母乳オッサン
私の名はダンカン。一応冒険者だ。
髭面の盗賊みたいな形をしているが、剣の腕はここらで1、2位を争う程だと自負している!
「ああーっ! 止めて~! 母乳を吸わないでーーー!!」
「おいおい、見ろよ! ダンカンの野郎またスライムにやられてるぜ!」
「ぎゃはははは!」
「ここらで1、2位を争う程に弱えークセに出しゃばるからそうなるんだぜ!」
「ゲフゥ……」
私に群がる無数のスライムは、俺の上で暴虐の限りを尽くしては満足げに去って行った……。
「くそぉ……スライムの癖にゲップまでしやがって……」
私はゆっくり立ち上がると、胸に着いたスライムの置き土産であるベタベタを拭った。乱れた服を戻し、スライム達が落とした薬草を一枚握り締めトボトボと家へと逃げ帰る。
「全く、ダンジョンの母乳クレイジー共め!」
オッサンのクセに母乳が噴き出る体質のお陰で、たまにこうやって腹を空かせた魔物達に襲われ蹂躙される事がある。まあ、命を取られないだけ良しとするか……。
「オギャア! オギャア!」
家へと戻る途中で、赤子をあやす母親がいた。生後間もない無垢な命を懸命に育てる母の姿は、いつ見ても逞しく美しい物だ。
「ん~? お腹空いたんでチュか?」
若い母親が赤ちゃん言葉で話し掛ける。
お腹が空いているなら私の出番だな!!
「どれ、私の母乳を飲みなさい」
私は両手で服をはだけさせ、赤子へと近付いた。
「きゃああああ!!!!」
―――!!
な、何だ!? 母親が急に叫びだしたぞ!?
「変態よーーーー!!」
なっ! まさか母乳をあげようとするこの私が変態だと言うのか!?
何と浅ましい愚かな思考!
きっと脳が悪魔に洗脳されているに違いない!!
私は無実の罪を照明するために、片乳から母乳を勢い良く絞り出した!
―――ブシュゥ……ブシュゥ……
「◎★〒!=*&&~☆●△!!!!」
母親は声にならない叫びで逃げ出してしまった……。な、何という事だ。まさかこの私が変質者呼ばわりされる日が来ようとは……。
私は気落ちしたまま、その日はふて寝した。
次の日!
私は気を取り直していつものダンジョンへと足を向けた!
ピカピカの剣にツルツルの盾!
見事に整備された武具を身につけ、私は意気揚々と剣を掲げた。
「…………う……あ…………」
む! いかん!!
あんな所に死にかけの獣人が倒れている!!
急いで助けなくては!
「―――!!」
いかん、また変質者呼ばわりされたらどうしよう……。いやいや! その様な事を言っている場合では無い!!
「今助けるぞ!! 母乳を飲め!!!!」
私は片乳を曝け出すと、獣人の口に乳を押し付け母乳を噴射した!
―――ゴク……ゴク……ゴク……
おお! 凄い勢いで飲んでいるぞ!
この分だと助かりそうだ!
―――ゲェェェェェェ……ップ!!
うむ、凄まじいゲップであるな。私はそのまま気絶する様に眠ってしまった獣人を抱え、来たばかりの道を戻ることにした。見れば所々傷があり、手当が必要そうだ。
獣人はどこか安らかな寝息を立てる赤子のように幸せな顔をしていた………………。
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