母乳ショック
テコ入れ!
遠くに見える松明の灯りを頼りに、私はミントに肩を貸しながら歩き続けた。それは門の入口で焚かれていた松明で、私達に気が付いた衛兵が駆け付けてきた。これで助かるだろうと思うと私はホッと胸をなで下ろした。
「何だ貴様等は!!」
まさかの一言だ……。怪我人であることは一目瞭然なのに心配する素振りすら見えないとは…………。
「むむ! コイツは獣人ではないか!? ダメだダメだ! 帰れ!」
私はガクリと肩を落とした。何とこっちにも盗賊一味による風評被害が出ているとは!
「怪我人なんだ。せめて魔道治療士を呼べないだろうか?」
「ダメだ!! 帰れ!」
衛兵は我々を追い出そうと背中をグイグイと押してくる。
「待ってくれ! 私は母乳が出せる! 母乳をやるから治療をしてやってくれ!」
私の言葉に衛兵の力が弱まる。そして、手を引いた衛兵は今度は腰に手を当て……剣を抜き放った!
「貴様! 下らん冗談を言うと叩っ切るぞ!」
我々は有無を言わさぬ圧力の下、煌々と燃える松明の灯りが見えなくなる程遠くへと追放されてしまった―――
「オッサン……ワタシのせいですまない……」
大きな木の下で野宿する羽目になった私に、ミントは一言謝った。私は「気にするな」と声を掛け、母乳を渡した。
気が付けば私は寝りこけてしまい、静かに立ち去る足音に気付かなかった―――
―――朝の静けさと寒さの中目を覚ました私が目にしたのは、誰かの脚だった。
「起きろ……村長がお呼びだ」
慌てて座り辺りを見渡すが、私はすっかり包囲されており5人の男達は思い思いの得物を持ち合わせ、有無を言わさぬ容態を示していた。徹夜で私を捜したのだろうか、男達の目の下にはクマが出来ており欠伸を絶えず放っていた。
「あの……」
「黙って歩け!」
寝不足で苛ついている男達は私の首に縄を掛けると、荒々しく引っ張り始めた。向かう先は昨夜訪れた村。
ミントは無事だろうか?
他人を心配している場合では無いはずなのだが、それが私なのだから仕方ないだろう……。
朝早くと言う事もあり、村の外には人気が無く、私は一番奥に聳える古屋敷へと連れて行かれた。
「長! 居ましたぜ!」
その声に反応し現れたのは、杖をついて歩きも覚束ない白髪の老人だった。目は開いているのかどうかすら怪しく、軽く押せば転びそうな位だ。
「お、お前たち……何という事を……」
老人はゆっくりと焦りながら、私の下へと歩いてきた。
「早く縄を外しなさい……」
その言葉に、男達は慌てて私の首から縄を外し狼狽えていた。
「若いもんが……失礼をした。手違い故……許して……下され。母乳の神様よ……」
私は解放された首を摩りながら自分に放たれた言葉の意味に困惑した。
母乳の神様?