再会
「ぅ、あ! 大丈夫でしたか、石田さん、武島さん!」
「「……。」」
梶谷が身体を起こすと、そこには目を丸くして見舞い用の椅子に座る莉音と図々しく梶谷のベッドに腰をかけている石田がいた。
「あ、あれ、2人、何すかその服!」
「か、か、か、梶谷くん〜〜〜!」
「ぐぇ!」
「武島、首絞まってるから。ほら、ナースコールで呼ばないと。」
感極まって抱きついて来た莉音を受け止めつつそれを越えてナースコールを押すのは石田だ。
莉音はぐずぐずと泣きながら、ずっと望んでいた事実を述べた。
「私たち、助かったんだよ〜!
14人、全員が!」
「へ?」
石田を見ると、彼も優しい笑顔でうなずいた。
そこから梶谷も涙が溢れて、おんおん言いながら武島に抱きつき泣いた。
石田は、泣きこそしなかったが2人の頭を優しく撫でた。
それから医者に怒られたのはいうまでもない。
3人揃って病院の一角にある個室に移動した。
1番最初に起きた石田はすたすた歩いていたが、莉音は歩行器に寄りかからないと立てなかったらしい。
もちろん梶谷も目覚めたばかりで車椅子が必須だった。
医者の話によると、3人は最後まで動いていたからまだいいが、他の、特に早期退場した面子について確実に筋肉が細りリハビリが必要になるであろうということだった。
「石田さんは相変わらず筋肉化け物っすね! 他の方は目覚めてないんすよね?」
「……聞かなかったことにするけど。男連中は部屋を見て来たけどまだかな。」
「私も見たけどまだだったよ。たぶん次に起きるのは千葉さんか酒門さんなんだって。お医者さんが言ってたよ。」
個室の椅子に掛けながら彼女はにこにこと語る。
数分すると3人の目の前に現れたのは、乙川恵、千藤春翔、舘野琴乃の3人だった。
画面越しに見た通りのままで、内心安堵した。
にしても入室した時から、恵と琴乃はべそをかいていたが。
「改めて初めまして。みんな無事でよかったよ。
特別に今日は警察を代表して僕が面談に来たんだ。見知った顔の方がいいだろうってね。」
「そっすか。でも確かにその方が安心すね。」
梶谷と千藤が会話する横で石田はもらい泣きした莉音と残りの2人を呆れたように見ていた。
「そういえば、事件のその後ってどうなったんすか?
さっきカレンダー見て驚きましたけど、誘拐されてから2週間経ってたんすね。オレの計算だと1週間経ってないくらいだったと思ったんすけど。」
おそらく1つの世界あたり、現実世界では1日分くらいの経過速度であったはず。
「ぐず……みんな衰弱してて大変だったんだよ。
解放されてすぐ、いや、石田くんだけは起きたから本当に引いたけどぉ……。」
「アンタ、本当にバケモンすね。体力オバケ。」
「うるさいな。車椅子押さないからね。」
琴乃と梶谷の言葉を受けた彼は梶谷の頬をつねる。
この痛みさえも愛おしいものだから、自分は余程追い詰められていたことを知る。
そして、梶谷の疑問に答えるのは落ち着いたらしい恵だった。
要約するとこうだ。
事件の終幕は大々的に報道された。
被害者の14人の様子は、やはり興味の引くところらしく、1つの病院にて保護することとなった。
さて、主犯の話であるが、【スズキ】の正体は本山楓で間違いなかった。かつてのゲームで赤根茉莉花の隣の席で彼女と同じく担当ルームを必死で助けようとしていた職員である。
職員の半数は新たな職場に左遷されたが、本山に関しては自身のルームを救えない無能として、酷い扱いを受けたそうだ。
そんな彼女は徐々に病んでいき、【箱庭ゲーム】の元データをハッキングにより手に入れた。それを用いて自分と同じような職員たちと共謀し、【箱庭の掲示板】を立ち上げ、今回の計画を目論んだそうだ。
誘拐は手分けして行なったが、一部の者は途中怖気付いたため、帰らぬ者として葬ったそうだ。
そして、残った3人で【新しい箱庭ゲーム】の運用を行なった。
現在は3人とも拘留されており順調に基礎の準備が進められている。
「……ちなみだけど、【スズキ】さんの元には、久我くんのコーチにあたる人、風花くんが面会に行ったんだよ。」
「面会に?」
「そ、何たって彼の奥さんこそ赤根茉莉花だからね〜。」
