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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 子供の理想郷
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第十五話 狩り

前回、大都市へLet's go!



美羽とゼナは共に南へ向かい、ついたのはオークのキャンプ。

元々未開の森だったその場所にオークが移り住み、今や森の原型はどこにも見えないほど住居化されている。

辺りに散らばるテントキャンプや巨大な鍋。それを囲むオークたち。


二メートルはあろう巨大な体躯。下唇から飛び出した牙。赤色の肌。手に持つ棍棒。まさに私たちが想像するオーク像そのもの。

レベル適性は30。私のレベルはさっきチタルサというモンスターの狩場で25まで上がった。

ゼナさんは遠くからオークの群れを見て、


「ここなら30分そこらでレベルが40まで上がるだろう。

いい具合に密集しているし、他の探索者からの横取りもない、ストレスなく狩れるから新米の探索者にオススメの狩場だ。

不死のモンスターに挑むには最低40レベルは欲しい。そこまで上がったら一度マタリオンに戻ろう」

「わかりました」


ゼナさんが目で『行け』と合図する。

それに合わせ私はオークキャンプに躍り出る。同時に突き刺さるオークたちの視線。

人間と敵対しているのか、武器を持って立ち上がった。

すぐにでも迫る巨躯のオークたち。腕と足を黒化させて、私も構える。


「グルアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアア!!!」


雄たけびを上げ、オークは手に持った棍棒で殴り掛かる。

その気迫は先日対峙したガルリの比ではない。

その棍棒が届くその前に、私は回避兼移動を行う。


このゲームには『職業(クラス)』という概念がある。どんな種族で、どんな戦闘スタイルで戦うか、ゲーム開始前に選べる。

その職業ごとに使えるスキルがある。

スキルとは技とも言える。攻撃技だったり、自分へのバフであったり。

私は特に職を選んだつもりはない。というかそんなものがあるのかどうかすら知らなかった。

けれどジェムの改変により元のゲームと仕様が変わっているのか、私の職は自動的に決まっていた。

職の名前はデストロイヤー。試した感じ、攻撃特化の職のようだ。


そして今私が使ったスキル。

その効果は、相手の背後に瞬間移動すること。

正確には自分の影に潜り込み、相手の影の中から突如現れるスキル。


日の当たる場所にもよるが、一瞬にして相手の背後を取れる。なかなかに優秀なスキル。

オークの棍棒が空振る。空気を引き裂きながら唸る棍棒は、着弾した大地を揺らす。

オーク三体の背後に回った私は、がら空きの背中を右手で切り裂く。

空間に大きな爪痕が残り、オークの体力を削る。


この前対峙したガルリ程度なら、一発で五匹は葬り去るだろう。

それでも一割も削れない。当然だ。一発一発の威力なんて高が知れている。

だからコンボを繋げる。左手でさらに切り裂き、足を払って転んだオークに上から叩き潰すように正拳を叩き込む。

0になり、消滅するオークのHP(ヒットポイント)。後にはオークだった破片があるだけ。


攻撃特化の職らしく、軽くコンボを叩き込んだだけで削り切れた。

このゲームには多数のダメージ増加システムがある。コンボをつなげることで後に出した技の威力が増えたり、敵の背後から攻撃するバックアタックなど、他にも状態異常中の敵に攻撃することで得られるダメージボーナスもある。

