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Remained GaMe -replay-  作者: ぼんばん
1章 神の両手に揺れる
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無償の信頼が君に

『なぁ、美波! お前も箱庭掲示板やってみねーか?』

『……私、ゲームとかはやらないって言ったよね。』



 兄の言葉につい返答が鋭くなった。



『何、ゲームじゃねーよ。

ちょっとした掲示板、交流のためのゲーム。』

『ゲームって言ってんじゃん。バカなの?』



 美波は目を細める。

 自分はゲームなどともう関わらないと。


 兄は僅かに寂しそうな顔をするが、息を吐き諭すように語りかけてきた。



『お前はさ、あのことがあってから、ゲームを邪険にするようになったよな。』

『……邪険にはしていないよ。ただ、興味が無くなっただけ。』


『もしかしたら、美波も‘無気力な子ども’ってやつなのかね。』



 美波は大して深くも考えていないであろう兄の言葉に目を吊り上げた。

 しかし、彼に何を言っても無駄、暖簾に腕押し状態であることは長年の付き合いでよく知っていたため、それ以上の反論はしなかった。



「どうしたの?」

「ん? 何でもない。」


 背後の久我の問いかけに、美波はゆっくりと首を横に振りながら写真立てを伏せた。

 兄や知人と写った写真を見ると、現状をひどく絶望しそうで片っ端から伏せたのだ。その心情を理解しているのか、久我と綾音は特に咎めることもしない。


「にしても、美波ちゃんの部屋はシンプルだね。」

「そう?」

「僕もそう思う。妹の部屋と比べると物が少ないね。」

「……妹いるんだ。」


 何となく、久我の物腰の柔らかさの由来を知った気がした。

 久我は知ってか知らずか頷くのみだ。



 それから部屋を一通り漁ったが、特に変化はなく生活感溢れるただの自室であることに変わりはなかった。


「私の部屋のパソコンも動くみたい、だけど私の記憶の中のパソコンと変わらないね。ネットも繋がらない。」

「そっか、正直1番イレギュラー起きそうな予想はしてたけど。」


 綾音が肩を落とす。

 久我も、言葉には出さないが僅かに落ち込んでいるように見えた。

 特に綾音は今にも泣きそうな、苦しそうな表情を浮かべていた。



「まぁ、まだ3日あるけども、うかうかはしてられないよね。しっかり漏らさないよう探索しよう。」

「何でそんなに落ち着いていられるの?」


 責めるような、苦しそうな、声で問いかける。

 本当は、このようなことを彼女に聞くべきでないことを綾音は理解していたのだろう。しかし、止まらなかった。



 美波は少しばかり思案する顔を見せると伏せた写真立ての1つを立てた。


「これさ、バスケ部の友だちと撮った写真なんだけど。1番仲のいい、羽織っていう子に綾音が似てるんだよね。」

「どんな子なの?」

「人見知り、だけど仲良くなると警戒心が全くなくなるところ。」

「……褒めてる?」

「褒めてるよ。」


 美波は微笑みながら答えた。


「勿論、3日後のこと考えると怖いけどさ、それ以上にアンタ達に消えて欲しくないから。そう思うと不思議と怖くないんだよね。」

「君は意外とお人好しだね。」


 美波の言葉に『アンタ達』に含まれた久我が苦笑しながら言う。


「クマだらけの2人には言われたくないけど。」


 美波の指摘は2人とも図星だったらしく、グッと押し黙ってしまった。

 どうせ2人で早起きだったのは、なんやかんやとこの世界を調査していたのだろう。容易に予想できる光景に美波は内心で笑っていた。



















「ちょっと酒門さん! 何でオレのこと置いて行くんすか?! 」

「……石田さんに声かけられるまで気づかなかったわけ?」


 美波が呆れたように言い放つと、梶谷は開き直ってそうっすよ! とぷりぷり怒っていた。

 梶谷の後ろからゆったりと石田がやって来た。


「でもお陰で発見っすよ! たぶんあのパソコンは【箱庭】の影響を受けてデータがおそらく変容してるっす!」

「興味深いなそれ。」


 突然背後から声がして、梶谷と綾音はびくりと肩を震わせた。

 いつのまにか荻と香坂が戻ってきていたらしい。

 それを見た久我はあー、と呟く。


「全員集めましょうか。全体送信のメール機能は生きてますし。」

「そうだね。」


 美波が頷くと久我は端末を取り出してメールを送信した。






