表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
1章 神の両手に揺れる
13/52

解決編① -前編-

 決して広くないログインルームに、綾音を除いた14人が集まる。

 空気はどこか冷たく、全員が全員を疑い、警戒しているような空気だった。

 口火を切ったのは、先程まで何かを考えるようにしていた久我だった。



「さて、何から話そうかな。」

「決まってんだろ! 酒門が犯人だっていう証拠についてだ!」

「まだ言ってんのかよ。」


 高濱が呆れたように言う。

 千葉が睨みつけるが、彼は素知らぬ顔だ。


「うーん、まぁ無難に犯行可能な人を挙げていって、それからっすかね?」

「なら、私は違うよ。」


 梶谷の言葉に間髪入れずに莉音が口を開く。


「そうですね……。私と武島さん、矢代さんは一緒に部屋にいましたわ。先程確認させていただいた【皆さんのアリバイ】によると、加藤さん、香坂さん、荻さん、あとほぼ梶谷さんは不可能に近いと思います。」

「ほぼ?」


 石田が首を傾げた。

 それに高濱が頷く。


「修輔は、20時になってすぐLANケーブルを探しにログインルームとモニタールーム、あとリビングを訪れてるらしい。」

「でも、そんなの5分10分の話だぜ? あたしには無理だと思うが。」


 麻結は納得行かなそうに言う。

 しかし、と付け加えたのは話題の人物、梶谷本人であった。


「例えばの話っすけど、寿さんを消すやら怪我させるやらはものの5分から10分でできる話っすよ。ケーブル取りに行く時に奥の階段は使ってないんで知らないっすけど、まぁ完全に晴れるまではグレーに置いておいた方がいいと思うっす。」

「そんなもんか。」


 麻結はため息をつきつつ納得はしたようだ。


「あと目撃している可能性があるといえば、睦だけど。」

「……僕は奥の階段は20時、うーん半前かな? に通ったけどその時は特に誰もいなかったよ。」

「そんなんどうでもいいぜ。それより、酒門はどうなんだよ。」


 千葉は異常なまでに美波に対して目くじらを立てている。

 この嫌疑はどうやら自分で晴らすしかないらしい。

 集めてきた情報をもとに、美波も思考を巡らせる。



「まぁ、話すならば【自室で寝ていた】。これしかないね。」

「あれ、美波ちゃんも?」

「うん、本山さんとは場所が違うけど。」

「証拠はあんのかよ?」


 千葉の言葉に助け舟を出したのは、荻であった。


「梶谷クンが作ってくれたアプリで【アイテム使用歴】を見れば明白だよ。使用時間は今日の18時と18時半頃。2人が眠っていた時間を考えると、この2人が服用したことに間違い無いんだよ。」

「何でそんなことが言えるんだよ?」

「【説明書】を読んでみろ。」


 香坂はなぜか説明書を久我に渡す。

 久我はそれを千葉にまわすと、彼も読んだのだろう、顔を顰めた。


「その説明書の通りだよ。【効能は服用後、1〜2時間で出現する】。該当時間、他の人たちが起きていたことを踏まえると私たちが眠っていたことに間違い無いんじゃない?」

「いや、他の可能性も一応ある。」


 千葉は口を開いた。


「お前らのどっちかが、寿に薬を盛って実は服用していなかったってパターンだ。それならお前らのどちらかが犯人って言えんだろ!」


 確かに千葉の言うことも筋は通っていた。

 そこで口を開いたのは千葉に説明書を渡した久我であった。



「ならさ、本山さんは18時、酒門さんは18時半に何をしていたの?」


 彼の質問を受け、記憶を遡る。

 美波はふと、疑問を抱いた。


「……綾音と夕食を摂ってたね。」

「えっ?」

「ほら、お前が寿に盛ってんじゃねーか。」


 千葉の言葉と同時に楓が美波の方を振り向く。

 彼女の瞳には動揺が滲んでおり、口をはくはくを動かすばかり。


「本山さんは?」

「いや、その実は……。」


 久我の促しに言いにくそうに彼女も口を開く。



「私も実は、18時頃綾音ちゃんと過ごしていたんだよね……。部屋でくつろぎながら。」



 その場を沈黙が包む。

 口火を切ったのは梶谷であった。


「2人とも、寿さんと過ごしていた。なら、状況的には、彼女が薬を盛ったって考えるのが自然すよね?」

「はぁ?! おかしいだろ、アイツは被害者だぞ?!」


 千葉が非難の声をあげる。

 しかし、どうも皆、梶谷の思考に寄っていたようで、梶谷の言葉を待つ空気になっていた。


「仮に2人のどちらかが盛ったとして、そうすると階段に運んで突き落とした上で【強制退場】させる意味はあるんすかね? 目撃される可能性も高くなりますし、そもそも2人は女性で、そんなことするのは非効率的っすよ。」

「それに本山さんについては【綾音に呼び出されている上、集合場所の変更のメモも貰っている】。」

「場所の変更?」


 千葉の反応に数名がぴくりと顔を上げた。

 そう、彼の反応はおかしいのだ。

 しかし、それを指摘する前に彼は自身の疑問をぶつけてきた。


「なら、酒門。お前は何で眠らされてたんだよ?」

「……千葉くん、それはもっと簡単だよ。」


 千葉の疑問に答えたのは久我であった。

 彼は沈痛な面持ちのまま話し始める。



「同室の彼女が眠っていた方が好都合、っていうのもあると思うけど。彼女は何より酒門さんを慕っていたし、彼女から寄せられる信頼を喜んでいた。だからこそ、友人を消そうとしている自分の汚い部分を見てほしくなかった、止められたくなかったんじゃないかな。

