解決編④ -後編-
「何を根拠に仰ってるのですか?」
あくまでも冷静に彼女は返してくる。しかし、下唇を舐める動きが見られたあたり動揺していないわけでは無かった。
「アンタは2つ失言をしてる。
1つ目は、音についてだ。」
「もしかして、私が聞いたぱちぱちって音について?
でもアレって物質が、0と1に分解する時の音なんでしょ?」
楓の言葉を聞いて、莉音がハッとした顔をした。彼女も共に【スズキ】から履歴の話を聞いていた人物だ。
「もしかして、音に言及していないから?」
「それもあるっす。でも、そこじゃない。【スズキ】が言ってたじゃないっすか。履歴に残っているのはあくまでも音のみでしか認識はできない、数値化したものは履歴に残らないってね。」
「つまりは、【スズキ】の言葉通りなら、履歴の時間に0と1が見えるのはおかしい、と。」
「はい。ただ、音については千葉さんも気づかなかったって言ってましたし、なんとも言えないっす。それより、気になったのは2つ目の失言です。」
ちらりと千葉を見つめると、彼が最も詳しい情報を述べ始めた。
「木下の、『荒らさずに須賀さんを消せるのは状況証拠的に武島さんで間違いない』って言葉、どう考えたっておかしいんだよ。倉庫は間違いなく荒らされた後なんだ。」
「なんでそんなことがわかるんですか?」
「逆にお前は分かんねーのかよ。」
彼はそう言うが、この世界になってから倉庫のことを調べている人物しか分かるまい。しかも、千葉のようなマメに確認している者しか。
「倉庫には、奥の物がたくさん置いてあった場所に【しゃがんだ跡】があった。加えて、【そこに行くまでの物品の位置が入れ替わってた】んだよ。」
「この証言をするなら、オレは千葉が犯人はあり得ないと思うよ。犯人ならこんな細々したこと証言しないと思う。」
石田が呟く。
「……でも、武島さんも完全には容疑が晴れるわけではありませんよね?!」
「ありえないよ。武島なら、しゃがんだ跡も、物品の入れ替えの必要もない。」
「それに、入れ替えられた物品の場所、2番目の世界の時の順番と一緒なんだよ。2番目の世界で、最初に倉庫の調査したの、お前だろ。」
千葉の追撃にグッと下唇を強く噛んだ。
彼の言葉が決定打であった。
諦めたのか、彼女はふっと肩の力を抜いた。しかし、彼女の表情は最後の悪足掻きを決めたような、今までに見たことのない表情だった。
「なら、聞かせてください。」
「……何すか。」
すぅ、と彼女は息を吸った。
「私はどうやって須賀さんが倉庫にいるのを知ったと思いますか? そのことを知らなければ、今回の計画は不可能な筈です。
それに、須賀さんがどうして私に抵抗せずに消されたのですか?
彼は、武島さんを救いたかった。なのにこれでは、武島さんを消しかねない行為ですよ。」
確かに、それは菜摘の指摘のとおりだ。
やはりただでは起きぬか、と梶谷が口を閉ざした時だった。
「……アンタが知ったのは、私と武島が、須賀に呼び出された時でしょ。
後ろをつけてたの、アンタだったんだ。」
「……気づいてたんですか?」
みるみる顔色が悪くなる。そして、何かに気づいたのか、彼女の顔は真っ青になり、美波に掴みかかる。
「なら、貴女は、私が聞いているのを知っていてあんな質問をしたんですね!」
「あんな質問……、あ。」
莉音も心当たりがあったのか、顔色があからさまに悪くなっていく。
「何か覚えてるんすね。」
「……うん。」
莉音は語り始める。
彼女が朦朧としている中で行われたやりとりを。
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『オレを【強制退場】させて、武島さんを脱出させてほしい! 酒門にはその協力を依頼したい。』
『……そんな、』
莉音はそれきり口を閉ざす。
自分が何の役にも立たず苦しそうにしているから、彼が見かねてこんな戯言を言い出したのだ。
美波は腕組みをしたままため息をついた。
『協力って、具体的に何をするの? そもそも私にメリットが一切ないよね? データになって消えろって言われてるようなもんだよ。』
『確かに、そうだな。』
呆れたように彼女は髪をわしわしと掻いた。この時は珍しく煮え切らない須賀に苛立っているのだろう、と朧げに思っていた。
『例えば、武島のアリバイ作りのために、私が武島の端末を持ってアンタを消しにきても【強制退場】を受け入れるってこと?』
『勿論だ!』
『武島が頼めば誰が来ても信じられるわけ?』
『ああ! 武島さんは嘘だけは吐かんからな。』
愚直なまでに真っ直ぐに答える彼にこんな決断をさせてしまったことが申し訳なくて、情けなかった。
莉音は立ち上がると耳を塞ぎながら薄く開いていた扉を開き、廊下へと飛び出した。もちろんそのあとの2人の会話は聞いていない。
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「なら、急襲に失敗して姿を見られても、莉音ちゃんが頼んだ、って言い訳すれば須賀くんはほぼ無抵抗で間違いないじゃない!」
楓が悲鳴のように叫んだ。図星だったらしい菜摘はそこで膝を折り、床に座り込んでしまった。
それと同時に表情を歪めていたのは梶谷だった。
「っ、てか待ってください!
ならアンタは木下さんが何かやらかすことを分かっていた上で何もしなかった、ってことですか?!」
その梶谷の指摘に、気づいたのか千葉や石田、莉音までもが美波に注目する。
「……それを話すのは、次の世界で、だよ。」
彼女はその仲間たちに視線を一切送ることなく、【スズキ】をゆっくりと睨みつけた。
果たして、画面の向こうの彼女はどんな表情をして美波の言葉を受け止めているのか、それは一切想像はつかなかった。