それを駆使し、状況によってどんなスキルを使うか考え、勝利を掴む。


横からオークの攻撃。それを私は無敵付きのサイドステップを使用して避ける。

この無敵というのが便利だ。一部のスキルに付属し、使用している間は攻撃を受け付けない。

闇に溶けるようにその場から真横に移動し、がら空きになった胴体に突進し手を突き出す。

筋肉質の腹に手がめり込み、衝撃でオークが数メートル吹き飛んだ。


次。できるだけ密集しているところへ。

見た感じ鍋を中心に3~4匹集まっているようだ。

けどできるだけ多くの敵を巻き込みたい。引き付けよう。

オークの側をわざと通れば、オークは私を追ってくる。

適当に周囲を走れば、予想通り私の後ろには十数匹のオーク。


方向転換。レベル上げの最中に覚えたスキルを使う。

腕を掬い上げ、土中から何かを呼び出す。

腕の軌跡に合わせて地面から赤黒い大剣が幾つも飛び出し、たっぷり5秒間はオークに黒い刃を突き立てる。


硬直しているオークに向かって、これまた飛び道具。

回転刃。両手に生み出したそれが空中で高速に回転し、腕を振ると共に発射される。

チェーンソーのように、あるいはミキサーのように、直線状にいるオークを切り裂いていく。

近接と遠距離の攻撃方法が多彩なのが、私の職の特徴だ。


怯んだオークたちの中央に飛び込み、そこで放射状の爆発。

それは薔薇。拳を大地に叩き込むと、黒紫の薔薇が咲き誇り、次の瞬間に弾ける。

黒い爆発はオークの群れを四方に吹き飛ばす。体力の半分を消し去り、私に入る経験値。

レベルが26に上がる。これをあと14回繰り返せばいい。


丁度良い。コンボや技の練習にも持って来いだ。

というか、私自身も参考になるものが多かった。


スキルを絡めた新しい戦術。並列思考はそれを最速で構築する。

可能な限り無敵やアーマーがついたスキルを使い、スタンや硬直、ダウンなどの行動不能の状態に相手を追い込む。

その間にコンボを叩き込む。安全圏から攻撃を叩き込むというわけだ。

スキルにはクールタイムという、その期間中はスキルが使えない時間が存在する。

その時間をうまく違うスキルで補い、自分がなるべく攻撃を受けずに、相手を倒す。

MP(マジックポイント)の消費量も視野に入れながら、通常攻撃でMPを溜めて余裕を持たせる。


本来システムやスキルを活かした戦闘に慣れるまでに、何時間も訓練が必要なはず。

それを今までのトレーニングの経験により、超速で会得する美羽。

呼吸を掴むのが速くなっている。咀嚼(そしゃく)した知識や経験はただちに美羽の血肉となる。

それに関して、美羽本人が疑問に思うことなど一つも無い。

自分なら出来て当然だと思う精神は、確実に美羽の実力を向上させていく。


影が泡立ち、飛び出るのは蛇のように細長い生物。ただし口と牙の捕食器官しか有さず、その思考も敵を貪り喰らうことしか考えない。

それが5,6匹。美羽の指示で空気を喰らいながら移動し、オークに食らいつきその身体を毟り取る。


黒い球体が空中に浮かび上がり、敵に向けて発射される。

威力は低いが、MP消費が少なく、なにより追尾性能がある。確実にダメージを与えていくことができる。


地面から出てくる幾多の黒手。天を目指すように、あるいは引きずり込むように、その鋭い爪でオークを切り裂く。

手を掴み、足を掴み、時に鋭い槍となって筋肉質の身体を貫く。


無敵付きの移動攻撃。美羽の姿はかき消え、無数の破壊を残しながら前方へ疾走する。

ガラスを銃弾で撃ち抜いた痕が空間に連続して残り、オークの群れに亀裂を残しながら、最後は空間ごと砕く。


背後に浮かぶ血文字の魔方陣。放たれるのは血で濡れた数多の剣。

蛍の想像のように、発射される剣の群れは肉を切り裂き突き刺さる。


美羽が双掌を真上に掲げると、徐々に巨大な球体が形成される。

わずかな溜め時間の後に前方に放たれ、衝突地点に黒色の爆発が発生する。


飛び道具が殺到するその場所へ、美羽自身も走り寄る。

ともすれば自らの攻撃に被弾しそうだが、ゲームの仕様上自分の攻撃には当たらないのか、美羽の行動を妨げずかつ敵の動きを食い止める。

血が飛び肉が裂け骨が砕けるその様はまるで破壊の嵐。美羽に近づいたものは絶命を免れない。



その様子を、一歩離れたところでゼナは見ていた。

体捌き。スキルの発動タイミング。モンスターに反撃を許さない技選び。

苦戦したら救援として駆けつける予定だったが、その必要はないらしい。

敵を殺すための方法を最速で理解するその様子は、


(達人、と言うよりは獣に近いな)


