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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
1章 神の両手に揺れる
11/52

独りの夜

 3日目の朝。

 起きると部屋には綾音も楓もいなかった。

 枕元には2日目と変わらず、自分の過去や考えを記したファイルが転がっている。


 結論から言うと、このファイルに何か新しい情報はなかった。それはそうだろう、自分の知っていることが書かれているだけなのだから。

 一応久我と綾音には見せた。綾音は気づかなかったみたいだが、久我はすぐに察したらしく、何も言わずに返してきた。


 美波は大欠伸をしながら手櫛で髪を整え、洗面所で顔を洗う。

 カフェテリアに出ると千葉が端末をじっと見ながら座ってコーヒーを飲んでいた。すぐに私の気配に気づいたらしく彼は顔を上げた。


「よう、はよ。」

「おはよう。難しい顔してどうしたの?」

「いや、どうもここ数日薬がよくダウンロードされてんなって。梶谷がまた作ったアプリで道具の使用歴……使用者まではわからねーが見られるみたいだぜ?」


 端末を見てみると確かにそのアプリがアップデートされていた。

 この不安定な状況下で眠れない者も出ているのだろう。

 美波は特に気に留めることなく、端末を切って朝食を摂り始めた。



「……そういや、寿は大丈夫かよ?」

「綾音? 今朝は会ってないけど。」

「そうか。」

「……アンタらってそんなに仲良かった?」


 いまいち、2人で話すイメージが湧かなかった。

 綾音がどこか一歩引いている印象で、もしくは久我や梶谷を介して話していることが多かった気がする。


「たぶん、仲は良くねーかな。でも何となく心配っつーか……。」


 うーん、と彼は悩むように言う。

 彼の言いたいことも分からなくはなかった。


「倉庫の調査とかも一緒だったよね。……綾音のこと、頼むね。」

「止めろよ、縁起でもねー! みんな精一杯生きようとしてんだからよ!」


 千葉は眉間に皺を寄せ、不快感を露わにしていた。

 嘘だよ、と力無い声で、美波が誤魔化すとそれを知った上でそうかよと少し拗ねたような返答をしてきた。

 その後、彼が話しかけてくることはなく、何となく気まずいまま彼は席を立った。


 ふと1人になると、明日消える我が身のことを考えてしまう。

 羽織に借りた本を返してないな、とか、結局牛乳を買えなかったな、とか、後悔ばかりが押し寄せてくる。

 でも、お人好しな、彼女らが消えないならまぁいいか、なんて。


「……私もヤキが回ったな。」


 別に生きることを諦めているわけではないのだが。

 しかし、何となく気力が削がれていることに間違いはなかった。














 さて、朝食が終わったらやることをやるだけだ。

 美波は昨日からあることに取り組んでいる。

 それは、ひたすらスズキとコミュニケーションをとることだ。


 意外にも、メッセージを送ると律儀に返ってくるのだ。

 時間帯に規則性はないが、1時間以内には返ってきている。

 作業をする梶谷は何となく目的を察しているようだが、たまたま立ち寄った莉音や菜摘には奇特なものを見るような目で見られた。


 基本的に、感情論には碌な返答はないが、ゲームの不備やシステムについては饒舌であった。


『ゲームから消えた人間はどうなるの?』

『どうもこうも、人格プログラムはゴミ箱に捨てられます。肉体はデータを失ったハード、それを維持させるのは時間と金の無駄、徐々に朽ちるのを待つでしょう。』


 不毛な会話だ。

 しかし、この会話からこの世界での消滅は、データが完全に消えるでなくゴミ箱に保存されるということは分かった。

 ならば、残った仲間達に託せば希望は残ると言うことに安堵する。

 新たにメッセージを送ろうとすると背後から誰かが扉を開く音がした。


「梶谷クン、解析が終わったみたいだよ?」

「マジっすか? じゃあ行くっす!」

「一応メールで集合はかけたけど、それで良かった?」

「さすがっすね。十分すぎ。」


 梶谷に声をかけられ、美波も席を立つ。

