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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
1章 神の両手に揺れる
9/52

私の世界

 翌日。

 高濱が部屋を訪れ、参加者は全員がカフェテリアに集められた。

 さすがに協調性のない香坂や荻も今回ばかりは大人しく集まっていた。


「みんなとりあえず無事だな!」

「……やめてよ、縁起でもない。」


 高濱の言葉に、楓が青い顔をしながら反論した。

 彼も口を引きつらせながら悪い、と呟いた。



「で、調査するんですよね? 皆さん心の準備は?」

「ええ、それを美波ちゃんが言っちゃうの?」

「本当に肝が据わってんな。」


 綾音と千葉は半ば呆れたように言う。


「私がくよくよしてて解決するならいいけど、しないでしょ?」

「まぁ、その通りだよね。」


 久我は可笑しそうに笑う。

 どうやら、昨日の密会以降、彼は美波に心を許しているらしく、朝部屋から出た時も軽口を叩かれた。第一印象、ひどく真面目そうな柔和な男であったため、少しばかり意外だと美波は感じていた。



「じゃあ2-3人に分かれて行動するかね。」


「馬鹿馬鹿しい。オレは1人で行く。」

「ダメだ香坂! ならばオレが共に行こう!」

「……却下だ。」

「なにぃ?!」


 予想通りといえば予想通りであったが、須賀が異様に驚いてみせた。


「なら、オレならどう? 香坂クン。」

「お前が……? まぁ、そこの筋肉ダルマよりはいいだろう。」

「香坂よ、ダルマに失礼だぞ!」

「須賀さんはそれでいいんですね……。」


 とりあえず1組。


「私は矢代さんと組むから!」

「武島よ、オレも混ざっていいか?!」

「却下です!」

「なにぃ?!」


 悉く振られる須賀が哀れになってきた。

 殆どのものが苦笑いをしていた。


「高濱よ……。」

「分かったから元気出せって。一緒に行こうぜ? 遼馬はーーー。」

「……久我、いいか?」

「僕ですか?」


 思わぬ指名だったらしく目を丸くした、がすぐに承諾してみせた。


「寿、オレと行かねーか?」

「え、」


 美波と行く気満々だったらしい綾音は千葉の急な誘いに目を丸くした。


「……そうだね、色んな人と話さなきゃいけないもんね。」

「なら(わたくし)も同行させてもらってもいいかしら。」


 残りのメンバーを一瞥した菜摘はスッと手を挙げた。

 どうやら麻結に絡まれることが嫌らしい。


「……じゃあ私が加藤さんの面倒みるよ。」

「ええ、いいんすか?!」

「あたしは何なのぉ……。」


 楓と梶谷の辛辣な言葉にどこか嬉しそうに呟く。


「じゃ、梶谷。一緒に行こう。」

「いいっすよ!」









 それから、皆散り散りになった。

 寿や久我たちの勧めもあり、美波たちは広く浅く探索を行うことになった。

 A棟については、特にこれといった変化は無かったが、中庭は先に述べた通り、美波のよく見知った高校の中庭となっていた。

 B棟の変化は著明であった。

 1階部分は、図書室が学校の図書館に、娯楽室は部室に、テレビルームはリビングに、音楽室は学校の音楽室に、トレーニングルームは体育館の一部に、美術室は学校の美術室に、空き部屋2つはそれぞれ閑散としていた。


 図書館には荻と香坂がいた。


「どうっすか、お2人とも! はかどってますか?」

「……お前の高校には低俗な本しか無かったのか?」

「香坂サンの高校が私立の天才高校だったから整備されてたんだよ。全くもー。」


 傍らで同様に本を読む荻が、愉快そうにしながら唇を尖らせて言う。


「ご期待に添えなくて悪かったね。」

「ふん、構わん。期待などしていない。それにしても落ち着き払っているのだな。」

「騒いでても、アンタは知らん振りでしょ。」

「まぁな。」


 彼は鼻で笑う。


「あ、でもね酒門サン! さっき香坂サンが見つけた本にこんなものがあったんだよ。これは絶対に君の世界にはないものだよね?」

「【箱庭ゲーム 攻略指南書】? ないね、これは。」


 荻から受け取った本をパラパラと捲る。

 背後を奪いコードを読み取る方法、アリバイを作る方法、【強制退場】や捕縛の詳しい使い方、など明らかに仲間割れを助長するものばかりであった。

 一通り、目を通して本を閉じ、荻に渡すと彼は不気味に微笑み、一言尋ねてきた。



「それ見てどう思った?」

「……どう? 別に何も思わないけど。」

「……それを見て、誰かを消そうと思わないの?」


「なっ!」


 残酷なことを挨拶のように言ってのけた彼に梶谷が飛びかかりそうになったが、美波は梶谷の前に手を出し制止した。


「私はこんな指南書に従うのは御免だね。この世界は私たちにとってゲームではないでしょ? ただ、真に受ける人間が居たとして、説得するとか止めるとか綺麗事は言えないけどね。所詮人間だし、それまでの関係性もあるでしょ。」


