母乳レスキュー
薬屋で薬草を売り払い、その足で肉屋へと向かう。何食べたいか聞くのを忘れてしまったが、獣人なら肉は好きだろう。
「オヤジ、これで肉をくれ」
「ほう、珍しいなアンタが金持ってるなんてよ」
肉屋のオヤジに嫌味を言われつつ、俺は足早に家へと向かった。
しかし、もうすぐ家という所で俺が目にしたのは真っ赤に染まる紅蓮の炎だった!!
「…………へ?」
炎の周りには人集りが出来ていて、魔道消防隊が懸命に消火用魔方陣から水を撒いていた。
「危ないから下がって!!」
燃える音、人のざわめき、水音、そして笑い声……。
まさか燃えてるの……私の家か?
私は全力で掛け出した!! 家に近づけば近付くほどに日の出所は自分の家だと確信する!
「マズいぞ! ミントは足を怪我している!!」
私は自分でも信じられない速度で走り抜け、家の前へと到着した!
炎の熱は相当な物で、轟々と燃えさかる炎は来る者を全て焼き尽くす恐怖と威力を持ち合わせていた!
「おい! ダンカン! お前んち燃えちまってるぞ~!」
普段から私を見下す輩が物見遊山で冷やかす。しかし、今はそれどころでは無い!
急いでミントを助けなくては―――!
私は炎のマイハウスへと突入した!!
一面炎に囲まれているが、何と言っても我が家だ。間取りは覚えているから問題は無い!
急いで寝室へ向かうと、扉の前で倒れているミントを発見した!
「―――大丈夫か!!」
身体を揺するが反応が無い。火傷や怪我も無い所を見ると煙を吸って気絶したみたいだな。足が利かなくて逃げ遅れたのだろう……。
私はミントを抱え、崩れ落ちる寸前の我が家から飛び出した!!
―――ガララッ……ドーン!!
無残にも崩れ落ちる我が家。しかし今はミントを助けられた事で一安心だ。
「おい、獣人が居るぞ!」
「ダンカンが獣人を匿っていた噂は本当だったのか!」
「この罪人め!」
突如浴びせられる罵声に、私は理解が追い付かずにいた。
「おい待て! 何だ! 何のことだ!!」
しかし罵声は次第に強くなり、誰も私の言葉を聞こうとはしなかった。
「盗賊一味の仲間だ!」
「処刑しろ!」
「獣人を殺せ!」
何のことだかは分からないが、住民達がミントに―――いや、獣人に強い嫌悪感を示している事だけは分かった。
私は、ミントを一度地面に下ろすと両乳を曝け出し母乳を吹き出させた!
「―――な……!」
突然の出来事に盆を返した様な喧騒はピタリと収まり、今度は奇異の目が向けられた。しかし私は怯まず声を大にして言う!
「この子が何をしたって言うんだ!!」
「その獣人は、ここらを荒らす盗賊一味に違いない!」
最前列で一際大きな罵声を浴びせていた老人が話す。
私は俗世に精通してはいないが、少なくとも私の足下で眠るミントはそのような下世話な輩とは違うと信じたい。
「そんな訳あるか!! この子は俺の娘だ!!」
ポカンとする群衆をさておき、私はミントを抱えてその場を後にした…………。