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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
4章 計画にない目標へ
36/52

調査編④

 梶谷と石田、そして莉音は慌ててモニタールームへ向かった。どうやら美波以外は千葉が送ったメッセージを見て集まったようだ。

 梶谷と石田は端末が使えないため、内心でその場に莉音もいてくれてよかったと安堵する。


 モニターにはお決まりの説明という名の煽り文句が書かれていた。



「とりあえず、酒門が来ねーけど始めるか?」

「いや、美波ちゃん犯人だったらどうするの……。」


「ここにいる全員が白になれば、必然的にそうなるっすからいいんじゃないっすか?」


「……ま、それもそうだね。」



 梶谷の言葉に、楓をはじめとりあえずという形で全員が納得してくれたらしい。早速、と言わんばかりに千葉が【退場情報】と【アリバイ】の確認を提案してきた。




「じゃあ、【退場情報】確認するぜ。

 【今回退場したのは須賀、時間は8時から10時、場所は倉庫、外傷は特になし】。んでサポーターじゃねぇ、と。

 で、確認すべきはこの時間のアリバイだな。オレは8時半くらいまではカフェテリアで飯食ってた。そのあとはB棟のうろうろしてたぜ。ま、大体ホームセンターの部屋にいたけどよ。」


「何でまた。」


「いや、物の場所が変わってるの気になっちまって片付けてたんだよ。本来の目的は隠し部屋探しだけどな。」



 ホームセンターの部屋は恐らく莉音の騒ぎのままになっていたため荒れていたのだろう。後で確認した方が良いかもしれない。




「ちなみに、だけど私は8時過ぎくらいからAIのある部屋にいたよ。何かまた初期化されてたんだよね……。」


(わたくし)は温室におりました。ご存知の通り、中から外は見えないので、倉庫に行く人は見ていませんわ。」


「私は部屋にいました……。9時半くらいにはカフェテリアに出て梶谷くんと石田さんに合流しています。」


「そうだね、武島9時半以降のことは保証するよ。それと、オレはその時間ずっと梶谷と一緒にいた。」


「石田さんに同じく、っす。」




 どうやら、【アリバイ】を証明できるのは、梶谷と石田だけらしい。



「ってなると班分けしにくいね……。シンプルに力で考えて、千葉くんと石田くん、梶谷くんとわた……いや、梶谷くんと莉音ちゃん、私と菜摘ちゃんでどうかな。」



 莉音と菜摘を一緒にできないことと自身が莉音と組みたくないという魂胆が梶谷には手に取るようにわかった。

 しかし、梶谷としては昨日のこともあり、別段不満はなかった。



「じゃあ、そうしましょう。各自調査で、酒門さん見かけたら各班と合流する形で。」



 梶谷が仕切ると全員が頷いた。






「よ……よろしくね。」

「よろしくっす!」



 このやり取り、出会った時の自己紹介を何となく思い出す。梶谷がそんなことを考えていると、莉音がおずおずと提案をしてきた。



「あの、ちょっといいかな。」

「どうしたっすか?」


「梶谷くんにとっては嫌なことだと思うし私疑われることだから言いたくないんだけど……。怒らないでね?」


「別に怒らねーす。」



 やはり臆病さは急に治ることはないようで、梶谷は苦笑する。




「……その、一昨日のお昼前のことなんだけど。」

「そういや、昨日須賀さんがどうとか言ってたっすね。」



 う、と彼女は吃る。視線があちこちに泳いでいるあたり、本音は証言したくないのだろう。



「その、【須賀さんから、酒門さんと一緒にリビングルーム来るように呼び出された】んだよ。」

「酒門さんも? 来たんすか?」



 彼女は頷いた。



「なんか、自分がいたことを他言しない代わり、って言って応じたんだって。ちゃんと酒門さんは約束の時間に来たよ。

 それで、【須賀さんは私に自分を消すように、酒門さんはそのサポートをするように】って言ったんだよ。

 もちろん酒門さんには一蹴されてたし、私はその時もうパニックで何も言えなかった……。でも須賀さん、一方的に今日の時間と場所だけ伝えて、行っちゃったんだよね。」


「一応聞きますけど、部屋から出て、須賀さん消して戻ってきたってことは……。」


「ないよ! 昨日の今日でそんな気力ないし……それに。」



 慌てて両手を横に振って否定する。それに、という言葉はかなり尻すぼみで少し落ち込んだようなトーンであったが。



「私だって、須賀さんが誠実に私に向き合ってくれていたことは理解しているつもりです。

 そんな人を犠牲にするほど落ちぶれてはないつもり。」




 確かに彼女は華のことを守ると言っていたが決して直接手を出そうとしている様子は見られなかった。そして、彼女の今までにない、強い視線は、何も証拠はないが信じたいと、梶谷は思った。




