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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
2章 スタート・オペレーション
16/52

知らぬ存ぜぬ


「……おい、オメー顔やべーぞ。」

「知ってるよ。」


 寝起き、傍らにいてくれた部屋替えをしたらしい麻結に指摘され、顔をしかめた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 昨日、思い切り泣いたらすでに周りは解散していた。

 梶谷と千葉だけ残っていた。

 彼らも目が赤く、泣いていたことが容易にわかった。


「……その、酒門。」

「ん?」

「悪かった。お前のことばかり、責めて。オレ何も見えてなかった……。」


 千葉が深々と頭を下げる。


「私も、生きることを少し諦めてた。だから、2人をああいう行動に駆り立てたのかもしれない。私も、ごめん。これからはどんなことがあっても絶対に諦めないようにするよ。」

「……そうだな。」


 彼はふ、と微笑んだ。

 美波には、梶谷は間違いなく自分の味方であると確証があった。そして、千葉の今の表情を見て、信じてみよう、と決心した。



「……2人に明日の探索後、話がある。」

「今日じゃダメなのか?」

「私自身も、整理する時間が欲しいんだ。」

「分かった。オイ、梶谷。お前もなんか言え。」


 千葉が小突くと、梶谷はふて腐れたように呟いた。


「2人は……、内緒事もうしないでくださいね。」


 千葉と美波はまさに前科一犯。

 2人は素直にその場では頷いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 美波は早急に隠し部屋を探索した。そこには久我の残したヒントと端末が隠されていた。

 ここは久我の管理可能な部屋で端末が残っている。

 つまりは本人がいなくなっても、干渉されにくい空間なのかもしれないと、解釈した。


 美波はそこに保険をかけて、ヒントと端末はその場に留めることとして、部屋を後にした。


 部屋を出た先で荻に出会った。どうやら世界が変わる時間は全員モニタールームに集まろうという話になったのだ。

 梶谷がその後確認した話によると、2回目以降の改変では特にどこにいてもアバターは消滅しないと【スズキ】に確認できたらしい。

 しかし一部のものは、不信感を示してそのような運びになったのだそうだ。


 時間通りに全員が集まった。

 香坂については、荻が無理矢理という感じではあったが。

 18時になると急な眠気に襲われ、次に起きると時間は進んでいなかったが世界の改変が行われていた。

 自分の慣れ親しんだ空間はなく、また別の人間の記憶の世界となっていた。


 高濱の提案で、今日はしっかりと休むことになった。

 そして、その時に女子部屋の人数が偏るため部屋移動をする流れとなったのだ。自然と麻結が来ることになったが、楓も美波も、彼女が調査は真摯に行なっていたことを知っていたため特に拒むことはなかった。

