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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
4章 計画にない目標へ
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素直な気持ちを言葉に

 梶谷は、夜中ふと目を覚ました。

 三度目の夜、彼の頭にはもう麻結たちの言葉が何度も木霊することはない。しかし目を瞑る度に夕方の美波の表情が何度も思い返される。



「……なんで、」



 あれから、何もする気が起きなかった。

 千葉も楓も心配してくれたが、語る気もしなかった。石田は黙って見守っていてくれたが、それが本当に有難かった。




「眠れないの?」



 ふと顔を上げると月明かりに照らされた石田の顔が見えた。気怠げな表情を見る限り、先程まで寝ていたようだ。



「起こしましたか?」

「まぁ、ちょっと出る?」



 梶谷は頷くと同じ部屋で眠る2人を起こさないようにこっそりと部屋を出た。


















 2人は中庭のベンチに腰掛けた。校舎の外に広がる夜空はバカらしいくらい美しく、そして満天の星空であった。



「梶谷は、意外と不器用だよね。」

「へ?」



 思わぬ言葉に彼は目を丸くした。



「酒門の態度がショックだったんでしょ。加藤や武島に言われた言葉よりも。」


「はい……まぁ。」



 嘘をついたって無駄だ。仕方なく答えると石田はふっと笑った。



「オレも、さ。風磨が居なくなってショックだった。まさに今の梶谷みたいに眠れなくて、それにたくさん泣いた。」

「泣いたんすか?!」

「人を何だと思ってるの。」



 意地悪く言う石田に梶谷はたじたじとしてしまう。それを面白そうに笑う。



「梶谷は大人ぶりすぎなんだよ。オレたちたかが高校生だよ。やることやるのも大切だけど、外の大人だってやることやってくれてるはず。」


「石田さん……。」



 じわりと目頭が熱くなる。

 梶谷が言葉を紡ごうとした時だった。B棟の方から大きな、何か物の倒れる音がしたのだ。



「何、今の音。」

「行ってみましょう!」



 梶谷が石田に告げると、彼も立ち上がり、B棟の方へ向かった。













 恐らく、ホームセンターの部屋であろうとアタリをつけて2人は扉を開く。

 そこからは喘ぎ声とロープが軋む音がする。

 そして、僅かな光により映された影が不自然に暴れている。梶谷がその影の正体を認めると同時だった。



「武島!」



 初めて聞くような、石田の悲鳴のような声とともに彼が動き出す。ロープに吊られているのは間違いなく武島莉音だった。


 彼は宙に浮く彼女の身体を持ち上げ、ロープを撓ませる。莉音の絞扼は緩んだらしく、彼女の息はぜーぜーと、荒いものの安定したものへと変わっていく。



「梶谷、ロープ切って。」

「はいっす!」



 梶谷は弾かれたように、ホームセンターの棚に並ぶハサミを取り出しロープをジョキジョキと手早く切っていく。




 顔色は悪いものの、莉音はどうにか呼吸を整えたらしく、2人の心配そうな顔を見て自分が無事であることを悟ったらしい。



「何でアンタあんなことしたんだ!」

「……ごめんなさい、でも、」



 彼女はポロポロと大粒の涙を零し始めた。




「もう、生きる意味が無かったんです。みんなが調査を頑張ってるけど、私は何もできなくて、唯一守りたいって思ってた矢代さんのことも守れず、彼女を消した犯人さえも分からず人を責めるばかりで。

 しかも、須賀さんにも、自分を消してくれって言わせてしまう始末……!」



 石田は内心で頭を抱えた。彼女を想った行動が、彼女を追い詰めることになってしまったのだ。




「しかも、死のうとしても、結局怖くなって、2人に助けてもらって、私なんて生きる価値なんか、」








 パチン、








 石田と、そして頰を思い切り叩かれた莉音は目を丸くした。音を立てた主は梶谷だ。

 そして2人が驚いた理由は、何より、当の本人が顔をぐちゃぐちゃにして泣いていたのだ。



「生きる価値がない人間なんているわけないじゃないっすか! 自惚れるのもいい加減にしろ!」



 莉音も、梶谷も涙をこぼす。



「アンタの命は、矢代さんが命をかけて守ろうとした命なんだから価値がないわけがない。

 それに、オレだって、寿さんも、久我さんも、荻も高濱さんも、矢代さんも、高坂さんも、加藤さんも……誰も救えてないんすよ! アンタら全員を助けたいのに、何もできてないんす!」


「そんなことない!」

「そんなことある!」



 2人はぐちゃぐちゃの顔で睨み合う。

 しかし、梶谷は不細工な笑顔を浮かべた。



「だから、こっからもう1回頑張るんすよ。まだ、オレにできることはたくさんあるはずだし、全員救いたい。その中には武島さんもいるんすから、死ぬなんて言わないでください。」