 集合は夕方の夕食時、全員が集まり食事を摂りながら報告会が行われた。


「まず図書館だね。温室で育てている植物の図鑑、【箱庭ゲーム攻略指南書】、あと興味深いものが2冊。」


 荻が話しながら出した本がカフェテリアのテーブルに置かれる。


「これは?」

「他のルームの動向が自動で記載されるノート。開いて見てみるといいよ。あとはこれ。」


 荻が本を美波に渡す。


「……これは?」

「これは、貴女の過去や考えが書かれた本です。頭の部分は見ちゃいましたけど……不可抗力ってことで。」

「後で読んでおくよ。」


 荻は胡散臭い笑みを浮かべる。

 さて、実際に頭の部分しか見ていないのだろうか、美波は半分諦めて受け取る。


 次いで口を開いたのは意外にも石田だった。

 高濱は何かを言いかけたが、間髪入れず彼は言葉を発し始めていた。


「……はじめは久我と、途中からは梶谷と、酒門の兄貴の部屋を調べた。総じて家具とか本は変なものなかった。あとは、」


 彼が目配せすると梶谷が待ってましたと言わんばかりに前に出た。


「お兄さんの部屋のPCに、どうやら元はなかったであろうデータが入っていたっす。ちょうどさっきメールでアプリのアップデートシステムを送っておいたんで見ておいてくださいっす。」

「何だよこれ、地図か?」


 高濱が端末を見ながら尋ねると、梶谷が頷いた。

 しかし、どこか言いにくそうな、気まずそうに口をもごもごさせる。


「その、世界が変わるごとにちゃんと更新されるマップっす。」

「……ちゃんと続けな。」


 世界が変わるということは誰かが犠牲になるということ。

 それに直面した彼は恐らく美波に気を遣って言葉にしにくかったのだろう。

 察した美波が促したおかげで彼は小さく頷くとすぐに説明を再開した。


「あとマップを更に広域にしてもらうと、この【模擬箱庭ゲーム】全体のデータサーバマップが見られるっす。」

「それは、見ると何か良いことがあるのか?」


 須賀が質問すると彼はすこし困ったような表情を浮かべた。



「今のところは、なんとも。ただ、万が一、どこかのルームが消滅したら反映されるでしょうね。」

「……残酷な真実しか分からないんじゃん。」


 莉音は、憎々しげに彼を睨みつけた。

 それは梶谷も理解していたらしく、決して莉音とは目を合わせなかった。


「お兄さんの部屋のパソコンには自動解析プログラムを書いてきたっす。オレはこっちのモニタールームの解析をしたいんで、誰かある程度パソコンには明るい人に見ていてほしいんすけど。」

「それはオレがやろう。お前らと顔をつき合わせて食事など面倒だ。給仕役は荻だ。」

「えぇー? まぁ、いいけど。」

「じゃあお願いします。また後で説明しますね。」


「華たちは1階のフロアを探索したよ〜。新しい発見、って言うのはないけど階段が玄関よりと奥の方、2つにあったね〜。あと、学校ぽいところは開く棚と開かない棚があったよ〜。窓とかは普通に開くのにね〜。」

「……私が中を知らないところは開かないのかな。後で確認してくる。」

「よろしく〜。」


 華はそれだけ言うとにへら、と笑った。

 終わったことを確認して高濱が口を開く。


「外は、旧式のマップに沿って探索したぜ。マップの通り、木は3mくらいの高さまでしか登れなかった。 試しに他の建物とかも登ってみたけど、その辺は登れるみてーだ。非常階段から屋上に行けるみたいだぜ。」

「ゲームの中で万一があったら身体に反映されるらしいしな。登らねー方が賢いんじゃねーか?」

「おお……珍しく加藤さんから建設的な意見が。」


 彼女は、なんでよぉ、と楓のツッコミに嬉しそうに反応していた。


「私たちは温室を調べたよ。でも何もなかった。だからA棟も調べたんだけど、知っての通りって感じ。カフェテリアの食糧も変わらず自動補充されるみたい。」

「なら、食糧に関しては一応は安心なのですね。でも、暴飲暴食は避けるべきですね。」


 安堵したのも束の間、菜摘が慎重な意見を述べる。


「あとは倉庫だな。倉庫については備品は全く、っていいほど変わってねーよ。あと薬とか、外傷治療薬、他の道具とかの使い方は変わらねーらしい。オレが外傷治療薬使ってみたが見事に1回きりの消費だ。」

「……そうだね、僕の外傷治療薬も復活していないみたい。」

「私もだ。」


自分の端末を見て頷く。



報告会は以上となり、1日目は解散となった。

そして、2日目も特に変化はなく時間を浪費することに少なからず焦る者が出始めることは自明の理であった。




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