母乳スライム
再び目覚めた獣人は暫く落ち込んでいたが、やがて諦めた様に語り出した。
「ワタシの名は『ミント』見ての通り獣人だが、血統が交ざりすぎて雑種と呼ばれている類の者だ」
緑色のショートヘアーに朱い瞳、半袖短パンのラフなスタイルをしているから少年だとばかり……。
「ダンジョンへ潜っていたら罠に掛かってしまってな……助けて貰った事は感謝している」
「足にダメージを負った様だな。完全に回復するまで家にいるといい。幸い私の1人暮らしだからな」
私は獣人が気絶している間に買ってきたパンを手渡し、二人で食べた。
「すまない……ワタシは身よりも無く住む家も無い放浪者でな…………。罠に掛かって気絶している間に持ち物を全て盗られてしまったみたいなんだ」
哀しそうな顔をするミントに、私はエッヘンと鼻を鳴らし、胸に手を当て口を開いた!
「大丈夫だ! 私に任せなさい!」
「……すまない。暫く世話になるよ」
ミントは少し微笑んだ。獣人特有の耳がヒコヒコと動く。その姿がちょっとだけ可愛らしかった。
―――さてさて、意気込んだは良いがダンジョンで金を稼ごうと思ったら、あの母乳スライム達を倒さなくてはいけないぞ……。
私は心許ない脳をフル活用して考えた。
……そうだな。どうせ母乳を吸われるなら、逆にあげちゃってもいいんだな!
私は水筒に母乳を蓄えダンジョンへと入り込んだ…………。
ダンジョンの中は踏み馴らされた跡で道しるべが出来ており、ある程度奥へ行くのに迷うことは無い。
私はその道から少し外れ、スライム達の溜まり場へと足を踏み入れる。そこは湿った空気と粘液が芝居する場所で、迂闊に壁を触ろうものなら立ち所に皮膚は爛れ痒みが止まらなくなるだろう。
「―――よっと!」
水筒に蓄えた母乳を床に撒き散らす。すると甘い匂いに誘われたスライム共が、壁や床の隙間から現れ地面の母乳へと吸い寄せられる。
「思った通りに行きそうだな」
地面の母乳を吸うのに夢中になっているスライム達を後ろからバッサバッサと斬っていく。それは実に楽な作業で、今まで正面から立ち向かっていた苦労は何だったのかと問い詰めたくなる程に笑いが止まらない。
スライムは次から次へと現れる為倒しては隠れて、集まっては斬っていく。それを数回繰り返し、私はドロップ品の薬草が10枚集まった所で嬉々として家に帰った。
「ただいま!」
家へと帰るとミントはベッドに腰掛けており、自分の足の具合を見ていた。
「おかえり」
「今日は大量に薬草が手に入った! 今から換金してくるから帰ったら飯にしよう!」
「あ、ああ……ありがとう」
キョトンとするミントを見て「何か変か?」と聞くと「何か嬉しそうだな」と答えた。
……そうだな。今までこんなに上手くいったことなんか無かったからな。そりゃあ嬉しくもなるだろう。
「母乳、置いとくぞ」
私は笑顔で母乳をマグカップに搾り、ミントに手渡した。