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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
24/52

離散

「オーイ、起きろお前ら! もう8時だぜ!」


 美波はハッと顔を上げた。

 近くのベッドでは楓が麻結に揺らされている。


「もうみんな集合してる?」

「あ〜。香坂は引きこもってて、武島は見てねぇと。梶谷は珍しく寝坊で千葉が起こしに行ってる。あとは一応いる。」

「一応?」


 美波が尋ねると、麻結は頭を掻きながら嫌そうな表情を浮かべた。


「矢代がいつもとそう変わらねーんだが何かぼーっとしてんだよ。それに須賀は何か燃え尽きたみたいに覇気がねーし。木下も相変わらず元気ねーぜ。」


 それに加えて、今目をこすっている本山も顔色が悪く、体調がいいとは言えないだろう。

 美波は顔を洗いながら昨晩のことを思い出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



『こんにちは、美波ちゃん! 梶谷くん! 石田さん!』

「……ッ、」


 懐かしい彼女の笑顔と声が一気に五感を刺激し、キャパシティを超えたらしい美波は息を呑むことしかできなかった。


『どうしたの? ……あ、そっか。』


 彼女は悲しげに目を伏せながら呟いた。


『私が、久我くんを消したようなものだもんね……。』

「いや、それは……、私のせいでも、あるから。」


 美波は動揺しながらも考える。

 自分は、何を彼女に伝えたかったのか。しかし、意外にも止めたのは石田だった。


「……酒門、これはあくまでも保存済みのファイルだよ。リアルに繋がっているわけではないからね。」


 彼の言葉を聞いてハッとする。梶谷も同様に掛ける言葉を探していたらしく、石田の言葉で冷静になったようだ。


『石田さん、何か変わりましたね。』

「……寿にそう思ってもらえるなら、うん。」


 彼は悲しげであったが、僅かに微笑む。


「はっきり聞いちゃいますけど、寿さんは、寿さんの性格を元に作られたAIっすよね。しかも、あの事件直前までの、記憶がありますよね?」

『……あるよ。でも私はあくまでも【スズキさん】の支配下にある、AIだから役に立てるかは分からないけどね。もちろん、知っている情報もある。』


 彼女は石田を一瞥すると言い淀む。

 それで3人はすぐに彼女が言いたい内容が分かった。



「……もしかして、これから荻と高濱のAIも作られるとか言うわけじゃないよね?」

『そのまさかだよ。さすがだね。』



 ここで石田の表情が明らかに曇る。先程失ったばかりの親友と、AIといえど数時間後に再会できると言われたのだ。動揺しないわけがなかった。


『でも、不思議なことに久我くんの人格は作られてないみたいなんだよね……。』

「久我さん、いないんすか?」

『理由は分からないけど……、でも私はチャンスだと思ってるよ。だから、梶谷くん、私のお願いを聞いてほしいんだ。』


 彼女が言った言葉は、恐らく本物の【寿綾音】でも言ったであろう内容であり、3人は顔を見合わせたがすぐに了承した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 今、彼女のAIは梶谷が持つ端末にいる。

 理由は、恐らく世界が切り替わるたびに【綾音】の記憶はリセットされるからだ。なるべく記憶を保持してもらい、オフラインのハードやファイルを取り込んで解析をすることが目的だ。

 しかし、それには難点があり、オンラインに載った場合、今【綾音】が取り組んでいることが無に帰すどころか存在自体をリセットされる可能性があるため、梶谷は今後一切のメールやオンライン機能を使えないことになる。


 美波と石田はそれのフォローに入ることになった。

 そして、同時に他の人に話すか相談もしたが、結局誰にも言わないことになった。

 美波と石田は千葉に相談することを進めたが、千葉は綾音に入れ込んでいたこともあり、様子を見ようという話になったのだ。


「あっ、おはよー、美波ちゃん。」

「おはよう。眠れて……ない?」

「うん、昨日のこともそうだけど、今いるメンバーの消沈した様子見たら、今後大丈夫かなって。」


 彼女の不安も分からなくはなかった。

 なんとかギリギリで2人ともカフェテリアに滑り込むと、その場の空気は淀んでおり、麻結の言ったように人が随分と足りなく、沈みきった人も多かった。


「酒門さんも寝過ごしたんすね! おはようございます!」

「おう、はよ。」


「……おはよーなのだー。」

「おはようございます。」


 離れた席から2人も挨拶をしてくれるが随分と弱った声だった。美波もおはようと挨拶を返す。


「おうおう、お前らは感謝しろよな! 寝坊したおかげで麻結様特製ブレックファーストを頂けるんだからな!」

「……あなたはブレないね。」

「褒めてる? けなされてる?」


 いつもの調子で話す麻結に楓もどこか安堵したのか、ツッコミを入れ調子を取り戻しているように見えた。


「はよ、眠れた?」

「寝過ぎましたよ。石田さんは……あまり眠れませんでしたか?」

「眠れたけど、浅かったかな。」


 すっかり居座っているクマをこすりながら呟く。意外にも彼は切り替えることができているらしい。





「じゃあ朝飯食べながら今日の調査内容について考えようぜ。

 それに、また誰の世界か確認しねーといけねーし、脱出の方法も考えねーといけねー。」


 朝からガッツリと食べる彼はすでに食事を終えたらしくコーヒーを飲みながら提案する。

 その横でサンドイッチを頬張りながらどこから持ってきたのやらノートパソコンを叩きながら梶谷が話し始める。いつもなら須賀から大声で小言を言われるだろうが、本日は機能しないらしい。


