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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
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残酷な選択の先に

 2人の声が聞こえる。目眩がしてからずっと頭がはっきりしない。



「お前は、いいのか?」

「んー?」



 聞き覚えのある、張り詰めた男の声と呑気なしかし聞き心地の良い声がステージに響く。ペンキをごそごそと弄る香坂の背後で華は何やら端末を触っている。



「武島に、言わなくて。」

「……いいのだー。莉音は、強い子だから、華がちゃんとメッセージを残せば、大丈夫。」

「ふん、あの自己中娘のことをよく信頼しているんだな。」


「そんなこと、ないよ……。結局、華は莉音も、自分も、みんなも信じることができなかった。私は、結局このゲームで人を信じることが、怖いんだよー。」



 彼女は疲れてしまったのだろう。小さな肩が震えている。



「でも、ごめんねー。決心がつかないからって巻き込んじゃって。」

「構わん。乗りかかった舟だ。」

「……でも意外だったな〜、和樹が協力してくれるの。」



 彼女は群青色のペンキで、大切らしい彼女の名前を書いている。



「……オレも、お前と似たようなものだったのかもしれん。荻を、失って始めて気づいたんだ。

 オレは、結局高濱に救われていたんだ。自主的な【強制退場】だったら、オレは恐らくオレは荻も、自分も許せなかっただろう。

 だから、半分だけお前に乗ってやるんだ。全ての憎しみを、オレが受け止めてや……。」



 ぐらり、と彼の身体が横に揺れる。

 その後、何かを口にしたらしいがあたしの耳には届かなかった。




「……ごめんね〜、華の覚悟は決まっているのだ。だから、和樹には証人になってもらうよ〜。」



 睡眠導入剤により、香坂は使い物にならなくなった。このままいけば、彼女は自主的な【強制退場】を成功させてしまう。



 消さなきゃ、消さなきゃ、消さなきゃ、消さなきゃ、消さなきゃ




「……な、んで麻結?! 華の、端末ッ、」




 ああ、この女の端末で、香坂を消した次はこの女を眠らせれば完了だ。これでみんなに指摘されれば、この女は退場。


ーーーでも、【この章】は2人消えなければならないのだ。




「……。」



 彼女の問いに答えられる人物はいない。麻結の瞳には薄い涙の膜がゆらゆらと揺れている。



「なぁ、ならせめて酒門があたしのこと、消してよ。」


「……ッ、それならオレが!」


「アンタは、結局、あたしらのこと救えなかったろうが!」




 美波を庇うように言葉を発した梶谷に辛辣な一言がぶつけられた。

 梶谷は、その一言で固まってしまう。




「なぁ、酒門は、あたしらが消えても、きっとどうにかしてくれんだろ?」

「……するに決まってる。」


「ならやっぱりあたしは、アンタに消してほしい。」




 梶谷には何となく、分かっていた。

 彼女は自分と同類だからこそ、ここまでなりふり構わず行動できるのだと。


 だから、その心労も、久我を最後に救った罪悪感も、高濱や麻結を追い詰めるきっかけを作った苦しみも、全てが彼女にのしかかっており、背負ったままであることも理解していた。