美波がそのように言うと、荻をはじめ、香坂も梶谷も驚いたように目を丸くしていた。



「……君は、本当に最初の世界に記憶を使われるのが惜しい人だね。」


 それだけ言うと荻は香坂に向かい合う。


「香坂クン、僕らももう少しちゃんと調べてみない?」


 今度は美波が目を丸くした。

 香坂はごく僅かに荻の目を見ると、何かを諦めたようにため息をついた。


「オレは自主的に協力する気はない。」

「香坂さ「ただ!」


 梶谷の言葉を遮るように彼が語気を強めて言葉を続ける。


「……もし何か見つかれば逐一報告しよう。困ったことがあればオレを頼るといい。気が向いたら助けてやらなくもない。」

「だってさ!」


 荻が嬉しそうに美波を見やる。

 美波と梶谷は視線を合わせて、思わぬ発言が出たことを認め合うと微笑み合った。


「……ありがとう。」


 美波が礼を言うと香坂はわざとらしく本を仕舞いに行くような動きをする。

 なかなか微笑ましい光景であり、美波と荻、梶谷は小さく笑いあった。







 次に、2人は2階へと向かった。

 空き部屋は数部屋はそのまま、他には美波の自室はもちろん兄、両親、はたまた親友の自室へと変貌していた。

 さすがに美波の部屋を漁る度胸のある者はいないらしい、自分が出た部屋のままになっていた。


「……オレは外出てた方がいいっすよね。」

「そうだね。あとで綾音あたりと探索にくるよ。」


 美波は一瞥すると扉をそっと閉める。

 続いて兄の部屋に向かうと、中には久我と石田がいた。

 彼らはPCを開いて何やらデータを見ていた。


「あ、お疲れ様。勝手だけどお兄さんのPC見させてもらってるよ。」

「構わないよ。兄さんのハードの中は把握しているからね。」

「……珍しいね、兄妹でPC共有なんて。」


 それこそ珍しく石田が驚いたように発言する。

 しかし、彼はすぐにハッとして下を俯いた。


「そうかもしれませんね。ただ兄は好きなくせにパソコンには滅法弱かったですからね。」

「なら酒門さんはパソコン詳しいんすね! ますます話が合いそうっす!」

「……アンタほどじゃないと思うけど。」


 美波は困ったようにため息をつきながら、彼のキラキラした視線から目をそらしている。


 その後は何やら兄のPCスペックを見て梶谷が1人で盛り上がっていたため、少し複雑であったがよほど見られて困るものはないはず、と放置を決め込んだ。

 どうやら部屋に妙なものはないらしい。



「……石田さんは、高濱さんと仲がいいんですか?」


 彼はちらり、と美波の方を見た。

 無視かと思ったが彼はすんなり口を開いた。


「……まぁ、昔からずっと一緒だから。」

「でも幼馴染2人で当選なんてかなりすごい確率ですよね。」

「……そうだね。今回も風磨が言い出して応募したけど、まさか2人とも当たるとは、って感じ。」


 彼はふと、久我と美波の方に顔を向けた。


「いつも、オレたちは風磨が言い出して何かしてるね。分かると思うけどオレ人見知りだし、話すの苦手だし。だから君たちのことは少し羨ましいかも。」

「でも、僕は嬉しかったですよ。一緒に探索してくれて。」

「……。」


 彼は久我の言葉に少し照れたように顔を背けると頷いた。


「……梶谷、動きそうにないから2人で探索してくれば。」

「いいんですか?」

「だって貴重な調査時間だよね。全然話さないオレに意見くれるのは、大概いい人だから酒門もいい人だと思うし、脱落しないでほしいって思う。」


 自信なさげに言う彼は気まずそうにまた下を俯いてしまった。


「いえ、助かります。久我のこと借りていきます。」

「うん、梶谷ともう少し調べてみる。」


 石田の厚意に甘えてペアを組み替えて調査をすることになった。

 目を輝かせて解析をする彼なら何かしらの成果を得てくるだろう、期待して待つことにした。


「じゃあ改めてよろしくね。」

「うん。」









 その足で、美波たちは空き部屋の様子を見に行った。

 すると、中では華と莉音が何やら話していた。莉音は不安で泣いたのか、目元が腫れていた。


「あれあれ? 組み合わせが変わったね〜。」


 真っ先に気づいた華はこちらを向いて話しかけてきた。

 一方で莉音は、明らかに敵意を向けたような視線を送ってくる。


「……こんな非常事態でまた仲良しですか?」

「梶谷がPCに噛り付いて動かなくなったんだよ。」

「なるほどー、そう言うところあるもんね。」


 華は納得したように頷く。


「2人は調査の方どう?」

「華たちは1階フロアを見て回ったよ〜。部室と、リビングと体育館のところだね。一見不審な所はなかったけど〜、美波の人柄は読んで取れるね〜。」

「人柄?」


 久我が興味深そうに尋ねる。

 美波はなんとなく居心地の悪さを覚え顔をしかめた。


「そうそう、美波は部活でもみんなに頼られてたんだね〜って。信じるに値する人だなって思ったよ。……だからこそ、最初の世界の対象者に選ばれたんだろうけどね。」

「アンタの評価は置いておいて、どうして選ばれる、って思うの? 」


 華はふふん、とどこか得意げに話し始める。



「だって最初のスズキさんが言ってた【箱庭ゲーム】は華たちが争い合うことを目的としたゲームだよ〜? 明らかにリーダーシップとれる美波は邪魔でしょ〜? それに美波のことなら誰かが守ろうとしそうだもんね。例えば、綾音とかね。」