ゼナ自身も、自分が遙か及ばない探索者に出会ったことはある。

このゲームにもPVPという概念はある。それゆえ、いかに反撃を許さず攻撃しつづけることができるか、どんな場面でスキルを使うか、その研究も進んでいる。

だがその人物たちと美羽は違う。行き着く考えは同じでも、思考の基板がまるで違った。

前者が倒すためなら、後者は殺すため。

レベルが低く、比例して戦闘経験も少ないだろうと思っていたが、その予測は外れた。


どのみち、これならすぐにレベル40は達成出来る。

どころか不死のモンスター相手でも優位に立ち回れるかもしれない。

正直人数合わせ程度にしか思っていなかったが、予想外の発見だ。




レベル上げは蛍も行っている。

大都市アルマダを後にして、一時間半歩きたどり着いたカイダの森。

そこは異常な森だった。木の葉は黒く、樹木のモンスターがそこかしこに動き回っている。


そして、上空から見て中央だけがぽっかりと空いている。そこだけ木が生えず、まるで穴があいているようだった。

先ほど立ち寄ってみたが、僕以外の探索者が数人そこに待機していた。

どうやらここに不死のモンスターが現われるのだろう。僕は本来の目的であるレベル上げのため移動する。


「カイダの森の適正レベルは35。最初は少し時間がかかりますが、直に慣れるでしょう。

この狩り場は時計回りで狩っていくと効率がいいですよ」

「ありがとう。けど他の人も狩ってないかな?」

「ありませんね。不死のモンスターに挑む探索者はほとんどがレベル50以上。ここで狩りをしても大して美味しくないんですよ」


当たり前だが、レベルが上がるごとに、次のレベルへの必要な経験値量が上がっていく。

このゲームはレベル50を超えるまでがチュートリアルだとフィーも言っていた。

50までなら一日で上がるが、それから先のレベル上げは急にきつくなる、と。


けど、そうか。誰もいないのなら伸び伸びと狩りができる。狩り場争いもないということだ。

画面を開いて地図を確認。ちょうど12時の方向に立っている自分が表示される。

ここがスタート。目の前には植物系モンスター。


植物の根だったりキノコが二足歩行していたり、花弁の中央に目がついている花だったり。

まるで顔が浮かび上がったかのような木の切り株。果てには木そのものがその根を二本足のように動かし、緑の大地を歩き回っている。

そんなモンスター達。僕はレベル適性には達していないが、そこは経験で補おう。


こちらを認識し、根を器用に使いカタカタカタカタと走り寄ってくる。

モンスターはよほどレベルが離れていないかぎり、あちらから襲ってくる設定のようだ。

まずは通常攻撃何発で倒せるか。近くに来た切り株モンスターが殴りかかるよりも速く、白い長刀を振るう。

一太刀。横から切り裂くが、木の皮を数枚切り落としただけに留まる。

一刀両断は無理そうだ。相手のHPを見ても全然削れていない。


スキルを使おう。今僕が使えるスキルは全て覚えておいた。

一対一のこの状況で使えるスキルは・・・・・これか。

長刀が白緑の光を増す。それがスキルを使う合図。


両手で長刀を上に構え、限界まで光を溜めてから勢いよく振り下ろす。

それだけのシンプルな技。だが木精のモンスターに着弾した瞬間、まるで爆撃が起きたように大地の表面が抉れる。

攻撃に移るまでに多少時間がかかるが、なかなかの高威力を見込める。

それでも二割削れるだけ。まだ切り株はピンピンしている。


僕を視認し、他のモンスター達が続々と集まって来る。

このままではリンチに遭って死にかねない。一旦距離を取って、それから多数の殲滅に意識を切り替える。

必要なのは広範囲の攻撃。相手に攻撃を許さない勢い。

決意した僕はスキルを使い、モンスターが密集した中へ突っ込む。


超速で移動しながら剣を振り下ろす。スタン効果で前面の五匹が動かなくなる。

これで後ろに立つモンスターの攻撃は届かない。彼らは飛び道具を持たないから。

追撃。といっても突きを繰り出すだけ。もちろん威力は低い。

だが発生が速く、コンボに持ってこいの技だ。


周囲を薙ぎ払う。斬撃は円のように僕の周りを回り、モンスターの木々や枝を切り飛ばす。

残り体力は、5割程度か。そろそろ攻撃が来るので後ろに退く。


遠距離への攻撃はこれだ。