「分かった、ログインルームに行こう。」


「……ありがとな。」


「こっちこそ、ありがとう。何もできなくて、ごめん……。」




 美波の謝罪にゆるゆると彼女は首を横に振った。

 しかし、美波はログインルームの機器に触れながらも、何も話さず緩慢に操作していた。




「……あの、加藤さん。」

「あ? ……そういや、悪かったな。矢代も、矢代の遺言も聞いていただろう香坂も消しちまってよ。」


「……いえ、その、」



 意外にも麻結を糾弾することは無かった。その様子に菜摘も須賀も疑問に思ったのか、彼女の顔色を伺っていた。




「矢代さんは、退場する前に何か言ってましたか。」


「……さぁな。」


「……そうですか。」




 彼女は部屋に背を向けて出て行く。



「武島さん!」

「放っておいてください!」




 莉音は足早にログインルームから出ていく。唯一声をかけたのは須賀だけだ。

 彼は躊躇いながらも他の面子を見る。意外にも背中を押したのは千葉だった。



「行けばいいだろ。先輩だしよ。」


「……すまん。」



 それが自信になったのか、はたまた体のいい理由となったのか、彼は一定の距離を保ちながらも莉音の背を追った。




「準備、できたよ。」


「おう、じゃあ、頼む。」



 そのように言う麻結の目からははらはらと涙が溢れている。




 覚悟を決めた美波が、振り返ることなくボタンを操作しようとしたその時だった。







「……ごめんっ、麻結ちゃん!」


「え」









 美波を押しのけてボタンを押したのは、楓だった。

 顔を上げた彼女が見たのは、麻結の口元が僅かに緩んだ表情であった気がした。



「なんで、アンタ……。」

「美波ちゃん、貴女はもう、独りで背負わなくていいんだよ! 真実も、残酷な選択も! 私たち、仲間でしょ?」



 楓の言葉に美波の強い意志を持った瞳が揺らぐ。

 しかし、彼女は首を大きく横に振ると、肩を揺する楓の腕を緩やかに解き、部屋の出入り口の方を向く。




「……知りたいこと、梶谷と千葉は多少なら知ってるから。全部は話せない。」


「それは酒門が裏切り者って可能性を示唆することにもなるけど、いいの?」




 そのように残酷な可能性を提示するのは年長者の1人である石田だ。




「みんながそう思いたいならそう思えばいい。私は私のやるべきことをやる。」




 彼女は振り返ることなく、千葉に小さく耳打ちをすると、部屋を去って行った。当の千葉はというと、表情を曇らせて頷くのみだ。



「……全部、知ってることはオレの方から話す。それと、みんなに見てもらいたい場所があるんだ。いいよな、梶谷?」



 千葉が尋ねると、梶谷は素直に首を縦に振った。















 千葉の口から語られたのは、久我が以前ゲームに参加した人と関係があり前回ゲームの様相を知っていたこと、2人が誘拐されてきたことから早期に今回のゲームに違和感を抱いていたこと、そして前回のゲームの内容であった。

 石田は隠し事について気づいている節があり、納得はしていたが、菜摘と楓はひどく動揺していた。



「で、納得はしたけど何でここ?」


「ここって1つめの世界の……。」




 そう、5人が来たのは綾音と久我が揉めた現場だ。




「いや、そっちじゃなくてだな。実はこの壁にーーー。」






 千葉が壁に触れた瞬間だった。



 あの時の、吸い込まれてしまうような違和感が襲ってこなかったのだ。

 その変化にいち早く気づいたらしい梶谷も慌てて壁に触れるが、目の前には何の変哲も無い壁が立ち尽くすばかりだ。



「……何で、」


「そこに何があったのですか?」



 菜摘の質問に梶谷がぽつぽつと答える。




「ここには、隠し部屋があって、大事なものが隠してあったんす。でも、出入り口が、無いんすよ。」


「……それは確かにあったもの?」

「ああ、オレも入ったから間違いねーよ。」



 千葉が必死に肯定する。



「これも、【スズキ】さんの罠……?」





 





 楓の言葉に、その場は沈黙が広がる。



 そしてこの【改変】が、この先の展開に大きな影響を与えるとは、そう、千葉は気づきもしなかったのだ。

『本部より通達! 被害者と思われる梶谷修輔より掲示板宛に連絡あり! サイバー対策課に至急応援求む!』



 耳に当てたイヤホンから聞こえる緊急招集の声をスルーして、僕はとある会議室にいた。

 犯人の手腕は見事であったが、厄介な人間を巻き込み過ぎたあたり、浅はかだと僕は思っていた。


 しかし、彼女の理想を組み立てるには生半可な選定はできないのだろう、つくづくプライドだけ高い犯人であるようだ。



「遅くなりました……!」

「本当だよ。遅すぎ。」

「応援頼まれて当日中に設備準備したんだから許してほしいかな……。」



 約束していた女性が、綺麗な黒髪を揺らしながら会議室に駆け込んできた。久しぶりの再会に、大人びたのは見かけだけかと内心で毒づく。


 必死な時の、僕が苦手だったあの瞳は変わらない。




「参加者の1人、梶谷クンから連絡がきたそうだよ。サーバーを特定次第、救出に向かう。脱出後プログラム改変後、ログインしていたのは僕ら3人だけなんだから、コンタクトする時には必要不可欠だよ。

 もう少ししたら、彼女も来るしさっさと助けよう。」



 変わらないね、と僕の顔を見た彼女は苦笑する。しかしすぐに表情は引き締まり、見慣れた思案顔に変貌した。




「……犯人は、分かってるんだよね?」


「一緒に勤めてた人の証言があるし、その犯人はあそこまでして自分の存在を消したんだ。だから、間違いない。」



 僕が頷くと、一緒に彼女も頷いた。

 もうあの悲劇を繰り返すわけにはいかない、確かに恵まれた何かを残したものであるが決して気軽に行うべきものではないのだ。



 だから、僕たちはもう一度【箱庭ゲーム】を潰さなければならないのだ。

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