解決編② -後編-
「お前……、自分が言ってること分かってんのか?」
「分かってるよ。」
彼の喉が動き、嚥下したことがわかる。
2人は睨み合ったまま動かない。
「オレは確かに見たぜ? 遼馬、まさか……。」
彼は恐らくこの世界の主である石田が自身を守るために荻を消した上で嘘をついて他の参加者を陥れようとしていると考えているのだろう。
「石田くんが自分を守るために嘘をついてるってこと?」
「でも、それが真実なら単独でいたメンバーは香坂さん、矢代を抜いてアリバイが無くなるってことだから。」
戸惑いながら疑問を呈する楓に間髪入れずに美波が指摘を入れる。
このようなことができるのも、荻が美波に託した恐らく今回の事案の動機が大きく関与していた。
「……とりあえず石田なりに証言してくれねーか?」
千葉が恐る恐る、と言った様子で声をかけると石田は頷いた。
「2人には少し話したけど……。19時半過ぎまではオレ1人で屋上にいた。それから風磨が来て、荻の集合に応じるか話し合ってたんだよ。
それを話している時に風磨が荻を見つけたんだ。でもオレは通り過ぎた後で姿を見てなかったんだよ。」
「それって……!」
咄嗟に言葉を発しそうになった麻結を止めた。
すでに高濱が、石田に飛びかかりそうな気配を出しており、少しでも刺激をしたくなかったからだ。
「それから風磨はとりあえず温室にいくってなった。……オレは、はじめは行くのをやめようとしたんだけど、やっぱり行った方がいいかと思って遅れて行ったんだよ。」
「それにしたってお前の証言はどうなんだよ? 少なくともオレは荻を見た。それにその証言をしたことでオレからすればお前が1番怪しくなるかんな。」
「やっぱりおかしいよ。風磨がそんな風に人に何かを押し付けるようなことするわけない。」
石田が放った刹那、高濱はあからさまに表情を曇らせる。さすがというべきか、石田はそれをすぐに感じ取ったのか、不安げな表情を浮かべる。
「……2人は、それぞれ嘘をついているね。」
痺れを切らした美波が口を開く。そして彼女は荻が残したヒントを元に見つけた1つのノートを手にした。
それを見た2人の顔が、それぞれ動揺と焦りを浮かべた。
「お前、なんでそれ……。」
「……。」
石田が下唇を強く噛み、下を俯く。
「内容は、『オレはレギュラーになれなかった。アイツは2年の時からずっとベンチに入っているのに。』『アイツは昔からの相棒、なのにアイツを見てると悶々とする。』、鬱憤みたいなことが書かれてる。」
「……それって石田のか? 名前が書いてあるしな。」
須賀が困惑したような様子で確認するように美波に尋ねた。しかし美波はゆっくりと首を横に振った。
「これは、恐らく高濱さんのもの。名前なんて、後から書けるよ。」
「は?! ふざけんな、根拠は……!」
「それは、アンタが前に話してくれたんだよ。」
それを言った瞬間に彼は目を見開く。
「あの時、石田さんの方がが高濱さんよりバスケが上手いって。アンタは石田さんのことを気に入ってなかったけど誰よりも大切で、尊敬してたんでしょ。」
でなきゃ、あんな表情で語ることができるわけがない。
次に、彼の秘密を暴く。
「……そして、石田さん。アンタはこの日記の存在を知っていた。でもその日記を見せたくなかった。つまり、ここは高濱さんの世界。」
「……!」
石田の動揺が、答えだった。
2日目の人の記憶や考えを綴ったあの本を独占したことだって今思えば不審だ。
「私の推理を言わせてもらうよ。前提として、石田さんの証言を信じて、高濱さんの証言を嘘とするよ。まず、部屋に置かれた【小型カメラ】について。これを設置することで何の情報が得られるか。」
「……【矢代さん、武島さん、須賀さん、本山さん、そして荻の端末の暗証番号】、それと【荻の何かを隠すような妙な行動】っすね。」
「そう。石田さんと高濱さんはたぶん誰かが部屋を漁ったことは容易に分かっていたはず。だって石田さんは【睡眠導入剤】を盛られていたし、高濱さんだって見張りの時間に石田さんが来なかったら不審に思うだろうしね。部屋を確認して、たぶんすぐに気づいたはずだよ。この日記がないことにね。
それができるのは、この日記がこの世界に存在していることを知っている石田さん、アンタだけだ。」
彼は目を見開く。どうやら図星らしかった。
「……石田さんは、たぶん荻を消そうとしたはずだ。だからメモを見て日記を回収するため、屋上にいたんじゃないの?」
「……そうだよ。」
石田は推理を認めた。
「そのメモは荻の、石田さんを誘導するための作戦。だからこそ、動きは別のところで始まっていた。
たぶん、荻が高濱さんを呼び出して、日記のこと、世界のことを言ってしまった。温室に集まるってこともね。それから、荻の端末を使って、メッセージを送った。そのあとは荻を消して何食わぬ顔で石田さんと合流して嘘の証言をすればいい。」
「……些か暴論すぎるのではないか? 酒門の言う通りなら、カメラの存在を知る石田も、そしてアリバイがなく連番であることを知っているうるさいバカも当てはまるはずだ。」
香坂の指摘はごもっともだ。だからこそ、確認しなければならないことがある。
「3人に、【捕縛】の機能が残っているか確認させてもらいます。」
「……なるほどな。」
ここで香坂は納得したようだ。
「確か荻の顔面には腫脹があったってことだよな? 不意をつけばそれくらいの傷で済むだろうし、そもそも3人の体格差なら自分が無傷ってことは容易だろうな。」
「でも、さすがにメッセージ打っている間はどうにかしないといけませんもんね。それに、端末にはカメラもあるっすからそれの確認だってしたかったはずっす。」
「……もし、使ってなかったらどうするんだよ。」
高濱が尋ねる。
しかし、美波の中で答えは決まっていた。
「もちろん、謝ります。それから議論を続けましょう、それで答えを探すんです。久我と、綾音との、約束だから。必ず助けるって。」
なぜだろう、美波には高濱が笑ったように見えた。
「……そうだな、ここでみんな居なくなったら、本当に終わりだもんな。」
「……風磨?」
そこからの高濱の行動は早かった。
彼は端末を慣れた手つきで開き、端末を石田に渡した。彼は目を見開き、高濱を見つめ、泣きそうな表情になる。
彼は、犯人が高濱だと分かっていた。でも、信じたくなかったのだ。
「……ごめんな、遼馬。オレ、お前が思ってくれてたほど立派な人間じゃねーんだ。」
「……バカ。」
彼の画面には、【捕縛】を使用した形跡が残っており、それがすべての答えだった。