左手を前に。僕の背後から四本の剣が飛び出す。

白銀の剣は空中を飛び、樹木に突き刺さり血のように樹液を撒き散らす。

いつものように大量に作れないのがもどかしいが、ゲームバランス的にはこの方が正常だろう。


次。長刀を構え、足を踏み込み、速度を最大限にまで上げて斬りつける。

移動すると同時に斬撃を放つ。横に薙ぎ縦に振り下ろし下に払う。

木精モンスターの周りを回るように、均一に切り裂いていく。

40は切り裂いた所でスタミナが尽きそうになる。

同時にモンスターの体力も残り少ない。


大技で終わらせよう。密集地点に飛び込み、大地に剣を突き刺す。

同時に大地に展開する魔方陣。白いそれから、これまた白い無数の剣が天に発射される。

僕を除いて全員が巻き込まれる。木々に致命的な裂け目が生じ、枝が何等分にも分割され微塵になる。

一発一発の与えるダメージが低くとも、それが百も連続するのなら話は違う。

やがて魔方陣が消えると、僕の周囲にはバラバラになった木の破片で溢れていた。


レベルが4も上がる。これだけやってやっと倒せる程度とは。

けど経験値は美味しいな。苦労と結果が釣り合ってる。

そうこうしていると別の集団がやってきた。


そういえば、この武器だとガードが出来るんだっけか。

防御の後に派生した振り上げは結構ダメージが入ると記憶している。

試しにやってみよう。さっきトレーニングでもやれたじゃないか。あの感覚はまだ覚えてる。


こちらに早足で向かってくる樹木がその大きな枝で殴りかかる。

それに対し、長刀を突き出し(つば)の部分で攻撃を防ぐ。

すると長刀は変形し、翼が展開して僕の前に盾を形成する。

剣を介して僕の腕に伝わる衝撃。それと同時にジャストガード成功のエフェクトが出る。ボーナスでスタミナが若干回復した。


両手で柄を握り、身体を回転させ思いっきり長刀を振る。

カウンター。刀身から光が迸り、白閃が木の中央まで切り裂く。

大きくよろける樹木モンスター。

HPは、おお、まじか!一発で六割削った。

レベルが4も上がったし、カウンターでこの威力は嬉しい。

これを主軸にしてもいいかもしれない。

新たな戦術を閃き、蛍は迫る樹木の群れに長刀を構えた。




「へえ・・・・・・」


そんな二人の様子を。

木陰から、空から、地面から、あるいはモンスターの目線からジェムは見ていた。

展開型は自らの世界に偏在する。どこにでも存在する。二人以外の全てがジェムといって過言ではない。

普段なら片手に炭酸飲料を持ちながら実況する余裕があるのだが、ジェムは二人の戦闘を前のめりになりながら注視していた。

今まで相手してきた粛正機関(やつら)と違う。

いとも容易くスキルを使い分け、レベルが上の相手にすら勝ってしまう。


そもそも素の実力からして違う。座天使(スローンズ)クラスなのは当然として、基本的な能力が際立っている。

反射神経しかり、直感しかり。並列思考に至ってはどこまで分岐しているのか見当も付かない。

それに、


(まるで()()()()()()かのように攻撃を躱すじゃないか。

未来予知、なのかな?優れた武術家はそれに近しいことをできるっていうけど、あの二人もそれなのか?)


それでありながら本来の実力を隠している。顕現を必要最低限にしか使わず、魔術に至っては全く使用していない。

これまでの粛正者と一括りにするべきではない。

ジェム自身の戦闘経験は少ないが、それでも二人の危険性は十分感じ取れた。


(けど、不死のモンスターは手強いよ。

なんたって攻撃とか防御が他のモンスターの比じゃ無いからね。一つでも回避がミスったら死に繋がる。

それも初見の相手だ。特にマタリオンの地下にいるあれはこれまで誰にも知られてないから、周囲の探索者の動きに合わせるなんてこともできない。

復活アイテムは持っているとして、本当に勝てるかな~)


例え二人が不死のモンスターを切り抜けようと、

その果てに待っている試練を、二人は乗り越えることができるのか。

その瞬間を想像して、思わずジェムは深い笑みを携える。

なんたって、それは・・・・・・。



次回、不死のモンスター 決戦

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