 ……ずっと彼女らといた僕は、そう思うよ。」


「……。」


 久我の言葉に千葉も納得したのか、同様に黙り込む。



「なぁ、ちょっといいか。」


 次に口を開いたのは、高濱だった。

 彼は、特に千葉の言葉に違和感を覚えた1人であろう。


「さっきの反応も変だと思ったけどよ。お前、犯行時間にどこにいたんだ?」

「それは答えたろ。」

「おかしいんすよ、アンタのアリバイは。」


 梶谷が遠慮なく指摘する。

 それに追従するように、高濱とともにアリバイを確認していた菜摘が口を開く。


「先程もおっしゃいましたが、梶谷さんはモニタールームとログインルームに来ています。その時、あなたがいたというカフェテリアを通ることは必須ですわ。」

「加えて、施設中ウロウロしていた久我とニアミスしてないって……どう考えてもおかしいだろ。」


 2人のごもっともな指摘に彼は口を閉ざす。

 そして追い討ちをかけるのは、皆が指摘しにくそうにしていた、あの違和感だ。


「ねーねー、凌二はさ、なんで集合場所の変更に驚いたのー? まるで、前の集合場所は知っていたかのような反応だよねー?」


 千葉は何かを言い返そうと、口を開く。

 しかし、反論する余地がないのか言葉が出てこない。




「……千葉は、犯人じゃないよ。」


 そう、静かに告げたのは美波であった。

 全員、特に千葉は驚いて美波の方を見た。


「今の流れだと、千葉サンは非常に怪しいわけですが、何か根拠はあるんだよね?」

「うん、矢代と武島、次いで高濱さんはよく知ってると思うよ。」

「オレも?!」


 彼はぎょっと目を剥く。

 しかし、それで気づいたらしい石田ははっと手を叩く。


「もしかして、倉庫のこと?」

「倉庫?! オレが【ずっと倉庫を探してた間】、あそこに凌二もいたのか?!」


 彼は図星のようで完全に口を閉ざしていた。しかし、それが答えだった。

 莉音と華もそれで自身の関与に気づいたらしい。


「もしかして、倉庫の奥にあった【足跡】って千葉さんのものですか?! 」

「まぁ、確かに足も華たちより大きかったし納得だぞー?  でもでも、何でそんな所にいたんだー?」

「アンタが、綾音の計画を何らかの方法で知って、止めようとしたんでしょ?」


 美波がそう言うと観念したのか、彼は床に膝をついた。

 そして、大きく一呼吸し、項垂れた。



「……そうだよ、アイツが本山に集合場所を告げているのをたまたま見たんだよ。3日目のアイツ、目がおかしかったから直感的に寿は何かやらかそうとしてるんだな、って思った。」

「オイ低脳、何で周りに言わなかったんだ? お前1人でどうこうできる問題ではないだろう。」


 悪口を言われたが、反論する気は無いのか余裕がないのか、千葉は特に言い返さずそのまま話し出す。


「酒門が、何となく生きることを諦めてたなって思ったからよ。寿にわざわざ自分の命をかける必要はねぇ、っていいたかったんだ。だけど、周りに言ったらその計画は酒門にバレる、そうしたらどうなるかなんて容易に想像できんだろ!」


 千葉は、単純に彼女を守りたかったのだ。

 命も、心も。

 しかし、彼はその手段が思い浮かばないまま約束の時間になってしまったのだろう。


「とりあえずオレは倉庫に行ってみることにしたんだよ。でも蓋開けてみりゃ、寿も本山も来ないわ、1時間近くずっと高濱がいるわ、脱出できたと思えばあの放送が流れてて。状況的に本山が、動機的には酒門がやったのかと思ったんだよ。

 だから、証拠はねぇ。……悪かった。」


 冷静になったのか、彼は項垂れながら謝罪する。

 美波と楓は顔を見合わせ、彼に頭を上げるように促した。




「でも、千葉さんの言うことが本当なら、犯人は誰なのでしょうか?」

「もしくはー、綾音が自分で消えた可能性もあるぞー?」

「いや、一応候補はいるよ。」


 美波の言葉に全員の視線がこちらを向く。

 そのうちの、1人分は間違いなく犯人のもので、明らかな警戒を帯びていることはひしひしと肌で感じた。


 しかし、そのきっかけを持っているのは自分しかいない。

 そして、自分が指摘しなければならない。


 その強い想いが、美波の口を動かす。

 汗が止まらない。

 手の震えも、息苦しさも、拍車がかかる。


「……酒門さん、」


 彼が、肩を叩く。

 悔しいが、安堵してしまう。


 だが、ーーーーーー。




「久我、アンタじゃないの?」




 美波の言葉に、その場の全員が息を呑む。


 目の前の彼は違った。

 分かっていたのだ、私と討論する運命にあることを。


「…………。」


 彼は僅かに目を細めると、恐ろしいまでに綺麗に微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