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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
26/52

ホンモノ

 日はまたぎ翌日。

 あれから莉音は目覚めなかった。

 梶谷が【スズキ】に問い合わせたが、身体的にはもう安定しており精神的な問題らしい。


 美波がふと身体を起こすと時間はまだ5時台。

 さすがに麻結や楓、加えて部屋を変えた菜摘も眠っている。菜摘は色白で、まるで人形のような肌をしていた。



 美波は昨日のことについて思考を巡らせる。

 昨日の【スズキ】は情報を話し過ぎた。


 まず【スズキ】は女である。そして顔を見せられないということは見せると何か問題があるということ。

 次に、自分達の身体は【スズキ】に預けられている状態であるということ。

 そして、彼女自身は【箱庭ゲーム】に強いこだわりを持っており、無自覚かは不明であるが復元にかなり力を入れておりプライドを持っているということ。


 しかし、利用して、という言葉を踏まえると意外と協力者は少ないのかもしれない。その前提を元に考えると、この大規模なゲーム主催自体どのように行なっているのか。

 かつては大規模な力により、何人もの管理者が存在していたのにも関わらず。




 カフェテリアで考え込んでいると、部屋から石田がひょっこりと現れた。



「おはよう。」

「おはよう、早いね。」


「……風磨が、いつもこの時間から自主練してたから。せめてオレだけでも続けたくて。」



 石田が柔らかく微笑む。

 確かに美波が足止めした時間もこのくらいであったか。



「ならこれからは付き合いましょうか。」

「ああ、バスケ部だっけ。風磨から上手いって聞いてるよ。」



 そんな和やかな雰囲気を壊すように、背後の扉が開く。2人が振り返ると、そこには顔色の悪い莉音が立ち尽くしていた。



「武島……。」

「酒門さん、石田さん……。」



 だいぶ落ち着いているのか、彼女は美波の誘いに乗り、席についてくれた。



「オレ、席外そうか。」

「……大丈夫です。石田さんの証言については感謝しています。……高濱さんとの友情については甚だ疑問ですが。」

「それを言ったら、君の矢代への執着も、他人への不信感も、オレは理解できないからお互い様でしょう。」


「……結構言うんですね。モテませんよ。」


「風磨にも言われる。別にモテなくていい。」



 莉音は弱々しく苦笑した。

 とりあえずは和解ということで良いのだろうか。石田の平坦な口調自体が、臆病な莉音と相性が良いことも関係するであろうが。簡単な朝食を作り、運び出す美波は、そっと肩をなでおろした。




「そういえば、今回の世界ってどうなってるんですか?」



 意外にも現状の把握をしようとする彼女に驚きつつも、美波は今回の世界のことについて伝えた。もちろん、誘拐されたという事実も。




「……そうなんですね。ゲームが始まった時点で薄々感じていましたけど。」


「でも、どういう風の吹き回し? それにアンタ、屋上行くなんて結構度胸のある行動だと思うけど。」


「……屋上に行った時は誰とも話したくないって、無我夢中でした。食べ物は持っていっていません。飲み物を取りに行こうと思ったら梯子が消えていて、それからはあまり。

 ……それから、さっき起きて、華ちゃんが私のすぐ横にいて、思ったんです。」



 小さな拳を握りしめ、彼女は何かを決意したような目で2人と視線を交えた。




「私が、矢代さんを守ろうって。こんな私のことをずっと信じてくれてのは、矢代さんだけです。

 だから、私は矢代さんのことは守ります。例え誰を犠牲にしても、自分が消えてでも。

 お2人なら、理解してくれますよね?」



 それぞれ、綾音と久我を、風磨を失ったからこそ、すぐに答えられなかった。




「……それと、荻くんの忠告はちゃんと受けようと思います。私は、矢代さん以外は信じない。ちゃんと見極めます。」


「そう、」



 美波はそれ以上何も言えなかった。




「私は、一度荻くんのAIと話してこようと思います。もし、矢代さんが来たら、伝えてもらってもいいですか?」

「……分かったよ。」


「ありがとうございます。……朝食、美味しかったです。」



 それだけ言うと彼女は頭を下げた。それから彼女の背を見送ると、石田が思い出したように手を叩いた。



「あ、そうだ。梶谷が話があるって言ってたから……2階のステージなんてどう?」

「分かった。」



 石田が頷く。

 時間になると次々と皆起床してきた。少しばかり菜摘の顔色も良くなっていた。

 莉音がいないことに気づいた華も慌てて出てきたが、先ほどのことを一部伝えると明らかに安堵した表情になった。


 楓と菜摘は自室の調査に向かうらしい。

 麻結は人工知能に興味があると言って、鑑賞室に向かうそうだ。意外にも、千葉がついていくと言った。美波は誘おうか迷っていたため少々動揺したが、若干気落ちしているあたり、彼も綾音との決別をしっかりしたいのだろうと推測した。



