内に隙間なく降り注ぐため、柱に隠れようが無意味。

一人に対して十、二十・・・・・計五十もの光が弾丸のように押し寄せる。

一発一発が即死クラスの攻撃。なにより危険なのは探索者同士の衝突。

いかに広い神殿内とはいえ、何十人もの人が縦横無尽に動き回ってはぶつかってしまう。

その衝突によって硬直した隙に光が降り注ぐ。最悪二人の命が一瞬で消し飛ぶ。


天からの光を避けるには、動き回る他探索者の動きに注意しなければならない。

もちろんそんなことを初見でできるわけがない。探索者のうち七割が最初の5秒間で光に飲まれ、消滅した。

高レベルの探索者もそれぞれ対処しているが、あまりの密度に被弾は避けられない。


悲鳴と怒声が渦巻くその場で、しかし美羽だけは冷静に回避に努めていた。

これと似た状況ならこの前体験した。複数の人物の動きを予測し、導き出した最良の場所へ回避する。

もとより美羽の体力では一発食らっただけで死亡。他の探索者のように防御や回復という選択肢がない分、集中力と動きは洗練される。

身体を翻し、飛び上がり、柱を蹴って、股下をくぐり、探索者と降り注ぐ光を回避し続ける。


一人の探索者が降り注ぐ光の合間を縫って、矢を構え魔方陣へ放つ。

光を器用に回避して、放たれた矢は魔方陣の中央を穿ち、破壊する。

飛び散る魔方陣の破片が空中に消える。それと同時に弾かれたように床に崩れ落ちるドゥルフラ。

降り注ぐ殺人光も止む。体勢を整えた探索者たちはドゥルフラに殺到する。

ただでさえ残り少ない体力、それに無理を押した攻撃だ。反動でしばらくは動けず体力も削れている。

空を飛ぶ一つの影。ゼナは空中で武器を構え、その剣をドゥルフラの一つの頭部に突き刺した。


「ア」


呆気ない声が聞こえた。

天に伸ばしていた26の手がダラリと垂れる。26の脚から力が抜ける。

巨体が倒れ、地面に崩れ落ちると共にその身体が光る粒子となって消えていく。

画面に表示される、ドゥルフラ討伐の証とゲットしたアイテム。そして経験値。


それを確認し、歓声を上げる探索者。

場が苦難を乗り越えた後の解放感に溢れる。美羽も周りの嬉しそうな空気につられて笑顔を浮かべた。

初見の敵相手に、被弾することなく、立ち回ることができた。

もちろん大勢の探索者の手があってこその勝利だが、それでも自分なりに上手くやれたと実感する。

経験値が上がる。41、42・・・・・あっという間に49になって、そして、



■ ■ ■



蝕樹・エグシルを討伐した蛍は、その現象に驚いた。

レベルが49まであがり、50になろうとした瞬間に、経験値の伸びが突然止まった。


「え?」


おかしい。次のレベルに必要な経験値が残り1で止まっている。

偶然1だけ残ったのか?いや、そんなまさか。

僕が戸惑っていると、フィーが突然話しだす。


「実は、このゲームはある条件をクリアしないとレベル50にならないのですよ」

「え、そうなの?じゃあその条件って」

「御心配なく。すぐ始まります」


なにが、と言おうとしたその瞬間。

僕の足元にぽっかりと穴が空いた。


「!?」


重力に従い、そのまま穴の中に落ちる僕。

やがて足場が見えた。その床に着地し、周囲を見渡す。

白い。果ての無い白い空間。白一色で距離感覚が掴み辛い。

僕以外誰もいないし何もない。誰かが潜んでいる気配もない。

条件とは一体なんだ?僕はこれから何をするんだ?


「試練ですよ」


突如目の前に現れる黒蛇。孔雀のような羽で空を飛んでいる。


「自らを乗り越える、過去からの試練」


フィーの姿が変わる。その身体が広がり、徐々に人型を成す。

やがて現れたのは、


「・・・・・僕?」


その姿は僕、白咲蛍そのもの。同じ身長。同じ服。同じ目。同じ髪。同じ顔。同じ姿。

まるでドッペルゲンガー。もう一人の自分がそこにいる。




同じ現象を美羽も体験していた。

突如連れてこられた謎の空間。

黒い。果てのない黒い世界。黒一色で距離感が掴みにくい。

目の前にフィーが現れ、その姿が変わる。

出てきたのは、黒雲美羽そのものだった。


「な、なんで・・・・・・なにが」

「言ったでしょう。試練だと」


目の前の私は低い声でつぶやく。

全てに絶望したような、希望を一切感じさせない暗い声。暗い目。

その双眸(そうぼう)で、私を睨みつける。


「貴方の奥底にある恐怖と、絶望と対峙する。

いつの時代も変わらない、不変の試練」


違う場所にいるのに、美羽と蛍のドッペルゲンガーの口は同時に動いた。


「「さあ、過去と向き合え」」



次回、自分のことは自分が知っている

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