 何となく背後に視線を感じたが、今は新しい情報を優先すべきだと振り返ることなく部屋を後にした。










「新しいこと、見つかったんだよね?」


 部屋に行くと遅い方だったのか、もうすでに殆どが集まっていた。

 梶谷が座って画面を凝視する横で綾音が今までにない勢いで問い詰めている。


「あれ、僕が最後か。ごめんね、待たせて。」


 出入口付近に立っていると久我が少しばかり息を切らしながらやってきた。


「遅かったね。」

「……あの部屋にいたんだけど、メールが届かなくてね。」


 美波に聞こえる程度の声で囁く。

 すると急に綾音が振り向き、こちらを睨みつけてきた。

 どうやら、美波でなく久我を睨みつけたようだが。

 彼女からはひしひしと焦燥感を感じた。



「みなさん集まったっすね。」

「で、新しいことは見つかったのか?」


 高濱が尋ねた。

 モニターの中では何かのソフトのプログラムが書かれた画面が映し出されていた。


「ここに書かれているのは外部とのやりとりの履歴っす。」

「それはあたしらのか?」

「いえ、これはおそらく【サポーター】のものっすね。」


 麻結の質問に梶谷は答えた。


「昨日から酒門さんが【スズキ】にメールを送信した履歴があるっす。それを除くと、何者かがこの部屋にちょこちょこ出入りしてるっす。しかも初日からね。」

「それは何者だ?!」

「……使用者は【サポーター】と記されているっす。」



 全員の中に緊張感が走る。



「つまりは【サポーター】は何らかの方法で【スズキ】とやりとりしているってことかしら?」

「はぁ?! マジでざけてんな!」


 菜摘の言葉に、千葉が青筋を立てて怒鳴る。

 麻結や莉音が驚いて肩を震わせた。


「千葉、落ち着いて……。」

「んなの落ち着いてられっかよ!」


 石田が止めようとするが、千葉は興奮しており聞く耳を持たないようだ。


「うるさい。冷静でいられないならここから出ろ。オレたちは考える必要がある。」

「あ? んだよ。」

「千葉くんの気持ちは分かるけど、僕も思考を止めるべきでないと思うね。ルール説明の時とは異なる、明らかな矛盾が含まれているよね。」

「……矛盾?」


 久我の指摘に何名かは頷いていたが、ほとんどはピンと来なかったらしい、楓が尋ねた。



「ルール説明の時、【サポーター】は人に近づけるため自覚しないようにプログラミングされているって梶谷言ってたよね?」

「そうっすね。……言ったオレが言うのもアレですけどもしかしたら【サポーター】は従来のようなものではないのかもしれないっす。」

「例えば、内通者として明確な意識を持っている、とかー?」


 華が呑気に、残酷な可能性を告げると、皆が言葉を失う。


「……なら、みんなのメール機能を1人1人確認しない? そうすれば裏切り者が分かりますよね?」


 ギラギラとした瞳をした綾音が提案をする。

 何人かは反対すると思ったが、彼女の言葉の強さに反対をすることはできなかったらしい。

 意外にも皆素直に端末を開く。




 結果から言えば無駄骨だったのだが。


「……履歴が残ってないってどういうことっすかね。しかも消去履歴さえもないっす。」


 1つ1つの端末をPCに繋ぎ、メッセージの消去履歴も探したのだ。しかし、芳しい結果は得られなかった。

 莉音や綾音をはじめ、殆どの者が落胆を見せていた。


「なら、この世界に存在するネットワーク回線を介したってことっすね。オレが今から固定ネットワーク調べ回るっす。この世界にノートパソコンってありますか?」

「私の部屋に1台、リビングに確か母さんのがある。あと図書館にもあるけど……私は触ったことがないから使えるかどうか。」

「なら、オレが手伝おう。さっさと準備しろ、梶谷、荻。」

「えぇ〜、オレも? ま、いいけど!」

「なら、あたしが梶谷のサブに入ってやるよ。それなりに触れるしな。」

「助かります。」

「なら、私も……。」


 楓と綾音が立候補したが、麻結が鼻で笑う。


「寿は別にプログラミング明るくねーだろ。それに本山は今朝図書館で寝こけてたじゃねーか。戦力にならねーからしっかり休んでから言えよ。ま、他だと酒門も明るそうだが……別のことやってるしな。」