「おい、須賀。おめーも来な。」

「……む?」

「む、じゃねーよ。ずっとうじうじしてんなよ。あの小娘も前を向こうとしてんだ。前までの威勢の良さは無くなっちまったのか。」



 麻結が発破を掛けると、彼の顔はみるみる青くなる。しかし、彼の中に逃げるの3文字はないらしい、躊躇いながらも首を縦に振った。


 


「華は〜、少し1人で調べ物してみるよ〜。」



 楓が大丈夫かと問うと大丈夫と呑気に笑う。




















 それから、舞台のある部屋に3人は向かった。

 慣れない場所に美波は改めて辺りを見渡す。



「お2人、こっちっす。」



 梶谷は途中で回収したノートパソコン2台を広げる。よくよくみるとここにはケーブルを繋ぐ端子はあるが、電子機器はほとんどないように思えた。



『美波ちゃん、石田さん、久しぶりです。』

「昨日までの報告についてはオレからしときました。やっぱり、あっちの【寿さん】たちはある種の完成品みたいっす。」

「完成品?」


『そう。今回は探索で見えちゃうような場所にあったんだよね? つまりは見つけて欲しかったってことで、私はこんな風に記憶が万全だから調整するためこっそり置いてあったってことなんだよね。』



 なるほど、と美波と石田は納得した。



『それでね、私梶谷くんにあるファイルを解析するよう頼まれたんだけどね。1つは終わったよ。』

「何頼んだの?」


「解析を頼んだファイルは4つ。【模擬箱庭ゲーム】全体のサーバーマップ、【箱庭ゲーム】構成プログラム、酒門さんと【スズキ】の会話履歴、あとあの犠牲者たちの動画ファイル、この端末。

 そして、1つプログラムを組み込んでもらえるよう頼んでます。」


「……過労。」

『やー、大丈夫ですよ。大変ではありますけど。』



 石田が呟くと【綾音】はからからと笑った。似てはいるが、やはり少しだけ違うんだなと美波は思う。



『で、終わったのが、動画ファイル。

 動画ファイルはどうやら並列して行なっているゲームのものではなくて、過去の物みたいです。』


「過去のもの?」


『そう、8年前に行なわれた、本物の【箱庭ゲーム】。あの時の映像です。つまり、凍結されたフォルダに102のファイルがあるはず……なんだけど。』


「「「けど?」」」



 3人の声が重なった。



『101しかないんですよ。クリアしたルームの動画は無いんです。』


「……それはルームが消滅してないからじゃないのか? だって掲示板では、何か、その〜、クリアした伝説のルームみたいなのがあるって話だったよね?」



 石田が首を傾げながら、尋ねる。

 確かに彼の言うことはごもっともである。しかし、なぜわざわざ見せないようにしているのか。参加者に希望を与えることを避けるためと言えど、あのルームの話は世間でニュースになったくらいだから、【掲示板】に詳しくない美波でも周知の事実だ。


 そして、存在に比してそのルームの詳細は一切世間に出回っていない。美波も久我に聞いて初めて知ったことばかりだ。

 梶谷もしっかり久我の残したノートを確認したのだろう、同じようなことを考えているらしく悩んでいる様子を見せている。




「2人さ……まだ何か隠してるんでしょ。」


「……別に。」



 思考の途中に追及されたため、珍しく梶谷は言い淀む。石田の仮定はその反応で確信に変わったらしくため息をついた。



「言えないことならいいけどさ。早く教えてね。

 真実を明らかにしてからしか明かせないカードもあると思うけど、それなら駆け足でね。」


「……すんません。」

「ごめん。」


「……きっと、誰かが残した大切なものなんでしょ。いいよ。」



 懐の深さに、麻結と同様、嫌でも先輩であることを思い知らされる。




「【寿】、他のファイルは?」


『ファイル自体はまだなんです。でも、端末のことだけ。端末自体は梶谷くんが組んだプログラムがあれば通信を切って独立したものにできます。そのことは恐らく【スズキ】にバレていますが、手出しはできないはずです。あることをすれば。』


「あること?」


『それは言えません。』



 石田は無表情なりにまたか、という反応をした。ついで梶谷が思いついたように尋ねた。



「そういえば、【サポーター】のヒントとかってないんすか? 考えたくないんすけど、ゲームの最初に【サポーター】消せばクリアって言ってましたよね?」


『うーん……データの存在だとは思うけど。でも、ここのルームの人たちは本物の私を含めて、確かに15の身体に接続されてるんだよね。』


「……それって本当?」


『本当だよ。』



 美波は考え込む。そして、1つの情報だけ明かすことにした。




「……1人、【サポーター】の候補はいた。」


「えっ、誰っすか?!」



 梶谷がぎょっとする。彼の中からはすっかり忘れ去られてしまったのだろう。



「久我、だよ。ある部屋で、私は端末を使えないにも関わらず、久我の端末は動いた。……もし久我が【サポーター】なら【綾音】みたいな人工知能がないのも納得できる。でも、」


