解決編③ -前編-
「遅くなったね。」
美波は少し遅れてログインルームに入る。これもアリバイが確保されているから許される暴挙であった。もちろんのこと、莉音と菜摘の視線は鋭い上、梶谷が明らかに心配そうにしながら慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっと、何してんすかアンタ! まさかとは思いますけど。」
「……とりあえず置いておいて。」
おそらく梶谷の心配していることと事実は一致するであろう。
「じゃあさっさと始めようぜ、つっても。」
「千葉さん、話し合いは無駄ですよ。矢代さんを【強制退場】させたのは、木下さんです!」
「根拠はあるんですか?」
菜摘は毅然とした態度で莉音に向き合う。
「まずは、動機です。あなたは世界の主であり、明日消えることが決定していました。」
「でも私には、アリバイがありますわ。」
「もしかして、本山さんと一緒にお昼寝していたことを言っていますか? そんなの無意味です。【アイテム使用歴】にあった睡眠導入剤、アレを寿さんの時みたいに本山さんと、矢代さんに盛った。
そして、自分の部屋から窓を使って脱出したんです。そうすればカフェテリアにいる酒門さん達に会わずに出られます。」
その莉音の推理を聞いて菜摘は嘲笑するように笑う。そして舞台人のような、鋭い眼光で彼女を睨みつけた。
「バカおっしゃいな。仮に私が犯人として、ならなぜ高坂さんも【強制退場】させたのですか? 証拠も残りやすくなりますし、それに【荻さんの証言】が信じるならば、私は行動しませんわ。」
「証言……?」
「AIの【荻】が言ってたんすよ。矢代さんと高坂さんが組んで、矢代さんの自滅を狙ったって。」
「そんなわけっ、」
彼女は悲鳴のような反論を述べる。
「でも否定はできなくない? 矢代がステージの暗幕に残した文字、遺言にも思うけど。」
「ッ、あの人が、そんなことするわけない!」
石田の言葉に彼女は食いかかる。それに追い打ちをかけるのは先程まで責められていた菜摘だった。
「私は、武島さんが犯人と思いますわ。正しくは高坂さんが矢代さんを、武島さんが高坂さんを、ですが。」
「どうやったんだよ、それ。体格も違うだろ。」
「簡単ですわ。矢代さんを消した後の高坂さんに直接コードを読み込んでしまえば飲ませなくても睡眠導入剤は摂取可能です。
リフトを使えば高坂さんの背丈など問題ありません。それに彼女以外はその血塗れの2人を見ていませんよね? 2人が倒れているなんて、不自然な現場、信じられるものですか。なぜ、犯人は2人をあえて目撃させたのですか?」
「う、その違和感は……その、」
彼女はしどろもどろになりながら答えようとするが理由が浮かばないらしい。
そこで話し合いの主導権をどうしても握りたかった美波が口を開く。
「熱戦を繰り広げているところ悪いんだけど、話を纏めたいんだよね。付き合ってもらっていい?」
「何かあるんだな?」
千葉の言葉に素直に頷く。
「まずは被害者2人の時系列順に並べるよ。
彼女らは加藤が【荻】を訪ねた後、2人で矢代の【強制退場】の決意を語った。梶谷、ログの時間はどうだった?」
「えっと、確か19時ちょっとっすね。」
「加藤は19時過ぎてから私たちと合流していたから矛盾はない。その後、矢代は【ペンキ】を須賀と運んでいる。つまり【ペンキ】を準備したのは、矢代で間違いない。」
美波の言葉に須賀が頷いた。
「そこから空白の時間があって、19時50分頃、武島が舞台の部屋に行ったのとほぼ同時に停電があった。」
ここで、石田が首を傾げながら補足のように呟く。
「停電について、なんだけどさ。恐らく停電は【起爆剤】によるものだよね。ブレーカーは粉々になってたし。だからある意味で誰でもできる。何もない時にブレーカー見る人はいないだろうし、ましてや棟の奥だからね。」
「そうだなぁ、あんな場所逢い引きでしか行かねーよ。」
麻結の茶々が真面目な考察か分からない言葉に石田は彼女を一瞥したがスルーすることにしたようだ。
「そこで、武島は倒れている2人を見た。この時点で、武島の悲鳴で反応がないあたり、2人は眠っていた。
それから空白の時間の間に2人は消え、千葉たちはステージの部屋に来た。」
「酒門さんの言うとおりっすね。纏めると2人が何をしていたのかってこと以外にも疑問もすんなり出てきますね。」
梶谷は指を立てながら冷静に疑問を述べる。
「1つ目、なぜ停電を起こす必要があったのか、2つ目、睡眠導入剤は誰が使ったのか、3つ目、矢代さんの傷はいつついてペンキは何のために準備されたのか。」
「あー、私、睡眠導入剤については分かったかも。」
楓がおずおずと挙手する。美波が頷くと、彼女は意を決したように、口を開く。
「睡眠導入剤を使用できる人、使用された人、はっきり言えないなら、候補には華ちゃんと高坂くんたちも含まれるんだよね。」
「そう、それにね、なぜ【荻】に2人が最後に話に行ったか、それが疑問だったんだよ。でも、今までの2人を思い出せば、想像はできる。」
梶谷が重々しく答えた。