梶谷と莉音はえぇ! と驚きの声をあげて、互いの口を塞ぐ。
石田は惚けた状態で固まっていた。
その様子を見て千藤は愉快そうにケラケラ笑う。
とはいえ石田が固まった理由は背後の扉が無音で開いたから、なのであるが。
「いやさー、今赤根さん身重だから余計な負担をかけたくないってアイタ!」
「千藤は相変わらず余計なことを口走るね。」
突然現れた体格のいい男性にギョッとする。
再現で見覚えのある男性の面影があった。その男性を認めると恵は笑顔をこぼした。
「芳樹くん! 面会は済んだんだね。」
「まぁ、そんな話すことないし。」
はい、と見舞いの品を3人に渡すと彼は壁に寄りかかりながら話す。
この人が久我の先生かと思うと、何となく居住まいを正してしまう。そんな梶谷の様子に彼は柔和に微笑んだ。
「【スズキ】は心配いらないよ。何か抜け殻みたいになってたし、正直あの人は茉莉花さんに括ってたみたいだから……。」
彼女の過ごして来た日々のことについて少しばかり同情したが決して許せることではない。それは3人とも同じで口を閉ざす。
「でも、ありがとな。
3人が頑張ってくれたから、久我も無事だったし、茉莉花さんに余計な罪悪感を背負わせることにもならなかった。」
「いえ、久我さんが残したものが無かったらオレたちも……。」
彼の優しい手は、久我より一回り大きかったが彼と同じように暖かかった。
自然と目からは涙が溢れてきた。
「そういえば、他の人たちってすぐ起きるんですか?」
「……それに関してなんだけど。」
申し訳なさそうに眉をハの字にする恵の姿に3人は疑問を抱く。
「彼らは、自分の意志と別のところで消されたわけだから、脳がショックを残さないように、って防御反応が出て、覚えている可能性もあればはたまた全く覚えてない可能性もある。」
「……そっ、すか。いや、でもいいんす。」
梶谷はふと微笑む。
事実を告げた恵は、彼の言いたいことをすでに察していたのか辛そうであったが、口元を緩めた。
「生きてれば、いくらでもやり直せますから。友だちになるのも、同じっすよね。」
「……そうだね。」
その言葉に同意した石田と莉音は静かに頷き、大人たちも成長した彼らを見守った。
そこへ慌ただしく看護師が駆け入ってくる。
「千藤さん、被害者の2名がたった今目覚めてーーーーー!」
その場の全員が待ちわびていた言葉だった。
あれから数年。
梶谷は大学生になっていた。
もはや【箱庭ゲーム】の名は聞かない。
あの事件も公となり、【掲示板】も閉鎖された。
梶谷も酒を飲める年齢となり、大学院進学も決まっていた。
待ち合わせの時間にはまだ早かったが、梶谷はさっさと居酒屋の中に入ってしまう。あの頃はすぐ泣いていた彼女がカウンセラーに、無愛想だった彼が意外にも教職に就いてしまうものだから面白い。
まぁ前者については何かと丁寧でマメ、後者については面倒見の良いところがあったから違和感はなかった。
あの後、目覚めた美波は意外にも殆ど覚えていなかった。彼女がはっきりと覚えていたのは、1つ目の世界までだった。
逆に千葉は結構な濃度を覚えており、3人の姿を見て安堵の言葉を述べた。
他の面子も同様に斑があった。荻や華、久我ははっきりと覚えていたが、菜摘や須賀、高濱は一部しか覚えていなかった。香坂と綾音、麻結に至っては殆ど覚えておらず、辛うじて参加者の顔が分かるという程度であった。
あれから関係は疎遠になってしまったが、今も時折連絡をとっている。
石田は高濱と、莉音は華と新しい関係を築いている。
はじめの頃は寂しくて仕方なかったが、またいつか縁があって新しい関係を築ければいいと思える程度には、梶谷も大人になっていた。
「はー、寒いですー!」
「そんなに着込んでて寒いの? もう少し太ったら?」
「言い方、そんなんだからモテないんですよ。」
個室の外から懐かしいやりとりが聞こえる。
16歳の夏にも同じやりとりをどこかで聞いた気がする。
また、なんて言葉は無いけれども。
きっと二度と出会うことの箱庭の思い出を省みながら、梶谷は杯を傾けるのであった。
あとがき
ついに完結しました、『Remained GaMe -replay-』!