 何となく、空気が凍った気がした。

 さすがの久我も少しばかり、引きつった表情を浮かべていた。


「でもでも〜、華はみんながそんなことをしないって信じてるよ。華たちは、仲間だからね。」

「そう、なら問題ないね。また何か分かったら教えてもらえる?」

「了解〜。」




 美波は、その言葉だけを聞くと部屋を後にした。

 久我も二言三言言葉を交わすとすぐに美波を追いかけてきた。


「……さすがに不機嫌そうだね。」

「当たり前でしょ。綾音はそこまで浅はかな人間じゃないよ。

「……そうだね。」


 久我は静かにうなずくばかりであった。















 そのまま校庭の方に出ると高濱と須賀が、グランドの中央で何か話していた。

 2人ともすぐにこちらに気づき大きく手を振ってきた。


「おー、久我! 走るか? なんてな。」

「まぁ走りがいのあるトラックですけど。」

「1周くらい走ってくれば?」

「遠慮しておくよ。」


 美波と風磨の勧めはあっさりと断られた。


「そういや睦って、遼馬と一緒じゃねーの?」

「調べてたところのPCに梶谷くんが縫い付けられましてね。石田さんに了承得て組み替えをしました。」

「へー、まぁ梶谷なら大丈夫だな。」

「……案外話しやすかったですけどね。高濱さんの言う通り、いい奴でしたよ。」

「だろ? でももう馴染み始めたってことは2人もいい奴ってことだな。アイツのセンサーはピカイチだからよ。」


 親指を立て、彼は爽やかに笑う。

 2人の間に確かな信頼関係があることは容易に窺える。



「ちなみに校庭には何かありましたか?」

「校庭自体には何もない! しかし、この世界の広さは何となく分かったぞ。」


 久我が尋ねると、須賀がマップを開きながらそのように答えた。

 彼が見せてきたマップを見ながら話を聞く。


「見かけ上林になっているところが世界の境目だな。先ほど物を投げ込んでみたが、弾かれて返ってきたから、そこから脱出することは不可能だな。」

「ああ、試しに木にも登ってみたけど、1番手前の木の、大体3m高さくらいまでしか登れなかったぜ。」

「登れるんですね。」


 先輩ながら野生児じみた行動に少しばかり引いてしまう。



「でも時間あったらそれこそバスケとかサッカーとか遊びたかったよな。こんだけデカいコートあるし。」

「いや、このゲームが終わったらすぐできるさ! なぁ、酒門よ!」

「えぇ……私はやりませんよ?」

「酒門さん運動神経良さそうなのに。」


 陸上部が言うと自信になってしまいそうで少しばかり嫌だった。

 しかし、未来のことについて語る彼らの言葉に少しばかり安堵してしまう自分がいたことには間違いがなかった。
















 そして、校庭のそばにある植物園を訪ねた。

 美波の記憶の限りだと、自分は殆ど植物には興味がなかったためこの世界に反映されている確証はなかった。

 美波の予想通り、植物園内は特に最初の世界と変わっておらず、中には麻結と楓がいた。


「なんだよぅ、お前らできてんのかよ!」

「加藤はそれしか考えられないの?」


 嬉しそうに駆け寄ってくる加藤に辛辣な言葉をぶつけるたが、全く響いていないようであった。


「でも何で久我くんと回っているの?」

「……説明面倒くさくなってきた。」

「こらこら。梶谷くんがPCに夢中になってるんだよ。」

「ああ、彼の悪い癖だね。」


 楓は少し悩ましげに言った。