「分かったっす。なら、調査しましょう。気になるのは倉庫すかね。」

「あとアリバイを証明する方法を考えないと。もう一度皆さんに詳しく聞いた方が良さそうだね。」

















 意見が一致した2人は、まず倉庫に向かった。

 倉庫には石田と千葉がいた。



「どうっすか? 何か怪しいものありました?」


「ああ、怪しいどころか妙だぜ?」

「妙?」



 千葉がああ、と答える。



「【倉庫の物品の位置が違うんだよ。】」

「どんな風に、っすか?」

「オレの世界になってからは、ここの床には果物の缶詰、肉魚系の缶詰、お菓子、食器が置いてあったんだが、順番が違うんだよ。

 今の順番、2番目の世界の倉庫と一緒だな。」



 確かに、缶詰の位置がそれぞれ逆になっており、お菓子や食器の位置もズレているようだ。



「梶谷くん、ここ見て。」

「どうしたんすか?」


「照らすよ?」



 石田の端末で床を照らすと、【何かを擦ったような、埃が浮いたような跡】があった。

 梶谷から見れば膝をついたような跡であるようにも感じた。



「……しゃがんだ跡でないでしょうか。それに千葉さんが指摘した場所と近いので、関連があるかもしれません。」

「そうっすね。でも須賀さんは危害を加えられた様子ないし……、【外傷治療薬とか使った履歴】ないっすけど。」



 ふと、梶谷は視線を感じる。

 その方向を向くと、昨晩の出来事を知らない千葉が奇妙なものを見るような表情を浮かべていた。




「どしたんすか?」

「いや、その、気分害したら悪い。何か、武島の面構えが変わったような気がしてよ。」



 3人がきょとん、とする。

 梶谷と石田はどうしようかと、目で会話するが、当事者である莉音はなぜかふふ、と穏やかに笑う。





「……私、昨日自殺しようとしたのを2人に止められたんです。」


「へー……て、自殺?! はぁ?!」




 千葉のリアクションもごもっともだろう。しかし、それは予想していたらしい彼女は頷くのみ。




「梶谷くんに叩かれて、【矢代さん】と話させてもらって目が覚めました。今更、って思うかもしれませんけど、今までごめんなさい。

 これからはここから脱出する手伝いをさせてください。」


「や、いいんじゃねーの? 味方が増える分にはいいだろうし。」


「ただ、その、経緯とかは、もしかしたら今回の事件に関わるかもしれないので皆さんが集まった時に話します。石田さんから聞いてもらっても大丈夫です。」



 驚き顔を潜め、真面目な顔に戻った千葉はわかった、と受け止めて礼を述べた。

 その時僅かに彼女は苦しそうな表情を浮かべたが、こちらも礼を言う。



「そういえば千葉さん、アリバイってもう少し細かく教えてもらえませんか?」


「アリバイかぁ……。

 お前らと朝食摂って、別れてから自室のパソコン見て、1階の廊下とトイレを見て、んでホームセンターの部屋にずっといたかな。無かったもんは、ハサミとロープと低い台だったな。」


「分かりました。ありがとうございます。」



 今のところ、彼のアリバイに妙なところはなさそうだった。




 













