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世界を救った変化

作者: 黄田 望

 この作品に興味を持って頂きありがとうございます!

 少しでも楽しんで見てもらえたらと思うのでどうかよろしくお願いいたします。

 

 「行っては駄目よ! 今行けば間違いなく殺されてしまう!」

 

 周りから人の悲鳴が聞こえてくる。 助けを乞う声、愛する人を呼ぶ声、戦いに勝つ為に雄叫びを上げている声。 それもそのはずだ。 だって今この戦いは世界の平穏か滅亡を掛けた最後の戦いなのだ。 今更逃げようと考えても人間には逃げ場など何処にも存在しない。

 ここは森の中にある少し広場となっている場所にテントを張った緊急医務室だ。 すでに戦いが始まって何千という軍の兵士が酷い傷を負って運びこまれている。

 運ばれてきた人数と時間が現在において治療ができる人間の手が足りず何人いや、何百人という人間が死んだのか分からない。 だけどそんな事を気にする余裕が私にはなかった。 次から次に運ばれてくる急患をすべて見る事に必死だったからだ。

 しかしそんな中、私は一人の男がテントから出た所を目撃して反射的に外まで追いかけて来てしまった。


 「婦長! 早く中に戻って来てください! 我々スタッフだけでは手に負えません!」

 「!」


 テントの中から同じ医療スタッフが顔を真っ青になりながら私を呼ぶ。 私だって今すぐに戻りたい。 戻って少しでも助けられる命を救いたい。 でも今、私がテントの中に戻ってしまうと彼は戦いに行ってしまう。 それだけはどうしても止めたかった。


 「・・・行ってくる。」

 「! ダメって言ってるでしょ! あんた自分の今の体がどんな事になってるのか理解できていないの!?」


 この戦いの中で彼は手強い相手を一人で戦い体を負傷していた。 本来ならすぐに手術でもして絶対安静にしておかなければならないのだが今は患者が多いせいで緊急治療でしか対処していない。

 それでも、彼はまだ倒し切れていない相手と再び戦う為に何度も戦いに出ようとする。 何度止めても戦いに行こうとする彼に私は無理矢理腕袖を掴んで止めた。 だけど彼はそれでも前に進もうと抵抗してくる。


 「なんであんたが行くのよ! あんたは今まで頑張ってきたじゃない! そんなあんたが自分から死にに行くような場所に向かうなんておかしい! 間違ってる!」


 私は抵抗する彼の腕袖にさらに力を込めて引き留める。 知らない間に掴んでいた手から血が流れる程に。 彼は私の手から血が流れている事に気が付くと動きを止めた。


 「大丈夫だよ婦長。」

 「~ッ!!」


 彼は笑顔でそういう。 この男はいつもそうだ。 初めて会った時も弱い癖に大きな国に潜む悪党と一人で挑み戦い国民の命を救い、名前も知らない他人の為に命を削って危険な森を探索したり、自分とは関係のない事でも平気に人を助けようとしたりする。 どれだけ怪我をしても、どれだけ死にそうになってもこの男はいつだって笑顔で私に「大丈夫」というのだ。


 「グスッ・・・ズルいわよあんた。 私がどれだけ心配してもいつも笑顔で向き合ってくる。」

 「ははは・・ごめん。」

 「謝んな。 バカ。」

 「うん。」


 彼がこういう時に笑顔を向けると誰にも止められない。 私はこの男の最初の英雄譚となる話の頃から一緒に旅をしているのに一度だって止めれた事がない。


 「大丈夫。 これが最後の戦いだ。 今迄の事は今日、この日の為にあったんだ。」

 「・・・うん。」


 彼の覚悟は変わらない。 私は掴んでいた腕袖をゆっくりと放した。 彼はまだ私の目の前にいるが、今この瞬間に戦いに行ってしまって、もしもの事があったらと思うとすごく怖い。 申し訳ない話。 今でも何百人という人間が死んでいるというのに、私は彼が死んでしまう事の方が一番恐ろしくて仕様がない。 一度流れた涙はすぐに収まらず滝のように流れてくる。