「脱出の方法については、全く心当たりがないわけじゃないっすよ。【スズキ】の狙いが掴めればどうにか予測と対抗ができます。だからオレは今回の調査ではそっちを調べたいんすよ。移動もたぶん少ないと思うんで……石田さん付き合ってもらっていいっすか?」

「オレ? いいよ。」


 自然な流れで彼を誘ったものだから、美波は驚きつつも感心していた。

 残り、この場にいるのは美波を始め、動けそうな千葉、麻結、楓、動けそうだが思考が働いていないらしい華とそもそも動けなさそうな須賀と菜摘。


「なら、酒門と千葉、あたしと楓でいいだろ! 他の奴らロクに調査できねーだろ。」

「んなっ、オレはやるぞ!」

(わたくし)も、及ばずながら……。」

「は? 今のお前ら連れてってもどうせ大事なもん見逃すだろ。それより香坂とか武島が出てきた時にここで迎えてやれよ。」


 はっきりとした遠慮ない物言いだが、核心をついており、2人は言い返すことができないらしい。


「……華も、調べる。莉音と、会わなきゃ。」

「だから……はぁ、なら千葉たちの方についていけよ。あたしはたぶん今キツイことしか言わねーから。」

「……うん、ありがとー。」


 恐らく、麻結の不器用な優しさは華に伝わっているのだろう。彼女は小さく礼を述べた。






 今回は調査できる人数が少ないこともあり、美波たちは外からB棟の1階へ、梶谷たちはA棟を、麻結達はB棟の2階から1階へと調査を進めることになった。

 B棟の2階は本来なら美波達か、梶谷達がいいのではないかと思ったが、調査を始めた途端新たな発見をした石田の件もあるため、色んな人が色んなところを見た方がいいということで梶谷とは纏まった。


「おっし、じゃあさっさと調べようぜ!」

「そうだね、倉庫の中も……まぁ、変わってないとは思うけど調べなきゃいけないしね。」

「華も頑張るよ〜!」


 動き出してしまえば、移動自体はスムーズにいった。

 エリアの外は相変わらず林、その先は見えない。グランドも特に変化はない。学校の用具入れは、高濱の世界の時と中は変わっているように見えたが、内容としては大きな変わりはないように見えた。


 次に温室だ。

 温室は世界を挟んでも特に変わることはない、それに花壇の奥にモニターましてやパソコンもないし、端末も使える。


「珍しいお花や植物が外には沢山あるね〜。見たことないのがいっぱいだ〜。」

「なら矢代の世界ではねーのかもな。もちろん、オレも植物は興味ねーし記憶もねーから違うな。」


 いい笑顔でこちらに向けて千葉は親指を立ててくる。それを見た華も真似をして親指を立てている。まるで兄妹のようで、案外麻結の選択は功を奏したのかもしれない。


「じゃあ裏庭と倉庫に回るよ。」

「おうよ。」

「あいあいさー!」


 ふと、美波は屋上を見る。

 そういえば、今日に入って莉音を誰も見ていないと麻結が言っていたか。これで倉庫にいなかったらもしかしたら、と考える。

 倉庫を調べ始めたが、特に目新しいものもなく千葉が慣れた手つきで物品の確認を済ませてしまった。今思えば倉庫の調査はほとんど千葉が行なっていた。


「……ねぇ、屋上を確認したいんだけど。」

「屋上? 何でまた。」

「いや、何となく……。」


 莉音のこともそうだが、美波には少々気になっていることがあった。


「なら、オレあと一区画だからすぐに追っかける。2人で先にハシゴ持って行っていいぜ。」

「助かる。矢代、手伝ってもらっていい?」

「あいよー! でも華は上れないよ?」

「……とりあえず私1人で行くからハシゴしっかり抑えておいて。」

「分かったぞー!」


 2人は協力して運び出す。

 荻や梶谷と運んだ時と大差ない重さに彼らがどれだけ非力かと内心で呆れる。


「どうしたー?」

「いや、千葉や須賀が言ってた通り、梶谷は少し運動した方がいいと思ってね。」

「運動は大事だもんね〜。」


 華は朗らかに笑う。






 準備が整い、美波はトントンと上っていく。

 下からは華の歓声が聞こえてむず痒い。

 パッと見た感じ、何も変化はない。


「……【スズキ】の奴、こんなゲームやるなんて趣味悪いし、くだらないね。意味ない。」


 気になっていたことを明かすために、とりあえずそれなりの声で独り言をつぶやく。

 そして、もう1つの気になることを消化するために小屋に入った。


「……ッ、やっぱり!」


 美波の勘は当たっていた。

 一体どうやって、いやそれどころではない。



「矢代!」



 屋上から顔を出すとちょうど千葉も出てきたようで呑気に見上げていた。


「千葉! とりあえず急いで上がってきて!」

「はぁ?!」

「いいから! あと布とか紐持ってきて! 矢代はタオルと向こう行って梶谷からなんかこう栄養剤的なもの貰ってきて!」

「なんで!」


 千葉が怒鳴るように質問する。しかし、華はなぜ美波が焦っているのか分かったようで、返事をせずにそのまま走っていく。

 それと同時に美波は答えた。



「武島が倒れてる!」



 そこから千葉の動きは早かった。

 息はしているが衰弱している彼女を救うため、彼女たちはすぐに対応にあたった。


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