途中、変更が多少ありつつも後半駆け抜けるように終わりましたが、お楽しみいただけたでしょうか。
今回はキャラクターについて少々小噺を残していきたいと思います。
【酒門美波】
彼女は0〜3章までの主人公です。
元から5章退場は決まっていました。にしても単独行動するわするわで正直問題児でした。クールかつさっぱりした女の子にしましたがどうだったでしょうか。ちなみに千葉と性格は似ていてかなり面倒見のいいお人好しさんです。お兄ちゃんには怒涛の勢いで謝罪を受けめちゃくちゃ上等な自転車を買ってもらいました。
その後については、久我からの猛烈なアプローチは理由は何となく分かっているも、自分が想っていたことを覚えていませんが着実に絆されています。梶谷はプログラミング大会の件もあり、弟のように想っていますが元気にやってくれればいいとあまり連絡を取りません。綾音については、また別のところで出会い、箱庭とは関係なく友人になります。(なってくれ)
【梶谷修輔】
4〜6章の主人公です。
すっすっす〜!
はじめは彼が5章退場しようとしてそれを酒門が利用する形になる筈だったのですが意外とメンタルもフィジカルも弱くて困りました。でも最後はめちゃくちゃ頑張ってくれたと思います。
最初はもう少し酒門の相棒感を出していく予定だったんですが、普通に別行動してるし、何なら途中から石田と武島が普通に相棒って感じでしたね。お陰で最後の方の本山の疎外感やばかったですね。
彼は最終的に情報系の大学に進学しています。意外と連絡はご無沙汰なタイプで莉音にお任せしている状態です。
【久我睦と寿綾音】
1章コンビです。
2人とも残っていたら確実に美波の相棒になっていただろうポジションですね。でも、2人とも自己犠牲の塊なのでどこかでいなくなってた気もします。
久我は風花と関係を持つ重要人物で大人びた性格をしています。それを知っていることによりゲームを本山の思い通りに進める助けになる予定でしたがダイナミック退場してしまい、この時点から計算が狂っていきます。
寿も、美波を成長させるための要素として盛り込んだつもりが久我ごと消えてしまったためこれもまた本山の計算が狂う1つの理由になってしまいました。
脱出後、久我は酒門を口説き落としています。正直なところ一目惚れでした。寿も同じような感じ、第一印象で友だちになりたい!!ってなった感じです。大学になってから再会し、最初は気まずい感じになりますが、アタックする久我の様子を見て吹っ切れた感じです。
3人には幸せになってほしいですね。
【石田遼馬と高濱風磨】
幼馴染コンビです。
前回と違う要素、リアルの大親友です。
元々高濱は石田にコンプレックスを抱いていましたがやはり憧れと表裏一体、好きで仕方なかった感じです。退院後は石田と和解し、バスケも色々と意見交換をして、無事大学まで続けることができました。石田に教員を勧めたのも彼です。
石田は最初から生き残り、成長枠①で考えたキャラクターです。前回は3年生序盤でほぼ全滅しましたからね。そして運動できることフィジカルの強い子も前回はいなかったので……。今回彼がいなかったら詰んでいる所が沢山あったので、年下の子の面倒見ながら本当によく頑張ったね、って感じです。
【荻龍平と香坂和樹】
何気に仲良しコンビです。
荻は、酒門とのやり取りや久我、寿の姿勢を見て成長し、ゲームと向き合おうとしたが手段を誤った感じです。彼は高濱が石田に依存していることを見越した上で焚きつけるようにしたらしっぺ返しを喰らいました。その後は何かと香坂と縁があり、話す程度の仲にはなってます。あと実は華とも住む場所が近い設定です。全く生きない設定でしたが。