 倉庫から出ると、ちょうどA棟側の裏庭に楓と菜摘がいた。

 少しばかり、莉音は嫌そうな顔を浮かべたが、意を決して梶谷についていくことにしたらしい。梶谷の後ろをちょこちょこついていく。



「本山さん、木下さん、何か見つかりました?」


「梶谷さん、と武島さん。」



 あからさまに彼女は莉音に警戒を敷く。楓も梶谷も困り顔をしつつ、楓は慌てて会話をねじ込む。




「そ、そういえばね、みんなのアリバイとかを踏まえて倉庫への通路をそれぞれ見てたんだけど、特に痕跡は無かったんだよね!」


「ちなみに通路は【温室前を通るB棟裏庭を介する道、中庭を介する道、寝室とかからも出られるA棟裏庭を介する道】でよかったっすか?」


「そうだよ。まぁ、この事実じゃ誰のアリバイも変わらないんだけどね。」



 楓が肩を竦める。寝室の窓の話は、正直なところ前回の話題でも上がったものであったため、梶谷はさほど気にしていなかった。



「そういえば、お2人のアリバイを詳しく聞きたいんすけど。」


「アリバイかぁ……、私は少しAIの【寿さん】と【高濱くん】と話したけど。あと【9時半くらいに妙な音を聞いた】よ。」

「妙な音、ですか?」



 つい、といった様子で莉音が尋ねると、楓は戸惑いながらも答えた。



「うん、ぱちぱちぱち、って弾けるような音。結構うるさかったから同じ部屋にいたら気づくと思うかな。」


(わたくし)はずっと温室にいましたわ。特に異変もありませんでしたが……。」

「そうすか。」



 あまり進捗はないが、楓の証言は重要になりそうだった。



「でも、武島さん、どういった風の吹き回しですか? 急に調査に積極的になって……もしかして犯人だから証拠をどうにかしようとでもしてるんですか?」


「……ッ、」



 菜摘の問いに慄くが、しかしすぐに一度逸らした視線を彼女に向けた。



「……、今までは、そのごめんなさい。

 でも、今回はちゃんと調べます!」



 それだけを言うと彼女は踵を返して2人とは逆方向に逃げて行ってしまった。












ーーーーが、その先で驚くべき人物にぶつかる。



「いたっ!」

「……ああ、ごめん、大丈夫?」



 その場で、莉音が顔を上げるとそこには何食わぬ顔で美波が立っていた。後を追いかけてきた梶谷もえっ、と声を漏らす。



「酒門さん! 今までどこにいたんすか?!」

「……言いたくないけど【昨晩からずっと隠し部屋にいた】よ。」



 彼女が2人を手招きするので2人は両端から彼女の端末を覗き込む。ご丁寧にロック解除から、【退場情報】の受信履歴を見せてくれた。



「【受信時間は10時37分】。

 調べてくれれば分かるけど、これの前の更新時間は昨日の21時だから。」



 梶谷が受け取り、更新履歴を見るとどうやら当たっているらしい。確かに端末を持たずに外に出ても須賀を退場させることは叶わない。



「……つまりはアリバイ完璧ってこと、ですか?」

「まぁ、そっすね。」



 事実を確認すると同時に梶谷は彼女にそれ以上追及しても無駄だと思った。



「こっちもアリバイ話したし、現状について簡単でいいから教えてもらえる?

 それに、武島からも聞きたいかな。あの約束のこともあるし。」


「そう、ですね。」



 莉音がたどたどしく語るのを、黙って頷きながら聞いていた。しかし、自殺未遂の話だけは流石に顔色を悪くしていた。



「……石田と梶谷が運良く出会ってくれてよかったよ。私も心配してた。

 無事でよかった。何もできなくて悪かったね。」



 先ほどの追及の反動もあるのか、美波が優しく莉音の頭を撫でると、彼女の目尻にはじわりと涙が浮かんだ。



「でも、本山が聞いた変な音は気になるね。【スズキ】に聞いてみたら?」

「え、オレが、すか?」


「たぶん私は【箱庭】のデータを改竄してるから、出会い頭にキレられて会話にならない気がする。他のメンバーとでも合流するよ。」

「なら、倉庫に石田さんたちいますよ。送ります。」

「助かる。」



 彼女は素直に礼を言った。

 