「高坂さんは、明らかに荻を1番信頼してましたし、それに矢代さんは高濱さんたちの事件の時、すげーショックを受けてたし何より荻から影響を受けていた、ってことすよね?」
その通り、2人は荻に対して後ろめたい気持ちがあったのだ。
「ペンキはね、矢代が残したメッセージが証拠だよ。彼女が、武島に何かを残したかったのかもしれないね。
でも【手の外傷】は別、恐らく抵抗の跡。」
「抵抗って、高坂にかよ?」
「違うよ、犯人。」
あまりにもはっきりと言い切る彼女に、梶谷と千葉は疑問を抱き始めた。何やら美波は焦っているように感じた。
「犯人はまずブレーカーに【起爆剤】を設置した。これはいつでもできるね。それから、恐らく矢代が高坂に睡眠導入剤を使用、その後犯人が矢代ともみ合いながらも睡眠導入剤を矢代に使用、それで寝た状態でリフトに設置。
ここで、石田が拾った【矢代の端末】が関わってくる。」
「何でお前さんらが矢代の端末持っている?!」
須賀が尋ねると、石田が何故ここで明らかにしたのかという責めるような視線を美波に送りながら華の端末を掲げて言う。
「これは、オレと酒門が屋上まで非常電源をつけに行ったとき、裏庭で見つけたもの。」
「よく停電の中見つけたな!」
須賀の最もなコメントに石田は頷いた。
「まぁ目視で見つけたわけじゃなくて、音で見つけたからね。」
「どういうことですか?」
菜摘の疑問は当たり前であろう。その質問には美波が答える。
「何かが割れた音がしたんだよ。それで石田さんが確認に行ったらそれが落ちていたわけ。」
「……音の正体は、」
莉音が恐る恐る、といった様子で尋ねてくる。
「音の正体は、舞台部屋横の男子トイレから端末が投げ捨てられたときに窓が割れた音。」
「……開けて捨てりゃ気づかれなかったのかもしれないっすね?」
「あの男子トイレの窓、【立て付けが悪かった】からね。」
石田が補うように付け加える。そこまで美波の推理についていくことができているのは、どうも石田と梶谷だけで、他のメンバーは美波の話の展開についていけているのか、いけていないのか怪しい感じであった。
ハッとしたように千葉が手を叩く。
「もしかして、停電の目的ってそれか!」
「どういうことだよぅ……。」
たじたじの様子らしい麻結が尋ねると千葉は納得したように頷き始める。やっと頭が回るようになってきたらしい。
「停電は、オレたちの動きを制限するためだろうけど、犯人が動きやすくするための手段だったんだろ?
……でもそれだと、うぅん。」
「それなら、千葉さんはアリバイを何人か、証明できますよね?」
「ああ、確実に須賀は横にいたぜ。あと武島はステージの横でずっとすすり泣いてたぜ。」
「でも、姿は見てないんですよね?」
食いつくように菜摘が言ってきたため、千葉は困惑していた。どうも菜摘は武島の容疑を消せないらしい。
「木下、武島は無理だよ。出入口には加藤がいるはずだし、もし武島が犯人としても共犯が必要になる。それこそ、その場にいなかった梶谷や廊下に出ていたアンタらだよね。」
「確かに、私たちは、千葉さんに止められて廊下にいましたが……。でも出て行っていないことを証明はできませんわ!」
「……どういうこと?」
その場にいなかった石田が眉を顰めた。
「それが、部屋に入った瞬間に須賀くんが血だ! なんて叫ぶから、菜摘ちゃんと私は散り散りに部屋から離れたんだよ。加藤さんは途中まで一緒だったけど、戻ってきたら入口にいたから、離れてないのかな?」
楓のその証言で明らかに麻結の表情が歪む。
美波は完全にターゲットを定めて、話し始めた。
「さっき、千葉が言ったけど。
この停電は犯人が、端末を捨て、証拠隠滅を図るために作り出したもの。そしてブレーカーの破壊は、確実に冷静なメンバーを外に追い出せる手段。
そして、アンタなら【私らの部屋の窓を開けておくこともできる】し、アリバイをうまく利用して、端末の処理もできる。」
「……、でも、あたしが犯人なら説明できねーことなんてたくさんあるだろーが!」
「私は全部言い返してみせるよ。」
強い語気を保ちながら美波が麻結を追い詰める。思わぬ口撃を食らう彼女はしどろもどろであるが、どうやら美波を敵として認識したらしい、彼女を睨み返す。
だが、ついに我慢しきれなくなったらしい梶谷が、美波に疑問をぶつける。
「……酒門さん、アンタ何なんすか。らしくないし、それに情報ありすぎません?」
「はっきりと言わせてもらう。私は確信しているよ。」
ため息をつきながらはっきりと言い放った美波の思わぬ言葉に、質問をした梶谷も、一緒に行動していた石田も目を見張る。
「今回の犯人は絶対に追い詰める。
だって、今回に限っては、【スズキ】が手を貸さなければ、成り立たないから。
故意か利用されたか、いずれかは分からないけど今回のトリックの中に重要な情報があるはずなんだよ。」
ねぇ加藤? と美波が冷たく放った。
そしてその場に、彼女を止めることができるものは、果たしているのか。
【スズキ】は楽しそうに画面の向こうの参加者たちを見守っていた。