香坂は荻にシンパシーを感じていましたが、変わっていく彼を見てもどかしさを覚えていました。きっと3章を乗り越えていたら成長できていたと思うのですが……。彼は間違いなく荻と、あと酒門にも友情に近い何かを抱きかけていました。
【武島莉音と矢代華】
宗教コンビです。
矢代は周りを巻き込む問題児的ポジションとして生まれました。両親が宗教家で、信仰心は幼い頃から抱いていましたが、決して強制されることはなかったため人を信じるといった方に伸びていきました。武島に抱いていたものは間違いなく友情であり、彼女を助けたいという気持ちは本物でした。現在は家を出て自立しており、司書さんをやってます。意外。
武島も成長枠②です。正直4章までうぜー、って思いながら書いてましたが、4章終わってから一気に愛おしい子になりました。疑われに疑われて可哀想だったといえば間違いなかったです。根は間違いなく参加者の中で純粋だったので、後半は全力で惑わされつつもやれることをやっていました。落ち着いていれば話を聞くことは得意なのでカウンセラーになりました。
【加藤麻結と木下菜摘】
本当に可哀想な実行者コンビ……。
特に加藤についてはとばっちりも甚だしいです。まぁそのために本山と同じ部屋にしたんですけどね。彼女には1章の時点から目をつけられていました。酒門を支えるポジにも入っていたため、ダメージを与えるためにいいだろうと考えていました。(そこで支えるはずの久我はもういなかったから酒門は振り切れたんですけどね……。)
木下は本来成長枠でした。武島と喧嘩をしながらも須賀が武島に【強制退場】させられ、その武島と討論する、そして彼女の弱さを見て成長していく。しかし、その弱さを酒門に見抜かれ利用されました。彼女については、狙い撃ちされたことを理解しておりまたそれが首謀者を仕留めるために必要だということは土壇場で飲み込んでいました。本山の予想を外したのは、彼女の成長速度でした。
【須賀縛と千葉凌二】
圧倒的光属性。
須賀は正直書きにくかった……!ちょっとお馬鹿な直情タイプ、そして武島への愛情一直線。それこそが弱さであった。無知が故に弱かった、そういうキャラとして書きました。実は、ですが恐らく参加者の中で最もメンタルが弱かったと思います。彼はゲーム終了後修行し、警察官となりました。千藤がおいおい見覚えのある姿に驚きます。
千葉はまた須賀とは違った光属性です。5章の犠牲者、つまり風花ポジションでありましたが、書いた通り突拍子もないことを言ったりやったりします。それがマイナスの方に働いたのが1章、プラスの方に働いたのが5章です。彼は寿への恋心を抱いたままですが告げないまま過ごしています。果たしてどうなるのやら……。健気だね。
【本山楓】
はい、今回の黒幕です。
過去のヤマモト、という名前は本名の本山をもじっただけです。そして隣の席の、学生時代からの友人だった赤根に憧れそして妬んでいたことから【スズキ】としてゲームを主催していました。
最後、赤根が面会に来てくれると信じていましたが、赤根には真実さえも伝えられず風花を最後にゲーム関係者は一切面接に来ませんでした。可哀想かもしれませんが因果応報です。
ちなみにゲームに参加していた本山楓は間違いなく高校時代の本山楓でした。人とは広く浅く関わるタイプ、故に最後の方はなんとなく団結できていないような感じになりました。
次回はローファンタジーを執筆する予定ですが完走できるでしょうか……長くなりそうなので少し心配です。笑
最後にここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
また別作品でお会いすることがありましたら、よろしくお願いします。