 彼に自分の泣いている顔を見られたくなくて下を向いてしまっていると視界が急に暗くなり、背中に暖かい感触が伝わってきた。


 「ごめんな。 いつも心配かけて。」

 「・・・本当よバカ。」

 「あぁ。 でも大丈夫。」

 「・・・信用するわよ?」

 「あぁ。」

 「絶対に帰ってきなさいよ。」

 「約束する。」


 抱きしめてくれていた彼が離れるのが分かる。 だけど私は流れた涙を拭き取り真っ直ぐに彼の顔を見て見送った。


 「行ってこい! 勇者・・!」


 勇者はその時も満面の笑顔を向けて、すぐ見える魔王城に向かい魔王を倒しに行った。


  *三年後


 「はぁ~・・・嫌だなぁ~。 行きたくないなぁ~。」


 私は肩を落としながら、歩くスピードの遅い旦那の手を引っ張って家から近くにある病院に向かっていた。 今日は月に一度の健診日なのだ。


 「いつまでも駄々をこねないでよ。 只の健診とマッサージだけでしょ。」

 「健診はいいんだよ。 でもあの先生、的確に痛い所をマッサージしてくるから苦手なんだよねぇ~。」

 「世界を救った勇者様が医者のマッサージで怖がってたら子供達に呆れられるわよ。」


 三年前。 魔族と人間の戦いで勇者は魔王を倒す事に成功した。 世界の平和を取り戻した勇者ではあったが、その代償はとても大きく、彼が私の元に戻ってきた時はいつ死んでもおかしくはない状況だった。 奇跡的に命は助かり体に障害も残らなかった為、今は何の不自由もなく生活を送っている。

 去年には彼からのプロポーズを受けて結婚する事になり、私のお腹にも彼との子供が宿っている。

 今の世の中に勇者を知らない人間など存在しない程の有名人となり、軍の兵士訓練の教官を務めて仕事をこなしていたり、最近では当時の事を本にしたいと出版社が取材に来たりして毎日が忙しい。


 「だって〈痛い〉んだぜあの先生のマッサージ。 あれやられたら誰も病院に行きたいって思わないよ絶対。」

 「・・・。」


 三年前までどれだけ大怪我をしても笑顔を忘れずに周りの人達を安心させて、どんな苦難も足を踏ん張って弱気な発言など言わなかった男が、ただのマッサージを痛いから病院に行きたくないと駄々をこねている。


 「あっ! 今笑っただろエリ~。 元医者の婦長をやってたからって笑う事ないだろう~。」

 「ごめんごめん。 今日の夕飯はあんたの好きな物作ってあげるから頑張って!」

 「よし。 めっちゃ頑張るわ。」

 「手のひら返すの早いわね。」


 昔もこれだけ早く私の意見を聞ける素直さを持ってくれていたらと思うが、もしも昔の彼が今みたいに私の意見を聞いていたら、今頃人間は魔王によって滅亡していたのだろう。


 「ん? どうした? 俺の顔に何かついてる?」

 「ううん。 幸せだなぁ~て。」

 「? そっか。 エリが幸せなら俺も幸せだ!」


 彼はあの時と全く変わらない笑顔で私の手を引っ張り歩いていく。

 あの時、必死に戦いに向かう事を引き留めていた手が今は彼に引っ張られて目の前を一緒に歩く。 これが幸せでなくなんというのだろう。

 この幸せがいつまでも、いつまでも続きますように。 そう願いを込めて、私は彼と繋いでいる手を強く、強く握りしめた。


 この度はこの作品をご覧頂きありがとうございます!

 下手くそなりに色々と作品を書いていきたいと思っていますので、次回があればまたよろしくお願いいたします!

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