 それよりも莉音の警戒心の上がり方が尋常でなかったのだ。


 それからすぐに美波は風呂に入り、布団にくるまった。

 その結果、珍しく寝過ごしたのだが。



「おうおう、今日は麻結様が朝飯作ってやるから顔洗ってきな!」

「ありがたいけど……。」

「お前は梶谷と千葉とも仲がいいから元気にあたしにネタを供給してくれねーと困るんだよ!」

「ハラスメントで訴えるよ。」

「いたたたぁ!」


 優しめに頰を抓るとどこか嬉しそうに悶えていた。

 少し気持ち悪かったので、すぐに手を離して顔を洗いに向かった。


 しかし、いつもと変わらない彼女の態度は正直ありがたかった。



 顔を洗って戻ると、全員が出てきていた。

 莉音と香坂はどこか不満そうであったが。


「はよっす。」

「はよ。」

「おはよう。」


 同じく酷い顔の梶谷と、少しばかり申し訳なさそうな千葉が手を振ってくる。

 全員が朝食を終えたタイミングで、高濱が口を開く。




「じゃあ、今回も2人1組、1組だけ3人で行動な!」

「矢代さん、一緒に組もう!」


 間髪入れず、莉音が華に声をかける。


「えー、またそこで組むの? オレも一緒に組ませてよ。」

「おー、いいぞー。」


 莉音からは邪魔するなオーラが出ていた。

 しかし、華があっさり了承したこともあり、抵抗することなく3人組ができた。


「じゃあ香坂さん、オレと組みませんか? 香坂さん結構鋭いんでぜひ色々話したいっす。」

「……まぁ小間使いとして採用してやろう。」


 梶谷はマウントを取られ、苦笑している。


「なら、あたしと組もうぜ! な、酒門!」

「ああ、うん。」


 隣に座っていた麻結が愉快そうに笑いながら肩を組んでくる。


「石田、一緒に行かねーか? この前の調査ではオレのせいであんまり話せなかったしよ。」

「……いいよ。」


 彼はゆったりと頷いた。


「なら、オレ楓とあんまり話したことないし一緒に行こうかなー。」

「うわ、光属性……。了解だよ。」

「光属性ってなんだよ!」


 彼はケラケラ愉快そうに笑う。


「須賀さんは(わたくし)とですね。」

「おう! よろしくな!」


 無事組み合わせができたようだ。

 華と莉音はずっと一緒にいすぎて心配だが、そこは案外真面目な荻がどうにかするだろう。

 ふと彼と目が合うと、彼は自信ありげに親指を立てた。

 任せろということだろうか、はたまた掻き回したいだけか。


 美波は期待しすぎずに待つことにした。







 今回は中庭を見た際に、特に誰の世界だと言及されなかったため、グループごとに場所をくじ引きした。


「で、私たちはB棟の1階、と。」

「重要なところだ、腕がなるな!」


 玄関近くの階段を通過し、フロアをぐるりと回る。何となく、階段を見ると心が穏やかでない。

 あの後、彼らが消えるきっかけとなった部屋に向かった時、残っているはずの血痕も、消火器の凹みも、全てがなかったことのようになっていたのだ。

 倉庫の着火剤もいつのまにか元の場所に戻っていた。


「どうしたよ?」

「なんでもないよ。で、ここは元図書室ね。」



 1階部分は、相変わらずだ。

 図書室が見覚えのない本屋、娯楽室は部室に、テレビルームは学校のPC室に、音楽室は学校の音楽室に、美術室は学校の美術室に、空き部屋2つはそれぞれ誰かと誰かの自室となっていた。


 驚くべきは、トレーニングルームで、美波の時とは違い体育館の一部どころでなく物理的な法則を無視して、まるまる体育館が存在していたのだ。


 2人は順々に巡っていく。


 まずは重要なヒントがありそうな本屋だ。

 本屋には前回の世界と同様、【箱庭ゲーム攻略指南書】、他ルームの動向を記した図書、そして前回の世界にもあった、持ち主の考え方や心を反映する書籍もあっさりと見つかった。


「おっ、見てみようぜ!」

「いや……プライバシーあるし。見ない方がいいんじゃない?」

「でもお前見られても大したことなさそうじゃねーか?」


確かに、自分の時は荻がさわりの部分だけ見ていた上、自ら久我と綾音には見せていた。


「……別に、誰にでも見られていいって訳じゃなかったよ。」

「何だよ、ならあたしにも見せろよ!」

「アンタは……拾わなくていい情報拾いそうだからヤダ。」


 もー! と彼女は手をバタバタとさせている。

 本屋のカウンターに置いてあった袋を拝借し、本を持ち出す。

 次に向かったのは音楽室と美術室。

 この部屋に関しては特にめぼしいものは見当たらなかった。

 そのまま隣の異様な部屋に向かう。


「でも体育館がこんだけデカく出るってことは運動部なのかもしんねーな。」



 自分は勿論違う。

 女子で運動部であったのは恐らく自分のみ。

 自己紹介で言及していたのは、高濱、石田、久我。


「十中八九、高濱さんか石田さんだろうね。」

「他に言わなかった奴の可能性もあんだろ?」

「あるけど……。多分バスケ部だよ。」


美波が指をさした先には、降ろされたバスケットゴール、そして体育館のステージに置いてある靴はバスケのメーカーのものだ。


「ほら、やっぱりあった。」


使い古されてつるつるのバスケットボール。

麻結にシュートを促されるが、美波は首を横に振る。

こんなにも滑りやすくなるほどに使い込まれたボールを易々と投げられるものか、と。





 誰かの自室を覗くと、想像通り、それぞれが高濱と石田のものであった。

 積極的に漁ろうとする麻結を止め、全体メールで候補者2人に連絡を入れておく。

 ひと段落ついたら自室を調べるように、と。


 それから2人は最後にPCルームへと入る。何となく、気味の悪い部屋だと感じた。


「どうしたよ?」

「……いや、何でもない。」


 何故だろう。

 何の変哲も無い部屋であるにも関わらず、言葉にできない不気味な雰囲気がある。PC室であるから冷房が掛かっていることに疑問はない。


「おっ、ここ電源つくぜ。なんかデスクトップにフォルダがあんぞ。」

「……開いてみるか。」


 美波と麻結は並んで座り、ファイルを開く。



 ひどく、嫌な予感がする。


 ファイルを開くとどうやらそこには大量の動画ファイルが並んでいた。

 数はざっと見て60程度。

 果たして何の動画なのか。


「……見るよ?」

「ああ。」


 件のファイルをダブルクリックする。

 2人は流れ始めた動画を見て言葉を失った。


 なぜなら、そのファイルに収められていたものは、消える世界に怯える人々の姿と恐怖に慄く断末魔なのだから。




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