 珍しくまともな意見を落とす彼女に、2人はおし黙る。

 美波は内心で感謝しつつ頷いた。








 4人は早々に作業に取り掛かる。

 他の者は自由行動だ。


 美波は休憩がてらカフェテリアにいた。

 他の者を見ていると大分参っている人たちがいることが分かった。

 莉音は完全にその節でずっと華に依存していた。同様に菜摘も少しばかり参っているようで2人と一緒にいることが多いようだ。


 一方で須賀は何やら修行のようにずっと鍛えている。

 高濱は相変わらず誰かしらとは一緒にいるが、石田は案外1人でふらふらしており何をしているかは分からなかった。

 楓はゆっくりと休めと麻結の指示により自室で休んでいた。


「あ、いたいた酒門さん。今いい?」


 久我が少し慌てたように走ってきた。


「流石にお昼は手が空くみたいだね。」

「もちろん。で、用は?」

「今から一緒に温室に来てほしいんだ。」

「温室?」

「うん、ちょっと気になることがあって。」

「……分かった。」


 最後の一口を頬張り、席を立つ。

 彼の背を追って、温室に向かうと途中で綾音にすれ違った。

 何やら慌てて手に持っているものを隠し、下手な作り笑いをしながらこちらに手を振ってきた。


「綾音? どうかした?」

「なんでもないよ! 2人はどこか行くの?」

「ちょっとね、綾音はーーー「そっか! じゃあ私、急いでるから!」


 初めて言葉を遮られ、2人は呆気にとられた。

 綾音は足早に2人の前から去って行った。


「何だったんだろう。」

「さぁ、何か小さい箱を持っていた気がしたけど。2人の時に聞いてみるといいよ。」

「……それもそうだね。」


 美波は頷いた。




 温室に入ると、久我はズカズカと中に入っていく。

 植えられた植物など露知らず、奥の不気味な巨大植物の方に進んでいった。


「……無いな。」

「何を探してるの?」

「前に話したよね、温室が【サポーター】の部屋だったって。その時にここに大きなパソコンがあったそうなんだ。」

「パソコン? そんなものないけど。」


 美波も倣って辺りを入念に探索してみたがそれらしいものは一切ない。


「正直八方塞がりだね。まぁ最悪、前回のゲームみたいに私が自滅してエラーを引き起こすっていう手もあるけど。」


 美波が淡々と述べると、久我は探索の手を止め振り返った。


「……そういうこと、誰か他の人に言った?」

「言ってないけど。」

「なら今後、自分が犠牲になることを踏まえて何か話をすることはやめた方がいいよ。みんな君に消えないでほしいがために努力しているんだ。僕も含め、ね。君自身にそんなことを言われると悲しいよ。」


 いつになく沈んだ声で語る彼は、瞳に余すことなく自分の感情を滲ませていた。

 そういえば千葉もひどく怒っていたことを思い出し、美波も肩を竦めた。


「……ん、ごめん。千葉にもそれっぽいこと言ったから謝っとく。」

「分かったならいいけど。だから、彼は機嫌が悪かったんだね。」


 納得したように彼は言う。



「でも、その、ありがとうね。」

「何が?」


「いや、さ。同じ境遇のアンタがいて、好ましい性質の綾音がいて、頼りになる梶谷がいて、綾音のこと心配してくれる千葉がいて、みんなのお陰だよ。こんなに冷静でいられるのは、さ。」

「……それは寿さんに言ったあげなよ。号泣するよ彼女。」

「ははっ、それもいいかもね。」


 特にめぼしい発見は無かったが、何となく気力は戻ってきた気がした。



















 それからカフェテリアに夕食をとりに行くと、ちょうど綾音と出くわした。

 日中はどことなく緊張感を放っていたが少しばかり落ち着いたらしい。


「美波ちゃんも今からご飯? 一緒に食べよう?」

「うん。」

「ありがと! お茶入れてくるね!」


 彼女は辿々しくも軽食を作り美波と同じ席についた。

 おかずを交換しつつのんびりと食事をとる様子は、まるで学校で弁当を食べているような光景だった。


「……何か焦らせたみたいで悪かったね。」

「え?」


 彼女は不思議そうに首を傾げた。


「綾音さ、私が少しだけ諦めてたの気づいてたんでしょ? だから、アンタもピリピリしてたんでしょ?」


 気まずそうに笑う彼女の様子から、図星であることは明白であった。

 しかし、彼女はどこか嬉しそうだった。


「その感じだと諦めはどこか行ったみたいだね。久我くんのおかげ、かな?」

「まぁ、そうかもしれないけど。アンタが頑張ってくれてるからだよ。明日こそは脱出の手段を見つけないとね。」

「……そうだね!」


 彼女が気合を入れてふん、と鼻を鳴らすのがどこか彼女に似合わず、つい美波も笑ってしまう。

 ひどい! と怒っていたが、綾音の怒り方など怖くなくむしろ美波の笑いは大きくなってしまった。
















「は? 不在?」

「おう、千葉と梶谷はいないぞ!」


 綾音との夕食後、千葉を訪ねると部屋には須賀と久我しかいなかった。


「まだ調べているのかな?」

「まぁ言われてみれば、今日彼のことをあまり見ていないけど。」

「根詰めすぎても効率は悪いからな……戻ってこなかったら探しにいくか。」

「そうですね。戻ってきたら声をかけるよ。」

「ありがとう。」


 先の事を謝りたかったこと、成果を聞くこと、いずれの用事もあったのだが仕方ない。まだ眠る時間ではないのだが、先程から欠伸が止まらない。

 言っているそばから眠気が強くなり、仕方なく自室へ向かう。



「ただい……、あれ?」


 美波は閑散とした自室に首をかしげる。人の気配はなく、綾音も楓もどちらもいないのだ。

 風呂の可能性もあったが、あのシャワー室はとても2人入れるような大きさではない。

 待とうと思ったが、抗いがたい眠気が先程から美波の意識を奪おうと襲いかかってくる。


「……少しだけ。」


 横になろう、その言葉は美波の口から紡がれることはなかった。



 美波は知らない。

 それから数時間後、真のゲームの始まりを告げる放送が鳴り響いていたことを。



『なお、今回【強制退場】をされた●●●●は【サポーター】ではなかった。』


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