 大方、彼の技術は認めているがこの状況でそれはどうなのだろう、と考えているのだろう。


「植物園には何かあった?」

「あたしが隅から隅まで調べてやったが何もなかったぜ!」

「うん、彼女の言う通り、かな。」

「何も無かったんですか?」


 久我が不思議そうに尋ねた。

 その様子が妙に見えた美波は疑問を抱いたがここで追及しても仕方がないと思い、反応は見せなかった。


「でも、たくさん隠れられそうなところはあったからな、デートするならもってこいだぜ。」

「今、そんなことしている暇はないと思うけどな……。」


 この2人はツッコミとボケでテンポよく話せているようだ。

 美波は内心でいいコンビだなと思いながらも口に出さなかった。


「一応これから裏庭の方も見るけど……そういえば倉庫組が忙しそうにしてたから合流してあげたらどうかな。ここにいても麻結ちゃんの餌食になるだけだし。」

「餌食って……。まぁ、そうか。早めに退散するよ。」

「デートするときはあたしを呼べよな!」

「するとしても呼ばない。」


 膝から崩れ落ちた彼女をスルーして、美波はさっさと部屋を出て行く。

 その様子を見た楓が、2人をいいコンビだと思っていることはつゆ知らず、ちなみに久我は3人まとめていいトリオだなと思っていたことはこのあと知らされた。















 最後に美波と久我は倉庫に向かった。

 倉庫の中では千葉と綾音、菜摘が何やら作業をしていた。


「おう、酒門と久我! あれ? 何で久我がいるんだ?」


 あまりにも同じことを繰り返し聞くものだからついには酒門は何も話さなくなった。

 久我が毎回丁寧に説明をしている。

 千葉の言葉に綾音が反応し、奥の方から菜摘とともに顔を出す。


「美波ちゃん、きてくれたんだ! 他のところは見られた?」

「お陰様で。3人は何してるの?」

「倉庫にあるものをリストアップしていたんです。(わたくし)たちは備品の場所を見られますが、実は消されていたものとかがあったら困りますからね。逆に増えていたり、とか。」


 彼女は手に持つリストをポンポンと叩く。

 お嬢様らしい彼女が髪や顔を汚しながら作業していることに何となく罪悪感が湧く。


「何か汚れるようなことさせて悪いね。」

「別に構わねーよ。オレとか頭使えねーし。」

「千葉くん、たぶん今の言葉は君以外の2人に向けて行ったんだと思うよ。」

「あ?」


 彼は理解できていないようでキョトン顔をしていた。



「あとは自室調べて終わりだけど……、綾音来てもらってもいい?」

「えっ、私入っていいの?」

「あと久我も。別に見られて困るものないし。」

「僕も?」


 綾音は明らかに嬉しそうな顔をしていたが、久我は少し戸惑っているようだった。


「おー、もう少しで終わりそうだし行って来いよ。あとの集合で報告できた方がいいだろ。」

「僕、女の子の部屋入るのでさすがに対抗があるんだけど。」

「緊急事態だからそんなこと言ってられないでしょ。ダンスだけ見なければいいよ。」

「……。」

「お前ら男として見られてねーんだな。」


 千葉の言葉に、彼は肩を落とす。

 綾音と菜摘は久我の言いたいことを理解していたが、美波は完全に無視していた。


 それから集合の時間まで自室を探索することになるのだが、そこでまさかあのようなハプニングに出くわすとはこの時想像していなかった。



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