「ゲームは続いているし、身体も15人分、と。」



 美波は頷いた。梶谷はそういえばそうだったと頭を抱えていた。



『引き続き調査はするけど、もっと外の情報が欲しいね。』


「……確かに102ルーム分の人がいなくなったらそりゃ捜索願だって出てるはずっすよね。」

「しかも久我と酒門は誘拐されたんでしょ。尚更じゃない?」

「うん、私、牛乳買いに近くのスーパーにほぼ財布とスマホだけで出かけたし。」

「超軽装っすね!」



 呆れつつも梶谷は笑った。ま、でもと彼は切り替えて悪い顔をし始めた。



「準備が整ったら、ハッキング勝負になってもいいかもしれませんね。あの語り口調だと、準備はかなり入念に、時間かけてってタイプみたいっすから、じわじわ準備して一気に攻め込めばいけますね。」


「容赦ないくらいでいいよ。その時は手伝う。」

「やっぱり酒門も詳しいわけ?」


「まぁ、梶谷ほどではないけど。」



 梶谷が嬉しそうに美波を見ている。その視線がすでにうるさかった。







 そう、思ったのと同時だった。



 部屋の外から悲鳴が聞こえた。






「は、なんすか今の悲鳴?!」

「酒門と梶谷は後からきて、ちゃんと【寿】がバレないようにね。」



 さすがというべきか、身軽に立ち上がると広い舞台から飛び降り、石田は部屋から出て行ってしまった。

 梶谷もすぐに片付け、2人も走る。


 恐らく1階、人の声がするのは鑑賞室だ。




「いい加減にしなよ、香坂、千葉!」



 やっと目が覚めたのか、千葉のことを須賀が抑え込んでいる。石田が抑え込む相手はまさかの香坂である。千葉の腕は赤く腫れており、鑑賞室の備品は一部壊れている。原因は恐らく香坂が手に持つ棒のようなものだろう。

 部屋の隅では、莉音が青い顔をしてガタガタ震えており、麻結も腰を抜かしてその争いを見ていた。



「どうしたの、これ。」

「急に香坂が来てよぅ……荻のAIと話すって言い出して見守ってたら急に壊そうとし始めたんだよ……、何か、荻じゃない! とか言って。」



 しどろもどろに話す麻結を尻目に争いを見る。



「お前らはなぜあんな機械を受け入れている! あんなもの、荻でもなんでもないだろう!」


「んなもん、分かってこっちはやってんだ! さっきまで引きこもって協力もしなかったくせにしゃしゃり出てきて騒いでんじゃねーよ!」


「落ち着け! 千葉!」



 須賀が必死に止めるが、完全に我を忘れているらしく口は止まらないようだ。

 どう止めるか決めあぐねている時だった。





「あなたたち、いつまで騒いでいるの!」





 この状況に喝を入れたのは意外にも楓だった。現場をして、おおよその状況は把握したらしく、ため息をついた。出入口には不安そうな表情を浮かべた菜摘がいた。



「黙れ……狂っているのは、コイツらだ。」

「だとしても! 貴重な手がかりを壊すなんて、あなたは荻くんが何を目指して調査していたのか忘れたの?!」

「荻、が……。」



 どうやら彼の身体から力が抜けたらしく、抑えていた石田も拘束を緩めた。





ーー香坂クン、僕らももう少しちゃんと調べてみない?

ーーあんな光景はもう二度と見たくない。だから、あの人らを見ると少し腹が立つんだよね〜。





 彼なりの正義の元、彼は解決のために動いていた。その姿を思い出したのか、香坂は肩を落とし、踵を返した。



「……すまなかったな、オレとしたことがくだらん妄想に囚われたようだ。」

「オイ話は終わってなーーーー。」



 千葉が怒鳴りかけた時、楓がすたすたと正面に向かい、横っ面を引っぱたいた。思いがけぬ強さに千葉は横に飛び、須賀はとっさに手を離した。




「千葉くんも千葉くんです! 頭に血が上るの早すぎ! 余計な怪我人を出さないこと! 【外傷治療薬】だってただじゃないんだからね!」


「う……はい。」



 綾音と久我のことを思い出したのと、彼女の気迫とで、返事以外の言葉が出てこなかったらしい。




「はい、じゃあみんな撤収するよ! 1回出て落ち着きます!」



 半ば呆然としている千葉を石田が引いていき、梶谷もそれについていく。麻結は楓に泣きつこうとしていだがスルーされ、楓は莉音に近づく。



「莉音ちゃんも、良かったら一緒に出ない?」

「……とりあえず出ます。」



 彼女も、はぁとやっと緊張から抜けたらしく、脱力した。



「手、貸そうか?」

「あ、ありがとうございます。」



 美波が声をかけると、戸惑いながらも素直に親切を受け取ってくれた。あのヒステリックだった彼女がどうしてこんな変化があったのか。華と荻の想いが通じたとそう信じたかった。



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