 美波を2人の元に送り届け、アリバイのことについて伝えると、石田はしぶしぶ、千葉は安堵したようなリアクションで受け入れてくれていた。

 そのまま2人はバックヤードの部屋に向かい、AIを立ち上げる。会話を交えることなく淡々と起動時間の確認を行う。


 どうやら、【【綾音】と【高濱】は8時24分から9時15分まで起動していた】らしい。

 2人をそれぞれ立ち上げて話を聞くと、どうやら楓は間違いなくこの部屋にいたそうだ。




 それから、モニタールームに向かい、【スズキ】へメールを送る。するとすぐにモニターが点き、貧乏揺すりで椅子をカタカタと言わせる、彼女の後ろ姿が映った。



「何の用でしょう?」

「知ってるんじゃないっすか? バックヤードの部屋に起きた騒音の正体について聞きたいっす。」

「そちらさんが原因で起きていることなんですけどねぇ。」



 不機嫌です、と言わんばかりの高圧的な様子だ。



「酒門さんが何やらやっているのと私の修正が繰り返されているせいで時折物質の分解が発生しているのです。まさに、その音ですよ。」


「……【物質の分解】?」


「ええ、時折01が浮かんでいるでしょう? それが生じた時の音ですよ。8時50分に温室、9時3分にホームセンターの部屋、9時27分にバックヤードの部屋で起きています。履歴に残っているのはあくまでも音のみでしか認識はできませんがね。数値化したものは履歴に残りません。

 他の部屋の履歴を端末に送っておきます。

 まぁ、貴方と石田さんは見られないでしょうけどね。」



 莉音が不思議そうな顔をする。

 【スズキ】は愉快そうに鼻を鳴らすと通信を切断してしまった。

 一方で、なぜここで言うのだと梶谷は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、切り替えて莉音に向き合う。



「事情は後で話します。ちょっと作業してる関係でオフラインにしてるんで。」

「……そうなの? なら、いいけど。」



 莉音は疑わしげにしつつも、素直にその履歴を見る。



「んー……本山さんが言ってることは間違いないみたいだね。」

「そう、す、ね。」




 梶谷は、ふと気づく。

 そして、犯人の可能性に。


 これは上手く引き出せないと誤魔化されてしまうため難儀かもしれない。



「おし、じゃあもう少しで集合時間なんでこのままここで待ちましょうか。武島さんのお手並み拝見、てところで。」

「……頑張ります。」



 実際にここが踏ん張りどころなのだろう。

 そして、口を閉ざした梶谷は静かに思考する。


 果たしてこの事件の結末に、世界に何が起こるのか、正直なところ彼も分かっていなかったのだ。


①退場情報

【今回退場させられた人物】須賀縛

【退場させられた時間】8:00〜10:00

【退場させられた場所】倉庫

【アバター状態】目立った外傷はみられない

*彼はサポーターではなかった



②みんなのアリバイ

石田と梶谷はずっと一緒にいた。

千葉は8時半からB棟を歩いていたがほとんどホームセンターの部屋で片付けをしていた。

本山は8時過ぎくらいからAIのある部屋にいた。

木下は温室にいた。

武島は自室におり9時半から梶谷たちに合流している。



③須賀の仄めかし

リビングルームに呼び出した武島と酒門を待つ日時と場所を伝えた。

その時、須賀は武島に自分を消すように、酒門さんはそのサポートをするようにと言った



④倉庫の配置

床には果物の缶詰、肉魚系の缶詰、お菓子、食器が置いてあったが、缶詰の位置、お菓子と食器の位置がそれぞれ逆になっていた。

2番目の世界の倉庫と一緒らしい。



⑤倉庫に残った跡

奥の雑多に物が置いてある場所にしゃがんだ跡がある



⑥アイテム使用歴

外傷治療薬など、アイテムを使用した履歴はない



⑦倉庫までの道のり

それぞれの寝室から出られるA棟裏を介した道、中庭を介した道、裏庭と温室前を通る道がある。



⑧千葉のアリバイ詳細

梶谷と石田と朝食摂って、別れてから自室のパソコン見て、1階の廊下とトイレを見た。

その後はホームセンターの部屋にずっとおり、ハサミとロープと低い台が無かったことを確認している。



⑨本山が聞いた音

ぱちぱちと弾ける音がしたのを聞いている。



⑩酒門のアリバイ

隠し部屋にいたため、端末が更新されていない。

退場情報を受信したのは10時37分。

その前に更新したのは昨日の21時であった。



11AIたちの証言

【寿】と【高濱】は8時24分から9時15分まで起動していた。



12【スズキ】から送信されてきた履歴表


物質が01に分解した時の音が生じた履歴。

8時50分に温室、9時3分にホームセンターの部屋、9時27分にバックヤードの部屋で起きている。

履歴に残っているのはあくまでも音のみでしか認識はできない。

音がなく数値化したものは履歴に残らない。


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