「梶谷くん……。」



 何度も、何度も頰を拭うが莉音も涙が止まらないらしい。ずっとしゃくりあげており、苦しそうであったが彼女は真っ直ぐと梶谷を見ている。




「ね、だから一緒に【スズキ】と戦いましょう。そんでもって、須賀さんにもそんなこと言わせてごめん、って謝りましょう。オレたちは一緒に戦う仲間なんすから。」


「……こんな私でも、何か役に立てるのかな。」


「もちろん! 何でもやれば結果はついてくるっす!」

「ふふ、テキトー。」



 少し落ち着いたのか、莉音は梶谷の言葉に笑みを浮かべた。




「……ねぇ、2人ともさ、元気があったらでいいんだけど【矢代】のところ行ってみない?」


「「へ?」」



 2人は意味がわからず首を傾げた。

 先程までの焦りは何処へやら、彼は落ち着いて語る。その意図が分からず、2人は思考がまとまらないため石田に言われるがままについていくことにした。







「……あの、何で今【矢代さん】に?」



 恐る恐るといった様子で彼女は石田に尋ねた。

 彼は特に気に留めた様子もなく、パソコンを立ち上げる。



「今の武島なら大丈夫って思ったから。」

「はぁ……。」



 ものの数分で【華】は立ち上がった。彼女は莉音の姿を認めると嬉しそうに破顔した。




『莉音だ! やっほー、ずっと待ってたよ〜。』

「う、うん……、ごめんね。」



 彼女の泣き顔で何かを察したのか、【華】は穏やかに微笑んだ。




『【華】は、華じゃないから、はっきりとは言えないけどね、【華】なりに考えて、莉音に言いたいことずっと考えてたんだ。』


「……え?」



 莉音は驚いたように【華】を見つめた。




『何回も、何回もシュミレートしても、この結果にしか辿り着けなかったんだ。

 華は、ずっと華のことを信じてくれていた莉音に、友だちになってくれてありがとうって言いたかったんだ。』


「友だち……。」



 再び彼女の堰が決壊する。

 何度も、何度も、涙を袖で拭うが追いつかないほどに。





『今だって、【華】は画面の向こうの莉音をぎゅーってしてあげたいんだよ。だから、華は独りで消えようって思えたんだよ。本当は怖かったけど、莉音がいなくなっちゃうことより怖いことなんて無かったんだよ。』


「……ッ、私、私……。うぁあ……。」




 苦しそうに、彼女は嗚咽を続けていた。それを悲しそうに、しかし愛おしそうに【華】は見つめるのだ。






『だから、華と【華】からのお願いだよ。

 生きて、莉音。』







 それだけを告げると、モニターは暗転。

 【華】は消え、いつのまにかパソコンは初期化に入っていたのだ。





「……無駄じゃなかったね、梶谷。」

「ん、そっすね。」



 2人は顔を見合わせると頷きあった。

 この時の梶谷もまたどこか晴れやかな表情を浮かべており、石田はほっと安心していたのだ。












「梶谷くん、石田さん、本当にありがとうございました。」


「全然、オレは何も!」

「まぁまだゲームは続くらしいから頑張ってね。」


「本当、石田さんモテませんよ。」



 言われた本人はどこ吹かぬ風、おやすみといって自室に戻ってしまった。




「あの、梶谷くん。」


「何すか?」



 彼女は何かを決心したような顔で梶谷に伝える。



「実は、明日の午前10時に倉庫で待ってるって須賀さんに言われたんです。だから、一緒に行って、止めてほしいというか、その、」



 彼女が言わんとしていることは容易に分かった。



「もちろんす! 万一のために石田さんも引っ張っていくっす!」

「……ありがとう。今度からは、私も役に立ってみせるから。」



 おやすみ、と彼女は単独でいた部屋に戻っていく。素直に女子部屋に合流することはまだ難しいのかもしれないが、近いうちに戻れる日がくるのだろう。





















 翌日、朝食後梶谷と石田は見事に寝坊して、千葉に叩き起こされた。カフェテリアに行くとなぜか一部の卓が01で構成される、奇妙な現象に遭遇した。



「うえ、なんすかこれ!」

「ああ、これね、今朝から色んなところで発生してるんだよね。【スズキ】さんに聞いたら発生履歴とか教えてくれるよ。」



 かなりご機嫌斜めだけど、と楓はため息混じりに述べた。



 朝食を終えた頃には楓もいなくなっており、皿を洗っていると、やつれた莉音がのろのろと部屋から出てきた。




「おはようございます……。」

「おはよう、パンでも食べとく?」

「はい、いただきます。」



 簡単に食べられる惣菜パンを口にして咀嚼する。

 目的の時間はすぐそこに迫っており、片付けも早々に3人は倉庫へ向かった。




「ドアが閉まってるっすね。中にいるんすよね?」

「まぁ外にいないんだからそうなんじゃない?」



 石田は扉を力強く引っ張って開ける。

 なぜか中は普段より埃っぽかった。


 この時点で3人の胸には嫌な予感が走っていた。





「……須賀さーん?」

「隠れてないで出てきてくださいっすー。」



 恐る恐る、といった様子で2人は中に足を踏み入れた。それと同時だろうか。





『なお、今回【強制退場】をされた須賀縛は【サポーター】ではなかった。』




 お約束の文言と、聞きたくもないアラートが施設中で響いたのは。


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